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「デスティニー・ダークネス」


 デスティニー・ダークネス (2)
 
Overcome Destiny!

 序章 ギガレズ

 ギガレズ王国は、モルディスという世界に位置する国の1つだ。
 モルディスには、たくさんの国があるが、その中でもギガレズは、かなり強く、大きな軍隊を持つ国だった。
 モルディスで2番目に大きい国土を持つギガレズでは、政治は王と、軍の最高指導者と、選挙で選ばれた議員3人の5人で行われていた。
 税金の多くは、軍備の拡張に費やされるギガレズは、モルディス一犯罪の多い、物騒な国でもあった。
 そして、そのギガレズの首都ガレズが、この物語の新たな舞台である。

 第1章 現状

 ギガレズで一番いい仕事と言われるのは、やはり兵士だった。
 給料も高く、休みも多く、政治にも関われる可能性すらある。
 最近はモルディスで一番力のあるドラドル王国が根回ししているため、モルディス内の戦争はほとんど禁止に近い状態になっていた。
 必然的に兵士の仕事は無くなるため、ムダに兵士が増えてしまい、税金はどんどん上がるばかりになっていた。
 質の悪い兵士ばかりではダメなので、体力・知力テストや毎日の態度から判断して、入隊5年未満の兵士のうち毎月100人を解雇していく決まりが設けられていた。
 そのため、新人兵士の1人であるテリスは、クビにされるのを恐れながらも、一生懸命訓練に励んでいた。

 テリスが入隊したのは、1年前。
 同時に入隊したほとんどの兵士は、「楽だから」などの理由で入っていたが、テリスだけは本気で兵士としての仕事を全うしようとしていた。
 絶対にクビになりたくなかったし、治安も悪く、税金も高い不人気なこの国を、軍の代表になって立て直そうと思っていた。

「テリス!そんなに体力がないんじゃ、実戦だと一発でやられるぞ!」
 テリスは筋力が無かったため、テリスの所属する部の部長であるリオンからいつも目を付けられていた。
 といっても、リオンはテリスを嫌ってるわけではなく、テリスのことを思って言ってくれているのだが。
 リオンはうっかりしていて、頼りない所もあったが、優しくて話もわかる、とてもいい部長だった。
 リオンは、モルディスで最後の戦争となった──ギガレズが領地拡大のためクレイア相手に始めたが、ドラドルの介入により失敗に終わり、ドラドルとギガレズの対立の原因となったという──あの戦争の時に、駆け出しの兵士で、そこで活躍したため、最年少の副部長に任命されたらしい。
 最も、それから10年間、部長までしか上がっていないのだから、それ以後の業績はあまり良くなかったようだ。
 それでも、テリスのことを心配して、トレーニングなどに付き合ってくれるリオンの事を、テリスは密かに尊敬していた。

 何かとテリスを気にかけてくれるリオンと正反対に、テリスを好いていない者もいた。
 軍の最高指導者の秘書を務めている、ラバーンだ。
 ラバーンは二ヶ月前に突然やってきた。秘書として軍の最高指導者ダビーをサポートする一方で、「クビにする100人」を選んでいる女だった。
 もともとこの決まりを定めたのもラバーンで、ラバーンが選ぶ100人の多くは、「クビにされて当然」だったが、たまに「絶対にクビにされるべきではない」ような人も混ざっていたため、頑張ったからと言ってクビにされないとは限らなかった。
 このように強い権力を持っているため、陰では「裏指導者」と呼ばれていた。

 そろそろ「クビ」を決める期日が迫っていた。
 先月まではリオンなどの部長が何とかラバーンを説得して、テリスなどの頑張っている隊員はなるべくクビにしないように説得してきたが、今月からは新たな決まりができた。
軍の最高指導者・およびその者に認められた者を除く全ての隊員・職員は、最高指導者の命令に反発・干渉する力を持たないものとする。
 また、軍の最高指導者は、この権限を、任意で他の隊員・職員に譲る権限を持つものとする。
 なお、この決まりに従わない者は、地位の剥奪、または解雇処分に処す。
 軍最高司令官 ダビー

 この命令が出た以上、リオンたちはラバーンを説得する事はできなくなってしまった。
 ダビーは優秀なラバーンを信用しきっていたため、ラバーンは当然のごとくこの権限を譲り渡された。命令が発効して2日目の事だった。
 リオンたちの干渉を制限するために、ラバーンがダビーを説得したのだ、という噂が流れていた。
 しかし、こればかりはテリスにも、リオンにもどうしようもなかった。
 何しろ、反発したらそくざにクビにされてしまうからだ。
 テリスはより一層訓練に励んだが、期日は刻々と近づいていた。
 あと1週間だった。

 第2章 訪問者

 その日、テリスは王宮を守る担当の日だった。
 もともと、王宮の警備は1つの部が受け持っていたのだが、最近ではそれ以外にこれと言って兵士のする仕事がほとんど無いため、各部が交代で受け持つ事になっていた。
 今日から3日間、テリスと、テリスより1年先輩のデュルク、デュルクの幼なじみのグラクの3人が、警備を担当する事になっていた。
 午前中は何事も無く終わり、きっと3日間何も起きないだろうと思いながらテリスは他の2人と昼食のパンを食べた。
 そして、午後も半分くらい過ぎて、空がうっすらとまどろみ始めた時、グラクが突然テリスとデュルクの肩を叩いた。
「おい、あれは何だ?」
 そういわれて、テリスは目を凝らしてよく見てみた。すると、走ってくる何かが見えた。
 少年だ。服がボロボロな事からして、ギガレズの者ではなさそうだ。おそらく、クレイアから来たのだろう。
 モルディスでは、王国間の出入りは基本自由なのだ。
 テリスは、何であんなに急いでいるんだろうと気になった。
 ところが、その少年は王宮を目指しているみたいだった。
 無謀にも、少年はテリスたち衛兵3人を無視して突っ切ろうとした。
「おい、待て!」
 デュルクが少年の肩を掴んだ。
「何だよ?こっちは王に用があるんだ。とても大切な用なんだ。急いでくれ!」
「そんな事は、できない。こっちはこの王宮を警備しているんだ。何者かもわからないようなやつを王宮に入れたら、軍隊の威信に関わる」
 グラクがぶっきらぼうに言った。
 テリスは、その少年を観察した。着ているのは、赤いボロボロのシャツに、黒い半ズボン。大きな緑色のリュックを背負っている。
「だから、おれは王に用があるんだよ!」
 その少年は、乱暴に言って、デュルクの手を払いのけようとした。
 もちろん、そううまくいくわけもなく、がっしりと捕まっていた。
「何を伝えたいんだ?ぼくたちから伝える事もできるし、話の内容によっては王様にも会わせる事が出来る。まず、ぼくたちに話してくれないか?」
 テリスは、優しく諭した。
「じゃあ話してやるよ。──クレイア王国が、魔王ダークネスに乗っ取られた」
「え?」
 突然少年の口から発せられた衝撃的な発言に、テリスは一瞬事態が呑み込めなかった。
「もっと詳しく説明しろ」
 デュルクが言った。
「魔王ダークネスの封印が解けて、ダークネスは復活したんだ。
 それで、ダークネスは手下を王様と入れ替えて、ダークネスからこの世界を護っていたペンダントを排除して、クレイアを乗っ取ったんだ。
 ダークネスの次の狙いは、この、ギガレズ王国だ。だから、おれはその前に、ここに警告に来たんだ」
「嘘をつくな!」
 突然グラクが言った。
「イタズラもほどほどにしろ!とっととうせろ、この嘘つきが!でないと、お前を逮捕するぞ!」
 少年は、全く動じなかった。
「別に、信じないのは自由だ。でも、すぐに後悔すると思うけどな」
 そういって、少年はゆっくりと立ち去った。

 テリスは、グラクたちの行動を不審に思った。
 いくらなんでも、あんな乱暴に追い返すのは、おかしい。何か裏にあるんじゃないだろうか……。
 それにしたって、ダークネスが復活したなんて、ばかばかしい。ダークネスは、数百年前に封印されて、ラティスに住む魔術使いたちの力で封印された洞窟ごと別世界に切り離されたという話だ。
 だが、だからこそ、テリスは怪しく感じたのだ。
 兵士をからかうための嘘なら、もっともっともらしい嘘をつくだろう。
 だが、あそこまで突拍子な事を言うとすれば、考えられる事は2つ。本当に馬鹿なのか、それとも……本当の事を言っているかだ……。

 第3章 改革

 兵隊の一日は、ホールで行われる集会から始まる。
 だいたいの場合、準備運動みたいなものだけやって終わるのだが、その日は違った。
 ラバーンが壇上に上がった。
「今日は皆さんに、お知らせがあります」
 ピンク色の、動きやすそうなジャージを着たラバーンは、深刻そうな表情を浮かべていた。
「知っての通り、我がギガレズ王国の財政は、危機的状況に陥っています。
 そこで、我々はダビー最高司令官の指揮の下、隊員数を大幅に削減する計画を実行に移す事にしました」
 そういって、ラバーンは全員に一枚のチラシを配った。それには、青い字でこう書いてあった。
【ギガレズ軍再建計画について】
 ギガレズ軍では、隊員が増えすぎているため、現在執行されている隊員の削減実行を、以下の内容に変更する。
 @隊員の削減実行を、1ヶ月2回にする。
 A隊員の解雇人数を、100人から130人にする。
 Bこの実行日には、入隊5年以上の兵士も、例外なく解雇できるものとする。
 当然、兵士たちからは一斉に反発の声が上がった。
 しかし、ラバーンはそれをすぐに抑えた。
「私の意見に反発する者は、解雇処分にします。これは、先週出した命令で決まったはずです。では、これで終わります。この計画は明日の正午に発効し、明後日の削減実行日からさっそく130人の解雇処分者が出ることになります」
 そういって、ラバーンは台から降りた。

 今日も、テリスはグラクとデュルクと王宮の警備だった。
「にしても、ラバーンめ……何であんな決まりばっかり作るんだ?」
 すると、デュルクは意外にもテリスに反論した。
「でも、軍の人数が増えすぎているのは事実だろ。仕方ないんじゃないか?」
 テリスが一番心配なのは、Bの内容だった。
 Bの内容を適用すれば、リオンも解雇対象になりうる。
 ラバーンとよく対立しているリオンは、解雇候補の上位にいるだろう。
 テリスだって、ラバーンに嫌われている。
 まとめて処分される可能性は、高いだろう。

 考え事をしていたテリスを現実に引き戻したのは、グラクの大声だった。
「またあいつだ!」
 見ると、昨日の少年がまた走ってきていた。
 しかし、昨日と違って、門を突破しようとするのではなく、薄笑いを浮かべたまま、テリスたちを無視して、そのまま右に曲がっていった。
「今度は何を企んでるんだ?」
 高い壁に沿ってしばらく進んだ少年は、突然立ち止まった。
 そして、城の中に生えている樹にロープを巻きつけ、壁を登り始めた。
「おい!あいつを止めろ!」
 グラクが叫ぶが、あの速さでは到底間に合わない。
 すると、デュルクがとっさに短剣を抜き、その枝に向かって投げつけた。
 短剣はロープが巻きついている枝に当たり、枝はスパッと切れ、少年はバランスを失って道路に倒れた。
 すぐさま3人は少年の所へ向かったが、少年の方が速かった。すぐに立ち上がり、反対方向へ駆け出した。
 急いで追いかけたが、テリスは嫌な予感がして、追いかけるのを2人に任せ、門に戻った。
 すると、案の定、その少年は一周して門の所に戻ってきた。そして、門の所で待ち構えているテリスを見て悪態をつき、すぐに引き返していなくなった。
「よくやったな、テリス。にしても、あいつは一体何なんだ?」
 デュルクが言った。
 そして、日が暮れ、3人は宿舎に戻った。
 翌日、警備最終日になった。
 普通は5日交代なのだが、翌日が解雇決定日のため、急遽3日で終わる事になっていたのだ。
 少年は、来なかった。
 作戦を練り直しているらしい。
 それとも、いなくなるのを、待っているのか。
 どちらにせよ、テリスは少年の事を考えている暇は無かった。
 宿舎に戻っても、当然ながら、なかなか寝付けなかった。
 ふと、隣でデュルクが、すやすやと寝ているのが目に入った。
 普通の兵士なら、不安で眠れないはずだ。
 何かがおかしい。そんな気がした。
 だが、悶々と考えているうちに、夜は更け始め、テリスは眠ってしまった。
 その間にも、ラバーンとダビーは、夜通し話し合いをしていた。

 第4章 結果

 次の日の朝、宿舎の食堂に解雇されるメンバーの長い長いリストが張り出された。
 名前順になっている。
 テリスは自分の名前を探した。もちろん、無い事を祈りながら。
 読み進めた。
 ……チェコ……テスク……テリス。
 テリスの名前は、解雇者リストにしっかりと書き刻まれていた。
 テリスは愕然とした。
 自分がラバーンに嫌われているのはわかっていたが、こんなに早く排除されるなんて、思っても見なかった。
 そして、そのまま目を通した。
 リオンの名前もあった。

 荷物をまとめ、宿舎を出るテリスの脳裏に、ある言葉がよみがえってきた。
『ダークネスの次の狙いは、ギガレズ王国だ』
 あの少年の言葉だ。
 ギガレズへの侵略計画。ラバーンの解雇命令の強化。
 2つが結びついた時、テリスは、ある突拍子な考えに行き着いた。
 あり得ないかもしれない。でも、もしかしたら……あり得るかもしれない。
 テリスは、駆け出した。
 解雇された衝撃は、すでに忘れてしまっていた。

 あの少年が泊まっていないか、衣服や年齢を頼りに、街中の宿屋で聞きまわった。
 そして、6軒目になって、ようやくその少年が泊まっている場所がわかった。
 どこの部屋にいるか、いつごろ帰ってくるかを聞き出し、待ち伏せした。
 そして、帰ってきた少年に、声をかけた。
「やあ」
 すると、その少年は半歩後ずさって、こう聞いた。
「何してるんだ?」
「まずは、君の事を聞かせてほしい。あの時よりも、詳しく。君がなぜここにいて、なぜあんな事を言うのか……それが知りたい」
「どうせ、信じないんじゃないのか?」
「そのつもりだった。でも、こっちにも事情ができたんだ。もし君の言う事とぼくの考える事が一致したとすれば、ぼくは君の味方になれると思う」
 言い終えると、テリスは黙った。
 しばらくして、その少年が言った。
「おれの名前は、メオだ。お前は?」
「ぼくは、テリス」
「……わかった。じゃあ、おれの部屋に来てくれ」

「おれは、二ヶ月くらい前に、クレイア王国にある小さな町を出た。
 その頃レイアで、王様があるおふれを出したんだ。近くの洞窟にあるペンダントを取ってきたら、褒美をくれるって。おれの住んでた町はすごく貧乏だったから、おれはエミーっていう知り合いの女の子と一緒に旅に出たんだ」
「でも、今は1人だよね。どうして?」
 テリスがそう聞くと、メオは小さく溜め息をついた。
 暗い顔で、メオは告げた。
「死んだ。その洞窟に住んでる大蛇に食われた。
 ペンダントは手に入れたから、王様の所に行った。そしたら、王様はダークネスの手下だった。
 どうやらそのペンダントはダークネスにとって邪魔な物で、それをおれたちに取りに行かせる事でダークネスの侵略を邪魔する物は無くなった。
 おれは何とか逃げ延びて、ここに来たんだ。ギガレズに警告するために」
 そこでメオの話は終わった。テリスはしばらく黙って、それから話し始めた。
「おそらく……これはぼくの想像だけど、王様……に成りすましていたやつは、クレイアの戦力を衰えさせるのも目的だったんじゃないかな」
「確かにそうかもしれないな。たとえそれがおまけだとしても」
 メオが頷いた。
「だとしたら、ギガレズでも同じことが起きていると思う。今、ギガレズの軍隊では一気に人数を減らす活動が行われている。
 今までは、財政状況改善のための活動だと思ってた。でも……違うかもしれない」
「っていうことは、お前らの軍隊の中には、ダークネスの手下がいるはずだ。中から攻撃を仕掛け、ダークネスの侵略を容易にしようとする手下が。心当たりはあるか?」
 テリスは考えた。そして、行き着いた。
「ラバーン……かな」
「誰だ?」
「軍の指導者の秘書で、解雇命令を言い出した張本人だ」
「なら、そいつはそうだろう。それに、その指導者も仲間かもしれない。それから、兵士の中にも何人か仲間がいるだろう。……ところで、お前はどうしてここに?」
「その解雇の対象にされた。それで、さっきの事を考えついて、もしかしたら、君の言う事は正しいんじゃないかと思ったんだよ」
「間違いない。おれがレイアを出た時、ダークネスの手下たちが大軍で飛んでくるのを見たんだ。それからしばらくして、大爆発の音がした。おそらく、レイアの兵隊の基地などが爆破されたんだと思う。それで、無抵抗のままクレイア王国はダークネスに乗っ取られ、その1ヵ月後にクレイアの国民は他の国へ行く事を禁じられ、完全に封鎖された。見えないバリアが張られてる」
「君が正しいのは、わかった。この国……この世界が危険にさらされている事も。それで、ぼくは何をすればいい?どうすれば、この国を守れるんだ?」
 メオはしばらく考え込み、それから言った。
「……もし、お前の言うとおり、その女がダークネスの手下なら、もはやこの国の軍隊は当てにできないだろう。
 おそらくお前と一緒にたくさんの有能なやつらがクビにされてるはずだ。そいつらを説得して、国とは関係ない軍隊を作って対抗しよう。時間が無い。協力してくれるか?」
 一瞬の間をおいて、テリスは言った。
「わかった。協力しよう。よろしく、メオ」
 2人はがっちりと握手した。

 第5章 オカリナ

 テリスが頼りにできる人として思いついたのは、リオンだった。
 リオンがあっち側で無い事は、はっきりしている。
 テリスをかばった事、クビにされた事などを考えれば、当然と言える。
 1度だけ聞いたことのある、リオンの家や、近くの宿屋、リオンの好きだった公園などを、メオと一緒に探し回った。
 すると、公園のベンチに腰掛けて俯いている、リオンを見つけた。
「リオン……さん?」
 テリスが名前を呼ぶと、リオンは顔を上げた。
「ああ、テリスか……」
 一瞬だけ弱々しく微笑むが、すぐに笑みは消えた。
 リオンにとってのギガレズ軍は、すごく大切なものだったのだろう。
 10年以上もいて、懸命に尽くした結果、財政改革の名目でクビにされたのでは、精神的なショックを受けるのも当然だ。
「……何の用だ?」
「実は……ぼくたちがクビにされたのは、財政改革が理由ではないみたいなんです」
「どういう意味だ!?」
 その言葉に驚いたリオンは、思わず立ち上がった。
 テリスは、全てを説明した。
 この少年がクレイアから逃げてきた事、クレイアがダークネスに乗っ取られた事、ギガレズを狙っている事を手短に説明し、テリスの考えも説明した。ラバーンがダークネスの手下である事、兵士が解雇されているのは戦力を弱めるためだと言う事。
 話し終えると、リオンが口を開いた。
「それは……本当なのか?」
 テリスが言う前に、メオが話し出した。
「おれの友達は、おれと一緒に旅に出たんだけど、その途中で、殺された。このオカリナは、形見だ」
 メオが大きなリュックから空色のオカリナを取り出した。
 そして、メオはおもむろにオカリナを吹き始めた。
 その心地よい音色は、テリスとリオンの心を静かに揺さぶった。
 そして、突然睡魔に襲われた。
 テリスはそれに勝つことができず、その場に寝転んだ。
 意識を失う直前、同じ様に目を閉じて寝転ぶリオンが見えた。

 しばらくして、テリスは目を覚ました。
 メオがすぐそばに立っている。
「あのオカリナは……何?」
「おれもよく知らないんだが、不思議な魔力が込められていて、何でも聞いてる人の眠さを増徴させるんだ」
「そうだったんだ……」
 ふとあたりを見ると、リオンはまだぐっすりと眠っている。
 メオが呟いた。
「こいつ、全然寝てなかったんだな」
「どういうこと?」
「このオカリナは、眠ければ眠いほど長く眠らせるんだ。逆に、しっかりと睡眠を取っていれば何の効果も無い」
 つまり、リオンはいつも夜遅くまで起きていたということか。
 でも、なぜ?
 考えられる事は、一つ。仕事をしていたのだろう。
 本当に軍隊のために頑張っていたのだな……。
 テリスの、リオンに対する尊敬の念が一段と深まった瞬間だった。

 しばらくして、リオンが起きた。
「どうだ?少し元気になったか?」
 その言葉でテリスは気づいた。
 メオは、テリスたちの体力を回復させるためにオカリナを吹いたのだ。
「ああ、少しはな。ところで……」
 メオは、その言葉を遮った。
「あんたの質問には、後でテリスが答えてくれる。それよりも、時間が無い。
 おれたちは、仲間を集めないといけないんだ。ダークネスからこの国、この世界を守るために。協力してくれるか?」
「ああ、もちろんだ。ところで……」
「何だよ?」
 メオが、面倒くさそうに聞いた。
 リオンは、苦笑いを浮かべて、こういった。
「……お前の名前を教えてくれないか?」

 第6章 メンバー

 リオンは、たくさんの仲間を集めてきた。
 そのほとんどは、知らない部の知らない人だったが、何人か知ってる人もいた。
 同じ部だったチェコや、リオンの奥さんのミーナなどだ。
 30人ほどのたちを、自分の家の広大な地下室に集めたリオンは、今までのことを詳しく伝えた。
 最後にリオンはこう締めくくった。
「ダークネスは、すぐにやって来るだろう。だが、おれたちが、必ず追い払ってやる」
 周りからどよめきが沸き起こった。
 その中で、1人の女性が手をあげた。
 名前は、ジュナというらしい。
 このメンバーの中で唯一リオンも知らないのだが、リオンの同志の1人に紹介され、加わったらしい。
「これからどうするんですか?」
 ジュナが聞いた。
「この中には軍隊に所属している者もいるから、そいつらから話を聞いて、ダークネスの侵略の兆候を探り当て、準備をしておく」
「では、それまでは?」
「ここで作戦を練っておく。この少年がダークネスのやり方を知ってるはずだから、どうすればいいか、ある程度わかるはずだ」

 それからは、我慢と忍耐の日々が続いた。
 メンバーの多くは元軍隊所属で現在は仕事が無いため、地下室から出ないようにしていた。
 軍隊所属の者だけが部屋を出て、常にリオンとコンタクトを取っていた。
 暇になったテリスは、メオにいろんな戦術を教えながら、ダークネスの事を聞いたり調べたりしていた。
 ダークネスの姿、戦術、強さなどは、全くわからなかった。
 だが、ただ1つ確かなのは、最強の魔力と知力を兼ね備えているということだった。
 その強さには、誰も太刀打ちできなかったという。
 絶望感をこれ以上増やさないため、テリスは調べるのをやめた。

 いろんな情報が伝わってきた。
 最近、ラバーンが軍隊に姿を見せなくなったらしい。
 ダークネスの下へ戻って、作戦を立てているのではないかという噂が広まった。
 また、こんな情報があった。
「実はな……、メオが見たクレイアを占領した兵隊は、第一陣に過ぎないらしいんだ。
 その後、第二陣として魔法使いの集団が来たらしい。
 そいつらの強さは半端なく、逃げ延びていた反逆者が次々と始末されたらしい」
 それを聞いて、メンバーたちは震え上がった。
 普通の戦士だけですらクレイアを占領する力があったのだ。
 それに加えて魔法を使える集団までいるのなら、勝ち目は無いのではないのだろうか?
 ……しかし、メンバーは、皆、諦めなどしなかった。
 闘志が湧き上がっているだけだった。
 テリスも、それを見て、勇気付けられた。
 そして、何が何でもギガレズを守り抜こうと決意した。

 テリスはますます暇になり、外に出たいと強く思った。
 基地の中で起きた事件といったら、メオが今まで村では一度もできなかったという伸漆後転を成功させた事、どこから入ったかわからない黒いウサギがリオンの武器を盗もうとして放り出された事くらいだった。
 当然外に出たいと思うのだが、リオンに止められた。
「お前が外に出たら、おれたちがここにいることがばれるだろう。ここに軍隊が来てもおかしくない」
「そうだね……」
 メオは全く出たいなどとは言わなかった。
 テリスは、メオが感情を表に出さないのだろうと思った。
 だいたいの仲間は、トレーニングを重ねていた。
 テリスも、体が衰えないよう、最低限のトレーニングはしていた。
 リオンは、常に電話をしていて、あまり話すことができなかった。
 ジュナも、頻繁に電話をしていた。
 だが、誰と電話しているのかは教えてくれなかった。

 それから1週間して、ついにニュースが飛び込んできた。
 ダークネスの子分たちが、ついにクレイアを飛び立ったという。
 ジュナは、特殊な情報技術でクレイアと連絡を取っており、それでわかったというのだ。
 メンバーは、できる限りの武器を用意して、準備していた。
 すると、突然、外から悲鳴が聞こえた。
 メンバーたちは、外に出た。
 ──そこには、地獄が待っていた。

 第7章 惨劇

 ダークネスの子分たちが、逃げ惑う人々を、楽しみながら次々と殺していく。
 魔法使いもいれば、人間もいる。
 1人の女性が、赤ちゃんを抱えて街を出ようと走っていた。
 すると魔法使いの1人が、念力を使って子どもをふわふわと浮かばせた。
 きゃっきゃっと微笑む赤ちゃんを魔法使いたちは自分たちの元へ呼び寄せ、一瞬で命を抜き去った。
 絶望に崩れ落ちる女性を、人間たちが殺しにかかる。
 あまりに残酷な光景に呆然とするメンバーたちを見て、リオンが大声を上げた。
「何をしてるんだ!早く、戦うんだ!」
 我に返ったメンバーたちは、魔法使いや人間と戦い始めた。
 人間には勝つ事ができるが、魔法使いの力は凄まじく、一瞬で3人のメンバーがやられた。
 その後も、魔法使いたちは次々と人間や、メンバーを見境なく殺していく。
 何とか魔法使いを振り切った10人ほどのメンバーに、リオンが声をかけた。
「ダークネスの狙いは城だ。城へ行くぞ」

 予想通り、城では、さっきの何百倍ほどの魔法使いと、敵と、悲鳴があった。
 兵士たちは懸命に戦うが、よく見ると、兵士同士で戦っている所がある。
「あいつらは、全員、スパイだったんだな」
 裏切り者の中に、グラクとデュルクがいた。
 ダビーは味方だったらしく、軍隊の指揮を執りながら懸命に戦っている。
 テリスたちも戦いに加わり、戦闘はますます激しくなった。

 テリスが身構えると、グラクが切りかかってきた。
 何とか剣を抜いて止めた。
 激しい切りあいが始まった。
 しかし、グラクのほうが強く、剣を思いっきり下から上へと跳ね上げ、その力でテリスの剣を遠くへ跳ね飛ばした。
「お前も終わりだな……」
 その時、グラクの後ろで、1つの影が動いた。
 メオが、グラクの背中に短剣を突き刺した。
「うっ……」
 グラクはその場に倒れ、そのまま息絶えた。

 デュルクとチェコが戦っているが、デュルクがチェコの一瞬の隙を突き、ぐさっと剣をチェコの腹へ深く突き刺した。

 リオンとテリスとメオは一緒に戦っていた。
 次々と子分たちを倒していると、すぐそばにジュナが現れた。
「私も手伝うわ……」
 そういって、ジュナがナイフを取り出し、胸を突き刺した。
 しかし、ジュナのナイフが貫いたのは、魔法使いの胸ではなかった。
 ナイフが捕らえたもの……それは、リオンの胸だった

 第8章 決別

 どれだけ時間が経ったのだろう。
 リオンはあまりの痛みに倒れこんだ。
 その胸は、紅く染まっている。
 その傍らで、呆然と立ちすくむテリス。
 襲い掛かる魔法使いを、メオが懸命に戦って止めていた。
 ミーナとデュルクが戦っている。
「お前は……スパイだったのか……」
 リオンが声を絞り出した。
 ジュナがにやりと笑い、こういった。
「私の正体を見抜けなかったのが、あなたの死因ね……」
 と、ジュナの肌がうねり、別の人物に変わった。
 そこに立っていたのは、ジュナではなく、ほくそ笑むラバーンだった。
「お前はずっと我々の邪魔者だったわ。テリスみたいなムダに志のある連中は、さっさと処分するつもりだったのに。お前が止めたせいで、なかなか実行できなかった。この手で殺せて、何よりだわ」
 近くで、ミーナのうめき声が聞こえた。
 テリスが振り向くと、ミーナはデュルクに殺されていた。
 リオンが声を絞り出した。
「テリス……」
 テリスはしゃがみこみ、耳をリオンの口元に持っていった。
「……あの女の……企みを……絶対に……許すな……この世界を……守ってくれ……」
 それがリオンの最期の言葉だった。
 こうして、リオンは、この世を去った。
 ラバーンが声を張り上げた。
「魔法使いたちよ!この、忌まわしいやつらを、早く、殺せ!」

 メオが囁いた。
「逃げるぞ」
「でも……」
「もう勝敗は決まった。これ以上戦っても、ムダだ。
 この国の隣は……ドラドルだな。ドラドルなら、ダークネスたちに対抗できるかもしれない。早く、行くぞ」
「でも!この国は……」
「ドラドルがダークネスを倒せば、ギガレズも、クレイアも、取り戻せる。だが、ここでおれたちが死んだら、ドラドルは何も知らないまま負けるんだぞ」
 そういって、テリスの手を引っ張った。
 テリスは、メオと一緒に、走った。
 その時、テリスたちの前に、ダビーが立ちはだかった。
「ダビー……さん?」
 テリスが、恐る恐る聞いた。最後の味方だと思っていた人のイメージが、もろくも崩れ去る瞬間だった。
「私がお前たちの味方だとでも思っていたのか?とんでもない、馬鹿だな……」
 そういって、ダビーは長い剣を振り回して切りかかってきた。
 テリスは咄嗟にメオを引っ張って一気に脇にずれ、バランスを崩したダビーの背中を剣で突き刺そうとした。
 しかし、ダビーもすんでのところでテリスの短剣をかわし、バランスを立て直した。
 ダビーが再び剣を構えようとしたその時、テリスが短剣を投げつけた。
 あまりの速さにダビーが反応する間もなく、短剣はダビーの頭にぐさっと刺さった。
 ダビーはそのまま地面に崩れ落ちた。
 2人は、魔法使いたちが人間たちを無残に殺していく、惨劇から逃げるように、その場を去った。
 こうして、ギガレズ王国は、ダークネスの物となった。



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