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「フラワー・ストーリー」


 フラワー・ストーリー 第5部

 第34章

 私たちは、魔の火山を降りてすぐに、めぐみと再会を誓って別れた。
 そして、地下通路を突き進んでいる途中。
 イバサリ近くの穴と同じ、地球人には見えない技術を利用しているため、本当に安全らしく、全く誰にも会わずに進んでいけていた。
 そして、ついに星くず草原に着いた。
「……あれ?」
 草原の中心にある、星がとてもきれいに見える穴に花びらがある。
 そのはずだった。
 この魔境は、他の魔境に比べて格段に安全だと言われていたのに……。
「ない!?」
 美羽がそう叫んだ。
 確かに、花びらが置いてありそうな台はある。
 しかし、花びらはなかった。
 その時、後ろから声がした。
「そりゃ、ないだろうな」
 それは、二度と会えないと思っていた、ある人だった。
「夢人!!」
 私も美羽も唖然としていた。
 夢人は、地球人に撃墜されて死んだと思っていたからだ。
「生きてたの!?」
「え?ぼくが、あんなんで死ぬわけないじゃないか。
 それより、ここには花びらはないぞ?
 地球人が、持っていったからな」
 突然の衝撃発言に、美羽が一瞬の間をおいて聞き返した。
「……どういうこと!?」
「だから、言った通りの事だよ。
 地球人が花びらを集めてるのは、知ってるだろ?
 何がしたいかはわからないけど。
 それで、彗星の滝に最初大人数で向かったけど、竜に全員敗北。
 さらに、吹雪の島に行ったはいいけど寒すぎて撤退。
 それで、一番楽そうなここに来て、花びらを取っていった」
「そんな……」
 地球人に、ついに先を越されてしまった。
 それは、かなりの衝撃だった。
 私はとりあえず話題を変えてみた。
「で、夢人はあの後どうなったの?絶対だめだと思ってたんだけど……」
「ああ、あれか?
 ぼくはお前らが逃げ延びたのを確認して、何機かの地球人の戦闘機を道連れに自爆して、うまくタイミングを計ってパラシュートで脱出した。
 ただ、あまりに爆風が強すぎて、全然違う方向に飛ばされたけど」
 それで、会えなかったわけか。
 どっちにしろ、私は霊魂神殿にいたからあの後の状況はよくわかってなかったんだけど。
「まあ、生きてて良かった……」
 美羽の呟きは、私の心の中の想いと一致していた。

「ところで、花びらはどこに持っていかれたの?」
 ひと段落したところで、私は聞いてみた。
「……真衣に縁のある場所だよ」
「……へ?」
「だから、お前が最後に住んでた場所。
 お前の母親が殺された場所」
「え!?」
 全く意味がわからなかった。
「……お前のいたあの町は、あのあと地球人の大規模な基地に変わったんだよ。
 今の名前は……『侵略者の庭』だ」
 私の心を揺さぶるには十分すぎるほど、その事実は重かった──。


 第35章

 真実を知った私たちは、急いで本部の近くへと向かった。
 実は、侵略者の庭は、正式には「地球の遊び場所」、通称を「EGG」(Earth's Game Gardenの略)というのだが、ドリームウィングでは皮肉で「AGG」(AGgressor's Garden)と呼んでいた。
 ただ言いにくいので、夢人は『侵略者の庭』と言ったのだった。
「できれば略称はRGにしたかったんだ」
「それ、Reaf Green?」
「いや、それLeafだし。
 Royal Gardenだ」
「どっちも言っちゃだめ!」
 私は急いで止めた。

 ようやく本部の近くの、あの森に戻ってきた時、夢人が言った。
「ぼくは、一度本部に戻る。
 2人は、一刻も早く花びらを取り返してくれ」
 私たちは、夢人と別れて、侵略者の庭へと向かった。

 侵略者の庭……確かにそんな感じがした。
 門の所には兵士が何人もいる。
 おそらく、入ってくる方だけでなく、出ていく方も見張っているのだろう。
 だとしても凄く厳重な警備だ。
 私は、花びらがある事を確信した。
「どうやって侵入する?」
「えーと……警備員フルボッコ☆」
「無理」
「じゃあ……滅多打ち?」
「同じだよ」
「爆弾投下」
「………投下は無理だけど、爆破ならできるかもね」
 私は、そういって門へと駆け出した。
 警備員が私の方を向く。
 私は少し中に入りかけて、一度止まった。
 警備員が一瞬気を抜いた瞬間に、爆弾を投げつけた。
 それも、夢人からもらっていた、全く音のしない爆弾だ。
 門が音もなく焼け焦げる。
「さあ、行こう」
 私たちは、侵入を開始した。

 中にはたくさんの人がいたが、さすがに遊び場とあって、普通にショッピングモールや遊園地が入っていた。
 アーチ人と地球人は見分けがつかない事から、中に入ってしまってからは全く怪しまれずにすみ、ほっとした。
 ただ、立ち入り禁止の場所が結構あり、どこに花びらがあるかわからなかった。
「やっぱり、監視塔かな?」
 この庭の作りは、地球人用の遊園地、巨大なショッピングモール、地下の牢屋、そして高い監視塔から成っていた。
 監視塔と牢屋は立ち入り禁止なのだが、牢屋に隠すとは思えない。
 そうすると、やはり監視塔が怪しい。
「行ってみよう」
 こうして、私たちはいよいよ「侵略者の庭」の拠点、監視塔へと乗り込む事となった。


 第36章

 監視塔には、警備の兵士がたくさん……いるかと思っていたけど、意外にも誰もいなかった。
「運がいいね」
 そういって、美羽が走り出した。
 私も、急いで後を追った。
 そして、美羽が扉を開けようと手を触れた、まさにその瞬間だった。
 突然草陰から何人もの警備員が出てきて、私たちを包囲した。
「うそ……」
 美羽が唖然とする。
 全てが罠だった事を、私も美羽ももようやく気づいた。
 しかし、もう遅かった。
「やはり、かかったわね」
 前に進み出たのは、1人の女性兵士。
 どうやらリーダーらしい。
「入り口が爆破されたから、監視塔をわざと手薄にして、おびき出せる……案外、大した事なかったわ……」
 これは、まずい。
 そう私は思った。
 美羽はドリームウィングの幹部だし、私も指名手配中。
 最悪の場合、2人とも処刑されるし、そのうえ花びらを一気に4枚奪われる事になる。
 私が何か方法はないかと辺りを見回していると、突然さっきのリーダーが言った。
「……もしかしたら、仲間がいるかもしれないわ。
 あなたたちは、あたりを捜しなさい。
 私がこいつらを牢屋に連れて行く」
「ですが、何人か一緒にいた方が……」
 副リーダーらしき男が答えた。どこかで聞き覚えのある声だ。
「私は、1人でこいつらに聞きたい事がある。
 邪魔はさせない」
 その女性兵士の言葉で、他の兵士はすぐにいなくなった。
 そして、4人だけになった。
「……逃げないのね」
 その人が呟いた。
「どうせ逃げても、さっきの兵士に捕まるだけ、でしょ?」
 私がそういうと、その人はふふっと笑った。
「別に、私はあなたたちから話が聞きたいだけよ。
 逃げないなら、早く来て。
 これ以上いても、怪しまれるだけよ」
 そう言い残して、その人は先に監視塔へと入っていった。
 逃げるかもしれない、とは全く思っていないらしい。
「どうする?」
「別に逃げなくていいと思うよ。
 たぶん、あの人は、敵じゃないから」
 美羽はそういって、その人の後へと続いた。
 私は、急いで美羽を追いかけた。

「私は、春野萌香。
 あなたたちと、一度話したいと思ってたから、あの兵士たちを追い払ったの」
「そうですか。でも、どうしてぼくたちと話したかったんですか?」
「もちろん、地球人を追い返すためよ」
「え!?」
 これには、私も美羽も、とても驚いた。
 地球人が言うセリフではないと思ったからだ。
「あなたたちは、地球人は全員悪者だと思ってるみたいね。
 でも、そんな事はない。
 私のように、アーチ人を侵略する事に反対した人も大勢いるのよ」
 そして、萌香さんは、今までのいきさつを話してくれた。
 それは、今まで聞いた事のない、地球側の事情……。


 第37章

 地球が戦争や経済格差や金融危機など、様々な問題を乗り越えてようやくまとまって来ていた頃、残る大きな問題は、地球温暖化を初めとする環境問題だけだった。
 科学でも解決できないこの問題に、地球全体が悩まされていた。
 そんな折、突然入ってきたニュース。
『全く違う星にワープできる魔法の鏡、発見される』
 なんと、アーチという地球によく似た遠い別銀河の星と繋がる鏡が発見されたというのだ。
 科学者たちはその不思議な現象を科学で説明しようとしたが、できなかった。
 結局それは魔法の鏡であるとされた。
 鏡は封印されて終わるはずだった。
 ところが、それを国連が目をつけた。
「その鏡で別の星へ行き、そこを我々のものにすれば、地球環境は無視できるんじゃないのか?」
 その発言は、大きな波紋を呼んだ。
 アーチにも人は住んでいるわけだから、当然人権侵害である、という事が言われていた。
 しかし、そこは約200年前の地球のような、未開の星だったし、地球環境はとてつもない危機に陥っていた。
 そこで、ついに「アーチ征服プロジェクト」が開始されたのだった。

 まず手始めに、100人ほどの地球人を送った。
 そしてさらに、次々と人を送る予定だったのだが、ここで問題が発生した。
 長い間使われていなかったせいか、鏡のエネルギーは衰えていて、これ以上ワープできなかったのだ。
 そこで、その100人はアーチ人の子どもを誘拐して、強制労働させる事でエネルギーを作り、そのエネルギーを鏡に注ぎ込む事にした。
 ところがそれには20年ほどかかる予定だったらしく、それまで地球で何とか過ごす予定だったのだが、環境の悪化が予想以上に早かったため、地球人は最終手段として、たくさんの子どもを殺して、そのときに発生する霊力を鏡に注いだ。
 その時に殺された子どもは約200人に上るとされている。
 その後、まず軍隊がワープしてアーチの主要都市を次々と攻め落とし、地球人がアーチを制圧できる新憲法を発行し、アーチ人の権利をなくした後で一般の人がワープした。
 そして地球人はあちこちに散らばって征服を始めた。

 萌香(本人からさん付けをしないように言われた)はもともと警察の一員だったのだが、アーチに来た際に兵士となった。
 萌香はアーチ人を完全に征服する事に強く反対していたのだが、少しでも情報を集めておきたかったので一生懸命兵士としての仕事に努めていた。
 その過程で、ドリームウィングの事を知り、その人たちに会ってみたいと思っていたのだった。

「私は、地球人がアーチを征服したのは間違いだと思ってる。
 絶対に地球環境を回復させるべきだったのに、楽な方に流れていった結果、一個の星の中の全ての人の幸せを奪って、たくさんの子どもの命を奪って、それで得た幸せなんて、絶対間違ってるわ」
 私たちは萌香の意見に深く共感した。
「だからって、地球人を倒す、っていうドリームウィングのやり方にも賛成できないわね。
 私が考えているのは、地球人とアーチ人が共生していける、そんな世界を創ること。
 そのためには、地球人を皆殺しにするんではなくて、上層部の政府を破壊する事が先決だと思うの」
 私はその意見に深く共感した。
「あなたたちは願いの花びらを集めてるんでしょ?
 私は協力はしないけど、邪魔もしないわ。
 この上にあるわよ。さぁ、行って」
 そういうと、萌香はリモコンみたいなものにパスワードを入力して、隠れた階段を出した。
「本当に、ありがとう」
「別にいいのよ」
 私たちは、萌香に感謝して、現れた階段を登りはじめた。


 第38章

 塔は単調な螺旋階段で構成されていた。
 中心にエレベーターが通っていて、それを使えば最上階へ行ける。
 ただ、階段を使わないといけない秘密の部屋があって、そこに花びらがあるらしい。
 花びらを護る専属の番人もいるらしいが、それを除けば、簡単に進めそうだった。
 ただ、私の心の中には、迷いがあった。
 これはあくまで仮定の話だけど。
 もしも、花びらを6枚集めたとしよう。
 私は、どんな願いを選ぶのだろう?
 地球人を全て消す?
 平和なアーチに創り変える?
 私たちがやろうとしている方法は、間違いなんじゃないだろうか。
 鏡を使って環境問題から目を背けた、地球人と同じ道を選んでいるんじゃないだろうか。
 魔法に頼って奪い取る幸せと、武力で奪い取る幸せは、同じようなものではないだろうか。
 同じように、穢れた存在ではないだろうか。
 そんな事を思いながら、私はただ目の前の問題に集中した。
 心の中で考えていても、それを実行に移すことは、できない。
 今までの努力を全て無駄にする事なんて、私にはできない。
 そんな勇気は、今の私にはない。
「弱虫……」
 私は小さく、自分自身に向かって呟いた。
 目先の事だけを考えて、破滅した稔。
 アーチ人の幸せを奪い取った地球人。
 みんな、自分自身の弱さに負けた。
 私が選び取ろうとしている道は、同じ、弱者の選ぶ道なのではないだろうか……。
「着いた!!」
 突然美羽が叫んだ。
 見ると、目の前には扉があった。
 第5の花びらが置いてあるのだろう。
「さあ、行こう!」
 私は、弱い自分を押し隠そうと、あえて大声を上げた。
 そして、入っていった。
 目の前にいるのは、騎士だった。
 全身を武装した、騎士……。
「花びらを、奪いにきたんだな?」
 騎士は、重々しい声で聞いた。
 私は頷いた。
「そうか。なら、情けはいらないな!」
 騎士が、長いサーベルを振りかざして、私たちの方へと駆け出してきた。
 戦いの、幕開けだ。

 振り下ろされるサーベルを、美羽が中くらいの長さのナイフで受け止めた。
 その隙に私もナイフで攻撃したが、鎧は強く、ほとんど効果はなかった。
 騎士がサーベルで美羽を突いてきたが、美羽はさっと避けて、短剣を突き刺し返す。
 しかし、騎士も鎧の硬い部分でうまく攻撃をはじいた。
 騎士が標的を変え、私を斬ろうとしてきた。
 私は後ろに飛びのき、ナイフを投げつけた。
 すると偶然、ナイフが鎧のつなぎ目部分のわずかな隙間に入り込んだ。
 ナイフは摩擦で多少その勢いを失ったが、それでもかなりの痛みを騎士に与えたらしい。
「ぐわあああっ!」
 騎士が痛みでその場に倒れ込み、ナイフを抜き出そうとした。
 しかし、今度は鎧が邪魔をしてなかなか取れない。
 騎士はついに諦め、鎧を脱ぎだした。
 中に着ているのは、普通の服だった。
 ナイフを抜き取ったが、すでに勝ち目はないと悟ったのか、兜を取った。
 その顔を見て、私は愕然とした。
「嘘……」
「どうしたの?」
 美羽が私に問いかける。
「この人……」
「知ってるの!?」
 私は弱々しく微笑んだ。
「知ってるも何も……この人は、私のお父さんよ?」


 第39章

「この人が、真衣の……」
「隼人お父さんよ」
 その騎士──父は、初めのうち何が何だかわからないかのような顔をしていたが、突然驚いたような顔になった。
「この様子だと、めぐみみたいに記憶を奪われてたみたいね」
 美羽がそういうと、父は頷いた。
「地球人が侵略してきた時、私は第一陣として地球人と戦い、もう少しで殺される所だった。
 しかし、奇跡的に殺されず、その代わりに記憶を奪われて捕虜として閉じ込められていた。
 それからしばらくして、花びらの番人としてここに連れてこられた。
 これを守る、という暗示をかけられた状態で」
 どうやら、地球人の記憶の封印は脆いみたいだった。
 家族や親友など、大切だった人に会うと、すぐに戻るらしい。
「ああ、真衣……会いたかった……」
「私もよ……」
 父とは地球人の侵略を受けて以来、一度も会えなかった。
 美羽とも会えなかったが、父は死んだと思っていただけに、驚きも大きかった。
 親子の再会の雰囲気に耐えられず、美羽が気まずそうに声をかけた。
「まずは、ここを出ない?」

 今、私たちは長い螺旋階段を下っている。
 薄い緑色の花びらを取った後、私たちは急いでここを脱出しようとしていたのだ。
 しばらく無言で歩いていると、突然下から誰かが駆け登ってきた。
「敵かな……?」
 私たちは身構えた。
 しかし、よく見ると、萌香だったので、私と美羽は肩の力を抜いた。
「誰……?」
 萌香が不思議そうに父の事を指して聞いた。
「この人は、花びらの番人だった、私の父の隼人よ」
「え!?」
「……その話は、少しややこしいから、後にして。
 何か用があったんじゃないの?」
 美羽が冷静に聞いた。
「ええ、そうだったわ!
 あなたたちがいなくなっている事に気づかれたのよ!」
「ええ!?」
「しばらくして、あの副リーダーが私のところに来て、それで誰もいないのを見つけて……。
 仕方ないから、私は適当な口実で隠れて、あいつがいなくなるのを確認してここに入ったの。
 私は管理塔の最高責任者だから、この秘密の階段の事は私以外にはほとんど知らないわ。
 でも……安全な脱出方法がほとんどなくて……」
 すると、父が突然口を挟んだ。
「私は、この塔の地下通路を知っている」
「本当ですか!?」
「最終手段として、この塔は爆破できるようになっているんだ。
 その時に、番人が逃げられるように、として階段の中腹部に外に出られる小さなはしごがあるんだ」
 つまり、塔には管理塔本来のエレベーター、螺旋階段、そして避難用はしごの3つの移動手段があり、エレベーターが螺旋階段を隠し、螺旋階段とエレベーターに挟まれる避難用はしごはさらに見つかりにくくしてあるのだ。
「あ……ここだ!」
 隼人が指差した先には、一見すると何の変哲もない壁があった。
 しかし、よくみると小さな鍵穴があり、何と父の持っていた鍵を差し込むと、壁が一箇所外れるのだ。
「早く!」
 私たちは急いでその穴を伝って地下まで降りていった。
 すると、父の言った通り、門のすぐ近くまで一気に進めた。
「これで、問題なく逃げられるわね」
 そういって、私たちがマンホールに似せてある地下通路の出口を開けた。
 ところが、私が一番最後に外に出た瞬間、目の前に銃口を突きつけられた。
「やはり、ここからか」
 それは、萌香の言っていた、あの副リーダーだった。
「萌香……やはり、お前も敵だったか」
 萌香?
 その上下関係があるとは思えないほど馴れ馴れしい呼び方を、私も美羽も訝った。
「恭介……いい加減、目を覚ましたら?」


 第40章

「ねえ、萌香……なんで、名前で……?」
 私はこう聞いてみた。
「ああ、それは……こいつが私の、元カレだからよ」
「……へ?」
 私の思考は、それを理解するのに一瞬止まった。
「今は、ただの敵だけどな」
 恭介がそう答える。
「……恭介だって、わかってるでしょ?アーチ人は、敵なんかじゃないって……」
「いや。俺は、今までなぜアーチ人を生かしてたのかすらわからない。
 ここだって、俺が占領のリーダーだったから、皆殺しにしたわけだし」
 それで、私はようやく思い出した。
 どこかでこいつの声を聞いた事があると思ったら、母と戦っていた相手だったのだ。
「お前の母親…渚だっけ?あいつを殺したのも、俺だよ」
 その言葉で、強い憎しみが燃え上がってきた。
 しかし、その前に進み出たのは、父だった。
「私の妻を殺したのは…お前か?」
「……ってことは、お前はこいつの父親か。
 偶然だな。よかったじゃないか」
「何がだ?」
「娘に最期を看取られるんだからよ!」
 そういって、恭介は銃の引き金を引いた。
 銃弾は父の腹を直撃し、父は激しい痛みに倒れた。

「お父さん!」
 恭介が銃を構えていたが、私は無視して駆け寄った。
「くっ…真衣……」
 父は痛みをこらえて言葉をつないだ。
「しゃべらないで!」
 私が止めたが、父はかまわなかった。
「お前に、どうしても伝えなきゃいけない事がある……」
「……何なの?」
 私はその言葉が気になり、聞いてみた。
「お前には……」
 恭介も、その言葉を聞くまでは生かしておくつもりらしい。
「真衣……お前には……兄がいるんだ……」
「嘘……」
 その瞬間、世界が止まった──そんな気がした。

「嘘でしょ?お父さん……」
「いや、本当だ……。
 お前の兄は…、お前が生まれるほんの少し前に、誘拐されてしまったんだ………」
 幼い頃に、誘拐。
 その言葉を聞いた瞬間、私はある一つの予想が浮かんだ。
 私はそれを認めたくなくて、必死に打ち消そうとする。
「……だが、今ならわかる。
 きっと、あいつは地球人にさらわれたんだろうよ……」
 真実味を帯びていく、予想。
 それは、私にとってもっともつらい現実だった。
 でも、私が両親以外から家族の温もりを感じたのは、一度しかない。
 そう、地底の湖で──。
「あいつの名前は……」
 きっと、違う。
 私は、私の世界を崩したくなくて、必死に否定しようとした。
 私が考える想像が事実だとしたら、私は、人としてやってはいけない事をやってしまった事になるから……。
 でも、そんな私の抵抗は、空しく終わった。
「あいつの名前は……、稔だ」
 その言葉を紡ぎだすと同時に、父は静かに息を引き取った。


 第41章

 隼人が、死んだ?
 稔が、私の兄?
 理解できない、いや理解したくない現実を前に、私の思考はストップした。
「さて、そろそろ昔話も終わった所で、殺しにかかるか──」
「ふざけるんじゃないわよ」
 萌香が恭介の言葉を遮って言った。
「この子の全てを破壊し尽くして、それでもまだあなたは地球人のやった行動が正しかったと思うの?」
「ああ。俺たちの取った行動は、間違っていなかった」
 それを聞くと、萌香はふうっ、と諦めに似たようなため息をついた。
「なら、情けはいらないわね?」
 そういうと同時に、萌香は目にも止まらぬ速さで恭介に近づくと、何の躊躇いもなく恭介をナイフで刺した。
 恭介は何の反応もできないまま、腹を赤く染めて倒れた。
「さあ、行きましょう。
 こいつを倒した以上、私はもう……こっち側には戻れないし」
 父の遺体を運ぶと見つかりやすいので、やむなく私たちは父を置き去りにする事にした。

「これから、どうするつもり?」
 萌香が、私たちに尋ねた。
「とりあえず、ドリームウィングの本部に戻って、夢人と相談するわ」
「わかった。なら、私も一緒に行かせてくれない?」
「いいけど……くれぐれも地球人だって事は秘密にしといてね?夢人なら大丈夫だけど」
「いいわ。じゃあ、急いで行きましょう。もう時間が無いわ」
「何で?」
「あら、知らないの!?」
 萌香が驚いたように言った。
「うん……」
「まあ、仕方ないわね……極秘事項だったし。
 地球人は、ちょうど20日後に、アーチ人をほぼ全員抹殺して、完全にここを地球人のものにする計画を立てているのよ?」
「え……嘘でしょ……」
 私たちの知らないところで、最終決戦は、刻一刻と迫っていた──。


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