Our Story's Park(7)
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「ハヤテのごとく!」二次小説

THE END OF ROYAL GARDEN

 ①君と望んだ、二人だけの世界
 私が幼かった頃。
 王族の庭城には、3人の女性がいました。
 私と、マリアと、そして……三千院紫子。
「えいっ!」
「きゃああっ!!
 ……アテネさん、いい加減にしてください……」
 マリアは、三千院帝から、王族の庭城でしばらくの間暮らす事を命じられていました。
 私の遊び相手になってほしい……というのが建前なのは言うまでもないでしょう。
 そして紫子様もまた、2人の世話役として送り込まれてきたのだが、それもまた建前。
 帝は、紫子様は体が弱いので、時間の進みが遅い王族の庭城で暮らす事によって、何とか体調を整えてほしいと考えていたのです。
 もちろん、帝の考えていたのはそれだけではなかったのですが、その頃の私はそこまで気づきもしませんでした。
 紫子は自室でずっと療養している予定だったのですが、2人があまりに手がかかるため、帝の作戦は大きく狂いました。
 私としては、これ以上よい事はなかったのですけど。
 ある人に連れ去られて、幼い頃からずっと、王族の庭城に独りで閉じ込められていた私は、誰かと話したり、コミュニケーションをとったり、というやり方を知りませんでしたの。
 その時も、紫子様に盛大ないたずらを仕掛けて、マリアと2人で楽しんでいました。
 紫子様は元からおっとりしていて、寛大な性格でしたので、それについてはあまり厳しく叱りませんでしたけど。
「……2人とも、誰かと話す時は敬語を使ってください。
 父から言われてるんですから……」
 紫子は、ここに来る前に帝から、私たちに正しい礼儀作法を教えるよう、きつく命じられていたようです。
「はーい」
 でも、私たちは適当に返事を返すと、また遊びに興じはじめました。
 紫子様も諦めたように、今度は私たちの遊びに参加し始めました。
 私たち3人の日々は、とても輝いていましたわ。
 ……でも、そんな日々が、長く続くわけがなかったのです……。


 ②別れへの予兆
「あああっ!!」
 突然紫子が苦しみながら床に倒れこみました。
 私たちは驚いて、すぐに紫子様の元に駆け寄りました。
「……大丈夫ですか、紫子さん!?」
 ……事態が動き始めたのは、紫子が妊娠した時でしたわ。
 出産できる設備なんて、王族の庭城にはありません。
 なので紫子は、ここを出て下界で暮らす事を余儀なくされたのです。
 そしてそれから、私たち……私とマリア、2人だけの生活が始まったのです。
「アーたん!」
 マリアが誰かを呼びました。
 でも、そんな呼び名の人、王族の庭城には住んでいません。
 ここにいるのは、私とマリア、2人だけなのですから。
「アー…たん?
 誰の事ですか?」
「だって、アテネって名前でしょ?
 だから、アテネのアをとって、アーたん」
「どうして一文字しか残っていないんですか!?
 第一、アだけだったら、マリアも当てはまるでしょ?」
「………あれ?本当だわ……」
「……マリアって本当におバカさんね。
 けどいいわ。
 アーたんって呼ぶの……マリアが私のメイドになってくれるなら、許してあげる」
「……メイド?何それ?」
「……簡単に言うと、私とずっと一緒にいてくれればいいのです」
「それなら簡単だわ。
 だって……私は、アーたんの事、大好きだから」
「……うん、私もですわ?」
 その時から、マリアはこの城で暮らす時はメイド服が基本スタイルとなりました。
 ……もっとも、だからと言って私たちの関係には何の変化もありませんでしたけど。
「マリア……私とあなたは、ずっと一緒ですわね?」
「はい、アーたん。
 私とアーたんは、ずっと一緒だわ」
 しかし、それも長くは持ちませんでしたの。
 帝が紫子とマリアを王族の庭城に送った理由は、1つだけではありませんでした。
 帝が2人を送り込んだ、最も大きな目的……それは、王族の庭城を、自分の所有物とする事。
 ロイヤル・ガーデンの守護神、キング・ミダスは王族の庭城の正式な所有者を、三千院紫子としました。
 キング・ミダスを見る事ができるのは、正式な所有者だけだったのです。
 ところが、紫子が王族の庭城を去った事で、紫子の所有権は消滅した……。
 そして、本当なら私が選ばれるはずだったのだけど、私には所有するだけの力量がないと、キング・ミダスは判断したようなのです。
 今の所有者は、他でもない、マリア。
 三千院側の人間ではあるが、間違った帝の命令に従う人間ではない……。
 ここに来て、王族の庭城を自分のものとする、という帝の計画は大きく狂ってしまったのです。
 そこで帝は、一度マリアを城から連れ出す事を決めたのです……。


 ③二度と届かない声で
 王族の庭城を出る事ができるのは、所有者だけ。
 王族の庭城に入る事ができるのは、キング・ミダスに選ばれた人間だけ。
 ……だったら、アテネを孤独にする事で、いずれ所有者になった時に、私も王族の庭城を放棄する……帝はそう考えていました。
 そしてその読みは、少し違った形ですけど、当たってしまいました。
 私も愚かですわね、三千院帝の策略にまんまと引っかかってしまうなんて。
「アーたん……」
「マリア……行かないで……」
「ごめんなさい、アーたん……。
 でも、おじいさまに逆らう事はできないんです……本当にごめんなさい……」
 マリアは、最後まで謝りながら、城を去って行きました。
 誰もいない、静寂に包まれた城の中央で、私は1人、泣きながら、唯一の友達だけを、ただ呼び続けました。
「……マリア……。
 うう……また私……また私は一人で……ここで…………。
 マリア……もう一度私の名前を……」


 ④左手に希望を込めて
 それから、下界では3年の月日が流れました。
 もちろん、王族の庭城では、それより遥かに長い時を、私が、たった一人で過ごしていましたわ。
 私はずっと1人、マリアの幸せそうな顔を見つめながら孤独に生きる事しかできない……私はすでに諦めていました。
 それでも王族の庭城にいたのは、ここを出る事は、プラスには働かない……そう思ったからでした。
 ここでなら、マリアを見る事もできるし、マリアとの思い出がある……。
 ここにいる限り、1人ではないと、そう思っていましたの。
 ……そこへ、運命の出会いが訪れたのです。
「そうだよ僕なんか……いっそこのまま死んでしまえばいいんだ」
 それは、孤独だと思っていたアテネの元に迷い込んできた、1人の少年。
 すでに忘れかけていた、「他人」という存在……。
「ダメよ。
 そんな悲しい事を言っては」
 私は気がつくと、その少年に話しかけていた。
「左手くらいなら私が貸してあげますから……」
 私は、その少年が、すでに生きる気力を失っている事を感じ取りました。
 でも私は、それを好都合だと受け取りました。
 少年は下界に絶望している。
 なら、この城で暮らす事が、少年にとっても幸せだし、私にとっても幸せな事。
 だから……。
「あなた、私の執事をやってくれません?」
 そう簡単に受け入れられる事でないと、私も知っていました。
 でも、それでも、この少年と一緒にいたい。
 あの出会いは、運命かもしれないと、そう思ったのです。
 そしてそれは、次の言葉で確信へと変わりました。
「だけどアーたん!!」
「アー…たん?」
 私が、マリアにだけ呼ぶのを許した、その愛称。
 それを、ハヤテは、
 何も言っていないのに。
 誰も教えていないのに。
 すぐに、そう呼んだのです。
 そしてその時、私は、その出会いを、運命だと確信しました。
「アーたんって呼ぶの、私の執事になってくれたら……ハヤテには許してあげる」
 そして、孤独だった私に、また2人での生活が訪れました。


 ⑤孤独への意志
「ね、すごいでしょ?」
 私がハヤテに見せたのは、私の愛しい友人、マリアの姿。
「どんな仕組みになっているのかわかんないけど……すごく可愛い女の子が映ってるよー?」
 その時、不意に私は恐怖を感じました。
 ハヤテが鏡を通じて、下界への親しみを覚えることに。
 ハヤテが鏡を通して、下界をここより面白いものだと感じることに……。
「……この道具はやめです」
「ええ!?ちょっ……!!アーたん!!」
『……だから、アテネのアをとって、アーたん』
『……だから、アテネを略してアーたん』
 ……自分の名前を……呼ばれたのはいつ以来の事だったかしら……。
 果てしない時間の中で、私はすでにマリアとの思い出さえも、断片的にしか思い出せなくなっていたのです。
 でも、今はそんな事さえ気になりませんでした。
 なぜなら……私には、ハヤテがいるから。
 今はもう……孤独ではないから……。
「ハヤテ……わたしとあなたはずっと一緒よ」
「うん。僕とアーたんは……ずっと一緒だ」
 幸せでしたわ。
 ただハヤテがそこにいるだけで。
 だからあんな終わりがくるなんて……その時は想像もしませんでしたの……。


 ⑥憎悪の王の策略
 そんな私たちを、じっと監視する老人がいました。
 そう……三千院帝です。
「ほう……あの少年が、王族の庭城の新たな所有者か……」
 帝は感じ取っていました。
 ハヤテが、キング・ミダスに選ばれた事を。
 そして、帝は見抜いていました。
 私が、ハヤテに、マリアとの別れによって自分自身から取り除こうとしていた、「愛」という感情を抱き始めた事を……。
「とすれば、できる事はひとつ……。
 あいつを王族の庭城から去らせる事ができれば、アテネは必ず絶望し、王族の庭城を放棄するじゃろう……」
 帝はそのための準備として、王族の庭城付近に別荘を建て、そこに自分に忠実な執事や、自分の孫娘を住まわせ、自分もそこからモニタリングしてチャンスを窺っていました。
 ……そして、そのチャンスが訪れました。
 ハヤテが、しばらくぶりに下界に出てくる事を見通した帝は、三千院家の庭の「ラッキー」という犬を使って、少女を襲わせました。
 瀬川家のご令嬢が、無邪気な娘である事は知っていたから、それを利用したのです。
 そして帝の策略通り、彼女はハヤテにキスをしました。
 これにより、私が怒って、ハヤテを追い出す……帝はそう思っていましたが。
 帝の読みは外れて、私はハヤテを教育する、と言ってハヤテを王族の庭城に受け入れました。
 確かに、私は帝の考え通り、ハヤテに対して怒ったし、あの少女に対して嫉妬もしました。
 ……でも、それよりも、まだ孤独の方が怖い……そう考えるだけの冷静な思考が、私にはまだ残っていたのです。
 ……その時は、まだ。


 ⑦過去からの繋がり
 帝はそれでも諦めずに、次にハヤテが下界に降りてくる時に合わせて、シルバーフェスティバルという祭りを、三千院家の誇る絶大な権力を使って実施させました。
 そして、瀬川家の令嬢を向かわせたり、見知らぬカップルにお金を払ったりして、ハヤテに、指輪を当てさせました。
 ……そして、私とハヤテが、指輪を交換するように仕組んだのです。
 私がハヤテと交換した、あの指輪……それは、紫子様からのプレゼントでした。
 紫子様が、ここを去る時。
『マリア……あなたには、これをあげるわ』
 そういって、紫子様はマリアに、純白のカチューシャを渡しました。
『あなたには、近いうちに、仕える相手ができると思う。
 だから、その時は、これをつけて』
「ありがとうございます、紫子さん」
『……アテネ……。
 あなたには、この指輪をあげる』
「ありがとうございます、紫子様。
 ……でも、これ、男性用じゃないですか?」
『それでいいのよ、アテネ。
 あなたはいつか、運命の男性と出会う。
 その時に、あなたはこれをプレゼントしなさい。
 ……それが、あなたの、愛の証になるわ』
「……でも、これ、大人用じゃないの?」
『ええ、それでいいのよ。
 あなたが出会うのは、もっとずっと先……あと6年くらいしてからの事だから』
「……でも、ここでの6年後と、下界の6年後は違いますわよ」
『…………』
 ……紫子様はサイズを間違えていたようでした。
 ハヤテもサイズを間違えたから、あの2人は似ているのだと思いました。
 でも、私にとってあの指輪は、紫子からの、大切な、贈り物でした。
 ……そして、ハヤテはその指輪を、帝の策略に嵌って、まんまと手放してしまいました。
 私からの、愛の証を。
 紫子と私とハヤテを結ぶ、唯一の品物を。
 それをじっと見ていた私には、ハヤテを許すだけの冷静さも寛容さも、もう残っていませんでした。


 ⑧未来への絶望
「もうお前なんか……!!
 ハヤテなんか……!!
 ここから……!!
 いなくなっちゃえばいいんだ──!!!!」
 その言葉を発した瞬間、ハヤテの瞳から光が消えた。
 暗闇となったハヤテの瞳が、一瞬だけきらりと光ったのを見て、私は胸を締め付けられるような苦しさを覚えた。
『アテネを略して、アーたん』
『アテネのアをとって、アーたん』
『だって僕、アーたんの事スキ……だから……』
『だって……私は、アーたんの事、大好きだから』
『僕とアーたんは……ずっと一緒だ』
『私とアーたんは、ずっと一緒だわ』
『アーたん!』
『アーたん!!』
(ゃめて…やめて……)
 私の愛しい人、私が親しみを感じた人。
 そして、私の前からいなくなってしまった人。
 二人の声が重なって、私はひしひしと絶望を感じました。
「ち…違う……違うのよハヤテ……。
 私だって……私だってあなたと……ずっと一緒に……!!」
 私の前にいてほしい人は、もういない……。
 王族の庭城は、静寂が支配する、孤独な城に戻りました。
 ハヤテからもらった大きな指輪が、冷たい床に鋭い音を立てて落ちてゆく。
 頬を伝う涙が、悲しみを増大させる。
 誰もいない、静寂に包まれた城の中央で、私は1人、泣きながら、もう1人の友達だけを、ただ呼び続けました。
「ハヤテ……もう一度私の名前を……」


 ⑨いつか、虹がかかっても
 ハヤテが去った後の、孤独な城……だと思っていましたけど。
 ハヤテ……王族の庭城の所有者が去った事で、キング・ミダスは新たな所有者として私を選びました。
 でも、私は王族の庭城で暮らすつもりはなかった。
 マリアがいなくなった時、私がここに残ったのは、マリアとの思い出があり、それが私を幸せな気分にさせたから。
 ……でも、今は……。
 ハヤテの事を思い出すだけで、つらくなるのです。
「さよなら、我が『王族の庭城』……」
 王族の庭城を出る事ができるのは、所有者だけ。
 ……だから……。
 私は所有権を放棄して、ロイヤル・ガーデンに別れを告げました。
 そして、私はそこを出て、王族の庭城どころか、日本からも遠く離れたギリシャ共和国のアテネに行ったのです。
 ……あれから10年……。
 私が城を出た時にはすでに、私の両親は亡き人となっていました。
 私は、この、王族の庭城から遠く離れた地で、天王洲家の遺産を使って、暮らしています。
 ハヤテとの思い出のない、ギリシャで……。
 それでも1人の夜、彼女の事を思い出すたびに耐え難いほど胸が痛みます。
 10年経った今でも。
 ……あれから10年……。
 私は、一度だけ、日本に戻りました。
 私があなたを見た時、あなたはガールフレンドと2人で、変な機械で写真を撮っていました。
 私がマリアを見た時、マリアはちっちゃな少女のお世話をしていました。
 ……紫子様からもらった、カチューシャをつけて……。
「ハヤテ……」
 王族の庭城には、入れなくなっていました。
 あそこに入る方法は、キング・ミダスに選ばれる事と、もう1つありますの。
 それは、黒椿の力で、城への入り口を切り開く事。
「まだ夢に出てくるのね……あなたは……」
 そして、黒椿が納められていたのは、あの棺……。
 黒椿が王族の庭城にあるうちは、キング・ミダスが城に入るかどうかの選択権を握っていた。
「……もう一度……我が『王族の庭城』へ……」
 が、黒椿が持ち出された事で、キング・ミダスも、封印されました。
 今や、キング・ミダスに選ばれたかどうかは、城に入る事とは関係ないのです。
「……私は今でも、あなたの事を愛しているわ、ハヤテ……」
 現在、王族の庭城に入る方法は、ひとつ。
 黒椿を手にする事だけ……。
「……それから……」
 三千院帝は、まだ王族の庭城を狙っている。
 黒椿が三千院帝の手に渡ったら、王族の庭城は……この世界の全ては……あの帝のものになるでしょう。
 ……そんな事は……、絶対にさせません。
 もし、もう一度会えたなら私は、あなたに……2つの事を伝えたいのです……。
 来るべき時に、世界の王になるのは、私でも帝でもありません。
「あなたが世界を支配する時が来ますわ……、ハヤテ」
 ハヤテの優しさと強さがあれば、必ず白桜に認められる。
「あなたは今どこで……何をしていますか?」
 たとえ帝が黒椿を手にしたとしても、関係ありません。
 ハヤテは、王族の庭城の支配者になれます。
 ……だから。
「もし、また会えたら……」
 いつか必ず、私は王族の庭城に戻るでしょう。
 そしてその隣には、必ずハヤテがいます。
 帝の手になんて、絶対に渡しません。
 王族の庭城は、私の……私とハヤテのもの。
 そして、私とハヤテが、王族の庭城を所有するのです……。
「……また、キスしてくれますか?」
 ……いつの日か……。



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