「デスティニー・ダークネス」
デスティニー・ダークネス (5)
Overcome Destiny!
T magic
序章 ラティス
ラティス王国は、モルディスの中でもっとも古くから存在する王国のひとつで、ドラドルのような近代化をせず、古代の魔術によって栄える国だった。
他の国とは大きく異なり、魔法魔術が生活の一部として組み込まれていた。
国民の9割以上が魔法を使える、魔法族の国ラティス。
その中でも、子どもながら一際強い魔力を持つ魔術師がいた。
魔術師の名前は、コレージェ。
その魔術師コレージェと、幼なじみマインが、ダークネスとの戦いの記録に新たな1ページを刻もうとしていた。
その強さは、偶然か、それとも、必然か……。
第1章 最強
マインは、ラティス内に数多く存在する魔法学校の中でも、特にランクの高い学校に通う学生だった。
魔力はその限界が生まれつき決められている場合が多いので、幼い頃から魔力の強さでランクを決め、ランクごとに通える学校を決めているのだ。
マインの魔力はかなり高い方で、トップランクの学校に通っていた。
マインは努力家で、習った呪文を間違った方向には絶対使わない、という正義感の強い女の子だった。
そのためランクの高い学校の中でも特に成績優秀だったが、どうしても1位にはなれなかった。
なぜなら、「天性の魔術師」と呼ばれるコレージェがいたから……。
コレージェは、すでにその類まれなる才能を幼い頃から発揮していた。
すでに10歳の頃には、先生を遥かに上回る力を持っていたらしい。
そのため、この学校でも特別扱いされていた。
ただ、マインはコレージェに憧れを持っているわけではなかった。
なぜなら、コレージェはその強さ故に、仲間を持てなかったからだ。
たとえどんなに本人が優しくて努力を怠らない性格だったとしても、本人の周りの環境が特殊すぎて、好かれない事は多々ある。
コレージェが、まさにそうだ。
コレージェ自身に非はないのだろう。
しかし、コレージェの生まれ育った環境も、おかれている環境も普通ではないため、コレージェ自身が普通ではないものとして扱われてしまうのは、必然なのかもしれなかった。
第2章 来訪者
マインが進学して、半年ほどが経っていた。
そんなある日、それは起こった。
今にしてみれば、それが運命の狂う始まりだったのだろう。
「コレージェ。あなたと面会したいという方が校長室にいらっしゃっています。今日の授業は受けなくていいので、急いでそこへ向かいなさい」
マインとコレージェのクラス担任の先生が、3時間目の途中に突然教室に入ってきて、コレージェにそう告げた。
「……ワープしても、いいですか?」
「特別ですよ」
「ありがとうございます」
コレージェは無表情で礼を言うと、短い呪文を唱えた。
一瞬にして、コレージェの姿は消えた。
生徒たちからざわめきが起こった。
担任の先生は、鋭く注意すると、今の授業を担当しているミラー先生に謝った。
「ミラー先生、授業を邪魔してすみません」
「いえ、構いませんよ」
ミラー先生が、にこやかにそう言った。
放課後になっても、コレージェは戻ってこなかった。
給食中に一台の車が出て行ったので、おそらくコレージェも一緒に行ったのだろう。
マインは少し気になったが、深く考えずに校舎を出ようとした。
すると、学年主任の先生に肩を叩かれた。
「君も、来てくれないか」
「……え?」
も、という言葉から察するに、マインはコレージェたちのいる所へ行く事になるのだろうと思った。
断ることもないので、マインはそのまま先生についていった。
「私は、ルーラ」
「あたしは、ナナ」
「おれは、メオ」
「ぼくは、テリス」
4人の来訪者は、このように自己紹介した。
「私は、マインです」
マインもそれに倣って挨拶した。
「前置きは、このくらいにしましょう。あなたたちに、頼みがあるんです」
「何ですか?」
「ぼくたちと一緒に、ダークネスを倒すための旅に来てください」
「……え?でも、どうして……それに、ダークネスは歴史上の……」
「いや、説明させてくれ」
メオがマインの言葉を遮って言った。
要するに、ダークネスは復活し、クレイア・ギガレズ・ドラドルの3国を征服し、今まさにラティスに攻め込むところらしい。
「ルーラが予知したところでは、この国で2人の勇者に出会うらしい。
ただ、勇者の人数は5人、と出ているのが不思議なんだけどな……」
確かに、今、ここには6人いる。
だが、マインにはそれ以上に気になる事があった。
「でも、勇者って、どうやって見分けるんですか?」
「直感よ」
ルーラが答えた。
「……え?」
「大丈夫。私の直感は外れた事がないから。それに、占いもできるし。そういう分野では信用しても大丈夫よ」
ルーラはそう言って、にっこりと微笑んだ。
メオが話を引き取る。
「で、ルーラが、お前たち2人が勇者だ、って。
どうかはわからないが、人数より多くても問題ないみたいだから」
「でも、ダークネスってどうやって倒すんだ?」
コレージェが最もな質問をした。
「あー、それは……わからないな」
「……え?」
「だが、それを突き止めるためにここに来たわけでもある。
その昔、ダークネスの封印に成功した種族、ラティス族の住むこの王国に」
「そうなんですか……でも、心当たりは?」
「ない」
「……え?」
「いや、正確には1人、いたんだが……」
そこまで言った時、突然校庭の方から悲鳴が聞こえてきた。
「何!?」
「あれは、ダークネスの手下だな。
堂々と、それも本拠地でない所を攻めてくるという事は、よほど自信があるらしいな」
「そんな事より、早く、助けないと!」
「ああ、わかってる。
準備はいいな?」
メオがそう言うと、他の3人も頷いた。
「久々に、開放できる」
コレージェのそんな呟きが聞こえた気がした。
第3章 幕閉じ
メオたち4人はかなり強く、魔法の使える敵とも互角に戦っている。
先生方も攻撃魔法で応戦している。
ただ、相手の人数がとにかく多い。
生徒を除くと、こちら側の戦力は20人ほど。
対して、相手は400人以上。
普通に考えれば、勝てないのが必然だろう。
勝ち目があるとすれば、それは……コレージェの圧倒的な強さだった。
コレージェが手を振りかざすと、地割れが起き、敵たちが次々と呑み込まれていった。
その隙に後ろから攻撃を仕掛けようとしていた敵もいたが、全員バリアに弾かれ、さらに上から降ってきた稲妻に貫かれていた。
上から跳んでくる敵をエネルギー弾で吹き飛ばし、周囲に眩い光の輪を放って残りの敵を全て切り裂いたコレージェが、Vサインをした。
「凄すぎるな……あの子」
そういって、メオたち4人は状況を説明するため、先生たちの方へと向かっていった。
マインはコレージェの方へと近づいていった。
その時……私の目に、何かが映った。
それは、なんと、生き残ったダークネスの手下だった。
コレージェは、気づいていない。
マインは、我を忘れて駆け出していた。
「危ない!!」
マインが叫ぶと、コレージェはようやく気づいた。
しかし、すでに遅かった。
パン、と乾いた銃声がした。
撃ち抜かれた……マインが。
マインは、全速力でコレージェの前に立ち、身代わりとなったのだ。
「お……お前……なんで……」
コレージェは突然の事に呆然としている。
さっきの手下は、いち早く気づいたナナがすでにころしていた。
マインは、だんだんと痛みを感じなくなっていた。
(ここで、しぬんだな……)
その時、マインは、自分の体が黒く光っている事に気づいた。
マインにもわけがわからないうちに、自分の体は宙に浮かび、ますます光は強くなっていく。
しかも、マインの放つ光は、なぜかメオたち5人を引き寄せている。
そこまでで、マインの意識は途絶えた……。
U travel
第4章 旅立ち
気がつくと、メオ、テリス、ルーラ、ナナ、コレージェの5人は名もない草原に倒れていた。
「うっ……」
メオが起き上がる。
メオは他の4人を起こした。
「ここはどこ?」
「それがわかれば苦労しないけどな」
「たぶん、異世界じゃない?」
「どうしてだ?」
「マインの黒い光で吸い込まれた、なんてファンタジー以外ではあり得ないでしょ。
ファンタジーなら、ここは異世界か異次元か異空間よ」
「全部同義だろ」
メオが冷静に指摘した。
「でも、だいたいそういう世界の類なら、出る方法は、ボスを倒すくらいしか……」
「ボス、か。そんな都合よく敵がいるわけ……」
メオの言葉は、1人の青年に遮られた。
「あの〜……お願いがあるんですけど……」
「何ですか?というか誰ですか?」
「私はフスト。この世界を支配しようとたくらむ魔王シャディを封印するために旅に出ているんです。
あなたたちの中に、強い魔力を持った人がいるようなので、協力していただきたいのですが……」
「うん、ボスだな」
「そうね」
こうして、5人とフストは、シャディというボスを倒すための旅に出た。
そして、いかにも魔王がいそうな雰囲気の城が聳え立つ、いかにもラストステージっぽい雰囲気の山にたどり着いたところで夜になってしまったので、6人は寝る事にした。
いや、正確には寝たのは4人。
コレージェが、フストに聞きたい事があった。
「あなたは、なぜ強い魔力を持った人が必要だったんだ?」
「シャディの力は強く、普通に倒す事は不可能だ。
封印するのにも、かなりの魔力を伴うし、それまでに誰かが殺されるのは確実だ。
だが、シャディと渡り合える実力、シャディを封印できる能力を持っている人が私以外にいなかったので、仕方なく1人で旅に出ていた。
そこで、強い魔力を持つ君に会ったから、だめもとで頼んでみたらいいと言われたので……」
「そうか。でも、封印する方法を知らないぞ?」
「それなら、大丈夫だ……」
そういって、フストはコレージェの額に手をあてた。
するとコレージェの額が輝いた。
「……!これは……」
「記憶移しの術だ。これで、封印呪文の記憶は私と君で共有している事になる」
「……わかった。どうやら、あなたは最強の魔術師のようだな。……この世界で2番目に……」
そして、夜が明けた。
いくつもの障害を乗り越え……。
6人の勇者たちは……。
ついにシャディの待つ部屋へとたどり着いた!
「手抜きですね」
とにかく、シャディの待つ部屋へと、6人は足を踏み入れた。
第5章 戦い
「何だ、お前たちは」
シャディという名前が、正しい事を、6人は、入ってすぐに感じていた。
それは、シャディが、完全なる闇だったからだ。
「いや、まず疑問詞が間違ってるぞ」
「われわれは、お前を倒しに来た!」
「そんな事はわかっている!城のトラップを潜り抜けてきたくせに」
「封印してやる!」
そういって、フストがシャディの元へと駆け出した。
シャディがフストの方へと巨大な火の玉を打ち出した。
フストは一気に吹き飛ばされる。
「フストさん!?」
ルーラが駆け寄るが、すでにフストはこの世のものではなくなっていた。
「この世界で私を封印できるのはこいつだけだ!これで、私の勝利は──」
「封印!!」
コレージェがそう叫びながら、呪文を唱えた。
「うっ……これは!!!」
シャディが苦しみだした。
すでに遅く、シャディは封印され始めている。
「どうしてだ!この世界の魔術師はこいつ以外始末したはずなのに!!」
「おれは、別世界から来たんだ」
コレージェが冷たく告げた。
「そして、お前を、別世界に閉じ込める!!」
コレージェは、そういって、シャディを小さな闇の空間に閉じ込め、空間ごと消し飛ばした。
別世界に封じ込めたのだ。
「これで、帰れる!?」
ナナがそう言った瞬間、突然神聖な音がした。
みると、フストの体が白く光りだしている。
「あの時のマインとおんなじ……」
「なら……」
「帰れる!!」
そういって、コレージェたち5人は、フストの体に触れた。
5人は、こうして、たった1日の、異世界での冒険を終えた。
第6章 真実
「うっ……」
メオが起き上がった。
みると、そこはあの学校の校庭だった。
「おい、帰ってこれたぞ!!」
メオがそういって、他の4人を起こす。
「やったぁ!これで、異世界から帰ってこれた……!」
「いや、そうじゃない」
喜ぶナナを、コレージェが止めた。
「どういう事?ここも異世界だって言うの?」
「いや、逆だ。あそこは、異世界なんかじゃない」
「え!?」
4人はとても驚いた。
「シャディって、英語でどういう意味だ?」
「えーと……『闇』……」
「じゃあ、闇を意味する英単語ってシャディだけか?」
「……!!ダークネス……!?」
コレージェが頷いた。
「それだけじゃない。フストって名前に、聞き覚えないか?」
「確かに……」
言われてみると、4人ともかすかに聞き覚えがあった。
「フストは、歴史上2番目に偉大な魔術師の名前だ。
初めてのダークネスとの戦いで活躍した、戦士。
そして、1番強い魔術師で、フストや他の戦士を率いていたのは……」
「コレージェ!」
メオは、そういわれてはっと思い出した。
誕生日に村を捨てる少し前、学校で習った気がする。
「シャディは、別世界に封印された。
ダークネスも、そうだったろ?」
「まさか……何が言いたいの?」
ルーラが、恐る恐るたずねる。
「あの世界は、異世界なんかじゃない。
過去のモルディスだ……!」
第7章 発見
「でも……なら……」
テリスが小さな声で何かを呟いた。
「どうした?」
メオが尋ねる。
「ダークネスを封印したのがコレージェなら、封印する方法を知ってる、って事だよね?
なら、ダークネスを倒せるんじゃ……」
「そうか!!」
その言葉で、4人ともハッとした。
確かに、コレージェがダークネスを封印したなら、いまさら悩む必要はない。
同じように、封印できるのだから。
「でも……」
「何?」
「どこにいるの?」
最もな指摘である。
「でも、ダークネスは別世界に封印されたんでしょ?だとしたら、別世界を拠点にしてるんじゃ……」
「別世界って、どうやって行くの?」
言われてみれば、その通り。
誰も行った事はないのだから、わからない。
1人を除いて。
「もしかして……あそこじゃないかしら……」
ルーラがそう呟くと、メオがいち早く反応した。
「どこだ?」
「ナナも知ってるけど、ドラドルの遺跡から、ある所へ行けるのよ。時間の流れも違うし、闇みたいだったから、たぶんそこが別世界だと思うんだけど……」
「本当か!?」
「ええ。ただ……」
「とりあえず、行ってみよう!」
とはいったものの、問題があった。
どうやら、ワープは1人しかできないみたいなのだ。
コレージェは、古代文学の研究をしていて、古代文字が読める。
Gsrh dzoo xziirvh blf gl gsv wzipmvhh.
これは、どうやらこの壁が、一日に1人しか運べない、という事を示す文章らしい。
「でも、この移動って、魔法の力でするのよね?」
「ええ、たぶん」
「だったら、コレージェの力で魔力を増幅させれば……」
「いや、いくらなんでもそんな事はできないと思うぞ」
メオが否定する。が……。
「いや、できる」
そういって、コレージェが壁に魔力を送り込んだ。
「たぶん、これで大丈夫だ……あぁ!?」
そういってコレージェが壁にもたれかかると、すぐに吸い込まれた。
「早く!壁に触れて!!」
ルーラの言葉で、4人も壁を触る。
まもなく、5人とも壁に吸い込まれた。
第8章 決戦
目の前に広がるのは、ただの暗黒空間。
完全なる闇が、一面に広がっていた。
「ここが……ダークネスの……」
「たぶん、間違いないな。あの時の闇と、濃度が同じだ」
5人がその闇を、しっかりと手を握って突き進んでいくと、だんだんと闇が晴れた。
そして、目の前には大きな穴が現れた。
どうやら、この穴の奥にダークネスがいるらしい。
魔力の強いルーラとコレージェは、感覚的にそれがわかった。
「いよいよ、ね……」
「余韻に浸ってる暇はない。早くしないと。ここは時間の進みが遅いんだろ?」
確かに、ここの時間の進みは異常に遅い。
1時間ここにいるだけで、半年になってしまうのだから。
「確かに、もたもたしてる暇はないわね。今この瞬間にも、何人もの人がころされてるかもしれないんだし……」
5人は、無言のうちに目を一瞬合わせた。
無言の中に、決意が込められていた。
長い穴に、特にトラップは仕掛けられていなかった。
ダークネスは、あの時に特にトラップが役に立たなかった事から、学んだらしい。
「結構な距離進んだはずだから、あと少しだね」
そうテリスがつぶやいたその時、5人の目に重そうな鋼鉄の扉が映った。
「あれ?もしかして、あの扉って……」
「ダークネスの部屋の扉!?」
おそらく、間違いないだろう。
そう思って、5人はその扉を開けた。
しかし、待っていたのは、ダークネスではなかった。
「遅かったわね」
そう、テリスの最も憎む相手、ラバーンだった。
「あんたたちが来るのを待っていたのよ。ここでならそっち側の時間の進みは早いから、すぐ来ると思ったんだけど……」
「気が済んだか?言い残した戯言があるなら、さっさとしろ」
テリスが言い放った。
「それはこっちのセリフね。言っとくけど、私はダークネス様から力をもらったの。今のあんたたちには、絶対に負けないわよ」
「そうか?なら、証明してみろ!」
その言葉と同時に、テリスが襲い掛かった。
テリスが2本の剣を振り上げて駆け寄っていったが、ラバーンは全く動じずに、剣を素手で受け止めた。
「うそだろ!?」
テリスが驚く。
「ふふっ、だから言ったでしょ?……私は、負けないって!!」
ラバーンは剣を念力で真っ二つに折ると、テリスを人差し指で突き飛ばした。
その力は、すでに人間の限界を超えていた。
とはいっても、メオたちにも限界を超えた魔力を持った戦士が1人いる。
「うれしいな。本気で戦えるなんて」
「あんたなんか、本気を出させずにころしてあげるわ」
ラバーンが黒いエネルギーの弾を3発ほど放った。
コレージェは、微動だにせずにその弾の1つを跳ね返し、2つを打ち消した。
残った1つも跳ね返す。
しばらくエネルギー弾のキャッチボールが続いたが、ラバーンは一瞬の隙を突いてコレージェのところでその弾を爆破した。
しかし、コレージェもすばやく反応してその弾を厚いバリアで包み込んだ。
爆風を食い止めたコレージェは、高く跳び上がって、上空から火の玉を飛ばす。
ラバーンの服に火がついたが、ラバーンはすぐに火を消し、服を修復した。
「なかなかやるじゃない」
「お前もな」
「でも、そんな魔力持ってて、煙たがられなかった?」
ラバーンのその言葉で、コレージェは衝撃を受けたかのように目を見開き、俯いた。
その一瞬を見逃さずに、ラバーンが稲妻の剣をどこかから取り出すと、剣を投げつけてきた。
「危ない!」
コレージェが気づいたが、もう遅い……かに見えた。
ぎりぎりのところで、剣は空中に静止したのだ。
「何なの!?」
ラバーンも、コレージェも、他の全員が驚いている。
……1人を除いて。
「私が、助けるの、おかしい?」
ナナが、ゆっくりと前に進み出て、微笑んだ。
「そう……正体を秘密にしてたのね」
「それは、あなたもでしょ?……エミーさん」
他の4人は、呆気にとられていた。
第9章 陰謀
「エミー!?どういう事だ!?」
メオが慌てた。
「おい……うそだろ?第一、悪だったんならあのバリアを通れるわけが……」
「あの大蛇は、ダークネス様の手下。蛇は、エミーを丸呑みしたままダークネス様の所へ連れて行って、私の精神をダークネス様の手下に改造したのよ」
「そんな……」
今まで敵視していた相手が親友だと知って、メオはショックを受けていた。
しかし、他の3人には、もっと知りたい事があった。
「それより、ナナ……あなたは誰なの?」
おかしな質問だ。
しかし、この質問は、この状況では見事に当てはまっていた。
「私?強いて言うなら……あなたたちを守るべき存在ね。でも、詳しい事は後でわかるから……私は、散るわ」
「え?どういう……」
ルーラが最後まで聞き終わる前に、ナナはそれを行動に移した。
「さよなら、みんな☆」
ナナは、ラバーンの手首をしっかりつかむと、何かの呪文を唱えた。
と、ナナの体がみるみる光り出し、そして……爆発した。
「きゃあああああああああ!」
ラバーンが叫んだが、すでに遅かった。
あまりの眩しさに目をつぶっていた4人が目を開けたとき、目の前には粉々になった2人の体と、血しか残っていなかった。
「ナナ……どうして……」
多くの謎を残したまま、4人は最終決戦へと向かう事になった。
第10章 ダークネス
目の前にいたのは、ダークネス。
それは、シャディとなんら変わりのない、闇だった。
「やはり、お前たちだったか……」
「お前とは、過去でも未来でも、戦う運命らしいな」
「そのようだな。だが、この戦いが運命なら、勝敗も宿命だぞ?」
「運命は変えられる。私が、それを証明している!」
そういって、ダークネスはその薄暗い部屋の床をたたいた。
地震が起き、4人が倒れる。
「今度は油断はしない。確実に、倒させてもらう!!」
ダークネスの怒涛の攻撃に、4人は避けるのが精一杯。
どうしても避けれないものだけを、コレージェがバリアで防いでいた。
何とか、攻撃のチャンスはないか……と、コレージェは抜け目なく探っていた。
すると、テリスがコレージェに近づいてきた。
「何か案はある?」
「ない。あれば試してる」
「ぼくにはある。君の協力が必要だ」
「どういう案だ?」
「簡単だよ。ぼくがおとりになる。その隙に、君が封印する」
「待てよ……そんな事、できると思うか?」
「できるかどうかは問題じゃない。やらなきゃいけないんだ。
それに、話した時点で、準備はできてる!」
テリスはそういうと、ダークネスに駆け寄った。
そして、剣を思い切り突き刺した。
もちろん、ダークネスには無意味だ。
「愚かなやつめ……これで終わりだ!」
ダークネスは一気に拳を振り上げ、振り下ろした。
テリスが一瞬にしてつぶされた。
その隙に、コレージェが近づく。
「今だ!」
そういって、コレージェはダークネスに触れようとした。
触れさえすれば、あの時の呪文で封じられる。
ダークネスを破壊する手段も、コレージェは考案していたので、今度こそとどめを刺せる……そう思っていた。
ところが、ダークネスはそれを見越していたかのように、バリアでコレージェを弾いた。
「くっ……」
「同じやり方で、私が負けると思うか?」
ダークネスが不敵な笑みを浮かべた。
「お前さえ倒せば、私は勝てる……」
「させないわよ!」
ルーラが叫び、呪文を唱えた。
ダークネスの身動きを封じたらしい。
「何をする……くそっ!」
隙を着いた攻撃だったので、ダークネスも避けれず、まんまと術中にはまった。
「今のうちよ!ダークネスを、封印して……!」
コレージェがダークネスを封印しようとする。
「待て!なぜ私を封印するんだ……してはならない!」
「何が言いたいのかわからないが、おれたちはやるべき事をやる。それだけだ!封印!!」
コレージェが、前と同じようにダークネスを封印した。
そして、ダークネスの閉じ込められた世界を消し去った。
「……ダークネスを倒した……」
「なんか、呆気なかったね」
3人は、そこで口ごもった。
ナナ、ルーラ、マインなど、戦いの中で死んでいった人たちの事を考えていたのだ。
「でも、世界を救ったんだ。あいつらも、喜んでるはずだ……」
そこまで言ったところで、可愛い声がした。
「本当にそうなのかな?」
最終章 最後の真実
そう可愛い声で、でも冷たく伝えたのは、黒いウサギだった。
「………」
「ん?どうかしたの?」
「脈絡が……なさすぎないか?」
「クライマックスの章で笑いをとろうとしないで。そもそも、私、今までこの物語に3、4回は出てるよ?」
「そうなのか?」
それは読者の方々に探してもらうとして。
「私は、あなたたちが、今までどれだけ無駄な事をしていたか……それを教えるために来たの」
「無駄!?無駄とは何だ!?ダークネスを倒したのに、どうして無駄になるんだ?」
「ダークネスを倒す事は、あなたたちの目的だった。でも、それは、あくまで作られた目的だから」
「どういう事だ!?説明しろ!」
ウサギは、ふうっとため息をついて、メオの方を向いた。
「エミーは、あたしが操った。エミーの、あなたへの愛を煽って、あなたの身代わりになるように仕向けた」
「どういう意味だよ!?」
「選ばれし者は、5人。エミーの役割は、選ばれし者を守るだけ。それ以上の事は、ないわ」
「くそっ……!」
メオが歯軋りする。
「本当なら、ナナも選ばれし者を守る役割をするはずだった」
その言葉に、ルーラが驚いた。
「え?」
「ナナの役割は、ラティスの学校で、あなたたちを守る事。ところが……」
「マインが、先に動いた……」
そういう事だったのだ。
計画の歯車は、マインが死んだ事によって大きく狂ったらしい。
「それで、あたしたちも困ったのよ。
そこで、急遽ナナを操って、マインと同じ働きをさせて、ダークネスを倒させた……」
「ん?倒させた?どういう意味だ?」
コレージェが聞いた。
「ああ……聞きたいの?」
3人は思い思いに頷いた。
ここまできたら、最後の真実を知りたい。
その先にあるのが、絶望だとしても……。
「この世界が成り立っているのは、神の力によるものなの。
神が、常にその力を世界に注ぎ込んでいるからこそ、その世界は次元を保っていられる……。
でも、神だって、疲れる。
そういう時に、世界を保つ力が少しでもなくなると、ダークネスのような存在が生まれる。
ダークネスは、神のちょっとした休憩の時に作られた、闇。
でも、ダークネスは、この世界を征服する事に失敗した。
そして、この世界はまた平穏が保たれた……。
で、この世界の人数はどんどん増えていった。
人数が増えるという事は、それだけ多くのエネルギーを費やさないと世界を保てない、という事。
このモルディスは、すでに神にとっては厄介な荷物だった……」
そこでウサギは一旦言葉を切り、続けた。
「そこで神は、ダークネスを利用して、モルディスを消滅させる事を計画した。
ダークネスの封印を解いたのは、他でもない、神よ。
ところが、ダークネスは、神に歯向かって、逆に神の力を封印した。
ダークネスに、この世界を潰す気はなかった。この世界を支配する事が、ダークネスの目的だったから。
それで、神は直接ダークネスを操ることはできなくなったけど、裏で手を回す事ができる。
ダークネスを倒せるような存在を創り出す。そう、『選ばれし者』を……」
「それが、私たちなのね」
「そうよ。
あたしたちは、ダークネスが倒されるように、裏で手を回した。
草原の猛獣を倒したり、エミーにオカリナを渡したり。
あのオカリナは、あの家に代々伝わるものなんかじゃない。
エミーが、記憶を改ざんされてただけよ。
それに、ルーラに助言するようにゼイアを操ったのも、あたし」
全ての謎は、解けた。
やはり、待っていたのは、絶望だった……。
「これから、どうなるの?」
「この世界は、消滅する。
あと、ちょっとで。
あんたたちがダークネスを倒した事で、滅亡へのカウントダウンが始まったのよ」
世界を救おうとした努力は、世界を滅ぼす装置に過ぎなかった。
それが、皮肉な、現実だった。
「この世界が滅亡するのは、決定事項だったのよ。
いくら誤算があったとしても、現実は変えられない。
だって、それは、『運命』……『デスティニー』だったんだから……」
そう、メオたち選ばれし者は、決定を委ねられていたのだ。
この戦いの、勝者を。
デスティニー・ダークネスのどちらかから……。
「さよなら、ね」
ウサギがそう告げた瞬間、全ては、消えた。
残ったのは、闇だけ。
メオ、ルーラ、コレージェ
ナナ、テリス、マイン。
エミー、リオン、ゼイア。
モルディスを救うために奔走した戦士たちの努力は、ここに、消えた。
エピローグ
ダークネスが消滅した。
それは、嘘だ。
ダークネスが消し去られた時、ダークネスは、悪夢の中に封印された。
モルディスがなくなった後の、余った空間には、宇宙という名の新世界が創られた。
1万個以上の世界が一気に消された「世界改変」により、生まれた広い空間。
そのため、「宇宙」は、モルディスの100倍以上の広さを誇る、巨大世界となった。
そして、かろうじて消滅せずにそこを彷徨っていた悪夢……ダークネスは、宇宙という新世界へと入り込んだ。
ダークネスは、復活する。
悪夢で、エネルギーを奪って。
絶望とともに。
そして、ダークネスは、新たな侵略を始める。
その標的は……ソルジット系という名の宇宙。
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