「デスティニー・ダークネス」
デスティニー・ダークネス 外伝:影は悪夢の中に……
Overcome Destiny!
「何で、こんな事に……」
私は今、逃げている。
何から逃げているか、わからない。
ただ一つ確かなのは、自分が追われていると言う事だった。
初めてその異変に気づいたのは、2週間前の事だった。
2週間前、突然私は次々と不幸に見舞われた。
最初は忘れ物をしたり、よく転んだりといった、些細なものだったが、次第にその不幸の度合いは高くなり、ついには死の危険すら迫るようになった。
家に閉じこもっていても、少し油断すると、本棚から本が落ちてきたり、蛍光灯が破裂したり。
そんな日々が1週間半続いたとき、ある日母が気づいた。
「あなたの影、小さくない?」
自分の影は、確かに小さくなっていた。
計算すると、身長が1mしかない人の影と同じ大きさになっている事がわかった。
次の日には、影の大きさはさらに3cmほど縮んでいた。
その日、家の電子レンジが突然爆発した。
一応、原因は電気のショートとされたが、私はわかっていた。
不幸の度合いと、影の大きさは反比例しているのだ。
このまま影が小さくなっていき、ついに消える時……。
それが、私の命が消える時だろう。
そしてその日の夜に眠って以来、私は永遠に逃げている。
実体のない、影から。
その日の夢は、何も無い闇だけの世界で始まった。
しばらくすると、何かが近づいていた。
視覚的ではなく、感覚的に私はそれを察知した。
真っ暗闇なのに、さらに濃い闇、濃い影が迫っているのを、私は気配で感じていた。
影は何かを言った。
いや、正確には脳に直接語りかけていた。
〈お前の影は、我のエネルギーとなる。不幸な自分を恨むがよい……そして、その肉体と命を、我に捧げるのだ……きっとお前は、我の力となる事で、そのうちに絶対的な権力を持つ存在となれるであろう……〉
私は怖くなって、逃げ出した。
しかし、その影の声は、まだ聞こえる。
〈逃げるがよい。足掻くがよい。そのうちお前は、自ら我らにその全てを捧げるであろう…………〉
その時から、私はその闇の中で逃げ惑う日々が始まった。
おそらく、終わる事は無いのだろう。
私がいるのは、何も無い、無と闇の空間。
私はその空間を、〈ダークゾーン〉と呼ぶ事にした。
そして、あの影を、〈ダークネス〉と名づけた。
私はダークゾーンから出られるのだろうか?
それはわからなかった。
全く飲み食いせず、全く眠らなくても平気な事から、ここは夢の中なのだろう。
強いていうなら、悪夢か。
悪夢の中にある影は、ゆっくりと、まるで私が進むのと同じ速さで、一定の間隔を保って追ってくる。
しかし、止まっても追いかけてくる。
私と影の鬼ごっこは、私が降参しない限り終わらないのだろう。
ダークゾーンには、本当に何も無い。
敵すらいないと、逆に虚しい。
夢だったら、いつか覚めるはず。
なのに、全く覚めない夢。
夢の時空は無限で、永遠に続く事もあれば、1秒で終わる事もあり、限りなく広い事もあれば、すぐに夢世界の端から端まで行ける事もある。
でも、覚めない夢は無い。
無い事を、ただ願っている。
体力が尽きる事はない。
でも、気力が尽きる事はあるのだろう。
1ヶ月間何もせずにただ逃げているうちに、私はついに気力の全てを失った。
「もう、いい…………」
そういって、私は地面に寝転んだ。
もはや、逃げる事に意義は無かった。
生き延びる事に意味は無かった。
抜けられる可能性も無かった。
だったら、もういい。
それが私の運命なら、全てをダークネスに捧げよう。
私は、そのまま全てを捨てて、眠りについた。
もう、目を覚ますことはないだろう。
やっと目が覚めた時、私に見えるのはやはり前と変わらぬ闇だった。
天国では、無い。
なぜ生きているのかは別として、生きていた。
しかし、不思議な事に、ダークネスの気配を感じない。
今まで、ダークゾーンのどこにいてもダークネスの気配が、確かにあった。
しかし、今あるのは、自分が存在している、という気配だけだった。
しばらく考えた。
そして、気づいた。
影は、私自身だ。
ダークネスと私は、すでに一体化していた。
私は、ダークネス。
ダークネスは、私。
全てを捧げる儀式は、すでに終わっていた。
「私は、ダークネス……」
私の意志で、ダークネスは動いている。
しかし、この強大な力を、正義に使うという選択肢は、無かった。
私の意志そのものが、ダークネスに蝕まれていた。
「私は、この世界を支配する……」
それは、影が悪夢から生まれる瞬間だった。
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