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「フラワー・ストーリー」


 フラワー・ストーリー 第3部

 第17章

 地底の湖を抜けた私たちは、第3の魔境、吹雪の島へと向かう事にした。
 そこがここに一番近かったのも理由だけど、もう一つの理由は……。
「吹雪の島の近くには、ドリームウィングの支部があるの。本部以外には、そこにしか支部は無いんだけど。
 そこでなら、夢人とも連絡が取れるし、食料の補充とかもできる。一度行った方が便利よ」
 と、美羽が言ったからだった。

 吹雪の島は、地底の湖から続くトンネルを抜け、その先の長い森を通った先にある海岸から、船で行く事ができる。
 ただし、連絡船はあるが、波が激しく小さな舟ではとても進めない。
 連絡船を使うと地球人にその事がばれてしまうので、少し心配だけど、まずはその海岸近くにある基地へ向かうので、そこまでの事だけを考える事にした。

 めぐみの安否が、何よりも心配だった。
 美羽は直前までめぐみと一緒だったらしい。
「真衣だけ別方向に流されて行っちゃったから、どうしようかと思ってた。めぐみとは離れないように手を繋いでいたんだけど、最後の最後ですごい大波が襲ってきて、それで耐え切れなくなって……」
 美羽は、その事で罪悪感を感じているらしい。
「大丈夫だよ。そこで手を離さなかったら、両方死んでたかもしれないし」
「めぐみは死んでない!」
「……わかってる。わかってるわよ……」
 わかってる。
 美羽も私も、その言葉を信じていない事を。
 正直、あんなに凄い波が襲ってきて、しかも私たちのいる海岸に一晩中打ち上げられなかったとなると、生き延びている可能性はかなり低い。
 でも、めぐみが死んだ証拠も無いから、わずかな可能性に賭けたい……。
 美羽はそう思っているのだろう。
 私も、そう思いたい……。

 稔の死に、美羽はほとんどショックを受けていなかった。
 美羽とめぐみは、はなから稔を仲間と認めていなかったからだ。
 でも、私は稔に不思議な親近感を持っていたので、稔を自分で殺さなくてはならなかった事が悲しかった。
 稔は改心したと、そう思いたかった。
 稔とめぐみ、2人ともいなくなってしまったのは、かなりの打撃だった。

 やっと陰気な地下通路を抜けた。
 あまりの眩しさに、私はしばらく目を開けられなかった。
 ようやく目を開けると、その前には広い森……ではなく、荒れ果てた砂漠が広がっていた。
「あれ?ここって、森があるはずじゃ……」
 そういうと、美羽が大声を上げた。
「わかった!ここは……」
「何?」
「地球人の、牢獄……!」
 ようやく、私も気づいた。
 ようく目を凝らしてみると、砂漠のさらに先に、巨大な都市みたいなものがある。
 森があったのは、4年前。
 地球人の大規模な開発で、すでに自然は失われていたのだ──。

 私たちはそのうだるような暑さの砂漠を少しずつ進んでいった。
 肌寒いくらいに涼しかった地下通路が、懐かしい。
 しかも、地下通路に入る時には季節的にもまだまだ〈暖かい〉くらいだったので、その温度差は激しかった。
「暑い……」
「なんか、あり得ないよ、この暑さ……」
 しかし、その異常な暑さの理由は、すぐにわかった。
 牢獄ではエアコンを使いまくっているため、そこから放出される熱が周りを暖めていたのだ。
 地球人は、懲りずに「ヒートアイランド現象」とかいうものをまた引き起こしたらしい。
「このままだと、アーチも破滅しちゃう……」
「何で、地球人はアーチを守ろうとしないのかな?」
 アーチがだめになったら、アーチ人も地球人も両方絶滅するのに……。
 なぜかはわからないけど、手遅れになる前に、願いの花びらを探さなくてはならない。
 その思いが強くなった。


 第18章

 イバサリ牢獄。
 地球人が侵略してすぐに建設した、牢獄の一つ。
 地下には1000人以上のアーチ人を収容している。
 と同時に、地上には地球人用の都市が併設されている。
 これは、地球人がたくさんの地域を利用できるためと、逃げ出そうとしてもすぐに見つけられるようにするためだった。
「危ないよね……遠回りして抜けようか?」
 私はそういった。
 確かにここに捕まっている人を助けたいという気持ちはある。
 でも、ここで捕まったら、最期の希望まで奪われてしまう。
 ここは、少々残酷でも、見捨てた方がアーチのためになるだろう。
「そうよね……」
 そう思って、私たちがその街を抜け出そうとした時、突然誰かが走って来た。
 見たところ、年配の女性のようだ。
 しかもその後ろには、警官らしき人の大群が追いかけてきている。
「もしかして、脱走者!?」
「あの人、こっちに助けを求めてる……!」
 ここで捕まると困るので、私は逃げようかと思った。
 でも……。
「助けないと」
 美羽が呟いた。
「え!?」
「だって、あの人は──」
 その先は聞き取れなかった。
 美羽はその人が最後の力を振り絞って私たちを抜かしたのを見ると、まず持っていた爆弾を投げつけたからだ。
 ちなみにそれは、稔が持っていた物だ。
 警官たちが一斉に吹き飛ばされる。
 美羽はさらに追い討ちで爆弾を投げつけ、そのままさっきの人の所へと走り出した。
 私は一刻も早くこの不可解な行動について知りたかったので、全速力で美羽を追いかけた。

**********************

「ねえ……なんで……こんな事を……したの……?」
 私は疲れで息を切らしながらそう聞いた。
「だって……真衣だって、相手が肉親だったら、助けるでしょ?」
「え!?って事は、まさか……」
 美羽はにっこりと微笑んだ。
「そう。この人は、私の叔母の、愛宮雪菜よ。真衣も、覚えてるでしょ?」

 愛宮。
 美羽の母の旧姓だ。
 美羽は幼い頃に両親を失くし、その時に母の妹の雪菜さんの所へ引き取られた。
 雪菜さんは結婚していなかったため、二人暮らしとなった。
 美羽は改姓するかどうかで迷ったが、両親の事を忘れたくない、という想いで元の姓を使う事にしたという。
 美羽が私に出会ったのも、その時だ。
 美羽は雪菜さんに引き取られる際に、私のいた学校に転校してきて、そこで知り合ったのだ。
 とはいえ、私が美羽の家に何度も遊びに行ってたわけではないので、雪菜さんの事は参観日を含めても数えるほどしか会ったことがない。
 毎日顔を合わせていた美羽と違って、ぱっと見てわかるわけがなかった。
「ううっ……」
 雪菜さんが、ようやく目を覚ました。
 私たちが今いるこのオアシスに偶然あった小さな穴に隠れると、それまではアドレナリンだけで動いていたのだろう、ぐっすりと眠ってしまっていた。
「ここは……?」
「イバサリの近くにある小さな穴よ」
「あなたは……?」
「忘れちゃったの?美羽よ」
「美羽!?でも、どうして……?」
「その話は、あとでいいでしょ?まずは、この穴が何なのかを突き止めないと」
 確かに、この穴は人工的過ぎて、不自然だ。
 罠の可能性もあるだろう。
 3人で手分けしてその、10人入るのがやっとくらいの穴をくまなく探してみると、なんと赤いスイッチが見つかった。
 私がそれを押してみると、なんと壁が周囲に広がり、3倍以上の広さになった。
 さらに、横道みたいな別の穴もある。
「すごい……こんな仕掛け、誰が作ったんだろう?」
 美羽はそう呟いて、その新たに現れた穴に入ってみた。
「見て!」
「何?」
「ここ……」
 そこには、張り紙があった。こんな事が書いてある。
〈ここに来た人たちは、イバサリから脱走した人たちだろう。
 ここは地球人から逃げるためだけに作られた穴で、地球人には見えない。アーチ人特有のわずかな差を見分けて開かれる穴だ。
 ここは安全だ。しばらくここで休むといい。
                 めぐみ〉
「めぐみ!?」
 最後に記された、そのサイン。
 紛れも無く、あのめぐみの物だった。
「って事は、ここは……」
「めぐみが脱走者のために用意した、隠れ場所!」
 私たちは、次々と会いたかった人の痕跡を発見した。
 それは、新たな冒険の始まりを予感させた──。


 第19章

 今、美羽と雪菜さんは話し込んでいる。
 ところどころ聞こえてくる情報を繋ぎ合わせると、美羽と雪菜さんは、やはり地球人の侵略によって別れてしまった。
 その後雪菜さんは地球人に逮捕され、3年ほどこのイバサリで過ごしていた。
 ところが、3年間の過酷な強制労働によって力が衰弱してきた雪菜さんは、役立たずだとして処分されそうになったため、隙を突いて逃げていたら、美羽たちを見つけた、という事らしい。
 4年ぶりの再会とあって、2人とも興奮していた。
「そろそろ出発しない?」
 そう私が声をかけたが、美羽はあと少しだけ、あと少しだけ、と時間を延ばしてきた。
 半日ほど経った所で、私はまた声をかけた。
「ねえ、本当にそろそろ出発しないと。北支部に行くんでしょ?」
「ええ、まあそうだけど……」
「なら、私も一緒について行きたいんですけど……」
 雪菜さんが突然そういったので、私はびっくりした。
「え!?でも、危険な旅ですよ?」
「わかっています。私も、二人とずっと一緒にいるつもりはありません。でも、美羽の話を聞いて、私もドリームウィングに入って、地球人と戦う手助けをしたいと思ったんです……」
 そういわれると、断れない。
「わかりました。では、その北支部までは私たちが送ります。そこからは、別行動ですね」
「はい」
 こうして、私たちは3人で北支部を目指す事となった。

 そこからは、ただ灼熱の砂漠を抜けるだけの時間が続いた。
 果てしない広さと暑さの砂漠に、私たちは苦戦していた。
 めぐみが穴に用意していた水を持ってきていたので、何とか干からびる事だけはなさそうだけど。
「暑い……」
 美羽が、わかりきっている事を呟いた。
「北支部までは、あとどのくらいなの?」
 雪菜さんが私に尋ねた。
「ええと……このスピードで進めば、あと半日くらいで着きます」
「そう、ならあと少しね」
 そういって、雪菜さんは少し足を速めた。
 私と美羽は、何とかその後を追う。
 私は思った。
 こんなに体力がある人を処分するイバサリでは、どんな事をさせているのだろうか……。

 穴を出発してから、3日目になって、ようやく砂漠を抜け、だんだんと寒さを増してきた。
 このあたりは一年中冬なのだ。
 特に吹雪の島は、いろいろな自然現象の重なりによって、一年中厳寒の地となっているというから驚きだ。
 私たちも、だんだんと季節が夏から秋、そして冬へと移り変わっていくのを見て、このあたりの自然の不思議さを感じた。
 毛皮のコートを羽織って、寒さをしのぐ私たちだったが……。
「寒い……」
 美羽が、わかりきっている事を呟いた。
「北支部までは、あとどのくらいなの?」
 雪菜さんが私に尋ねた。
「ええと……このスピードで進めば……それより、まず北支部ってどこにあるの?」
 私は美羽に聞いてみた。
「え?知らなかったの!?」
「当たり前じゃない……」
 地図にだいたいの位置は書き込まれていたが、詳しい事は全く知らない。
「え〜と……あ!」
「何?」
「北支部は……ここにある!」
 そういうと、美羽はその雪の降り積もったこのあたりを見回すと、一本の木の所へ駆け出した。
 私と雪菜さんもそれを追いかける。
 美羽はその木の根元の雪をかき出し、さらにその下の地面の土もどけた。
 すると、まるでマンホールのような穴が見つかった。
「ここが、ドリームウィング北支部の、入り口よ」
 美羽はそういった。
「へえ……雪で隠してるんだ〜……」
「そうよ。あたしも、ここに来るのは2回目なんだけど……」
 さすがに、地球人が見張っている中で何度もこんなに移動できるわけが無いだろう。
 ちなみに、私たちが住んでいたのはいくつかの島がある小さな国(といっても、地球人は従来の国の区分を完全に撤廃したから、その区分はもう意味を持たないんだけど)で、本当はこの大陸に渡るには船が必要だったんだけど、地底の湖周辺は地下にできた自然の通路となっていたらしく、いつの間にか海を渡っていたのだった。
 そして、私たちはその基地へ入っていった。

「こんにちは〜」
 私たちがその穴から続く長い通路と、身分証明のパスワードなどを入力して中に入ると、1人のドリームウィングのメンバーらしき人が出迎えてくれた。
「え〜と……あ、あなたは!?」
「そうよ、菊川美羽。今はドリームウィングの活動とは別にちょっと訳ありの旅をしてて……で、こっちは友達の花崎真衣で、こっちはあたしの叔母の愛宮雪菜よ」
「ああ、美羽さんのお知り合いですか!さあ、こちらへどうぞ……」
 その人は、私たちを部屋に案内しようとした。
「あ、それより、少し電話を貸してくれない?あたし、夢人に電話したいんだけど……」
 美羽がそういった。
「ええ?でも、夢人さんなら……」
 その人が何かを言おうとした時、突然声がした。
「おーい、会議が始まるぞ……って、美羽!?」
 そこにいたのは、紛れも無く、ドリームウィングリーダーで、美羽の頼れる仲間の……、風沢夢人だった。


 第20章

「夢人!?何でここに?」
「それは、こっちのセリフだ!美羽が何でここにいるんだ!?」
「えーと……詳しい話は、部屋でしてもらえませんか?ここは、通路となっているので……」
 さっきのメンバーの人が、遠慮がちに告げた。
「ああ、すみません。ぼくたちは、同じ部屋でいいので……」
「わかりました。では、夕食時までには広い4人部屋を用意しておきますので、それまではすみませんが夢人さんの部屋で待っていてください」

「ぼくは、このあたりで少し困った事が起きているらしいから、様子を見に来たんだ」
「困った事って?」
「ほら、イバサリでの虐殺事件だよ。北支部のメンバーがイバサリで事件を起こしたりして、混乱を起こしている。それでも、なかなか脱走できない。今のところ、イバサリでの脱走に成功できたのは、9人だ」
「じゃあ、雪菜叔母さんが10人目ね」
「は?どういうことだ?」
「美羽の叔母の雪菜さんは、イバサリから脱走してきたんです」
 私が代わりに答えた。
「え!?じゃあ、イバサリの見取りとかもわかりますか?」
 夢人がそう尋ねると、雪菜さんは頷いた。
「じゃあ、ぼくは雪菜さん、それに北支部の精鋭たちを連れて、5日後にイバサリへ向かう。美羽と真衣は、一刻も早く吹雪の島へ向かってくれ」
 夢人はそういうと、雪菜さんとイバサリについて、作戦や攻略法などを話し始めた。
「じゃあ、とりあえず今日はゆっくりして、明日の朝に出発しようか」
 こうして、私たちは再び2人での冒険を再開する事となったのだった。

 なるべく軽くて動きやすく、なおかつ暖かいものをそろえてもらうように北支部のメンバーに頼んでおいたため、水分に反応して発熱する特別素材など、最上級の防寒具を揃える事ができた。
「これで、準備は万全だね」
 そして、私たちは北支部を出て、吹雪の島へと向かう事になった。
 寒さに耐え、しばらく進んでいくと、海岸に辿り着いた。
 一面に広がる大海原は、未知への探究心を呼び起こさせ、その神秘の輝きに、心も躍る──わけもなく、単純に「寒そう」としか思わなかった。
「絶対にこんな海には入りたくないわね」
「そうね」
 実際、魚ですら海面には見えず、海底で眠っている。
「こんな寒そうな海、絶対泳いでは渡れないわよ」
「それはそうだけど、じゃあ、どうするの?連絡船は地球人が管理しているわよ?」
 島全体をアーチ人の拠点にされたり、大陸を渡って犯罪者(反乱活動)が広まらないように、船、飛行機は厳しく地球人によって取り締まられていた。
「リュックの中に、かなり丈夫なゴムボートがあるわ。後は、運に任せてみたら?」
 運に任せてみたら、というのは、激しい波で漕げないから波で吹雪の島まで流される事を祈ろう、という意味だろう。
「わかったわ。その代わり、もし地球人の基地のまん前に流されたら、私、絶対に美羽の事許さないから」
 私はそういって、笑った。
 運が味方してくれるかどうかは、わからないけど、きっと味方してくれる。
 だって、運命が地球人を選ぶ事なんて、あり得ないから……。


 第21章

 ゴムボートは、意外なことに、中に乗り込める、不思議な形だった。
 三層になっていて、外側のゴムボートがどんなに揺れても、内側のゴムボートは安全、内側がだめで
もさらにその中は安全という、三重の守りだった。
 こんなに便利なボートなら、おそらくどんな荒れ狂った海でも大丈夫だろうと、そう思った。
 しかし、それは間違いだった。
 私たちは、まずボートの外のゴムを巻いて、少しだけならゴムの力で動けるようにした。
 それから中に入ると、さっきのゴムを解き放って、海に出た。
 その途端、一気に波が襲い掛かってきた。
「ああっ!」
 いくら直方体で水は入ってこないとはいえ、10秒に1回ひっくり返るのでは、酔うし、血の流れもおかしくなるし、とにかく正常な状態を保てない。
 しかも、想像を絶する冷たさがじわじわと伝わってくるので、死にそうだった。
 しかも、方向性が全くわからないので、吹雪の島に向かっているのかどうかすら怪しい。
 私たちは縦横無尽にゴムボートの壁に叩きつけられた。
 上だと思っていたものが下になり、下だと思っていたものが横になったりする。
 島に打ち上げられた時に、入り口が上を向いていたらいいな、と心から思った。
「気持ち悪い……」
 最初は船酔いの3倍ほどの気持ち悪さが何よりも怖かったが、実は一番怖いのはじわじわと体温を奪われる冷たさだったりするのだ。
「このままじゃ……凍え死ぬ……」
 できる事なら毛布を被りたいが、毛布を取る余裕がない。
「それよりも、吐いたらまずいよね?」
 美羽が青くなった顔で呟いた。
 美羽が何を言いたいかは、だいたい察せる。
「それはやめて!せめて、袋に……」
「この状態で?」
 確かに、ほとんど無重力に近いこの状況では、袋を持つのがまず無理だ。
 しかも、酔っている美羽にとっては、なおさら無理な相談だろう。
「何とか耐えて……うわっ!!」
 突然凄い衝撃がして、私たちはまたもゴムの壁に叩きつけられた。
「痛い……あれ?もう揺れてない?」
 美羽がそう呟いて、私もはっとした。
 なんと、揺れがおさまっている。
 可能性として考えられるのは、海の波がおさまったか、それとも……!
「もしかして!」
 私は急いでボートを出た。
 運よく、ボートの出口は上を向いていた。
 そして、目の前に広がる、私たちが暮らしていた地域では絶対に見る事のできない、荘厳な風景に目を奪われた。
「ここが……!」
 その先の言葉は出なかった。
 目の前に広がるのは、あたり一面真っ白な、雪景色。
 その厳寒な自然のためか、動物は全くいない。
 ただ雪と、真っ白に染まった森が見える。
 後から出てきた美羽も、同じ様に言葉を奪われ、完全にこの風景に目を奪われている。
「ここが、吹雪の島………!」
 天は、私たちに味方してくれた。
 私たちが辿り着いたのは、第三の魔境、吹雪の島だった。


 第22章

 吹雪の島は、予想以上に広くて、寒くて、美しくて、寒くて、危なくて、そして──寒かった。
 湖や川がすべて凍っているため、自由に動けるのだが、かなり広い上に、あちこちで吹雪が吹き荒れ、滑りやすくなっているため、かなり危険なところとなっていた。
 私たちは、はぐれないようにロープでお互いの体を繋ぐ事にしている。
 だって、そうしないと、猛吹雪の中では、1分ももたずにお互いの姿が見えなくなるだろうから。
「寒い……」
 何よりの問題は、寒さだった。
 氷点下を簡単に超え、昼間でもマイナス20℃のこの島では、夜はそう簡単にはしのげない。
 この島のどこに花びらがあるかわからないので、できれば島のあちこちで夜を過ごしたいのだが、寒さをしのげる洞窟が少ないので、夜にはそこへ戻らなくてはならない。
 なんせ、夜の外の気温はマイナス40℃くらいなのだから。
 そのため、1週間経ってもまだこの島の半分くらいしか見られていない状況だった。
「どうする?このままだと、先に凍死しちゃうよ?」
 実際、2人は寒さで体温を少しずつ奪われている。
 このままでは体力がなくなるか、食料がなくなるか。
 どちらにせよ、いい未来が待っていないのは確かだ。
「どうする?島の上を全て見るのは、無理だよ……」
 美羽が呟いた。
 その時、私はある事を考え付いた。
「ねえ……もし、美羽が島に花びらを隠すとしたら、どこに隠す?」
 美羽は、私の突然の問いかけに戸惑っていた。
「えーと……やっぱり、大陸から一番離れてる、反対側の、とびっきり深い洞窟の奥かな」
「そうよね、きっと探しにきた人もみんな、そう考えるわよね」
「……何が言いたいの?」
「私が思ったのは、固定観念を全て捨てたら、意外と簡単に見つかるんじゃないかな、ってこと」
「どういうこと?」
 私は、今自分たちが座っている、ここでの冒険の拠点としているほら穴を見回した。
 邪魔な石が無いし、床もつるつるだ。
 頻繁に誰かが出入りしていたように見える。
 いや、きっと、たくさんの人がここへ来て、すぐに去っていったのだろう。
 寒さに耐えられず、また、花びらがどこにいるかわからなくて……。
「もし、この洞窟にあるとしたら?」
「え!?」
「こんな手ごろな洞窟があるなら、誰だって休憩場所にする。そして、それ以上の価値を求めない。
 ここに入ったとしても、こんなに大陸に近くて、何の仕掛けもない洞窟に花びらがあるなんて誰も思わないでしょ?」
「そうだけど……ここは行き止まりだよ?」
 私は考えたが、すぐにある事を思い出した。
 同じ様に狭くて、ある方法で3倍以上に広がったほら穴に、私たちは行った。
 それも、つい最近。
「それも、私たちを油断させるための罠かもしれないわ」
 私はそういうと、目の前にある壁を調べてみた。
 すると案の定、あの穴と同じ様にスイッチが見つかったので、押してみた。
 すると、目の前の壁は左右に分かれ、目の前には道ができた。
 私は美羽の方を振り返った。
 美羽は呆気に取られている。
 私は微笑んで、こう言った。
「道は、すぐ近くにあったわね」


 第23章

 今、私たちは薄暗い道を進んでいる。
 いや、道というべきものではないかもしれない。
 そのくらい険しい道だった。
 あの何の仕掛けもなさそうな、小さなほら穴と同じ洞窟だとは思えない。
 下り坂だと思ったら上り坂になり、時々90度を超えるような道まであるので、すでに前に進んでいるのか後ろに進んでいるのかわからない。
 幸い、壁を登るフックつきのロープを何本か持っていたが、それがなければ登るのは不可能だっただろう。
 90度というのは平面状の場合だから、横にも多少進んでいる。
「もう、だめ……」
 美羽が呟いた。
「頑張って……たぶん、あと少しだから」
 あんな仕掛けがある以上、ここに花びらがあるのはほぼ間違いないだろう。
 そして、あのほら穴から通路を延ばすとしても、こんな険しい道を続かせる事ができるわけがない。
 私はあと少しで、花びらがあると考えていた。
 そして、ようやくまるでフリークライミングのような高い壁を乗り越えると、そこには、透明に近い澄んだ水色の輝きを放つ、花びらがあった。
「これ、だよね……」
 私はその花びらを手に取った。
 その時だった。
 それは、まるであの黄金色の花びらを取ったときと同じだった。
 花びらの置かれている台の奥の闇から、ゆっくりと現れたのは……怪物だった。
 見た目は巨人だが、尾があり、頭は熊。
 ただし、まるで虎のような鋭い牙が生えている。
 両手両足からは鋭い爪が生え、尾には無数のトゲがある。
 そんな怪物が、2体。
 勝ち目は無い。
 そう悟った私は、花びらを急いでポケットにしまいこむと、美羽の手を引っ張って元きた道を引き返した。
 きつい。
 ゆっくり行っていた時ですらきつかったこの洞窟が、後ろから怪物に追われている時になって初めてその牙をむいた。
 本気で死の危機を感じていた。
 後ろからは、怪物が岩を崩し、壁を下りて追いかけてくる。
 私たちは、必死に壁を下りて必死に恐怖から逃げた。
 どのくらい時間がたっただろうか。
 ようやくほら穴の出口が見え、私がほっと一息ついたその時……。
「きゃあっ!!」
 美羽が突然転んでしまった。
 どうやら、石につまずいたらしい。
 後ろからは怪物が、チャンス到来とばかりに美羽に迫る。
 私は、稔から奪った銃を構えて、怪物に発砲した。
 怪物は銃弾に貫かれて痛みに顔をゆがめたが、すぐに向き直って美羽、そして私に近づいてくる。
 銃弾が少なくなってきていたので、私はまず短剣を投げつけると、長剣を持って怪物たちに近づいていった。
 美羽に襲い掛かる怪物のうち、1体の背中を私が斬りつけた。
 怪物がよろめくと、美羽がさっと怪物の後ろに回り、蹴りつけた。
 うっと倒れる怪物。
 もう1体の方も、私の連続斬りで少しずつ体力を奪われていく。
 美羽もそれに加勢し、ついに怪物が倒れた。
「やった!」
 私たちが手を握り、喜んだ。
 その時──。
 倒れていた怪物が、起き上がって私の背後に立った。
 それに気づいたときは、すでに手遅れだった。
「あ…………」
 ひゅっという、鋭い音がした。


 第24章

 倒れたのは、怪物だった。
「え?」
 私が振り向くと、そこには、夢人がいた。
「やっぱり、2人じゃ危険なんだな」
「夢人!?どうしてここに!?」
「その話は、後。ドリームウィングで開発したステルス機があるから、それで帰るよ。また運任せだと、危ないだろ?」
 私たちが心底ホッとしたのは、言うまでも無い。

「イバサリ牢獄は壊滅した。まあ、すぐに立て直されるとは思うけど……。それで、少し美羽たちが心配になったんで、帰る途中に寄る事にしたんだ。反対方向だったけど、今はそうしてよかったと思ってるよ」
 本当に、その通りだ。
 夢人のおかげで私の命が救われたのだから……。
 おそらく、美羽も1人では怪物は倒せなかっただろうから、本当に夢人には感謝しなくちゃ。
「で、これからはどうするつもりだ?僕は本部に帰るけど、2人だと危ないなら、ついていくけど……」
「大丈夫よ、別に。リーダーも副リーダーもいなくなったら、危ないでしょ?」
「まあ、そうだな。ところで、美羽たちは次はどこに行くつもりなんだ?」
「ええと……ここから一番近いのは……」
「この大陸には、もう魔境はない。それよりも、一旦本部に戻ってからの方がいいと思うけどな」
 夢人に言われ、私たちは2ヶ月ぶりに本部に戻る事となった。
「そういえば、雪菜おばさんは?」
 美羽が尋ねた。
「ああ、雪菜さんなら、ドリームウィングの北支部で戦士に配属された。あの歳でもかなりの強さを持っているから、もしかしたら北支部で最強のメンバーになるかもしれない」
「凄いじゃん。じゃあ、心配ないね」
「ああ。北支部には寄らないつもりだったんだけど、どうする?雪菜さんに一度会いたいか?」
「いや、いいよ。きっと、全てが終わった時、会えるから……どっちにしても……」
 美羽の言いたい事は、何となくわかった……わかりたくないけど……。
 そんな事を考えていると、突然機体が揺れた。
「!?」
 急いで私が窓の外を見た。
 すると、地球人の軍機があった。
〈ドリームウィングのステルス機を発見。我々は、裁判による殺人許可令に基づいて機体の撃墜を開始する〉
 10機のジェット機が、なぜステルス機を発見できたのかなど、どうでもいい。
「どうするの!?」
 美羽が夢人に聞いた。
「3機くらいなら対抗できるけど、これじゃちょっと危ないな……よし!」
 夢人が案を出した。
「お前らは2人で、小型の緊急脱出用機で逃げろ」
「でも、夢人は?」
 一瞬黙った後、夢人が呟いた。
「犠牲は、少ない方がいいんだ」
「え!?でも……」
「いいから、急げ!」
 そういうと、夢人は何かのスイッチを押した。
 ステルス機の床が開き、小さな空間が現れた。
 夢人は、私たちが唖然としている間にその穴に私と美羽を突き落とすと、何かのスイッチを押した。
「たぶんそれは弱いから、1分くらいで壊れる。パラシュートの準備でもしてろ」
 私たちが落ちた穴は、緊急脱出用機との連結部分だったらしい。
 私たちは、夢人が遠ざかっているのが見えた。
 今さらどうにもならないので、急いで私たちはパラシュートをつけた。
 夢人の予想通り、脱出用の機は小型で弱いらしく、地球人の軍機に発見され、ミサイルで爆発した。
 何とか爆発を受け止めるバリアに包まれていたらしく無傷だったが、バリアは時間差で崩れ落ち、私たちはふわふわと無抵抗に落ちた。
 あまりに不規則なその動きは、地球人も予想できなかったらしく、地球人は私たちを諦め、──狙いを全て夢人に変えた。
 夢人のステルス機は、トリッキーな動きで地球人を翻弄していたが、一撃を食らい、かなり不安定になっていた。
 撃墜も時間の問題だろう。
 そんな事を考えていると、風の影響で、美羽とも離れていっている事に気づいた。
「美羽!」
 美羽は必死に何か叫んでいるが、聞こえない。
 私の声も届いていないだろう。
 こうして、私はまた、大切な仲間を、一気に2人失おうとしていた……。


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