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「フラワー・ストーリー」


 フラワー・ストーリー 第4部

 第27章

 GPSを使って調べてみると、そこの近くには間の火山と呼ばれる、巨大な山がある事がわかった。
 第4の魔境、魔の火山。
 巨大な山で、火口付近には溶岩でできた洞窟があるらしい。
 場所は、ちょうどこの近くだ。
「でも、この辺りって、何があるんだっけ?」
「確か、地球人の基地がいくつか……。地熱を利用した発電で兵器を作ってるらしいよ」
 地球人が近くにいるなら、油断はできない。
 そう思い、私たちは歩くスピードを速めた。

 夢人と別れてから、3日目。
 私たちは未だに夢人、そしてめぐみの事を考えていた。
 この旅に関わった人たちが次々と犠牲になっていくのは、耐えられなかった。
 しかし、悲しんでばかりでは何も始まらない。
 残念ながら、人は自分の人生を自由にする事はできない。
 母が私に言った事と矛盾しているかもしれないけど、それは事実だ。
 この世界には、無数の命があって、無数の意志がある。
 全員の意志を全て尊重させる事はできないから。
 幸せと不幸は表裏一体。
 幸せを感じる人がいるなら、必ず不幸を感じる人もいる。
 地球人が新たな環境で幸せに暮らしている時、アーチ人は奴隷として不幸な暮らしを送っている。
 私たちが不幸に苛まれても、地球人が幸せでいる限り、私たちの不幸は終わらないのだから……。

**********************

 魔の火山に近づいている頃、私たちの近くに地球人の基地がある事がわかった。
「どうする?基地に侵入して、捕まっている人を助ける?」
 自分の叔母が同じ目にあっていただけに、美羽はそういう立場の人を助けたいと思っていた。
 だが、私の答えは冷たかった。
「花びらを早く集めた方がいいわよ」
「そう……確かに、ここで私たちが捕まって、3枚の花びらが全部地球人に奪われたら、元も子もないしね……」
 美羽が自分に言い聞かせるようにそう呟くと、突然背後から声がした。
「あれ?
 あたしの知ってる人たちだと思ったんだけどな……あたしの知ってる人たちは、こんな冷たい事言わないはずなんだけど……助けるはずなんだけどな〜……」
 その声を聞いた瞬間、私はすぐにわかった。
 間違えようのない、この声。
 私たちが地底の湖で失ったと思っていた、無二の仲間……。
「めぐみ!!」
「久しぶり、真衣、美羽。元気にしてた?」
「元気って……あの湖で……溺れたと思ったのに……」
「え?あたしが、あんなんで死ぬわけないじゃない。
 それより、何なの、さっきの発言。捕まってる人たちを見捨てる、だなんて……らしくないわね」
「じゃあ、花びらがなくなってもいいって言うの!?」
 ついかっとなってしまった。
「いや、そんな事を言ってるんじゃない。
 あたしが言いたいのは、あんたたちの心境の変化の事。
 あたしは知らないけど、旅に出る前のあんたたちなら、迷わず助けたんじゃない?」
「それは……」
「まあ、いいけど。だって……」
 めぐみは一呼吸置いて、にやりとしていった。
「基地は、あたしが壊滅させたから」


 第28章

 めぐみは、あの時私たちと反対側の岸に流されたらしい。
 私たちの事を捜せなかったので、仕方なく一度地底の湖に戻り、それからいくつかの基地を壊滅させながらこの基地へ向かい、終わった所で私たちを見つけたという。
「でも、よく3つ目のところへ行けたわね……」
「あれは、本当にラッキーだったのよ。ぎりぎりのところで助けが入ったし」
「そう。ところで、あんたたちは『魔の火山』に行くんでしょ?」
「ええ、そうよ。めぐみは?」
「ま、あたしも忙しいわけじゃないしね。ついていってあげるよ」
「ありがと!」
 めぐみがついてきてくれると、とても頼もしいし、嬉しい。
 だって、二度と会えないと思っていた仲間だから……。

**********************

 2日が経った。
 山を順調に登っていく私たちに、問題はなかった。
 しかし、順調は順調なのだが、若干めぐみの表情がこわばっているのが気になった。
 そして、その理由を聞くため、私は夜、美羽が寝た後に、また1人一睡もせずに見張ってくれているめぐみに問いかけた。
「ねぇ……」
「どしたの?眠れない?」
「違う……めぐみ、最近悲しそうなのはどうして?」
 その事を告げると、めぐみの顔がやはりこわばったように見えた。
「やっぱり、そうよね……どうして?」
「………やっぱり、真衣は本当に真実を見てるよね……」
 そういって、めぐみは一呼吸置いて、続けた。
「なんかさ、真衣や美羽といると、失った時間の事を考えちゃうのよね〜……。
 前に記憶喪失って言ったじゃない?
 実はね、あたし3歳の頃に地球人に誘拐されたみたいなんだ」
「え!?でも、3歳の頃って、まだ地球人は来てなかったんじゃ……」
「違うの。
 だって、考えてもみてよ。地球人が侵攻して来たロケットやらUFOやら、見た人はいないじゃない」
 確かに、誰も見た事は無かった。それは、地球人の最大の謎の一つとされていた。
「地球人は、アーチと地球を結ぶ、魔法の連絡通路を使ってここへ来たのよ。
 まず第一陣が小型UFOを使って極秘にアーチに乗り込み、調査をする。
 次に、その人たちはアーチで労働力となる奴隷、それも命令を簡単に聞きやすい子どもを誘拐して集め、連絡通路を作る魔法の鏡を修復させた……」
「その奴隷の一人が、めぐみなのね……」
 私は、とても哀しいその事実に、強い衝撃を受けていた。
「その鏡は、昔地球から4人の子どもたちが間違ってワープして以来、一度も使われていなかった。
 強い魔力があったから、悪用されないように、地球側では粉々に砕いて、破片も厳重に保管されていた。それでも、地球人はそれを盗み、科学の力で修復させた……」
 そこでめぐみは一息置いて、続けた。
「奴隷は家族を恋しがらないように、記憶を抹消される。
 本当は人力でエネルギーを発生させ、それを貯蓄して鏡に注ぐ事にしていたんだけど、思いのほか地球環境の悪化が早くて、もっと手早く鏡に力を注ぎいれる方法を取る事になったの」
「その方法って……?」
「人を殺して、その霊力を注ぎ込む」
 その言葉に、私は愕然とした。
「そんな事、いくらなんでも──」
「したのよ。
 あたしは、運よくそれを盗み聞きして、脱走した。
 でも、あたしと同じ奴隷とされた人は、たくさん殺された。
 そしてその1週間後に、地球人はアーチに来た。
 それ以来、あたしは記憶と幸せと平和、そしてたくさんの命を奪った地球人に復讐するため、地球人を攻撃してるの……」
 それが、めぐみの全てだった。
 記憶を全て奪われ、7年間働くだけの生活。
 地獄のようなその生活は、想像を絶するほど耐え難いものだろう。
「あたしは今まで、記憶を奪われて働かされる事も、すべて運命だって割り切ってきた。
 いやとかいいとかじゃなくて、あたしの幸せよりも、地球人を撃退するという任務を優先するのがあたしの運命だって……。
 でも、あんたたちと一緒にいると、幸せなんだよな〜……」
 幸せであるからこそ、不幸が際立つ。
 それを知っているからこそ、めぐみは辛いのだろう。
 幸せと辛さという、字だけ見ると似ているようで全く違う言葉。
 しかしその本質は、同じなのだ。
 幸せを知りながら幸せを手に入れられない。
 または、幸せを味わった事がありながらもそれ以上味わう事を許されない。
 中途半端なのが何よりも“辛い”のだろう。
 私は何も言えなかった。


 第29章

 頂上への道は、まるで螺旋階段のように山を取り巻いていた。
 そのため、ただ登るより何倍もかかるのだ。
 しかも、常に斜面でほら穴もなく、途中に休憩できるような場所がないため、私たちにはかなり疲労が溜まっていた。
「せめて敵とかが出てきてくれれば……」
 めぐみはそんな物騒な事を呟いていた。
 しかしそれもある意味では正しかった。
 ただ登るだけという単調で無意味な行動をし続けていると、たとえ命の危機でも何も無いよりましに思えてくるのだ。
「あとどのくらいかかる?」
「えーと……まだ半分も行ってない……」
「うそでしょ!?」
 私が告げると、美羽が驚いたように叫んだ。
 めぐみは溜め息をついている。
「これはもう、諦めるしかないんじゃん?」
「それはだめ!」
 私が叫んだ。
 100%意地だけど、絶対諦めない。
 それだけは、心に決めていた。
「じゃ、頑張ろう!」
 そういって、私たちは再び前に進み始めたんだけど……。
「……ねぇ……だんだん斜面が急になってない?」
「奇遇ね……私もそう思う」
「……ていうか、あそこらへんから垂直になってない?」
 この山は、一体どういう現象を経て生まれたのだろうか。
 これはちょっとあり得ない。
 狂ってる。
 さっき、絶対諦めないって言ったけど……これは無理なんじゃないかな?
「真衣、後は任せた☆」
「いや、無理!」
「さっき絶対諦めないって言ったじゃん。あたしは諦めるから」
「あたしも♪」
「ひどい!」
 私が抗議すると、めぐみが乾いた笑みを浮かべた。
「……冗談よ。別に、あたしは垂直でも構わないし。むしろ、あれただの壁でしょ?」
 めぐみは鋭い爪のついた手袋をはめると、一気に斜面を駆け上がり、60°くらいになったところで爪を使ってよじ登っていった。
 ロッククライミングの要領でものの1分ほどで壁を越えると、私たちの方へ手袋を投げてきた。
「……ああいうのを、超人って言うのね」
「そうね」
 私たちは、1時間くらいかけてその壁を登った。

「そういえば、彗星の滝に行く途中もこんな事があったわね」
「そうね……」
「どんな事があったの?教えてよ」
 めぐみは息抜きのつもりで言ったらしい。
 確かに、このまま何もせずに登って行っては、気力が失われていくだろう。
「えーと……」
 私は、アーチ人に追われて美羽や夢人と会った事などを話した。
 めぐみが口を挟んだのは、一度だけだった。
「夢人、か……ドリームウィングのリーダーでしょ?」
「そうよ。どうかしたの?」
「いいえ、別に……なんか、聞き覚えがあるな……と思って」
「そういうのって、何ていうんだっけ?」
「デジャヴ、じゃないの?」
「そう、それ♪デジャヴって、結構あるのよね。彗星の滝でもあったし」
「……え?」
 そういえば、彗星の滝でも、何かあった気がする。
 少し考えて、思い出した。
 それは、自分が美羽と親友になったきっかけの事件……。
「ねぇ、あの時の事、めぐみに話してもいい?」
 私は美羽に確認を取った。
「別にいいよ☆」
 美羽は明るくいった。
「ちょっと、別にあたしはそこまで興味があるわけじゃ……」
「でも、めぐみも過去を明かしてくれたでしょ?だから、お返し」
 そう。
 めぐみには、知ってほしかった。
 私と美羽の、過去を……。


 第30章

 それは、7歳の時だった。
 小学校に入学した私は、新しいクラスで緊張していた。
 そんな中、皆が何とかして友達の輪を作ろうと必死だった中に、1人その集まりから離れて俯く女の子を見つけた。
「ねえ、あなたの名前、なんていうの?」
 私は何だか気になって、そう聞いてみた。
 一瞬の間をおいて、その女の子が俯いたまま答えた。
「……菊川美羽」
「素敵な名前だね」
 その言葉で、その女の子──もとい、美羽は顔を一瞬上げたが、やがてまた俯いてしまった。
(おとなしいこだな……)
 私はそう思いながらも、相手が名乗った以上は自分も名乗らなくては、と思い自己紹介した。
「私は、花崎真衣。よろしくね」
 それが、私と美羽の初めての会話だった。

 それから3ヶ月。
 美羽はクラスメートのほとんどと、必要最低限しか話さなくなっていた。
 そんな中で、美羽に対してある男子がいたずらをした。
 それを美羽が完全に無視した事から、クラスの雰囲気が悪化した。
 美羽に対する、「いじめ」が始まったのだ。
 私は何とかして止めようとしたが、一向に止まず、むしろ日に日に悪化していた。
 先生も、ある種のスキンシップとしてそんなに重く捉えていなかったらしく、見て見ぬふりをしていた。
 そして、それがエスカレートしていったある日。
 1人の男子が、5時間目の自習の時間に、全ての引き金となる、ある言葉を発した。
「死ね」
 それは、本当になんでもない、はずみで出てきた言葉だったのだろう。
 それでも、美羽の心には深い傷をつけたらしかった。
 美羽は突然教室を飛び出し、そのままいなくなってしまった。
「あ、美羽!」
 私は授業を抜け出したら怒られるかな、とか考えながらも急いで美羽の後を追った。

 1時間ほど美羽を捜した結果、私は近くにある崖で美羽を見つけた。
 しきりに底を見下ろしては、思いつめたように溜め息をついている。
 何を考えているのか、私も何となく理解した。
「美羽!何するつもりなの!?」
 美羽は驚いたようにこっちを向いたが、やがてすぐに崖のほうへと向き直った。
 一瞬だけ垣間見えた美羽のその顔に浮かんでいたのは、すべてを悟ったかのような無表情だった。


 第31章

「止めないで……」
「どうして?止めるに決まってるじゃない!」
 美羽は言い返そうと口を開いたが、一旦口を閉じ……ふっと息を吐いて、話し始めた。
「あたしのお父さんが、つい最近死んじゃったの……お母さんも、あたしが生まれてすぐに……」
 突然の告白に、私は一瞬言葉を失った。
「だから、このまま生きてるより、お母さんに会いたい……」
 私は、一瞬考えたが、やがて決心したように美羽のほうへ近づいて、美羽の頬を思いっきりひっぱたいた。
「痛い!何するの!?」
「当たり前でしょ?あなたは、それだけの事をしようとしたんだから……」
「私はただ、お母さんのところに行きたいだけじゃない!何がいけないの?」
「その気持ちは、わかるわ。
 でも、だからこそ、お母さんにもらった、大切な命でしょ?大事にしないといけないじゃない……」
 その言葉で、美羽ははっとしたように私のほうを向いた。
「ありがとう……」
「別にいいのよ。その代わり……」
「……何?」
「私と、友達になってくれない?」
 美羽は予想外のその言葉に、少し驚いていたが、やがて、
「うん、いいよ!」
 そういって、手を差し出してきた。
 私が握り返そうと、手を差し出し返したが、その手は届かなかった。
 美羽の立っている足場が突然崩れたのだ。
「きゃあああああああっ!」
 美羽はすぐに足を踏み外し、そのまま落ちていく…………かに見えたが、間一髪、私は美羽の足をつかんで引っ張りあげた。
「ありがとう……真衣ちゃん……」
「何いってるのよ。当たり前でしょ?『友達』なんだから……」
 それが、私と美羽の友情の始まりだった。

 私が美羽と仲良く接する事で、だんだんとクラスの雰囲気もよくなり、美羽も今までと違い明るく接するようになったので、すぐにいじめはなくなった。
 もしかしたら、先生は、こうなる事まで予測していたのかもしれない……と、私は時々そう考える事がある。
 それから2年間、私と美羽はとても楽しい時間を過ごした。
 しかし、その幸せな日々は、長くは続かなかった。
 9歳の時に、私は両親の都合で引っ越す事になってしまった。
 引っ越しの当日、美羽はとてもつらそうだったが、努めて明るく振舞い、プレゼントをしてくれた。
 それは、ピンク色の小さなケースだった。
「ありがとう!」
 私がそういうと、美羽はこらえきれなくなり、泣き出してしまった。
 私は、月に一度は会いに行くし、電話も毎日かけるから……と、そういって私はその地を離れた。
 ほとんど欠かさずに電話をして、美羽とは頻繁に会っていた。
 そして、10歳の時。
 地球人の侵略で、私たちはこの生活の全てを失った。
 それ以来、私は美羽の行方もわからないまま、地球人から逃げていた。
 そして3年の時を経て、私は美羽と再会したのだった……。


 第32章

 話し終わったとき、めぐみは何ともいえない顔をしていた。
 が、すぐにふふっと笑った。
「気持ちのいい話じゃないね。でも、そのおかげで、あんたたちがいるんでしょ?だったら、あたしは、こういうエピソードがあって、良かったと思うよ。
 あたしは、別に美羽に対して同情とか、そういう事は考えないし、今のままだから」
 そう、それがめぐみの本心だった。
 嘘で固めた言葉でも、偽善を纏った表情でもなく、ただただ素っ気無かった。
 それを不快に思う人もいるかもしれないが、私はその、めぐみの純粋で飾らないところが好きだった。 だからこそ、私はめぐみにこのエピソードを語ったのかもしれない……。

**********************

 頂上までは、あと少しに迫っていた。
 あの話の後は、皆真剣に登っていたからだ。
 あの壁を越えてまで地球人は追ってこないと思い、めぐみもしっかり眠るようになっていたし、そのおかげでかなりスピードは上がった。
 そして、ついに……。
「頂上に着いた!」
 下を見下ろすと、私たちが登ってきた場所や、霊魂神殿、イバサリなどが遥か彼方に見えた。
 感慨に耽る私たちを、めぐみが呼んだ。
「この火口が、入り口なんでしょ?早く行こうよ」
 私は、いよいよこの長い苦労と疲労が報われる時が来たと感じていた。

**********************

 ……前言撤回……。
 苦労は全然報われなかった。
 むしろ増えた。
 暑い。
 蒸し暑い。
 火口に入ったのだから、当たり前なんだけど。
「あ゛〜!暑い!熱中症になる!」
 うだるような暑さに、全員へとへとになっていた。
 目の前に続くのは、マグマに囲まれた、溶岩でできた無数の道。
 道を間違えては戻り、進み、戻るの繰り返し。
 暑さと苛立ちでだんだんと気力が失われていく。
「花びらはどこなの!?」
 めぐみが叫んだが、答えは返ってこない。
 その時、美羽が何かを見つけた。
「ねぇ……あそこにいるのって……」
 そこにいたのは……ライオンだった。
 しかも、私たちが渡ってきた道を完全に塞ぎながら近づいてきている。
 私たちがいる場所は行き止まりで、唯一の逃げ道を塞がれている状態なので、戦うしかなくなっていた。
「どうする!?」
「こうなったら……戦うしかないでしょ」
 とはいえ、幅の狭い一本道で、しかもバランスを崩すとすぐに溶岩に落ちるような状況では、かなりこちらが不利だ。
 まず飛び出していったのは、やはりめぐみだった。
 めぐみが近づくのを見て、ライオンは爪を立ててめぐみに飛びかかった。
 めぐみはそれを鋭いバック転でかわすと、長剣を突き立てた。
 ところが、ライオンはその剣を一瞬で溶かして体勢を立て直すとすぐに攻撃を再開した。
 反射的に美羽が落ちていた溶岩の固まったものを拾って投げつけた。
 ライオンは痛みでひるんだ。
 めぐみはその隙を逃さず、咄嗟に爆弾を投げつけた。
 ところが、暴れるライオンは爆弾を弾き飛ばした。
 飛ばされた爆弾は溶岩に着地し、大爆発を起こした。
 連鎖反応のように次々と岩でできた足場が崩れ落ちていった。
 噴火する直前だったらしく、マグマに溜まっていたエネルギーが一気に噴出し始めたらしい。
 私たちも、早くしないと、マグマに呑み込まれる!
 私たちは燃え盛る火炎と火柱の間を、素早く逃げようとした。
 ところが、ライオンが私たちを止めようとした。
 どうやら私たちを道連れにするつもりらしい。
 するとめぐみが再び前に進み出て、一度しゃがむとすぐに立ち上がり、そのまま横っ飛びになった。
 ライオンが追いかけるようにして後に続く。
 しかし、狭い一本道で、横っ飛びになれば、待ち受ける運命は一つだけ。
 そう、マグマの餌食となるのだ!


 第33章

 めぐみとライオンが、共に落ちていく──。
 そう思ったが、めぐみはしゃがんだ瞬間にあの壁を登ったときに使った爪にゴムロープを巻き付けたものを地面に突き立てていた。
 ゴムの反動で、めぐみは足場に戻る……つもりだった。
 ところが、ゴムはあまりの勢いと熱さに、足場に辿り着く寸前で切れてしまった。
 今度こそめぐみが落ちていく……。
 ところが、めぐみはあり得ない反射神経で足場に裏にもう一つの爪を突き刺して、何とかバランスを取った。
 めぐみは自分でも何をしたのかわからないかのような顔で一瞬呆然としていたが、やがて足場に復帰してきた。
 そして、唖然としてめぐみを見ていた私たちを見て、怒鳴りつけた。
「何をぼけーっと見てんの?死ぬわよ!!」
 めぐみの叫びで、私たちは我に返り、一気に駆け出した。

 道を進んでは、崩され、戻り、別の道を進み、また崩れる。
 そんな繰り返しが続いた。
 だんだんと道がなくなるにつれて、体力も気力もなくなり、恐怖だけが大きくなっていく。
 それでも、少しずつ出口に近づいている。
 いくつもの火柱の間を通り抜けて、ようやく出口に辿り着いた。
 先頭のめぐみがいち早くそこに辿り着き、美羽がその後を追って出口に着く。
 私も続けて入ろうとしたが、僅かな差で足場が崩れ始めた。
 何が何だかわからないうちに、私は落ちていった。
 ……はずだった。
 私も死を覚悟していたが、その前に美羽が動いた。
 間一髪、美羽が私の足をつかんで引っ張りあげたのだ。
「ありがとう……」
「今度は、あたしが助ける番だったね☆」
 美羽が笑った。
 めぐみも笑った。
 私も笑った。
 全員、ホッとしたように笑った。

**********************

「花びら、取れなかったね……」
 美羽ががっかりしたように呟いた。
 火口はあのあとすぐに大爆発によって完全に塞がれたので、再びあの洞窟に戻るのは無理だろう。
 そう考えていると、突然めぐみがふふっと笑った。
「何がおかしいの?」
 私が気になってそう聞くと、めぐみが突然何かを見せた。
 それは、紅く輝く、花びらだった。
「何でこれを!?」
「ほら、さっき足場から落ちそうになったじゃない?
 あの時、あの足場の裏にこの花びらが隠されてるのを見つけたのよ」
 それで、めぐみは一瞬固まってたのか。
 私は変に納得した。
「でも、これで、3分の2集まったんでしょ?次の花びらは、どこにあるの?」
「確か……星くず草原、だったかしら?」
「ああ、あそこね。だったら、この近くにあたしの作った地下通路があるから、そこを使えばそこまで一気に行けるわよ?」
「ありがとう!」
「でも、あたしはもう少しここでやる事があるから。
 この近くに、地球人の基地があと5個くらい残ってるの。
 たぶん、また会えるから。その時こそ、地球人をフルボッコ……じゃなくて、追い払おうね?」
 なんか聞いてはいけない単語が飛び出したような……。
 とにかく、私たちはついに第4の花びらを手に入れた。
 目指すは第5の花びらがある星くず草原。
 でも、その前に……。
「またこの山を降りないといけないの!?」
 魔の火山は、最後まで私たちを苦しめるのだった。


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