Our Story's Park(7)
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「ハヤテのごとく!」二次小説

 君と奏でるコンチェルト 第2部

 Scene.31

 春。
 人と人との別れがあり、同時に出会いのある季節。
 どこかのヘタレな坊ちゃんは執事との別れを経験したのだが、特に関係ないので置いておこう。
 そして、出会いもある。
「いやぁ……やっぱり、クラス替えって面白いですね☆」
「……学校は全てつまらない」
 ハヤテの楽しそうな声を、ナギのつまらなそうな声が押しつぶした。
「もう、新学期初日からそんな暗い事言わないの」
 後ろから叱るような声がした。
「ああ、ヒナギクさん。一緒のクラスになれたんですね」
「ええ。それに……あの子たちも一緒よ」
 ヒナギクが言うと、ちょうど「あの子たち」が現れた。
「やあハヤ太君にナギポンじゃないか。
 また一緒のクラスになれたのだな」
「だな♡」
「ああ……瀬川さんに花菱さんに朝風さん。
 あなたたちともまた同じクラスなんですか?」
「その言い方はひどいんじゃないのかハヤ太君」
「ひどくないです!」
「ほう……。
 なら、あのメイドの動画をヒナに見せ、YouTubeだけでなくニコ動にもうpし、ついでに即売会で売ってしまってもいいのか?」
 あのメイドの動画とは、春休みに動画研究部の部室を破壊した代償としてメイドカフェで働かされた時の映像である(この小説では一応正規イベント、ただし関係性などは原作より)。
「あの……それは俗に言う脅迫では?」
「ああ、そうだ」
 当たり前のように答える3人組に、ハヤテはため息をついた。
「会長。同じクラスになれたんですね」
 現れたのは、灰色の髪をした少女だった。名前は春風千桜、生徒会の書記である。
「ああ、ハル子じゃない。久しぶりね」
 千桜と会うのは春休みの生徒会の打ち上げ(アニメ51話より)以来である。
 その他、愛歌、ワタル、伊澄などの生徒と顔合わせをした後、担任の雪路が挨拶し、高尾山ハイキングについての説明をしたところで、その日は終わった。


 Scene.32

「う゛~ん……」
 ハヤテは……悩んでいた。
 ナギとの誤解が解け、恋愛の許可までもらったハヤテにとって、差し迫った問題は歩との事だった。
「西沢さんからは告白もされてるし……。
 でも、いまさらどう答えていいかもわからないなぁ……」
「そういう時は……土下座だ!」
 後ろから神父がアドバイスをした。
「………。
 とりあえず、僕は悪い事をした覚えが無いので却下です」
 ハヤテにしてみれば、至極まともな突っ込みだった。
 ところが、なぜかハヤテは神父に怒られてしまった。
「何を言ってるんだ?少年」
「はい?」
「君は、最初の告白をされてから実に3ヶ月も結論を保留している。
 女の子にとって、それがどれだけ辛い事か……君はわかっているのか!!」
「……そんな事を幽霊に言われても困るんですけど」
「今はふざけてる場合じゃないんだ。
 君はあの娘の気持ちにも気づかず、結果的に傷つけた。
 その過ちを、また繰り返すつもりか?」
「!!」
 神父にそう言われ、ハヤテは衝撃を受けた。
 確かに、自分が結論を保留にした結果、ナギは傷ついてしまったのだろう。
「結論を……出さなくちゃいけないんですね」
 ハヤテは静かに言った。
「いや?別にいいんじゃね?」
 ところが、帰ってきたのは神父の適当な意見。
「はい??」
「だって、あの娘ならいくらでも待ってくれるだろ。
 ていうか、むしろ長引いた方が面白いし」
「ええええええ!?
 あんだけかっこいいシリアス風味な意見を出しといて、そんな投げやりな終わり方ですか!?」
「ああ。
 とりあえず、私はアニメ第2期のOVAを観るから、これで帰るぞ」
 そういって、神父は去ってしまった。
「はぁ~……。
 でも確かにこのままじゃ、絶対に西沢さんに悪いよなぁ……」


 Scene.33

「ハヤテ君……。
 やっぱりいつ見てもかっこいいなぁ~……」
「……おい、姉ちゃん、いつまで独りでぶつぶつ言ってんだ?」
 携帯の待ち受けを見ながらとろけそうになっている姉を見て、弟の一樹がバカにしたように聞いた。
「うっ……うるさいわね!
 あんたみたいなもてない男に話す理由は無いわよ!」
「姉ちゃんよりはもててる方だ!」
「その割には、ナギちゃんと会ってる回数なら私の方が多いのはいったいなんでなのかな!?」
「うっ!……」
 痛いところを突かれ、一樹は黙り込んだ。
 歩は余裕の笑みを浮かべて、部屋から出ようとした。
 しかし、部屋から出る一歩手前でつまずいて転んだ。
「いったー!」
「……どじ」
 一樹が馬鹿にした。
「う……うるさいうるさいうるさーい!!体力無いくせに!!」
「転ぶよりマシだろ!」
 2人は、母が怒鳴り込んでくるまで口げんかを続けた。


 Scene.34

「じゃ、今年度もまたがんばりましょう」
 生徒会室で、ヒナギクは千桜と愛歌に声をかけた。
「あの3人組が、今年はもう少し仕事をしてくれると助かりますね」
 千桜はそう言ったが、期待できない事を3人とも知っていた。
「さしあたっては、高尾山ハイキングが明日に控えているわね。
 必要な書類はできてるかしら?」
「もちろん、終わっています」
「ありがと、ハル子。
 じゃあ、今日はこれでいいわね。
 明日はがんばりましょう」
 ちなみに、ハル子とはヒナギクが千桜につけたあだ名である。
「はい、会長♡」
 愛歌にそう言われ、ヒナギクは微笑み返した。
「今は小さくても~ぐんと背伸びをして……」
 上機嫌にPower of Flowerを口ずさみながらエレベーターに乗り込んだ。
 そして、自然と笑みがこぼれた。
 理由はもちろん、ハヤテと同じクラスになれたからだ。
「そういえば、いつもなら私とハヤテ君がしゃべってたら、ナギが怒るのに、今日は何も無かったわね……。
 いったい何があったのかしら?」
 理由はもちろん、2人の勘違いが解けたからなのだが、ヒナギクはそれを知らない。
「そういえば、翼君とかいう新しい執事を雇ってたわね。
 あれも何か関係してるのかしら?」
 ヒナギクは少し考えていたが、それほど関心があるわけでもなかったので、すぐに考えるのをやめた。
 エレベーターが1Fに着いた。
「でも、明日はハヤテ君と仲良くなるチャンスよね、うん。
 少しは優しくしないと……」
「ヒナえもーん!!」
 ヒナギクが小さな決心をした時、雪路がヒナギクの元へ駆け寄ってきた。
「うるさいわねお姉ちゃん。あと、ヒナえもん言うな」
「それより、お金貸して!」
「貸さないわよ!
 担任に戻れて給料上がったんでしょ!?」
「だから、ご褒美に何かちょうだい♡主にお酒を♡♡」
「妹にご褒美なんかねだらないの!」
「全く……こうなったらあの二次元ジゴロに奢ってもらうか……」
 ヒナギクが木刀を振り上げると、雪路は渋々帰っていった。
「全く、お姉ちゃんはいっつもいっつも……」
 ヒナギクはぶつぶつと文句を言った。
 しかし、ため息をついて、こうも呟いた。
「全く……あんなに素直に生きられると、羨ましいじゃない……」


 Scene.35

「やっぱり、姫神君は凄いですね♡」
 マリアは、翼の用意した昼食を見て驚いた。
 ハヤテもマリアも上手だが、翼の腕も一流だった。
 もちろん、三千院家で働いているからこそ上達したわけでもあるのだが……。
「それほどでもないですよ」
「いえ、あれからかなり経っているのに、私の好みまで覚えてるなんて……」
 確かに、料理は全てマリアの好きな物を選んでいた。
「いえ、戻ってきてから初めての食事ですから、少しはマリアさんの好きな物を選ぼうと思いまして……」
 翼は照れくさそうにそう言った。
「ハヤテ君は学校で日中はいませんから、姫神君が来てくれてとても助かりますわ♡」
 その雰囲気は、とてものどかだった。
「……そういえば、あの子猫は何ですか?」
 翼はシラヌイを指差して聞いた。
「ああ、あれは白野威です」
「……黒猫ですよ?」
「ナギが名づけたんですよ。
 何でも、額の部分が少し白いから問題ない、と……」
「……あいつのやりそうな事ですね。
 本当に変わらないな……」
「……そうですわね……」
 そういいながら、マリアは庭の手入れをするために外へ行った。
「……やっぱり、ここも変わらないな。
 あ、そういえば……」
 翼は屋敷の隅々を回って、目当ての生物を発見した。
「よ、タマ」
「!!お前は、お嬢から逃げたあの執事……!」
「人聞きの悪い事を言うな。
 それより、お前、お嬢の事ちゃんと守ってたか?」
「もちろんよ。
 お嬢がわけのわからない不細工なロボに襲われそうになった時に、命がけで戦ってやったぜ」
 翼はこの屋敷を去る時、ナギを守るようにタマに頼んでいたのだった。
「ま、お前がいなくなってお嬢もマリアさんも悲しがってたんだ、少しは反省しろ」
「それはわかるがトラに言われたくはない」
 翼に冷静に言われ、タマはいなくなった。
「……悲しがってた、か……」


 Scene.36

「……会長、大丈夫でしょうか……?」
 千桜が愛歌に聞いた。
「さぁ?大丈夫じゃないんじゃない?」
「ええ?どうしてですか?」
「あんなに上機嫌だなんて、珍しいわよ。気味が悪いくらいだわ」
「でも、何であんな風になってたんでしょうか?」
「あら、千桜さんは気づかなかったの?
 ……会長、綾崎君に恋してるわよ」
「……ええ!?」
 愛歌の言葉に、千桜はとても驚いた。


 Scene.37

「それじゃ今回は班ごとの集団行動だから……班ごとに並んで、順次出発~!!」
 雪路が指示を出した。
「何か先生っぽいですね」
 ハヤテが感心した。
「うるさい!先生だぞ、馬鹿にするな!!
 あと山なめんな!!」
「ミニスカハイヒールの人には言われたくないです」
 どうみても山を馬鹿にしている気がする。
「では、行きましょうか、お嬢様♡」
 5分後。
「ううっ……疲れた……」
「まだ始まったばかりですよ」
「だって……ハヤテが荷物持ってくれないし……」
「少しは体力つけないと苦労しますよ?」
「でも!!私に体力が無いとは言え……あいつよりはあるぞ!!」
 あいつとは、すでに倒れている東宮の事である。
「全く……これだからお坊ちゃん育ちはダメなんだ」
「……ここで何してるんですか」
「愚問だな綾崎。同じクラスの仲間じゃないか」
「実に残念です」
「それで……東宮君はどうするの?」
 一緒の班になっていた泉が聞いた。
「班行動ですからねぇ……置いていくわけにも……ってあれ?」
 ハヤテが東宮の方を見たが、すでに東宮はいなくなっていた。
「東宮君ならあっちに行ったわよ。
 あとナギも」
 同じ班のヒナギクが指差した。
「うおおおおおお!山のバカヤロー!!」
「同感だああああ!!」
 ヒナギクが指差した方向には、山を猛然と駆け下りるナギと東宮の姿があった。
「班行動が乱れるので、追いかけましょう!」
 ハヤテが駆け出した。ヒナギクが後に続く。
「次の展開が……読めるフラグだね」
「はい?」


 Scene.38

「あれ?千桜さんは?」
 愛歌が呟いた。
 ワタル、伊澄、愛歌、千桜の4人班だったはずなのに、今は3人になっていた。
「春風さんは迷子になってしまったのでしょうか?」
 伊澄が呑気にたずねた。
「いえ……、迷子になったのは、私たちの方だと思いますが……」
 愛歌が言った。
 3人とも、すでにここがどこかわからなくなっていた。
「仕方ないですね……私が捜してきます」
 伊澄はそう宣言して、すぐに森の奥へと消えていった。
「お……おい!待てよ!!」
 ワタルが後を追いかけた。
 1人取り残された愛歌は、ため息をついた。
「……1人になっちゃいましたね……。


 Scene.39

「なぁ雪路」
 美希が雪路に問いかけた。
「ん?なに?」
「なんでお前は山道をハイヒールで平然と登れるんだ?」
「ブランド物だからじゃない?」
 雪路が当然のように答えた。
「お……恐るべきはバカの力か……」
 理沙が恐れをなしたように呟いた。
「だいたいなんで山にそんな服で来る必要があるんだ?」
「女は20代後半になると、人前でイケてない服着ちゃいけないって法律があんのよ」
 ありません。
「そんなムダ口たたいてないて、最下位なんだからさっさと歩いた歩いた」
 一番ムダ口をたたいているのは確実に彼らの担任教師である。
「う゛ぐぅ~……」
 3人が渋々歩き出した時、後ろから声がした。
「お~いユキちゃ~ん!!」
 それは泉だった。
「あれ?どうしたのいいんちょさん」
「実は……、ナギちゃんと東宮君が疲れたからって逃げ出して、2人をハヤ太君が追いかけてハヤ太君も迷子になって、さらにハヤ太君を追いかけてヒナちゃんも迷子になって、その後それを捜しに虎鉄君もいなくなっちゃった♡」
「何その迷子連鎖」
 そこへ千桜が現れた。
「こっちも伊澄さんとワタル君と愛歌さんが迷子になりました」
「おいおい……たかが高尾山で何7人も迷子になってるのよ。
 でもまぁ……綾崎君と虎鉄君がいるなら心配ないわね」
 雪路は楽観的にそう言ったが、美希がその思いを打ち砕くように呟いた。
「今度は副担任降格どころじゃ済まないかもな」
「……急いで探さないと。
 じゃあ、あんたたち3人は先に頂上まで行ってなさい。
 私たちは、その7人を探してくるから」
「……ん?3人?」
「私たち……??」
 4人は雪路のその言葉に一瞬思考を止めた。
「……て事で、行くわよいいんちょさん!!」
「ちょっと、私なの!?」
 雪路と泉は山奥へと消えていった。
「迷子フラグだな」
「くまも出るみたいだな」
「…………」
 こうして、ハイキングの混乱はさらに深まる。


 Scene.40

「続いてのニュースです。
 昨夜未明、東京都で、ある動物園から熊とライオンとサイとパンサーが逃げ出すという事件が発生しました。
 東京都にお住まいの皆さんは、気をつけてください」
「……危ないですわね」
「ほんとだな」
 マリアと翼は、居間に座ってお茶を飲みながら、テレビを見ていた。
 翼が来た事で、家事の時間は半分以下に短縮され、かなり暇な時間が増えたのだ。
「次のニュースです。
 これも東京都ですが、昨日の午後8時ごろ、先月逮捕されたばかりの犯罪者の夫婦が脱走するという事件が発生しました。
 この夫婦は、重い罪を犯したわけではないものの、500件にも上る軽犯罪を繰り返していたため、警視庁では、注意を呼びかけています。
 なお、彼らの名前は、綾崎瞬と……」
「ぶっ!!」
 翼が飲んでいるお茶を思いっきり吹き出した。
「あのバカ親……逃げ出したのか!!」
「でも、だとしたら、ハヤテ君が危ないですわね」
 確かに、瞬たちはハヤテを殺すつもりだった。
 今度も、ハヤテを狙う可能性は高い。
「ハヤテたち……高尾山にいるんですよね!?
 オレ、少し様子を見てきます」
「まあ。
 でも、心配ですから、私も行きますわ」
「……わかりました。
 では、急ぎましょう!!」
 マリアと姫神は、全速力で屋敷を飛び出した。


 Scene.41

「やっと追いついた……待ってください、お嬢様、東宮君!
 このままだと、迷子になってしまいますよ?」
 ハヤテはようやく2人に追いついた。
 本当ならあっという間に追いついているはずだったのだが、慣れない土地の上に、道がくねくね曲がっているので、いつものようなスピードが出なかったのだ。
 その後に、ヒナギクが現れた。
 ヒナギクは冷めた目でハヤテを見て、こう吐き出すように言った。
「……迷子になら……もうなってるんじゃない?」
「………」
 4人はそこで黙り込んだ。
 確かに、自分たちの居場所がわかるか?と聞かれたら、4人ともノーと答える以外に選択肢は無い。
 要するに、迷子である。
「……で?
 あなたたちの身勝手な行動の結果生まれたこの状況に対して、あなたたちはどう責任を取るのかしら?
 東宮君?ナギ?」
「……すみません」
 東宮とナギはうつむいて反省していた。
 最も、ヒナギクも本気で責めるつもりはなかったが。
「にしても……冗談抜きにこの状況はまずいわね。
 誰か、携帯持ってない?」
「私は持ってないぞ。
 全く……マリアが、『携帯を持っているとクラスメートと話をしなくなるから、オリエンテーションにならない』と言うから……。
 どっちにしても話さないのに……」
「……というわけで、お嬢様が持っていないのに僕だけ持っていると悪いので、僕も置いてきました」
「僕は……くそっ、電池切れだ」
「私も忘れてきちゃって……。
 これじゃあ、本当にどうしようもないわね」
「でも、考え方を変えれば、これ以上悪くなりようがないですよ」
 ハヤテがなだめた。
「まあ……そうねぇ……。
 確かに、これ以上悪くなりようは無いわよねぇ……」
「いや、あるんじゃないのか」
 ヒナギクが何とかポジティブになろうとしていたところを、ナギが崩した。
「お嬢様!!
 せめてこんな状態なんですから、少しは楽観的に……」
「……あれを見てもか?」
 ナギはハヤテとヒナギクが立っている所の後ろを指差した。
 熊がいた。
「………」


 Scene.42

「泉……大丈夫かな?
 ……ハヤ太君がいるから、ナギリンたちは大丈夫だと思うが」
「ああ、あっちは無敵だな。
 虎鉄とヒナもいるし」
「それなら、泉も大丈夫じゃないのか?
 雪路も人間じゃないし」
「………」
 2人の雪路を思いっきりバカにした会話を聞き流して、千桜は別の事を考えていた。
(まさか……あの会長が……驚きだな……)
 そう、前日に愛歌から聞かされた、ハヤテとヒナギクについてだった。
(三千院さんが綾崎君の事を好き、というのは知っていたが……。
 会長までが……)
 なぜ他人の恋愛についてここまで真剣に考えているかというと、他人事ではないからである。
(……確かに、綾崎君はまじめで頼りになって、顔もまあまあでガ○ダムの生まれ変わりみたいに強くて……。
 ……私も気になってはいるけど……。
 ……でも、会長と争うのは気が引けるし、勝ち目がなさそうだし……。
 他にもたくさんライバルがいるとかいう噂もあるし。
 諦めるしかない、か……)
 少女の悩みは深まっていく。


 Scene.43

「大丈夫ですか?マリアさん」
「ええ、何とか……」
 翼は、マリアと自転車の二人乗りで高尾山のふもとに駆けつけていた。
 ちなみに所要時間10分。
「さすがは姫神君ですね。
 速いですよ」
「でも、たぶんハヤテの方が速いですよ。
 あいつ、自転車便で業界最速でしたから」
「……てことは、あなたも自転車便を?」
「ええ、そうですよ。
 ミコノスから帰ってきた直後、関西で自転車便をやってた事があるんですよ。
 西の最速はオレでしたけど、東の方が速いともっぱらの噂でしたよ」
「それは……。
 でも、ハヤテ君たち、大丈夫でしょうか?」
「だといいですけどね……。
 まあ、親父たちはハヤテがハイキングに行ってるだなんて、すぐにはわからないでしょうから。
 お屋敷か学院を最初に回ると思いますよ」
「そうですけど……、熊に襲われているなんて事は……」
「まさか。
 あり得ません。
 逃げ出した凶暴な熊が、なぜか高尾山に迷い込んで……なぜかバッタリ出会ってそしてなぜか教われるなんて運の悪い事、あるわけないですよ」


 Scene.44

「うわああああああ!!!」
 ハヤテたちは全速力で山を駆け上っていた。
「何で熊がいるんですか!?そして何で襲われてるんですか僕たち!?」
「山だからじゃない?」
「山に普通に野生の熊が出没するわけないじゃないですか!!!」
 ハヤテが全力でツッコんだが、実際出没しているからピンチなのである。
「もう……だめだ……」
 東宮とナギのスピードがだんだんと落ちてきていた。
 火事場のくそ力とかアドレナリンとか何とか言っても、結局人間は体力が尽きたら終わりなのである。
「仕方ありませんね……。
 僕がお嬢様と東宮君をおんぶして走るんで、ヒナギクさんは先に行っててください」
「そんな事できるわけないじゃない!
 第一、2人もおぶって熊から逃げるなんて不可能でしょ!!」
「大丈夫ですよ。体、鍛えてますから」
「そういう問題じゃなくて……。
 私がどっちかをおぶるわ」
「え!?
 だめですよヒナギクさん、危険すぎますって!!」
「そうですよ桂さん!
 桂さんにそんな苦労を背負わせるくらいなら、食われた方がまだましです!!」
 東宮もそう反論したが、ヒナギクは有無を言わせずに東宮を抱えた。
 俗に言うお姫様だっこ状態である。
「えええええ!?
 そっちなんですか!?!?」
「だって、ハヤテ君ナギの執事でしょ?
 仕方ないじゃない」
 ヒナギクは平然としていた。
 一方の東宮は、あまりの急展開についていけず、失神寸前だった。
 まあ、自分の思いを寄せている相手にお姫様だっこ、しかもされる側なのだから、失神しそうにもなるだろう。
 ヒナギクはそんな事お構いなしに、ハヤテに呼びかけた。
「さあ!
 早くしてよ!!
 私だって、結構疲れるんだから……」
「だったら、せめて代わりますよ!!
 東宮君の体重、お嬢様の2倍くらいあるんですから!」
 ちなみに、ナギは29kg、東宮は52kgである(単行本1巻・5巻プロフィール参照)。
「大丈夫だから、早くナギを!」
「わかりました。
 では……」
 ハヤテはナギをひょいと持ち上げると、すぐさま走り出した。
 ヒナギクが後に続く。
 熊も後に続く。
 状況は、確実にまずくなっていた。
 と、そこへ。
「あれ?ハヤテ君にナギちゃんにヒナさん?
 どうしてここに、しかも制服でいるのかな?」
 聞き覚えのあるハムスターボイスがした。


 Scene.45

「でも、参ったわね~。
 綾崎君たちも橘君たちも見つからないし。
 どこへ行ったのかしら?
 ……ねえ瀬川さん、携帯持ってない?」
 雪路が泉に聞いた。
「ほえ?携帯?
 ……あ!忘れてきた!」
「全く……しょうがないわね」
「そういう桂ちゃんはどうしたの?」
「ふっ……甘いわよいいんちょさん……。
 この私が!
 お酒にかけるお金を犠牲にしてまでケータイの基本料を払う人間だと思ってるのかしら!?!?」
「………桂ちゃん、絶好調だね♡」
 とりあえず、泉はそう言っておいた。
「でも、まさかと思うけどあの子たち、熊に襲われてたりしないわよね?」
「いくらなんでもそれはないと思うよ。
 でも……ライオンとかならいるんじゃない?」
「何言ってるの瀬川さん。
 ライオンが山にいるわけないじゃない」
「じゃあ……あれ何?」
 泉がある方向を指差した。
 ライオンがいた。
「………」


 Scene.46

「歩!どうしてこんなところに!?」
 4人の前に現れたのは、西沢歩と、西沢一樹の兄弟である。
「いえ、今日で春休みも終わりなんで、少し体でも鍛えようかなぁと。
 ついでにこいつも」
「な!ついでとは何だ!!」
「……仲いいわね」
 ヒナギクは、自分の姉を想像した。
 そして、自然とため息がこぼれた。
「で?ヒナさんは何でこんなところにいるんですか?」
「ああ、今日はクラスの親交を深めるためのオリエンテーションよ」
「え!?
 てことは、白皇学院ってもう始まってるんですか!?授業!?!?」
「まあ、先週の金曜日から始まってるけど……」
「……ところで、どうしてそんな状況になってるんですか?」
「へ?」
 一樹に指摘され、ヒナギクは今一度自分の状況を見直した。
 男の子をお姫様抱っこで抱えている状態。ついでにその男の子は絶賛失神中。
「えーと……この子は……。
 ダンベル!!そう!ダンベルよ!
 すっごくリアルに作られてるけど、れっきとしたダンベルなのよ!!」
「……姉ちゃん、この人嘘下手だな」
 一樹にストレートに言われ、ヒナギクは落ち込んだ。
「まあまあ、事情があるのはわかりますから。
 で?どんな事情なんですか?」
「それは……」
 ハヤテがナギをいったん下ろして、説明しようとした時、ドドドドという轟音が聞こえてきた。
 東宮君を除く全員が揃って後ろ、というか山の下の方を見た。
 熊が走っていた。
 ついでに、後ろにはサイがいた。
「……事情って、あれですね」
「洞察力あるわね」
 ………。
 しばしの沈黙、そして……。
「逃げろー!!!!!!」
 6人(うち2人は抱えられているが)は揃って駆け出した。


 Scene.47

「あら、愛歌さん」
 あまり急いでも仕方ない、という事からゆっくりと山を登っていたマリアと姫神は、途中で愛歌に遭遇した。
「どうしたんですか?こんなところで、しかも1人だなんて……」
「いえ、実は、班の人とはぐれてしまって……。
 マリアさんこそ、こんなところで何を?」
「実は、三千院家の遺産を狙っている人が脱獄したというニュースを見て、ハヤテ君の命が危ないと思ったので……」
 愛歌は三千院家と付き合いがあるし、ナギやマリアとも初対面ではない。
 当然、三千院家の遺産を巡る条件などの事情も、大まかなことは知っている。
「そうですか。
 綾崎君は、私とは違う班なので、どこにいるかわかりませんが……。
 よろしければ、一緒に行動させてもらえませんか?」
 愛歌はそう聞いた。
「ええ、別にいいですけど……。
 でも珍しいですね、愛歌さんのようなしっかりした方が迷子になるなんて」
 マリアが笑いながら、深い意味も無くそう言った。
 なので、愛歌の表情が少し曇ったのを見て、不思議そうに尋ねた。
「どうかしたんですか?
 もしかして、迷子になったのには何か訳があるんですか?」
「ええ、確信はありませんけど……。
 この石が、おそらく……」
 そういって愛歌は、マリアと翼にペンダントを見せた。
「まあ、この石は……!
 では、おじいさまから渡されたのですね?」
「ええ……」


 Scene.48

「おーい、伊澄ー!」
 ワタルが伊澄に追いついた時には、すでに2人とも迷子になっていた。
「どうしたんですか、ワタル君?」
「どうした、って……。
 見ろよ、春風さんだけじゃなく、ねーちゃんともはぐれちまったじゃねーか」
「あら……。
 愛歌さん、うっかりしてますね……」
「……じゃなくて、迷子になったのはオレたちの方だぞ?」
「ワタル君、迷子になったのですか?」
「オレだけじゃねーぞ。
 伊澄だって、オレと一緒にいるんだから、迷子になってるんだぞ」
「それは困りましたね」
「………」
 ワタルは、ちっとも危機感を抱かない伊澄に戸惑っていた。
 と同時に、これは一生に一度のチャンスではないか、と思っていた。
 山の中、誰もいない環境で、2人きり。
 誰かに盗み聞きされる心配もなければ、邪魔される心配もない。
 普段なら、どうやっても作り出せないような、絶好のシチュエーションである。
(どうする?オレ。
 このチャンスを活かすか?
 でも、フラれたりしたらどうすれば……。
 いや!
 そんな事ばかり考えてるから、いつまで経っても告白もできないで、ナギにも咲夜にもバカにされるんだ!!
 ナギだって、ついにあの執事に想いを伝えたって言うし……)
 ワタルは深く息を吸い、切り株に腰掛ける伊澄に話しかけた。
「な…なぁ、伊澄。
 ……話があるんだ」


 Scene.49

「何であんなのに襲われてるのかな!?!?」
「僕に聞かれても知りませんよ!!」
「こうなったら、あそこの分かれ道で分かれるわよ。
 大人数でいると、逃げにくいから」
 そういって、6人は3本の分かれ道にそれぞれ2人ずつ入った。
「うわああああ!何でサイが来るのかな!?」
 歩が入った道にはサイが追ってきていた。
 サイは歩めがけてまっすぐ突進してくる。
「イナズマキーック!!!」
 ハヤテがサイに思いっきりとび蹴りを食らわせた。
 サイは斜面をごろごろと転がっていった。
「ふうっ……大丈夫でしたか?西沢さん」
「うん……大丈夫だけど……」
 そこで2人はお互いに黙り込んだ。
 先に口を開いたのは、ハヤテだった。
「アルバイトの時は、お嬢様の世話をしてくださって、ありがとうございます」
「いいよ、そんなかしこまらなくても。
 私だって、ナギちゃんにもハヤテ君にもいっぱいお世話になってるし。
 困った時はお互い様、でしょ?」
「……はぁ……」
 そこでまた会話は途切れた。
 ハヤテとしては、先日の神父との会話の直後だけに、少し後ろめたい気持ちがあるのだ。
(やっぱり、自分の気持ちははっきりさせないといけない、よな……)
 一方の歩も、考えているのは同じような事だった。
(せっかくハヤテ君に会えたんだし……)
 ヒナギクが正式にライバルとなった事で、歩の心にも多少の焦りが出ていた。
(やっぱり、もう一度、告白とかして、はっきりさせた方がいいんじゃないかな?)
 そして2人は、意を決して口を開く。
「あの!!」
 当然、言葉はシンクロする。
「……西沢さんからどうぞ」
「……いやいや、ハヤテ君からの方がいいんじゃないかな?」
 2人はしばらく譲り合ったが、ついにハヤテが話し出した。
「あの……。
 1月に潮見高校に行った時……。
 西沢さんからあんな事言われて、正直、すごく驚きました」
「……まあ、私も、ハヤテ君に会えなくなるかも、って思ったら、いつの間にかあんな事言っちゃってて……。
 自分でも驚いたんだよ?」
「ええ。
 それで、あの時はあんな嘘までついちゃって……。
 本当にすいませんでした」
「いいよ、別に」
「それでもまだ好きでいてくれている、と知って、安心もしましたし、嬉しかったです。
 でも、それ以上に……。
 何でここまで気持ちが変わらないんだろう、と不審にも思ったんです」
「……え……?」


 Scene.50

「何ですか、ワタル君?」
「あ…あ…あのな……伊澄……」
「?どうしたんですか??」
 ワタルは緊張して、なかなか言い出せない。
 伊澄はそんな事情を全く知らないので、ただきょとんとしている。
「じ……実は……オレ……い……」
「何と言ってるんですか?」
 あまりに途切れ途切れ、しかもとても小さな声のワタルの言葉は、伊澄には届いていなかった。
「そ……その……い……いす……」
 その時、突然猛獣の雄叫びが響いた。
 2人の所に現れたのは、パンサーだった。
「嘘だろ!?」
 ワタルは伊澄の手を引いて、駆け出した。


 Scene.51

「はぁ……はぁ……」
「大丈夫?ナギさん」
「あ……ああ、大丈夫だ」
 ナギは一樹に弱々しく笑った。
(そういえば……私は、ハヤテと相思相愛だから、という勘違いを理由にして一樹をふったんだな……。
 本当に、ひどい事をしたな……)
「あの……ナギさん」
「ん?どうしたんだ、一樹?」
「……ナギさんは、青い髪で女顔で貧乏そうなあの執事の事が……好きなんだよね?」
「……どれひとつとして否定できないな……ああ、そうだ。
 私はハヤテの事が好きだ」
「……うん……。
 それは、わかってる。
 ……でも!!」
 そこで一樹はナギの手を強引に握った。
 あまりに突然の事で、ナギの顔は赤く染まった。
「ばっ……何をするんだ!」
 ナギが少し大声を出すと、一樹はぱっと手を離した。
「あ……ごめん……」
「……いや、そんなに怒ったわけでもないんだが……。
 で、何だ?」
「……ナギさんが、あの執事の事を好きだって、わかったうえで、もう一度言うよ。
 僕は……、あなたの事が好きです。
 初めて会ったときから、ずっと……」
 一樹はそういって、ナギの目をまっすぐに見つめた。
「…………一樹が真剣なのは、よくわかった。
 だが……少し考えさせてくれないか?
 時間がほしい」
「それならいいよ。
 ただ……想いを伝えたいだけだから…………」
 その時ナギは、歩と一樹が兄弟である事を改めて感じた。
 そして、そんな家族がいる事が、少しうらやましくもあった。


 Scene.52

「ん……あれ?ここはどこだ?」
「……あら、気がついた?東宮君」
 ヒナギクが東宮に聞いた。
「……!!桂さん!?
 どうなってるんですか!?!?」
「あら、覚えてないの?
 私があなたの事を抱えたら、突然東宮君失神しちゃうから……。
 ここまで運んでくるの、大変だったのよ?」
「そうだったんですか……ありがとうございます」
 東宮は軽く頭を下げた。
「いつか、必ずお礼します」
「そう?本当に?」
 ヒナギクが疑いの目を向けるので、東宮は必死になって言った。
 好きな人に信用されていない事ほど、悲しい事はない。
「はい、必ずです!
 何がほしいですか?」
「……だったら……あれを何とかしてくれると嬉しいわね」
 ヒナギクがゆっくりと指差した方向には、さっきの熊がいた。
「……うわああああああ!」
 東宮は我先にと逃げ出した。
 ヒナギクが後に続いていたが、すぐに追い越した。
「何とかしてくれるんじゃないの!?」
「そうは言われても、どうすればいいか……そうだ!!」
 東宮は何かひらめいて立ち止まった。
(……まさか、熊といえば定番のウソ知識『死んだフリ』でだまそうとか考えてないわよね……?)
 東宮はリュックからあるものを取り出した。
 それは、スケッチブックだった。
 『死んでます。』と書いてある。
「…………」
 ヒナギクも熊も黙り込んだ。
(……熊にそれを読めと……。
 ……そして読んだからどうしろと…………)
 東宮はスケッチブックを見せながら、「オレ、やりましたよ」と言わんばかりに爽やかな笑顔でヒナギクに向かって親指を立てた。
 しばしの沈黙の後、熊は再び襲いかかってきた。
「う……うそだああああああああ!」
 東宮は自分の計画が完璧だと思い込んでいたらしく、絶叫した。
 熊は東宮にあと一歩というところまで近づいている。
 と、そこへヒナギクが木刀・正宗を構えて突撃してきた。
「うりゃああああああっ!!」
 ヒナギクは正宗を思いっきり振り下ろし、熊に強烈な一撃を食らわせた。


 Scene.53

「……ほら、僕の親って、あんなダメ人間だったじゃないですか?
 だから、小さい頃から、愛だとか、感謝とか、全くされないまま生きてきたんですよ。
 あーたん以外から褒められた事、一度もありませんでしたし……。
 ですから、西沢さんにそんなに好かれてる、と知っても、実感がわかなかったんです」
「……ハヤテ君……」
「本当に初めての経験だったんです、誰かに好かれるなんていうのは。
 だから、どうしていいかわからなくて……。
 借金もあって、お嬢様に雇われている状態でいいと言う事もできなかったし、かといって断る事もできなくて、それでずっと先延ばしにしていました。
 でも、おととい、ある人に言われて、ようやく気づいたんです。
 自分の都合で、先延ばしにするなんて、絶対してはいけない事なんだって……」
「そんな事ないよ!
 私は、いつまでも待てるから!
 借金があっても気にしないし、ハヤテ君がどれだけ先延ばしにしても、いいんだから!
 それに……」
 早口で言う歩を、ハヤテは手を振って制止した。
「ありがとうございます、西沢さん。
 ……でも、これは僕の問題なんです。
 ですから……」
 歩の心臓の鼓動が刻々と早くなり始めた。
 ハヤテは短く息を吸うと、突然頭を地面につけて、大声を出した。
「すいませんでした!!」
「……へ?」
 それは、俗に言う土下座。
 歩も訳がわからずに気の抜けた声を出した。
(……あれ?
 選択ミスった?)


 Scene.54

「あ、美希ちゃ~ん!」
「おお、泉と雪路じゃないか。
 いったいどうしたんだ?」
「いやぁ~、探すって言ってもどうしたらいいかわからないから、とりあえず適当にうろうろしてたらライオンにばったり会っちゃって。
 必死に逃げてたら迷子になったから、近くを歩き回ってたら、ここに出てきちゃった」
「……おい理沙。雪路が担任でいられるのも今日までだろうから、今のうちにお別れしておいた方がいいぞ」
「ああ、そうだな。
 さよなら、雪路」
 2人は目を閉じ、雪路に手を合わせた。
「先生だぞ!バカにすんな!!」
 案の定、雪路は子どもっぽく怒った。
「………」
 その様子を、千桜は冷ややかに見つめていた。
 と、突然大きな爆発音がした。
「……え?」
「おい……あの音、ライオンの鳴き声か?」
「いや、違うだろ」
 雪路が冷静にツッコんだ。
『……そこの女たち!
 綾崎ハヤテの居場所を教えろ!』


 Scene.55

「何でしょうか!?さっきの音」
 マリアが深刻そうに聞いた。
 さっきの爆発音は、マリアたちのところまで響いていた。
「あの爆発音……たぶんどこかのロボットじゃないでしょうか?」
 愛歌が意見を出した。
「……なら、やっぱり親父たちが来たんだな」
 翼がため息をつく。
「……オレ、先に様子を見てきます!」
「あ、待ってください!」
 マリアが止めたが、翼はすぐに走り出した。
 が、すぐに引き返してきた。
 その後ろには、ライオンがいる。
「ぎゃあああああああ!
 何で山にライオンがいるんだあああ!」
 愛歌とマリアもそれを見て駆け出した。


 Scene.56

「どうすりゃいいんだよ!?」
 ワタルは怒鳴った。
 せっかくの告白のチャンスをパンサーに邪魔されたのだから怒るのは当然だが、かといってどうする事もできない。
 そのうち、伊澄がだんだんと疲れて失速していった。
「おい……大丈夫か伊澄!?」
「先に行ってください……ワタル君……。
 私は大丈夫ですから……」
 パンサーは刻々と近づき、そしてついに伊澄に飛び掛った。
 伊澄が恐怖に目をつぶったその時、ワタルが伊澄を突き飛ばし、パンサーの前に立ちはだかった。
 パンサーは面食らったものの瞬時に標的を変え、ワタルの体を爪で切り裂いた。
 しかしワタルはびくともせず、パンサーを近くに落ちていた棒で思いっきり叩いた。
 パンサーが痛みでワタルから離れた。
 ワタルはなおも、さっきの枝でパンサーにさらなる一撃を加えた。
「ぎゃううっ!」
 パンサーは苦しそうに呻いて、山の斜面を転がり落ちていった。
「ワタル君……なんで……」
 伊澄が驚いている。
「何でって……理由なんか要らないだろ……。
 俺はお前の事が…………うっ!」
 見ると、ワタルの制服は3本の深い傷をつけられて、ボロボロになっていた。
 腹からは血がにじみ出ていて、制服は赤黒く染まっている。
「だ……大丈夫ですか!?ワタル君」
 そこへ、ナギと一樹が通りかかった。
「おお、伊澄じゃないか!
 それにワタルまで……って、どうしたんだその傷!?」
 ナギが急いで駆け寄った。
「僕、救急車を呼ぶよ!」
 一樹はかなり慌てている。
「待て。
 こんな山奥に救急車が来るわけが無いだろう。
 ……一樹、携帯を貸してくれ」
「……いいけど、ナギさんのは?」
「置いてきたんだ、諸事情でな。
 ……おい、クラウス?至急医療班をこっちによこしてくれ。……ああ、今すぐだ。……場所?……この携帯の発信場所を特定できるだろ。
 ……早くしてくれ。許婚の命に関わる。一時を争うんだ。
 ……ああ、なるべく急いでくれ」
 ナギはそう言って電話を切った。
「ナギさん……今のは?」
 一樹が慌てて聞いた。
「私の執事長に連絡した。
 安心しろ、5分以内に医療班のヘリが来るはずだ」
「……よかった……。
 ……ところで……」
「ん?どうした?」
 一樹がまだ何か疑問があるようなので、ナギは聞いてみた。
「あの……。
 許婚って、何の事?」
「ああ、そんな事か。
 ワタルは、私の許婚なんだ。
 ……安心しろ、お前の考えている事は100%間違っている」
 一樹がこの世の終わりが訪れたみたいな顔をしたので、ナギは慌ててつけたした。
「ワタルの親が、財産目当てで勝手に決めた婚約だからな。
 私もワタルも、一刻も早く解消しようとしているところだ」
 それを聞いて、一樹はほっとしたように息を吐き出した。
 その時、突然大きな爆発音がした。
「何だ!?」




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