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「ハヤテのごとく!」二次小説

 小さな願いと、大きな夢

 今日は12月24日、クリスマスイブ。
 練馬区の半分を占める広大な屋敷、三千院家では、盛大なパーティーが開かれていた。
 目的は、そこに仕えるメイドのマリアの誕生日である。
「マリアさん、お誕生日おめでとう」
「おめでとうございます」
 咲夜と伊澄が、きれいな花束を贈った。
「まあ、ありがとうございます。
 でもいいんですか、ただのメイドの私なんかのために……」
「何言うてるんやマリアさん。
 マリアさんはいっつもウチらのために尽くしてくれとるやないか。
 せっかくの誕生日や、心置きなく楽しみな」
「そうですよ、マリアさん。
 ナギのためにいろいろと苦労させられているんですから……」
「悪かったな、いろいろと苦労させていて」
 伊澄の背後から、不機嫌そうな声がした。
 もちろん、この屋敷の主、三千院ナギである。
「ナギ、聞いてたんですか……?」
「ああ。最初から最後まで全部な」
「それは……ごめんなさい」
「いや、別にいいんだ。
 それよりマリア。
 これ、プレゼントだ」
 ナギは中くらいのケースをマリアに手渡した。
「開けてもいいんですか?」
「もちろんだ」
 中身は、きれいなブレスレットだった。
「ありがとう、ナギ」
 マリアが心からそう言うと、咲夜が聞いた。
「ナギ、でもこれ、安物とちゃうか?」
「悪かったな。
 アルバイトで貯めた金でハヤテへのプレゼントを買った時に、少し余ったんだ。
 それで、せっかくだから、マリアにもプレゼントしてやろうと思って」
 ナギは口を尖らせてぼそぼそと言った。
 その言葉で、マリアの目に涙が浮かんだ。
「ありがとうございます、皆さん……」
「だから、いいんやって。
 それより、こんなんで泣いとったら、この先持たんで?」
「……え?」
 見ると、3人の後ろに、何人もの人が並んでいた。
 ワタル、サキ、ヒナギク、雪路、クラウス、歩、ハル、愛歌。
 みんな何かしらのプレゼントを持っていた。
「ほら、早く受け取りに行け。
 みんな、マリアのために来たんだからな」
 マリアはハンカチでさっと涙を拭うと、駆け出した。
「マリアさん、よかったですね」
 伊澄がつぶやいたが、咲夜は少し気になっているような顔をした。
「どうした?咲」
「いや、な……。
 ハヤテはどうしたんや?」
「あ……」
 確かに、ハヤテはいなかった。
「そういえば、午前中から姿を見ていないような……」

 

 盛大なパーティーもその幕を閉じ、夜の三千院家には静かな時間が訪れた。
 マリアは、1人で寝室に座り込んでいた。
「……今年も、家族には会えませんでしたね……」
 マリアは夜の寒さに震えながら(もちろん、暖房は入っているのだけど)、静かに呟いた。
 確かに、マリアは、今の日常に、満足していた。
 ナギや咲夜や伊澄やハヤテと暮らす、平穏な日常。
 それで十分だ。
 でも……。
 やはり、自分の家族には会いたい。
 確かにナギもハヤテも家族同然の存在だが、あくまで「同然」。
 家族そのものではなかった。
「私は、もう絶対に家族に会えないのでしょうか……」
 マリアがため息をついたとき、寝室のドアをノックする音が聞こえた。
「……マリア……さん?起きてますか?」
「……ハヤテ君?」
 マリアはドアを開けた。
 目の前には、息を切らして立っているハヤテの姿があった。
「どうしたんですか?こんな夜遅くまで……」
「少し用事があって……。
 まずは、お誕生日おめでとうございます、マリアさん」
「ありがとうございます、ハヤテ君」
 マリアはにっこりと微笑んだ。
「サンタさんよりも素敵なプレゼントをくれるって、約束しましたよね?」
「はい。でも、その前に……。
 マリアさん、さっきの言葉……本気ですか?」
「さっきの……?」
「ほら、『絶対に家族に会えない』、っていう……」
「ああ……聞いてたんですか?
 ……仕方ないですよ。
 私が拾われたのは赤ん坊の頃でしたから、家族の記憶はまったく残っていません。
 DNA鑑定しようにも、日本人全員のDNAと比べる事なんて不可能ですから。
 たぶん、無理でしょう……」
「そんな事、ないですよ」
 ハヤテはマリアの言葉をさえぎって、きっぱりと言った。
「確かに、可能性は、低いかもしれません。
 永遠に会えないかもしれません。
 でも……、僕は、この三千院家に来て、気づいたんです」
「何に……ですか?」
「僕も、1年前の今日の境遇は、本当にどん底でした。
 親に売られて、やくざに追われて……。
 挙句の果てに誘拐まで企んで。
 本当にだめな人間でしたよ。
 でも……。
 今は、幸せです」
 マリアはその言葉で、はっとしたように目を見開いた。ハヤテは続ける。
「これだけは、間違いなく言えます。
 未来は、変えられるんです。
 信じていれば、不可能なんてないんです。
 「絶対」なんて、信じちゃいけないんです。
 それに……」
 そこでハヤテは言葉を切り、ポケットから何かを取り出した。
 それは、ラピスラズリの、美しい指輪だった。
「これは……」
「ラピスラズリ。12月の誕生石です。
 幸運やチャンスをもたらす、聖なる石です。
 ……マリアさん。
 さっきの言葉の続きです。
 もしもあなたの本当の家族に、会えなかったら……。
 僕があなたの家族になります」
 そういって、ハヤテはその指輪を差し出した。
 よく見ると、指輪には、小さく文字が彫ってあった。
「A・マリア……」
「特注品なので、作るのに時間がかかって……。
 お金も足りなかったので、今日1日バイトをして稼いで買ったんですよ」
 ハヤテの、底知れぬやさしさに、マリアは何か心に暖かいものが流れるのを感じた。
「ハヤテ君……。
 これからも、ハヤテ君に迷惑をかけてしまうと思いますが……。
 それでも……、ずっとそばにいてくれますか?」
 ハヤテはその言葉を聞くと、満面の笑みで応えた。
「もちろんですよ」
 2人は無言で、手を握り合った。
 お互いに、心地よい温もりを感じた。



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