Our Story's Park(7)
-Menu-
サイト紹介
サイトマップ
ニュース
作品一覧
OSP資料館
メール
ブログ
OSW ChanneL
rular channel
OSW THEATER

「星くんとついてくん」

 星くんとついてくん 第1巻

 はじめに

「星くん、これ買って〜」
 スーパーマーケットに可愛げな声が響いた。
「お金がないからだめ」
 子どもを諭す親のようにはっきりと断ったのは、星の形をした生物で、名前を星くんという。
「買って、買って」
 先ほどから何かをねだっているのはついてくんというおばけだ。厳密にはおばけと神様のハーフというべきなのだが、外見を見た限りはおばけにしか見えない。
 ついてくんは天界でおばけと神様の間で偶然できた子どもだった。タマゴとして生まれたとき、天界から落ちてしまい、道路でかえった。その時偶然居合わせたの星くんで、以後一緒に星くんの家で住んでいるのだ。
 ついてくんはとにかく食べるのが大好きだ。今スーパーでねだっているのもお菓子の詰め合わせ(¥498)。星くんはついてくんの食欲のせいでお金が急激に減り、足りなくなっていた。はっきり断るのは当然のことなのだ。
「もうお金がないの!」
「買うの!!」
「……じゃあ、1個だけね」
 このように、いつも星くんはついてくんのペースにのまれてしまうのだ。星くんが本気で怒ることはめったにない。
 なぜこんな生物が普通に暮らせるのかというと、この街には普通の人間はほとんど生活しておらず、代わりに不思議な生物がたくさん暮らしているのだ。
 星くんとついてくんには友達がたくさんいる。くりマロンは命を持った栗で、クリームパンは命を持ったパンである(中身はあんこ)。コンセンくんは頭がコンセントになっていて、ポチはコンセンくんの家にいる普通の犬だ。コンセンくんの家ではタワシフラワーという植物も栽培している。
 ついてくんは星くんに一度街の案内をされ、かなりこの街に馴染み、今は平和に過ごしていた。
 しかし、こういう話の場合、平和なときというのは長くは続かないものである。



 第1話 クリームパンを守れ

 買い物から帰ってきてから10分ほどして、くりマロンとクリームパンが遊びに来た。お菓子を詰め合わせた袋はすでに空になっていた。
「今日は何して遊ぶ?」
 毎日のように遊んでいる4人(?)は、遊ぶことがなくなってきていた。
「公園に行こうよ」
 星くんのひと声で、4人は公園に遊びに行くことになった。
「サクサクバクダンでもする?」
「いいよ」
 ジャンケンの結果に(主についてくんから)不満が出て何回かやり直しをした結果、星くんがおにに決まった。
 サクサクバクダンで楽しいひと時を過ごしていた時、そうっと忍び寄る影があった。
「今だ!」
 あたりを切り裂くような掛け声とともに、白衣を着た3人の男がクリームパンに跳びかかった。網を持っている。
「マロンせつだん!」
 1人の男をくりマロンが頭で切りつけた。男はぐらっと倒れたが、残りの2人がなおもクリームパンに襲いかかる。
 あとほんの少しというところで、ついてくんが神速でクリームパンを助け出した。
「家へ逃げろ!」
 星くんがくりマロンを抱えながら叫び、ついてくんはクリームパンを持ちながら、星くんとついてくんは家へと走った。

「あいつらは誰?」
 クリームパンは首をかしげた(ないけど)。この街には通常、普通の人間はいない。ましてクリームパンに襲いかかってきたとなると、まったくの謎である。
「食べようとしたんじゃないの?」
「鬼ごっこしているパンを食べる人はいないよ」
 ついてくんが意見を出したが、星くんが却下した。そのときだ。
 4人のいる部屋の窓ガラスが割れた。あわてて外を覗き込む。そこには、白衣を着て銃をかまえる人が20人ほどいた。その中にはさっきの3人のうち、切られていない2人もいた。
「しまった、囲まれた」
 星くんが慌てるが、すでに家は包囲されていた。
「そのパンを差し出せ。そうすれば退却し、窓ガラスも弁償する。ただし5分以内だ。さもなければこの家を破壊し、無理やりにでもパンを回収する」
 リーダー格の男が言った。
「どうする?」
 星くんが聞く。クリームパンを差し出すことはできない。かといって、このままでは家が破壊されてしまう。
「逃げようよ」
「どうやって?」
 星くんは当然の問いをかけたが、ついてくんにはある答えが浮かんでいた。
「くりマロン号に乗って」
 くりマロンが言った。くりマロン号とは飛行船と潜水艦と宇宙船と船と車を合体させたようなハイテクな乗り物で、3人は何回か乗せてもらったことがあった。
「ここにはないよ」
 星くんが言った。くりマロン号はくりマロンの住むくりの樹に隠してあった。
「もしものときに備えて屋根裏に予備を隠してあるよ」
 くりマロンが事もなげに言った。
 そんなものを他人の家に勝手に隠すな!と言いたいところだが、今はその「もしものとき」なので、そんなことを言う余裕はない。
「あと3分!」
 リーダー格の男が怒鳴った。
「じゃあ、おれがあいつらと話して時間稼ぎをするから、その間に3人は乗り込んでエンジンをかけるんだ。用意ができたら呼んでくれ」
 星くんが言った。3人はうなずく。

 作戦開始だ。
「おい」
 星くんが呼びかけた。他の3人はこっそり屋根裏に急ぐ。
「何だ」
 リーダー格の男が応えた。
「お前らは何の目的があるんだ」
「それは言えないな」
 星くんがその男とやり取りをしているとき、くりマロンは発進の準備をしていた。
「何をするかわからないやつらに友達を渡すことはできない」
 星くんが言った。
「じゃあ教えてやる。俺たちはエビル・ベーカリーの研究開発部だ」
 星くんは驚いた。ただの時間稼ぎだったので、本当に教えてくれるとは思っていなかったからだ。
「新しいパンを研究しているとき、この部に新たな情報が入った。この街に生きているパンがいるという知らせだった。その知らせを聞いた部長は、『今すぐ回収して、研究して量産するんだ』という命令を出した。それでここに来たというわけだ」
 その時、ついてくんが合図をした。そこで星くんは、
「わかった。あと少ししたら渡す。少し待ってくれ」
と言った。
 リーダーは
「いいだろう。早くしろよ」
 とだけ言った。
 その間に星くんとついてくんはくりマロン号に乗り込んでいた。
「くりマロン号2、発進!」
 くりマロンの掛け声で、くりマロン号2は屋根を突き破って外に飛び出した。エビル・ベーカリーの連中は呆気に取られている。
「パンを差し出せ!約束を守れ!」
 とリーダーが怒鳴っている。
「10万年後に渡してやるよ」
 星くんがつぶやき、みんなで笑った。
「あの栗を撃て!」
 エビル・ベーカリーは銃を発砲するが、くりマロン号2は硬い。銃弾を跳ね返している。
「銃なんて弱いね」
 ついてくんが言ったとき、機体がぐらりと揺れた。
「うわ!」
 窓を覗いた星くんは、思わず声をあげた。
 エビル・ベーカリーは大砲でくりマロン号Uを狙い撃っていた。
「撃ち落とせ!」
 リーダーが指示していた。
「なんか武器はないの?」
 ついてくんが聞くと、
「少ししかないよ。ミサイル5発と爆弾30個、それに竹刀50本」
「十分だよ」
 とクリームパンがいい、
「でも街中で使える武器は竹刀ぐらいだね」
 星くんがつけたした。
「じゃあ、着陸しよう」
 くりマロンがレバーを下にゆっくり下げようとした。しかし………
「エンジン部をやられた!レバーが動かない!」
慌てて叫ぶ。その言葉に、星くんが反応した。窓から見てみると、エンジン部が煙をあげて炎に包まれている。
「パラシュートはないの?」
「ない!」
 くりマロン号の硬さを過信したくりマロンは脱出用具を一つも積んでいなかったのだ。
「ギリギリのところで飛び降りるんだ!」
星くんが叫んだ。そうこうしているうちに、地上15mまで落ちていた。落下地点の周りをエビル・ベーカリーが取り囲んでいる。
「まだだ……まだ……いまだ!」
 星くんが大声で合図をし、全員が一気に飛び降りた。

 全員無事に降り立った。しかしエビル・ベーカリーの連中が取り囲んでいる。
「パンをよこせ!」
「いやだ!」
 お互いに一歩も譲らない。その時、
「生きてるパンを開発してどうするの?」
 ついてくんが聞いた。
「売れるからだよ」
「だって、生きてるパンなんて食べられないし、人間には友達がたくさんいるんでしょ?どうして生きてるパンを作る必要があるの?」
その言葉に、みんなハッとした。生きてるパンはたしかに珍しいが、一時的に脚光を浴びた後は何の注目もされない、ということに気がついたのだ。
「わかった。俺たちが間違っていた。パンはあきらめる。部長には俺から伝えよう」
 リーダーが言って、エビル・ベーカリーは退却していった。
「すごく疲れた一日だったね」
 星くんが言うと、
「たこ焼き食べたい」
 ついてくんが言い出した。
「お菓子買ったでしょ」
「食べたいの!」
 ついてくんのお腹の中を研究してほしいと思う星くんだった。



 第2話 ついてくんと子猫

 星くんとついてくんは2人で公園に来ていた。
「星くん」
「タコヤキなら買わないよ」
「そうじゃなくて」
「何?」
 ついてくんが星くんを呼ぶとき、9割は食べ物関連である。それも大抵タコヤキ。
「子猫が捨てられてるよ」
「え?」
 見ると、ダンボール箱に白い子猫が捨てられていた。右膝には三日月形の傷がある。
「家で飼おうよ」
「でも……」
 星くんが躊躇するのにはわけがあった。当然、食費である。ついてくんだけでお金が足りないのに、子猫を飼うことなんてできるわけがなかった。
「お金が足りないよ」
「じゃあ、ここに捨てて行くの?」
「くりマロンに頼めないかな?」
 星くんが提案するが、くりマロンは栗の樹にいるので、猫を飼うことは無理だ。
「じゃあ、飼い主が見つかるまでなら家で飼ってもいいよ」
 結局、またも星くんはついてくんのペースにのまれてしまった。

 くりマロンとクリームパンが子猫を見に来た。
「可愛いね」
 くりマロンが言うと、
「ニャ!」
 短く警告するように子猫が鳴いた。
「お茶でも飲む?」
 鳴き声を聞いていなかった星くんが言い、お茶を入れて持ってきた。すると……
「あっ!!」
 星くんが転んでしまい、そばにいたくりマロンにお茶が思いっきりかかった。
「大丈夫?」
「んなわけないだろ!!」
 くりマロンは火傷していた。
「星くんのドジ!」
「何だと!」
 ケンカになりそうな2人を、ついてくんが何とか止めた。
「この猫……」
 クリームパンが考えながら言おうとした。
「何?」
「いや、何でもないよ」
 みんなに問い詰められて自信をなくしたクリームパンは、あいまいに話を終わらせた。
「ゲームでもする?『スーパーバクダンマン』の新作があるよ」
「うん、やりたい」
 星くんの提案に、みんなが賛成した。

「えい」
「あっ」
「この」
 剣道の試合をしているわけではない。『スーパーバクダンマン4』で対戦をしていた。ついてくんは運がよく、星くんはすごいテクニックを持っている。くりマロンは火力で一気に敵を倒し、クリームパンは隙のない操作で爆風をかわす。いい勝負だ。
「また負けたー」
 くりマロンが言った。他の3人に比べると少し弱いのだ。
「少しは手加減してよー」
「やだ」
 ついてくんがキッパリと答える。運で勝っているので加減も何もないのだが。
「休憩して、お菓子でも食べよ」
「いいよ」
「ニャ!ニャ!」
 猫がまたも短く鳴いた。
「うるさいなー」
「待って」
 文句を言うくりマロンを遮ったのは、クリームパンだった。
「お菓子を持ってきて」
 星くんがせんべいを持ってきた。袋をあけ、全員に配る。
「いただきまーす」
 みんな揃って食べた。すると……
「うっ」
 星くんが苦しみだした。せんべいのかけらを喉に詰まらせたらしい。
「やっぱり」
 苦しむ星くんを無視して、クリームパンが話し出した。
「この猫は、予知能力があるんだよ。くりマロンにお茶がかかった時も、短く警告するように鳴いていた。不幸なことが起きるとき、この猫は警告するように鳴くんだ」
「へぇ〜」
「でも……」
 ついてくんは素直に感心しているが、くりマロンは何か気になるらしい。
「1つ忘れていることがあるよ」
「何?」
 クリームパンが聞く。くりマロンは一言で答えた。
「星くん」
「………!」
 先ほどから苦しんでいる星くんをすっかり忘れていた。
「大変だ!」
 急いでお茶を持ってくるついてくん。星くんはやっと起き上がると、
「猫がさっき2回鳴いてたよね。すごく不幸なことが起きることを知らせていたんじゃないかな」
 クリームパンを睨みながら言った。

「予知能力のある子猫、飼いたい人いませんか〜」
「ポテトチップス1袋と交換ですよ〜」
「ついてくん!」
 みんなに怒られてしょんぼりするついてくん。お腹がすいていたのだ。
 今、4人は街中で子猫の飼い主探しをしていた。予知能力のある子猫なら、飼い主もすぐ見つかるだろう、と思ったのだ。しかし……
「家には犬がいて……」
「忙しくてご飯をあげる暇がないの」
「掃除も大変そうだし」
「もし子どもが生まれたら困るし」
 予知能力がある子猫と聞き、興味を持つ者はたくさんいるが、飼う人はいない。
「どうしよう……」
「誰か心当たりはいない?」
 星くんがみんなに聞いたとき、ついてくんが言った。
「1人いるよ」
 ついてくんが言った。

「う〜む」
 たまじいは首をひねった。
「たしかに可愛いが……」
 ついてくんたちはドキドキしながら見守る。
「スペースがなくて……」
「やっぱりだめか〜」
 ついてくんたちはたまじいに聞いてみたのだ。タマじいは試食が好きなおじいさんだ。
「じゃあ、また街で聞く?」
 星くんが半ばあきらめムードで聞いた。
「まだ心当たりがあるけど……」
 今度はクリームパンが言った。
「誰?」
「パン屋さん」

 『ニコニコベーカリー』と書かれた看板を見上げて星くんがクリームパンに聞いた。
「ここ?」
「うん」
 そこは、クリームパンが作られたパン屋だった。
「でも、どうして?」
「だって、ここなら売れ残ったパンがあるから食費もかからないし、2階には使っていない部屋があるからそこで飼えるよ」
 納得した3人は、クリームパンを手提げの中に隠して中に入った。
「いらっしゃいませ」
「あの、この子猫を飼ってもらえませんか」
「いいですよ」
「やった〜」
 想像を遥かに超える早さで飼い主は決定した。
「子猫はちゃんと飼います。いつでも遊びに来てください」
「わかりました」
 星くんたちはニコニコ顔で帰っていった。

「よかったわね、フューチア。いい人に拾われて」
「ニャア」
 この子猫の名前はフューチア。もともとこのパン屋で飼われていたのだ。
「まったく、これからははぐれないでね」
「ニャ!」
 猫が短く鳴いた。と、開け放された扉から強い風が入り、店員さんの帽子が吹き飛んだ。

「あっ」
 星くんが声を上げた。
「何?」
「予知能力のこと言うの忘れてた」
「大丈夫だよ」
 もともとあの店員が飼い主なのでクリームパンの言葉は真実なのだが、星くんたちは知らない。
「あっ」
 今度はついてくんが声を上げた。
「パン買うの忘れてた」
「買わないよ」
「買いたい〜」
「昨日の猫の食費でお金がないの。だめ」
「買って、買って」
 ついてくんの胃袋の大きさは子猫の予知能力並みに謎である。



 第3話 涙と笑いの温泉旅行(1)

「10000円足らずで5人とも熱海まで行けるとはね」
 星くんが笑いながら話している。ネットで調べてみると、目的地である熱海駅への値段はこう書かれていた。
〈大人1890円・小人950円 ※全駅3歳未満無料〉
「くりは?」
「タダでいいよ」
「パンは?」
「タダでいいよ」
 駅員とのこんなやり取りの末、ついてくんは3歳未満で無料、星くんとコンセンくんが大人料金。合計3780円で熱海駅へと向かう新幹線に乗ることになった。
 ちなみに、なぜ特殊系の街から電車で行けたかというと、特殊系の存在が確認されてから、東京駅の9と4分の3番線に直通する特別な路線が開通したのだ(ちなみに、線路は貨物列車の線を東京駅と無理やり繋げて利用している)。
「温泉♪湯豆腐♪温泉玉子♪♪」
 ついてくんたちは温泉に向かっていた。星くんにボーナスが支給されたのでついてくん、くりマロン、クリームパン、コンセンくんを連れて1泊2日の温泉旅行に行くことになったのだ。
 もちろん、ついてくんの目的はおいしい料理だが。
 5人が楽しく話していると、車内アナウンスが流れた。
『新横浜駅で10分間の車内点検をします。駅でジュースや駅弁などを買ってお楽しみください』
「じゃあ、ジュースでも買う?」
「買うー!」
 率先して自動販売機に向かったのは、もちろんついてくんだった。
「TUITEQOON!」
「爽健栗茶!」
「ピカリスエット!」
「カル●スウォ●ターで」
「……何1人だけ伏字して普通の飲み物買ってんだよ、KYが!」
 いろいろな声が飛ぶ。星くんが全員に配った。
 みんながのんびり飲み物を飲んでいると、アナウンスが聞こえた。
『あと1分で電車が発車します』
「大変だ!」
 あたりを見回すと、すでに他の乗客はみんな新幹線に乗っていた。
「急げ!」
 星くんが大声で言った。最初にコンセンくんが乗り、続いてくりマロンが乗った。星くんとクリームパンも後に続く。
「ついてくん早く!」
 ついてくんが急ぐ。その時、
「あっ!」
 『TUITEQOON』を落としてしまった。幸いペットボトルだったのでこぼれなかったが、それを拾っている間に扉は閉まった。
「ついてくーん!」
「星くーん!」
 電車がホームから遠ざかっていく……

 電車が見えなくなった。ついてくんは一人ぼっちになった。
(そういえば、星くんがコンセンくんと「公衆電話」で話していた)
 そう思い出したついてくんは、ホームを出て、「公衆電話」のある電話ボックスを見つけて中に入った。
(星くんはお金を入れていた)
 ついてくんはジュースのおつりをこっそりポケットに忍ばせていたので、それを中に入れた。しかし……
(この後どうしてたっけ)
 星くんが電話をかけたとき、ついてくんは道の反対側のケーキ屋に意識を集中させていた。
(番号のボタンを押していた)
 しかし星くんの携帯番号がわからない。
(もうだめだ……)
 ついてくんがついに絶望したその時、
「ついてくんじゃないか」
 話しかけてきたのは、たまじいだった。自転車を押して歩いている。
「何してるの?」
「温泉旅行じゃよ」
「歩いて?」
「自転車で来たんじゃよ」
「じゃあ、なんで押して歩いてるの?」
「それは……ついてくんには関係ない!」
 たまじいが怒るのにはわけがあった。たまじいは弱くなった体を鍛えるために自転車旅行を決心したが、転んでギックリ腰になってしまい、しかたなく自転車を押して歩いていたところでついてくんを見つけたのだった。
「で、ついてくんはどうしてここにいるんじゃ?」
「温泉に行こうとして、星くんたちとはぐれちゃって……」
「なら、送ってやるよ」
「いいの!?」
「もちろんじゃ」
「わーい」
 こうして、たまじいとついてくんは温泉を目指すことになった。

「今すぐ戻らないと!」
「無理だよ!」
星くんとくりマロンが言い争っている。
「星くんまで迷子になるよ!」
「だってついてくんが!」
 こんなに興奮する星くんははじめてだった。さらに言えば、こんなに語尾に「!」をつけてしゃべる星くんも初めてだった。
 ついてくんとはぐれた後、星くんたちは戻ることもできずに温泉に来ていたのだった。
「待って!」
 コンセンくんが言った。
「何!?」
「たまじいから電話がかかってきたよ」
 星くんが急いで出た。
「もしもし!」
「ごめんなさい!」
「何で謝ってるんですか!?」
「なんか電話かけちゃいけない雰囲気らしくて……」
どうやら、星くんの興奮した雰囲気に気圧されたらしい。
「……すいません。で、何ですか?」
「今、ついてくんは預かったぞ」
「誘拐したんですか!?」
 星くんのテンションが再び上がる。
「いや……」
「何でそんなことを!友達同士なのに!!」
「だから……」
「言い訳しないでください!!!警察を呼びますよ!!!!」
「誘拐なんてしてねーよ!!!!!」
 しばしの沈黙。
「え?」
「わしゃついてくんを誘拐してなんかしてないぞ」
「だって……ついてくんは預かったって」
「保護しているという意味じゃよ」
 再び沈黙。
「……ついてくんはどこですか?」
「今君たちのいる温泉に向かっとるよ」
「送ってきてくれるんですか?」
「もちろんじゃ。友達じゃろ?」
「よろしくお願いします」
「礼には及ばんよ」
 星くんは電話を切って、コンセンくんに伝えた。
「ついてくんはたまじいが保護してるって」
「知ってるよ」
「え?何で?」
「だって……声でかくて丸聞こえだったし」
 ハッとして周りを見ると、半径1m以内にはコンセンくんたちしかいなかった。
「もしかして……迷惑だった?」
「うん」
 星くんの顔(しかないけど)が真っ赤になった(緑だけど)。
「とにかく、ついてくんが来るまで待ってよ」
「いいよ」

「疲れたー」
「何で?」
「当たり前じゃろ!いろいろ(@星くんとの電話で精神的にクタクタAついてくんをおんぶして自転車をこいだので肉体的にクタクタ)あったんじゃから!!」
「ごめんなさい……」
ついてくんがしょんぼりした。
「まぁいいんじゃよ。それより先を急ごう」
「うん!」
 たまじいは温泉を目指して再び走り出した。

 1時間後、2人は温泉に着いていた。
「ついてくーん!」
 星くんが温泉の入口に迎えに来ていた。
「星くーん!」
 星くんのもとにかけよるついてくん。
「無事でよかった……」
 何気ない台詞の中についてくんを想う気持ちがひしひしと伝わってきて、たまじいは涙ぐんだ。
「さて!」
コンセンくんが気持ちを切り替えるようにキビキビした声を出した。
「感動の再会はここまで。温泉で楽しも」
「うん!」



 第4話 涙と笑いの温泉旅行(2)

「気持ちいい〜」
 ついてくんののどかな声。
「来て良かったね〜」
 星くんもさっきの興奮ぶりはどこへやら、のんびりした声を出している。
 ついてくん、星くん、くりマロンの3人は温泉につかっていた。コンセンくんは「他の客がしびれるといけないから」、クリームパンは「ふやけるといけないから」という理由でサウナに行っていた。
「でも、少し熱いね」
「のど渇いた〜」
「少し我慢してよ」
 ついてくんは機嫌を悪くして温泉の端っこに移動した。
「本当に気持ちいいね〜」
「ね〜」
「でも、何か寒くない?」
「たしかに〜」
「お湯が減ってない?」
「……まさか!」
 温泉の端っこを見ると、ついてくんがいた。
「飲んじゃだめ!!」

 今、みんなは予約した5人部屋でくつろいでいた。
「まったく……お湯を飲んじゃうなんて」
「だってのど渇いてたんだもん」
 のどの渇いたついてくんは、温泉のお湯を飲んでいた。
 ついてくんの保護者として従業員に散々怒られたので星くんは機嫌が悪い。
 そこに、ホテルの放送が流れる。
「夕食の支度ができました。夕食はバイキング形式になっております」
「バイキング!!」
 星くんが見たとき、ついてくんはすでにいなかった。
 @ついてくんはお腹を空かせていた。
 A食後、星くんは怒られた。
 Bその後、ついてくんは星くんに怒られた。
 これだけ伝えれば十分だろう。あとはあなたの想像に任せよう。

「満足した〜」
「ついてくんはね」
 星くんは食前以上に不機嫌だった。
「もう寝る?それとも……あれ?」
 『あれ』とは修学旅行の定番・枕投げである。ま、これは修学旅行ではないのだが。
「えいっ!」
「くらえ!」
「やったな!」
「そっちこそ!」
 寝るとき、ふとんにはあんこが飛び散っていたという。

 翌朝。
 星くんたちはハイキングにいくことにした。
 頂上から見る景色は最高、との噂を聞いたからである。
「疲れた〜」
「まだ3分の1だよ」
「おんぶしてよ〜」
「だめ」
「ケチ」
 星くんは、昨日のこともあって、ついてくんにしっかりしてもらいたいと考えていた。なので、このハイキングではついてくんに厳しくすると決めていた。
 このことは、くりマロンたちにも打ち明けてある。
「頂上の景色は最高なんだってね〜」
 パリポリ。
「そこで食べるお弁当は格別なんだってよ〜」
 パリポリ。
「……ついてくん!」
「ほえ?」
 ついてくんは、おやつのピテトチップスを勝手に食べていた。
「食べてばっかりいないで!」
「だってお腹空いたんだもん」
「置いていくよ!」
「だめ!」
 ついてくんは、渋々Pテチの袋を洗濯ばさみで閉じて、リュックにしまった。
 手には10枚ほどピテトチップスが握られていたが。

「疲れた〜」
「まだ半分だよ」
「おんぶしてよ〜」
「だめ」
「さっきと会話がおなじじゃん」
「……頂上にはタコヤキ売ってるって」
「え?」
 ついてくんは猛スピードで走っていった。
 そうなると、この話のジャンル的にもオチは確定である。
「ここどこ?」
 ……ついてくんは迷子になっていた。
「星くーん!くりマローン!クリームパーン!コンセンくーん!」
 当然返事はない。
「助けてー!!!」

「あれ?」
「何?」
「ついてくんの声しなかった?」
「ついてくんならもう頂上に着いてるんじゃない?」
「助けを求めている気がするけど……」
 星くんたちはついてくんの遥か下にいた。
 ちなみに、ついてくんの思いを受け取ったのはもちろん星くんである。
「1人だと迷子になるかもよ?」
「かえって免疫がつくかも」
 そういいつつも星くんは、多少の罪悪感を感じていた。
「やっぱり探しに行ってくる」
「いいの?」
「ついてくんの命の方が大事だよ」
 言うが早いか、リュックを置いて星くんは駆け出していた。

 こちらついてくん。相変わらず迷子。
「ほじぐーん。ぐりマローン。グリームバーン。ゴンゼンぐーん。」
 お腹も減り、すっかり元気をなくしていた。
 そのとき。
「つーいてくーん!」
「星くん!」
 ついてくんは耳を頼りに走り出した。
「ついてくん!」
「星くん!」
 2人はやっと会えた。しかし……
「さ、帰ろ」
「どこへ?」
「どこへって……あっ!」
「何?」
「地図をリュックに入れっぱなしだった!」
「えー!」
 今度は2人揃って迷子になった。
「どうしよう」
 その時、2人の頭の中に声が響いた。
[心の声に従うのです。気の向くままに歩き出せば友は見つかります]
「今の何?」
「ま、アドバイスには従ってみようよ」
 そして、気の向くままに2人は歩き出した。

 5分もたたないうちに、コンセンくんたちと合流した。
「良かった。2人とも無事で」
「あの声のおかげだね」
「でも、あの声って誰の声なんだろ?」
 星くんが考えていると、
[教えて欲しいですか?]
 再びあの声が聞こえた。
「うん」
[私は……]
「お腹減った!」
 ついてくんの大声で謎の声はかき消された。
「頂上にタコヤキあるんだよね!?」
「それは……」
 教訓。嘘をついてはいけない。



 第5話 小説5話記念大短編・ポチとタワシフラワー

 コンセンくんの毎日の日課は、6時から5分間のジョギングである。
「行ってきまーす」
「ワン」
 ポチが見送る。このあいさつは、闘いの合図でもある。
 ポチはジョギングの間、室内でお留守番している。
 そして室内にはタワシフラワーがいる。
「ワン!」
 この瞬間、ポチの野生の本能がよみがえる。
 ポチとタワシフラワーは、この5分間に闘っているのである。
 もちろん、ポチが一瞬でタワシフラワーを丸呑みして決着がつく。
 そのはずだ。
 しかし、ポチが吐き出す小さな種から、タワシフラワーは見事によみがえる。
 その時、コンセンくんが帰ってきた。
 タワシフラワーは行く前と同じポーズで復活する。
 なのでこの戦いが、コンセンくんにバレることはない。



 第6話 宇宙の果てへ(1)

「えー、ただいま入った情報によりますと、六本木ヒルズからUFOが目撃されたそうです。100人以上の目撃者がUFOは高尾山に向かったと断言しており、警視庁では明日にも詳しい調査を始めています」
「UFOだって。不思議だね」
 土曜日の早朝。星くんとついてくんはリビングでニュースを見ていた。
「UFOって何?」
「UFOっていうのは、宇宙人とかが乗ってる空飛ぶ円盤だよ」
「見てみたーい」
 ついてくんがねだる。
「でも、警察が調べるって言ってるよ」
「警察の調査は明日から。今すぐ行けば大丈夫だよ」
「たしかに……」
「くりマロンたちも呼ぼうよ」
「くりマロンはくりマロン号2の修理。午前中いっぱいかかるって」
「クリームパンは?」
「くりマロンの手伝い。パラシュートを買いに行くらしいよ」
「じゃあコンセンくんたちは?」
「ポチとタワシフラワーを連れて旅行。どっちも温泉にいけなくて怒ってるから」
 確かに、ポチとタワシフラワーは温泉旅行に行っていなかった。
「じゃあ、2人で行こ」
「見るだけだよ」
「うん」
「食べ物は買わないよ」
「え〜」
「いやならいいよ。今日は家でのんびり過ごすから」
「わかった」
 というわけで、星くんとついてくんは高尾山へ向かうことになった。

「つかれた〜」
 珍しく星くんが弱音を吐いている。
「がんばって!」
「わかってるよ」
 2人はUFOが目撃された高尾山の頂上を目指していた。幸い高尾山はついてくんの住む街のすぐ近くだったが、歩いてきていたため星くんは疲れていた。
 もちろん、ついてくんも疲れているが、UFO見たさにがんばっている。
「ねぇねぇ、宇宙人ってどんなもの食べてるかな」
「知らないよ」
「宇宙食って食べられるかな」
「ついてくんなら何でも食べられると思うよ」
「ねぇ、宇宙人はUFOに乗せてくれるかな」
「知らないよ」
「宇宙人の星に連れて行かれたらどうしよう」
「ついてくんならだいじょうぶだよ」
 こんなやり取りが続き、その後静かになった。
 静粛を破ったのは、星くんだった。
「見て!」
「何?」
「UFOがある!!」
「え!?」
 それは、紛れもないUFOだった。

「まさか、本当にあるとは……」
「何してんの、早く行こうよ」
「だめだよ、危ないよ」
「だいじょうぶ!!」
 テレビ東京系で木曜7時放送中のアニメのヒロインみたいなことを言って、ついてくんはUFOに近づいていった。
 そのときだった。
「ナノサワギデスカ?」
 中から2人の宇宙人が現れた。
 大方の想像どおり、タコのような形をしている。ただし、色は水色だ。
 しゃべる言葉は、最近覚えたらしく片言の日本語だ。
「宇宙人だ!!」
「コノオバケ、ベンキョニチョウドヨサソデス。ツレテイキマショウ」
「ソレガイデスネ」
 そういうと、ついてくんをUFOに運び入れようと近づいてきた。
「ついてくんは渡さないぞ!!」
 星くんが宇宙人の前に立ちふさがった。
「どうしてもと言うなら戦え!」
「シカタナイデスネ。ジツリョクコウシトイキマショウ」
 レーザーガンを構えた。そして、星くんがその場にドサッと倒れた。
 レーザーにはしびれさせる力があるらしく、動けないらしい。
「よくも星くんを!」
「ダイジョブデス。10プンモスレバナオリマス」
 そういってついてくんをつかまえようとした。しかし、ついてくんは神速で逃げる。
「シカタナイデスネ。ナラコッチノホシヲツレテイキマショウ」
 星くんをUFOに運び入れた。
「星くんをかえせ!」
「ソレハデキマセーン」
そういって、UFOの発進準備を進めている。
「目的地・月 発進準備完了」
UFOのアナウンスがついてくんにも聞こえた。
「3・2・1 ハシーン」
 UFOが空高く舞い上がっていく。
「助けを呼ぼう……」
 ついてくんはそうつぶやいて、山の斜面を駆け出した。



 第7話 宇宙の果てへ(2)

「つまり、ついてくんの気まぐれでUFOを見に高尾山に行ったら本当にUFOがあって中から宇宙人が現れてついてくんを連れ去ろうとしたから星くんが守ろうとしたら逆に星くんが月に連れて行かれた。こういうわけだね」
「まあ、一言で言えばそうだけど……」
 高尾山に限りなく近い公園に、ついてくん、くりマロン、クリームパンは集まっていた。
 修復されたくりマロン号2もある。
「じゃあ、早く星くんを助けに行こうよ」
「でも、危険だよ」
「くりマロン号がまた壊れたら困るし」
 2人は消極的だ。
「星くんはクリームパンがさらわれそうになったときも、ぼくが迷子になったときも助けてくれたよ。なのに星くんがピンチのときにほっといていいの?」
「……」
 ついてくんの力説に、2人も黙り込む。
「じゃあ、行こうよ」
「うん、わかった」
「友達だもんね」
 3人はくりマロン号2に乗り込んだ。

「これが地球か……」
 3人とも宇宙から見た地球の美しさに感動している。
 ちなみにくりマロン号は宇宙でも平気である。
「きれいだね……」
「本当だね……」
 しばらく感動の余韻にひたっていたが、
「月へ急ごう」
 スピードを上げた。

「やっと着いた」
 3人は月に降り立った。
 本当なら一瞬で窒息するが、3人とも普段からくりマロンの発明した「どこでもおまかせ身体制御チップ」をつけているので大丈夫だった。
 星くんも、いつもそれをつけているので大丈夫だろう。
「星くんを探そうよ」
「どうやって?」
「どうやってって……」
 月の表面積は3793万平方キロメートルもある。
「どうしよう……」
[そんなときは私にお任せください]
「まだいたの?」
[幽霊みたいに言わないでください]
「違うの?」
[違います]
「それより何で出てくるの?まだ3ページ目なのに」
[第5話では2ページ目に出てきましたよ?]
「確かにそうだけど……」
[では文句はないはずです。それより本題に移りますよ]
「本題って?」
[星くんはこの近くにいます]
「そうなの?」
[はい。心の声に従って歩き出してください。お互いを思う気持ちがあればきっと出会えます]
「今回あなたの台詞長いね。ま、アドバイスは正しいはずだから歩き出してみよ」
 くりマロン号を置いて(あの声は歩けと言った)3人は歩き出した。
 星くんにはすぐに出会えた。そして宇宙人にも。

「イダタキマース」
「違う!いただきます」
「イタダキマース」
「よくできたね」
 そこへ突然声が割り込んできた。
「星くんをかえせー!!」
「ついてくん!くりマロン!クリームパン!」
「ドシテココガワカッタンデスカ?」
 変な声に導かれたともいえない。
「お前らには関係ない!」
「星くんを放すんだ!」
「ソレハデキマセーンデスネ。マダベンキョノトチュデス」
「星くんを実験材料に使うなんて!」
「あのね、ついてくん……」
「星くんは黙ってて!悪者宇宙人め、勝負だ!!」
「ジョトウデス。ウケテタチマショウ」

 宇宙人の1人とついてくんが向かい合っている。かたずをのんで見守る他の人たち。
「ルールハ1タイ1ノショブデス。ドチラカガタタカエナクナルカコサンスルマデショブハツヅキマス」
「いいよ」
「ついてくん、闘いなんかしなくても……」
「もう後には引けないの!」
「デハ、ワタシカライキマース」
 宇宙人が足を長く伸ばしてついてくんに襲い掛かった。
「シャドーアターック!」
 ついてくんが攻撃をよけて反撃に出た。しかし、宇宙人にひらりとかわされた。
「アナタノヘナチョコワザ、ゼンゼンキキマセーン」
「それはどうかな?スピリチュアルホール!」
 宇宙人の足元に穴が開き、宇宙人は霊界に引きずりこまれた。
 ところが、宇宙人は霊界から伸びてくる手を銃で焼き尽くし、穴から這い上がってきた。
「ヨクモヤリマーシタネ。コドハコチラノバーンデス!」
 強力なビームを放つ宇宙人。
「負けるか!スピリチュアルビックバーン!!」
 ついてくんも巨大なビームを打ち出す。
 二つのビームがぶつかりあうが、ついてくんはまだ子ども。宇宙人のビームの方が押している。
「このままじゃ負けちゃう……」
 その時、あの謎の声がした。
[力を貸しましょうか?]
「どうして?」
[カタカナ入力は面倒だと作者が言ってますから]
「なんかよこしまな理由だけど……いいよ」
[では交渉成立です]
 みるみるうちにビームが太く、強くなった。
「ナデスカ、コレハ!?」
 宇宙人のビームは打ち消され、宇宙人は吹き飛ばされた。
「コスモー!だーいじょーぶ!?」
 星くんが飛ばされた宇宙人の方へと駆け出した。

「ええ!?星くんに日本語を習ってた?」
 コスモという宇宙人に包帯を巻きながら、ついてくんたちは話し合っていた。
「ソデス。ワタシタチノホシノガコウデタイヨウケイノホシヲシラベヨトノメイレイガダサレマシタ。ソコデチキュウノコトバヲシラベルコトニシテ、チイサナシマグニノヤマニオリタッタノデス」
「ホトハイイヒトヲサガスヨテイデシタガ、ソノマエニダレカガキタノデチョドイイトオモテツレサタノデス」
「だったら最初からそういってくれればいいのに」
「コノホシノヒト、ヤバンカモシレマセン。ヨウスヲミニイテカラシラベヨトオモテイマシタガ、シラベルマエニダレカガキテシマタノデ、アゼンナホホウヲトルコトニシマシタ。ゴメンナサイ」
「ワタシタチハカエリマス」
「別に、みんなで日本語教えてあげるよ」
「ワタシタチ、ガコウノセンセイニコウイマス。『チキュウノヒト、ミナヤサシイ』ト」
「それがいいよ」
「さようならー」
「元気でねー」
「また来てねー」
「アリガトウゴザイマシター」
 最後になって宇宙人は、まともな発音であいさつをした。

「でも良かった。星くんが無事で」
「無事じゃないのはコスモだよ」
「さ、くりマロン号のところに戻ろ」
「え?くりマロン号ってどこにあるの?」
「それは……」
 あの声に従って気の向くまま歩いてきたので、元の位置がどこかまったくわからない。
「どうしよう……」
[そこで私の出番]
「今回3度目だよ」
[右にまっすぐ行けばくりマロン号のところへ戻れます]
「そんな単純な道のりだったっけ?」
「ま、いいよ。行ってみよう」
 7分ほどで、くりマロン号が見えてきた。
 くりマロン号に乗ろうとしたとき、ついてくんが大声で言った。
「あ!」
「何?」
「宇宙人の食べ物食べるの忘れてた!」
「ついてくんには地球の食べ物が一番合ってると思うよ」

 くりマロンたちと別れて、2人は家に帰った。
 そこには、あのUFOと宇宙人たちがいた。
「UFOコワレテシマイマシター」
「シバラクオイテクダサーイ」

 UFOの修理には3日ほどかかった。
 その間の食費で、星くんの財布は空っぽになった。
 しかし、
「アリガトウゴザイマシター」
「コレハホンノオレイデース」
 宇宙人の2人が置いていった袋には、タコヤキ100パックと100万円が入っていた。
「コスモー、ユニバー、本当にありがとうー!」
「絶対またきてねー!!」
 星くんとついてくんはは、UFOが見えなくなるまで手を振っていた。



 第8話 ついてくんの大発明

「星くーん、見て見て」
「何?」
 日曜日の昼下がり、午前中珍しく部屋に1人でごはんとおやつのとき以外閉じこもっていたついてくんが、星くんの部屋に入ってきた。
「じゃーん、タコヤキ変身マシーン」
「何それ」
「教えてほしい?」
「それほどでも……」
「そっか、そんなに教えてほしいかー」
「いや、別に……」
 興奮しているついてくんは星くんの言うことをまったく聞いていない。
「この機械はね、この入口のところに何か物を入れると出口からタコヤキに変身して出てくるの」
「すごいねー」
「やってみる?」
 そういうと、星くんの持っていた鉛筆を入口に差し込んだ。すると、出口から本当にタコヤキになって出てきた。
 見た目も、においも、タコヤキそっくりだ。
「すごいでしょ」
「すごいねー」
「味見して見る?」
 星くんが口に入れた。すると……
「おえっ!」
「味は鉛筆だよ」
「先に言ってよ!」
 星くんは怒っている。
「じゃ、これをくりマロンに見せに行こ」

「見てみて、タコヤキ変身マシーン」
「何それ」
「この機械はね、この入口のところに何か物を入れると出口からタコヤキに変身して出てくるの」
「すごい!」
「やってみる?」
 ついてくんは、くりマロン号に積んである竹刀を差し込んだ。
「わー、本当にタコヤキだ」
「味見する?」
 くりマロンが竹刀タコヤキを食べて見た。
「ぐぼっ」
「味は竹刀だよ」
 しかし、くりマロンは怒らない。それどころか、目を輝かせている。
「ねぇ、ついてくん、星くん、ちょっと来て……」

 翌日。
「いらっしゃい、いらっしゃい」
「来ないと損だよ」
「世界初、ピテトチップスの味がするタコヤキ!」
「5個でたったの300円!」
「ドーナツ味とチョコ味もあるよ!」
 星くんたちは、クリームパンも呼んで、公園にお店を開いていた。
 もちろん、公園の管理者に許可を取ってある。
「ピテチ味1パックちょうだい!」
「こっちはチョコ味3パック」
「全部2パックずつぐらいもらおうかしら」
 お店を作ろう、と思いついたのはくりマロンだ。
「どうせならいろんな味のタコヤキを作って売ろうよ。公園の管理者に許可を取って店を開いて」
 ついてくんの発明は、思わぬ方向に進んでいったのだ。
「何か食べ物を持ってきてくれれば、その味のタコヤキが作れますよー」
「世界に一つだけのタコヤキ。1パック400円で買いませんか!」
 珍しい物好きのおばさんや技術を真似ようとする会社の重役などで公園はいっぱいになった。
 5時。良い子のチャイムがなって、タコヤキ屋は閉店した。
「こんなに売れるとはね」
「どうせなら会社にしない?」
「名前は『ついてくんタコヤキカンパニー』でどう?」
「賛成賛成!」
「社長がついてくん、副社長に星くん」
「営業部長がくりマロン、秘書がクリームパンだね」

 次の日には星くん家にテントが張られていた。
 「ついてくんタコヤキカンパニー」と書かれた看板が立てかけられてある。
 「ピテチ味のタコヤキ」はこの日もたくさん売れた。
 朝のニュース番組で次々と取り上げられ、ついてくんタコヤキカンパニーはまたたく間に大評判となった。
 その日は、ピテチが足りなくなるという騒ぎまで出た。
 ピテチを作る会社からは、業務提携を持ちかけられた。
 一応社長はついてくんだったが、すべてを4人で決めていた。
「新商品を開発しようよ」
「イチゴ味でどう?」
「おいしそうだね」
「たまじいに試食してもらおうよ」
 話し合いは深夜まで続くこともあった。

「『ついてくんタコヤキカンパニー』では、新作イチゴ味のタコヤキを売り出すことが決まりました」
 再びニュースで取り上げられ、客足はどんどん伸びた。
 ついてくんはだいぶ前に、「大食い対決」でおばけ代表として大食いアイドルのギャル利根と戦って勝った事もあり、テレビやラジオに引っ張りだこ。
 星くん、くりマロン、クリームパンも一躍有名になった。
 「ついてくんタコヤキカンパニー」では新たに開発部としてたまじいとコンセンくんを会社に迎え入れた。

 ついてくんは、音楽会社と連携してCD「たこやきサンバ」を発売した。史上最速のミリオンヒットへあと100枚ほどまで売れ、一部株式上場も決定した「ついてくんタコヤキカンパニー」はまさに順風満帆。海外進出も視野に入れて事業拡大を進めていた。
 ところがその時、不幸なことが起きた。
 その日、「さじの素スタジアム」でのサッカーJリーグの優勝決定戦があった。そこで特別にタコヤキを売ってほしいという「株式会社さじの素」からのお願いの手紙が届いた。両方の利益になると考えたついてくんたちは了承した。
 その試合で、前半3対1で負けていたチームが後半開始2分ほどで反則をし、相手チームのエースのFWを選手生命を脅かすような大ケガをさせたのだ。レッドカードで反則した選手も退場になったが、エースの抜けたチームは一気に戦力が落ち、試合は4対3で負けていたチームの逆転優勝となった。
 この試合で、逆転負けに終わったチームのファンが、反則をした選手に襲いかかった。さじの素スタジアムは大騒ぎとなり、ついてくんたちも巻き込まれた。幸い社員にケガはなかったが、「タコヤキ変身マシーン」が壊れてしまった。
「あっ」
 タコヤキ変身マシーンはもくもくと煙を上げて爆発し、そばにいた何人かが軽傷を負った。
 一応犯人はつかまり、罰金として「ついてくんタコヤキカンパニー」には30万円が支払われたが、気まぐれで作られたあのマシーンをもう一度作るのは不可能だった。
 タコヤキを作れなくなった「ついてくんタコヤキカンパニー」の人気は急下降、「タコヤキサンバ」は売れ残り、あの事故の2日後には上場廃止が決定、翌日には会社の倒産も決定した。
 海外進出の夢は会社とともに消えた。

「何か、夢を見てたみたいだね」
 「ついてくんタコヤキカンパニー」倒産の翌日、社員だった6人は星くん家に集まっていた。
「うん」
「夢じゃないよ。株主への配当金を除いてもまだ200万円くらい利益が残ってるから」
 星くんが言ったが、
「でも、CD会社から損害分30万円の請求書が来てるよ」
「さじの素スタジアムの修復費50万円の請求も」
「それでもあと120万円ある」
「何に使う?」
「タコヤキでも食べようよ」
 ついてくんが言った。
「タコヤキはもうこりごりだよ」
「だからこそ食べるんだよ。会社のことを忘れるために」
「苦い思い出を消すために」
「わかった」
 ついてくんがとりあえず20万円をタコヤキに変えてきた。
 みんなで一斉にタコヤキを食べた。
 それは、普通の味だったが、なぜか星くんには、鉛筆味に思えたらしい。



 第9話 時空の裏の秘密

 ※この話は、星つい完全移行に伴うプチリニューアルの一環として、何の意味もなかった前9話「暇な日」に代わって作られた、第10話の外伝作品です。
 時間軸がかなりずれてしまいますが、そこは見逃してください……。

 それは、星くんとついてくんが出会ってから1年以上経ったある日の事。
「ねぇねぇ、神様」
「何じゃ?」
「だいぶ前に一度、タイムスリップした事があるんだけど」
「何じゃと!?それはいつの話じゃ!?」
「えーと……9月くらいかな?」
「何があったんじゃ?詳しく説明してくれ」
「そういわれても……あんまりしゃべるとネタバレになっちゃうんだけど……」
「は?何の話じゃ?」
「えーと……まあかくかくしかじかで」
 神様は話を聞きながら黙っている。
「うーむ……その時に何かあったかな……あ!!」
「どうしたの?」
「実はな、その時にあったんじゃよ……時空を揺るがす凄い事件が」
「え!?何なの!?」
「うむ。それはの…………」
 今明かされる、衝撃の真実とは……。

「ディ●ルガvsパ●キアvsダ●クライ」
「…………」
「うん?どうしたんじゃ?」
「その程度の事なの!?」
「それだけとは何じゃ!神と呼ばれしポケ●ンがアラ●スタウンで時空を揺るがす大決戦を行ったんじゃぞ!?そのせいでこちらの世界もかなり狂ってしまって、あちこちに時空の穴ができたりしたらしいんじゃよ……」
「………」
 第10話は、そんなオチだったという後日談。
 では、そんな第10話をどうぞ。



 第10話 小説10話記念長編 時空をめぐる物語

「何して遊ぶ?」
 星くん、ついてくん、くりマロン、クリームパンの4人は公園に集まっていた。
「サクサクバクダンは?」
「え〜つまんな〜い」
「かくれんぼは?」
「面倒くさ〜い」
 ついてくんが星くんの案にクレームをつけていたその時。
 星くんの足元に巨大な穴が開いた。
「た〜す〜け〜て〜」
「星くん!」
 ギリギリのところでついてくんが星くんの頭をつかんだ。
「がんばれ!」
 くりマロンたちもついてくんの後ろを引っ張っている。
[ついてくん]
「1ページ目から出てこないでよ。いま絶体絶命なんだから」
[落ちてください]
「え!?」
 ついてくんが驚きの声を上げると、クリームパンが手(あるの?)を離した。さらに3人を突き落とした。
「あー!!!」
 3人が落ちていくのを見届けてから、クリームパンは穴に飛び込んだ。

 気がつくと、星くんは荒れた野原に倒れていた。
 ついてくんたち3人もいる。
「ついてくん、くりマロン、クリームパン」
「星くん!」
「良かった、無事で」
「でもクリームパン、なんでぼくたちを落としたの?」
[私がクリームパンを操ったからです]
「なぜ!?」
[もしあそこで助かったらこの話が始まらないでしょう!]
「……それよりここはどこ?」
[過去です]
「何時代?」
[安土桃山時代です]
「どんな時代?」
[織田信長、豊臣秀吉、徳川家康などの武将たちが天下統一を目指して戦った戦国時代です]
「今その武将たちは何をしてるの?」
[桶狭間の戦いに向かっています]
「ここはどこ?」
[桶狭間です]
「……」
[どうかしましたか?]
「それって……ピンチ?」
[ですね]
「大ピンチ?」
[そうですね]
 ドド。
「死の危険あり?」
 ドドド。
[ありまくりですね]
 ドドドド。
「ふざけんなー!!」
 ドドドドドド!
「信長軍だ!!」
[ひとつ教えておきます。あなたたちが落ちたのは時空の穴。違う世界へ移動する穴です]
「助けてー!」
[では私はこれにて]
「みなのもの、行け!」
 信長が馬を走らせている。
「逃げろー!!」
「むむ、くせもの!」
 信長がついてくんたちを見つけた。
「曲者は斬れ!」
「かしこまりました、信長様」
 家来の豊臣秀吉がついてくんを斬った。
「つーいてくーん!」
 星くんが叫ぶ。
「ほえ?」
 刀はついてくんの体をすり抜けた。
 おばけなので当然である。
「どうした、秀吉よ」
「こいつ、斬れません!」
「何?」
「すり抜けてしまいます!」
「今は戦の途中じゃ。戦の間そいつらを守っておれ」
「かしこまりました」
 その時、信長の鉄砲隊が銃を撃った。
「うわっ」
 敵の今川義元の軍の兵がばたばたと倒れていく。
「撃て、撃つのじゃ」
 信長は的確に指示を出している。
「すごーい」
 ついてくんも感心している。
 その時、秀吉に流れ弾が飛んできた。
「危ない!」
 くりマロンが秀吉の前に立ちはだかった。
 カキーン。
 銃弾はくりマロンの硬い体に跳ね返された。

「この方たちは私を体を張って助けてくれました。助けてやるべきです」
 信長と秀吉が話している。ついてくんたちを殺すかどうかである。
「うむ……」
「お願いします!」
 信長が考え込む。
「よし、わかった」
「助けてくれるんですか?」
「条件付きでな」
「条件とは?」
「わしと戦って勝ったらじゃ」
「えぇ!?」

 秀吉が迎えに来た。
「出ても良いぞ」
「本当ですか?」
 星くんたちは小さな部屋に閉じ込められていた。
「その代わり、わしと戦って勝てなければ殺す」
「じゃあ、ぼくが戦うよ」
「ついてくんが!?」
「ふふ、ぼくには秘策があるからね」
「何?」
「秘技・天界超変化!」

 解説しよう。
 天界超変化とは、遥か昔に天界・霊界・地上界と3つの世界を創りだした最古にして最強の神・アテルディアが編み出した秘技で、変身によって様々な能力を手に入れるアテルディアの血を受け継ぐもののみが使えるわざである。
 変身すると特性も性格も変化する。
「それなら勝てる!!」
「でも信長様は強いですよ?」
「大丈夫、大丈夫」

「勝負だ!天界武装!武者ついてくん見参!!」
 武者ついてくんは2刀流の剣使いで、様々なわざを使うことができる。
「相手にとって不足はない。来い!」
 武者ついてくんと織田信長が向かい合っている。
「はあああああ!」
 信長が刀を構えて近づいてきた。
「武者ついてくん流・鷹の舞!」
 武者ついてくんは鷹をイメージした飛ぶような動きで信長の剣をかわした。
「今度はこちらの番だ!武者ついてくん流・竜巻の舞!」
 2本の剣を手に持って、回転しながら信長の方へと近づいていく。
「そんな遅い動きが当たるか!」
 しかし、武者ついてくんの回転は徐々に速くなり、竜巻になった。
「何!」
 信長は必死で逃げるが、吹き荒れる竜巻をかわすことはできない。
「ぐあああああ!!」
 信長はついに斬られ、ついでに安土城も崩れ落ちた。

「わしの城が……」
「大丈夫だよ」
 クリームパンが言った。クリームパンは城から避難して疲れている信長の家来たちにこういった。
「城を5分以内に直せたら『アンパン』をあげるよ〜」
「アンパン?何だ?」
「でも食べてみたい!」
 家来たちは猛スピードで城を建て直した。
 後に秀吉が3日で城を作ることになるが、それはこのときのクリームパンのやり方を参考にしてやったという。
「どうやらわしの負けのようじゃな」
「世界は広いですね、信長様」
「うむ、人間50年、日々精進じゃな」
 その時、あの声がした。
[もうすぐ時空の穴が再び開きますよ]
「現代に帰れる?」
[たぶん無理です。今度は謎の世界に行ってもらいます]
「なんで?」
[第9話の予告で謎の世界に行くと言ったので]
「たまには読者を裏切ってよ〜」
[無理です。さて、そろそろです]
 4人の足元に時空の穴が開き、4人は落ちていった。
「さようなら〜」

 4人が着いたのはマス●ーハンドとかタ●ーがいそうな、辺りが真っ暗闇の亜空間だった。
「ここどこ?」
[さあ?]
「あなたなら何でも知ってるんじゃないの?」
[あなたたちが出口を探さないといけないことしか知りません]
「やっぱりそうですか……」
[頑張ってください]
 謎の声は聞こえなくなった。
「あれ?いつもなら道案内してくれるのに」
「今回は自力でやれってことだろ」
「ま、いいや。とりあえず進めば作者が何か出してくれるよ」

 あれから3時間、探しても探しても何も見つからなかった。
「前言撤回」
 ヘトヘトになったついてくんが言った。
「もうだめー」
 ついてくんがその場に座り込もうとしたその時。
「あれ何!?」
 星くんが言った。ひとすじの光が見える。
「出口だ!!」

 光のところに着いた。そこには悪魔がいた。容姿はまるでバイ●ンマンだ。
「あの光はお前たちのいた世界への時空の穴だ」
 悪魔が言った。
「時空の穴?なら現代に帰れる!!」
「だが、俺は光の番人だ」
「どう見ても闇の番人だろ」
「時空の穴を開きたいのなら力ずくで光のところへ行ってみろ!」
「天界武装!武者ついてくん見参!」
「そんなものは効かない!!」
「武者ついてくん流奥義・怒りの稲妻……」
 剣に稲妻がたまる。そして、
「斬!」
 悪魔は斬られた。
「やった〜」
 変身を解除したついてくんが光に触れようとした。すると……
「待ってください!」
「あっ」
 そこには、猫がいた。しかし、あの謎の声を出している。
「あなたは……猫だったの?」
「違います。猫の姿を借りているだけです」
「なぜここに?」
「このままだとページ数がいつもと同じです。なので、勝負です!」
「おもしろいね。勝負だ!」

「天界武装・武者ついてくん参上!!」
 本日3度目である。初めて出てきたにしては結構馴染んでいる。
「武者ついてくん流・竜巻の舞!!」
「猫必殺霧の舞・吹雪の爪!!」
 竜巻が猫に襲い掛かる。しかし猫は霧のように分散して攻撃をかわし、すかさず爪で攻めるが、武者ついてくんも剣で受け止める。
「やりますね!」
「そっちこそ!」
「ですが、これで終わりです!猫必殺炎の爪!!」
「ぐあああああ!」
 武者ついてくんの隙を突いて、謎の声操る猫が燃え盛る爪で顔を切り裂いた。武者ついてくんになると特性が変わり、透けなくなるのだ。
 変身を解除されたついてくんが倒れこむ。
「とどめです!!猫必殺雷の爪!!!」
「させないぞ!クリームビックバーン!!!」
 突然クリームパンが巨大なビームを打ち出した。猫が吹き飛ばされる。
 その隙についてくんが光に触れた。
 その間に、猫の体が光り出し、消えた。
[持つべきものは友人のようですね……私の負けです]
「ついてくん、早く!」
 4人は時空の穴に飛び込んだ。

 気がつくと、4人はいつもの公園に倒れていた。
「やっと帰ってこれた……」
「お腹すいた〜タコヤキ食べた〜い」
「ま、今回はついてくんのおかげで助かったし、いいよ」
「やった〜」

 タコヤキを食べた後、みんなと別れたくりマロンがため息をついた。
「おれ、今回ぜんぜん活躍してないよな〜」
 そこにたまじいが現れた。
「今回の話読んだぞ」
「それで?」
「お前さんは秀吉を守ったじゃないか。歴史が変わるのを防いだんじゃぞ」
「ついてくんは今回武者になって大活躍だったじゃん」
「主役じゃから仕方ないんじゃよ」
「まあそうだけど……クリームパンもビーム打ってるし」
「それは……」
「あの謎の声だって、実体化して武者ついてくんと互角に戦ってるし、俺やコンセンくんなんかより出番増えてんじゃん」
「確かにそうじゃが……」
「だろ?」
「そこで、作者が次回でくりマロンが主役の話をする予定だといっとったぞ」
「本当?やった!!!」

[くりマロンめ、嫉妬して]
「でもあなたの出番が増えてるのは本当だよ?」
[くりマロンは1話から出てます。私は4話からで、そのうえ6・8話に出てないんですから]
「くりマロンも5、6、9話に出てないよ」
[とにかく!私のほうが出番は圧倒的に少ないんです!!]
「でも、次回はくりマロンが主役だよ?」
[ふふふ、そうでしょうかね]
「え!?だって……」
[まあ、次回のタイトルを見ればわかりますよ……]



 第11話 くりマロンvs謎の声

 くりマロンは、住んでいる栗の樹の近くの湖へ向かっていた。
「今日こそあいつを叩きのめしてやる」
 実は、あの時空旅行から帰ってきたとき、くりマロンが家にしている栗の樹に手紙がおいてあったのだ。
[あなたは私が出番が増えていることに不満のようですね。どちらが出番が増えるにふさわしいか勝負です。明日の正午、湖で正々堂々戦いましょう。謎の声の主]
 くりマロンも謎の声を倒したいと思っていたので、これ幸いと湖に向かっていた。

「やはり来ましたか」
 謎の声の主はまた猫になっていた。
「ああ」
「いざ、勝負です!」
「のぞむところだ!」

「猫必殺吹雪の爪!!」
「マロンせつだん!!」
 猫は冷たい爪で切りつけるが、マロンせつだんで受け止める。
「やりますね……でも、隙だらけです!雷の爪!!」
 そういうと、左手の爪でくりマロンを思い切り引っ掻いた。
「ぎゃ!」
「そんなまんがみたいなリアクションしかできないから出番が減るんです!」
「うるさい!マロンせつだん!!」
「攻撃が単調すぎます!猫必殺霧の舞・雷の爪!!」
 マロンせつだんを霧の舞でかわして雷の爪で切り裂いた。

「星くん、湖に遊びに行こうよ」
「いいよ。でも何で?」
「何か、友達がぼろぼろになってる気がして……」
「え?」

「猫必殺闇の爪!!」
「ぐあ!」
 マロンせつだんしかわざがないくりマロンは、ぼろぼろになっていた。
 その時だ。
「くりマローン!だいじょうぶ?」
「ついてくん!」
 星くんとついてくんがやって来た。
「よくもくりマロンを!天界武装・武者ついてくん見参!武者ついてくん流竜巻の……」
「やめろ!」
 くりマロンが武者ついてくんを止めた。
「何で?」
 変身を解除したついてくんが聞いた。
「俺は自分の力で戦いたいんだ!」
「心意気は立派ですね……ですが心だけでは私には勝てません!猫必殺鋼鉄の爪!!!」
 くりマロンの硬い体も、鋼鉄にはかなわない。
「くりマロン!!!」
 ついてくんが叫んだ。
「負けるか!ダイヤモンドマロン!!」
 ダイヤモンドは究極の硬度を持つ宝石として知られている。鋼鉄の爪も折れた。
「あああああっ!」
「くらえ!分身マロンせつだん!!」
 20人に分身して猫に切りつけた。かわすことはできない。くりマロンの勝ちが決まったかに見えたその時。
「猫必殺霧の舞!!」
 猫が分散してくりマロンの必殺技をかわした。
「猫超必殺龍の舞!!!」
 猫の後ろにドラゴンが見える。ドラゴンがくりマロンに火を噴き、くりマロンはみるみる燃えていった。

「ふー」
 くりマロンがほっと一息ついた。
 くりマロンがすばやく湖に飛び込んだため、怪我はなかった。
「でも勝負は私の勝ちですね」
 爪を再生させた猫が言った。
「じゃあ今度はぼくと勝負だ!天界武装・武者ついてくん見参!」
「私も1対1で戦いたかったのでちょうど良かったです。勝負!」
「武者ついてくん流光の舞!」
「猫超必殺龍の舞!」
 お互いにいきなり強力わざを使った。
 ついてくんの2本の剣が神々しく光りだした。その剣で龍に斬りかかる。
「猫必殺影の爪!」
「武者ついてくん流最終奥義神剣の舞!!!」
 お互いの剣と爪が火花を散らしてぶつかり合った。
 その衝撃で爆発が起きた。

「助かった〜」
「謎の声のおかげだよ」
 爆発であたりが燃えたとき、猫は爪で水面を斬って水の壁を創り、火を消したのだった。
「私もこの猫を死なせたくありませんでしたから」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「お礼にモンブランをごちそうするよ」
「ありがとうございます」
「わーいモンブランだ〜」
 くりマロンと謎の声の主の間には友情が芽生えていた。
 まさに「昨日の敵は今日の友」である。



 第12話 星くん危機一髪

「タコヤキ、タコヤキ♪」
 ついてくんが喜んでいる。リベンジをするため星くんが「もしデュエルスターズで負けたらタコヤキを買ってあげる」と宣言してしまったのだ。食べ物がらみにはとても強いついてくんにボロ負けした星くんは、しかたなくタコヤキ屋へ向かっていた。
「5パックだけだよ」
 星くんが言ったそのとき、
 ビュン!
 星くんめがけて銃弾が飛んできた。
 ぎりぎりのところで星くんが横っ飛びになってかわした。
 撃ったのは見知らぬタコだった。
「大変だ!」
 ついてくんは公衆電話で警察を呼んでいた。しかし……
「警察って何番だっけ?117かな」
「午前11時5分50秒をお知らせします」
 117は時報だった。
「警察はいいから、早く!!」
 星くんが呼んでいる。
「どこへ逃げるの?」
「とりあえず家!」
 星くんとついてくんは急いで逃げた。

「やっと逃げ切れた〜」
「あのタコは何なの?」
[教えてあげましょうか?]
「最近出番多いね」
[あのタコはだいぶ前につぶれたタコヤキ屋の店長です]
「どうして星くんを狙うの?」
[前に星くんとついてくんはいろんな味のタコヤキを売っていたでしょう?その時にあのタコが経営していたタコヤキ屋が人気が落ちてつぶれたんです。逆恨みで星くんを狙っているんでしょう]
「社長はついてくんだったよ」
[ついてくんはすり抜けるから殺せないと知っているのでしょう]
「星くんを殺すつもりなの?」
[もうすぐここに来ますよ]
「助けてよ!」
[どうやって?]
「猫に変身してやっつけて!」
[暴力では何も解決しません。さよなら]
 たこが滑ってくる音がした。
「星め、殺してやる!」
「逃げろ!!」
「どうやって!?」
「くりマロン号!」
 宇宙から帰ってきたとき、くりマロン号2は再び屋根裏に隠された。
「操作できるの!?」
 突然銃声が響いた。銃弾が壁を貫いた。
「ちっ、外したか!」
 タコが言ったその時、
「突撃!!」
 星くんが言った。大声でタコをかく乱させて逃げる作戦だった。
 2人は銃弾を避けながら商店街へ逃げた。

「ニャ!」
「まぁ、何か起こるのね。気をつけるわ」
 ここは「ニコニコベーカリー」。
 予知能力のある猫フューチアが、パンをだいなしにしないよう監視していた。
 もっとも、フューチアが警告して気をつけても起こることは起こるのだが。
 店員がパンを慎重に並べていたその時。
「助けて!!」
 星くんとついてくんがパン屋に突撃してきた。
「ぎゃ!」
 あまりの衝撃にパンを落としてしまった。
 フューチアの警告はいつも正しいのだ。
「あ、あの猫だ」
「あの時はありがとうございました」
「こちらこそ、引き取っていただけて」
「いえ。この猫はもともと店で飼っていたので」
「そうだったんですか」
 和やかに話していたが、
「それより、電話を貸していただけますか?」
「どうして?」
「実は、タコに命を狙われているんです」
「わかりました」
 この店員さんは、気になることがあってもしつこく聞かないタイプらしい。
 こういう危険なとき、この性格はありがたい。
「110」
「なんだ、110番か」
 ついてくんは1つ賢くなった。
「こちら警視庁です」
「変なタコに逆恨みで命を狙われているのでニコニコベーカリーまで来てください」
「わかりました」

 そのころタコ。
「あいつらはパンと友達だという情報がある。パン屋に行くかもしれない」
 勘のいいタコは『ニコニコベーカリー』に向かった。

 パン屋の扉が開き、タコが現れた。
「見つけたぞ星!今すぐ天国に送ってやる!!」
「人間50年!まだまだ生きたい!」
「そんなの関係ねぇ!地獄に行け!」
「いやだ!」
 言い争いをしていたとき、再び扉が開いた。
「器物損害と殺人未遂容疑、さらに銃刀法違反の現行犯でで逮捕する!」
 タコは警察に捕まった。その時、
「まあまあ、ちょっと待ってください」
 パン屋さんの店員が口を挟んだ。
「何ですか?」
「このタコさんも店をつぶされたんです。ここは話し合いで解決するべきです」
「でも、銃刀法違反は関係ありません」
「私がこのタコさんを雇って改心させます。逮捕しないでください」
「……わかりました。罰金、賠償金、修繕費をきちんと払うなら逮捕はしません」
「ありがとうございます」
 警察は帰っていった。

「本当にありがとうございます!!」
 タコは感激のあまり涙を流していた。
「もう犯罪をしないと約束しますか?」
「しまくります」
「では、この銃は私が処分します」
「ありがとうございます」
「私の店で働いてくださいね」
「一生懸命働きます!」

「良かったね」
「うん。で、タコヤキは?」
「買いに行くよ」

「老舗のタコヤキとパンの合体!」
「タコヤキパン、いりませんか!?」
 とりあえず、タコは一生懸命働いていた。



 第13話 黒い星くん

「ねー、ドラ焼き買ってよー」
 ついてくんがねだっている。2人は散歩に来ていた。
「仕方ないな〜」
 星くんがまたもついてくんのペースにのまれようとしていたその時、2人の上空にもくもくと黒い雲が広がっていった。
 ゴロゴロ!!
 星くんに黒い雷が落ちた。
「星くーん!」
 ついてくんが駆け寄る。
「何?」
 文章だけではいつもと変わらないように思われるが、すごく不機嫌だ。
「ドラ焼き買ってくれる?」
「だめ」
 かなり怖い。しかしついてくんは気づかない。
「買ってよー」
「うるさい!」
 怒る星くんの迫力についてくんがたじろいだ。

 家に帰ってゲームをした。いつもなら手加減をしてくれる星くんだが、今日はまったく手加減しない。
 夜になった。いつもおいしい手料理を作ってくれる星くんだが、今日は「面倒だ」といってカップラーメンになった。

「星くん、どうなっちゃったんだろ?」
[教えてあげましょう。星くんはあの黒い雷の中に入っていた闇の何かに操られているんです]
「誰が星くんを操ってるの?」
[たぶん私の同業者です。ただし私のような正しい心を持ってませんね]
「あなたも正しくないと思うけど……ところでどうすれば星くんは元に戻れるの?」
[『神秘の泉』というところに行けば、神秘の力で心の闇を清めることができます]
「ありがとう!」
[ただし、神秘の泉までの道のりは険しいです。しかも……]
「何?」
[あの黒い星くんをそこまで連れて行かないといけないんですよ?]
 ついてくんが黙り込んだ。
[私に任せてください。いい案があります]

次の日。
「星くん、出かけようよ」
「いやだ」
「だったら……」
 ついてくんの周りが神々しく光る。
「天界獣輝!ブレイクついてくん登場!!」
 天界超変化の一つで、2本の鋭い爪を持つ。すごい破壊力を持ち、武者ついてくんのライバルでもある。
 戦って勝てば言うことを聞く、と言ったのはあの謎の声だ。
「ちょうどいい。叩きのめしてやる!」
「奥義ブレイク流・空裂波!!」
「スターブラスト」
 空裂波は空間を切り裂く強力なわざだったが、黒い星くんの打ち出す星が破壊する。
「メテオシャワー」
 巨大な隕石が屋根を突き破ってついてくんめがけて飛んできた。
「奥義ブレイク流・瞬刻斬!!」
 すべての隕石は一瞬で切り刻まれた。
「アイススター」
 凍った星が飛んできた。しかしまたも巨大な爪で刻まれる。
「奥義ブレイク流・龍雷波!!!」
 雷が龍の形をして黒い星くんに襲いかかった。
「ぎゃああああああ……!」
 黒い星くんが倒れた。
「ぼくの勝ちだね」
 変身を解除してついてくんが言った。
「わかった。行けばいいんだろ」
 黒い星くんがついに認めた。

「早く、早く」
 ついてくんが不機嫌な星くんを呼んだ。
「わかってるよ」
 黒い星くんが渋々走る。
 もちろん目的地は神秘の泉だが、星くんには内緒にしてある。
[この先にある橋を渡るんですよ]
 謎の声が言う。しかし、
「あ!」
 その橋は崩れていた。
[どうしますか?]
(あなた、木を操れる?)
 星くんに気づかれないよう頭の中で話す。
[ええ、まあ]
(なら、木を倒して橋になってよ)
[まあ、星くんのためですからね。いいですよ]
 そばにあった木が倒れて橋になった。
「さ、行こ、星くん」

 その後も、広い川があったり、険しい崖があったりしたが、川では謎の声が魚たちを集めて足場を作り、崖では武者ついてくんでとがった岩を破壊して行きやすくしてからブレイクついてくんで岩に爪を立てて先へと進んだ。
 2人が神秘の泉に着いた時、黒い星くんが言った。
「わかったぞ」
 いつもの星くんの声ではない。悪魔のような声だ。
「何のこと?ぼくはただ水遊びをしたかったんだけど」
「嘘をつくな。俺の正体を見破ったな」
「……そうだよ」
「俺を神秘の力で倒すつもりだったな!」
「……何で星くんを操ったの」
「この体の持ち主に頼まれたんだ」
「嘘をつくな!」
「いや、本当だ。あいつは、お前があまりにワガママだから、何とかしようとした」
[確かに、第4話でそんなことがありましたね]
「しかし、だめだった。自分の性格では厳しくできないとわかったんだ。そこで、俺はあいつに話しかけた。『俺に体を貸してくれるなら、あいつに厳しくする』と」
「星くんはいいっていったの?」
「ああ。3日間という条件付きでな」
「じゃあ、3日したら星くんは帰ってくるんだね」
「そんなことはない」
「なんで?3日間という条件を呑んだんでしょ?」
 黒い星くんは、ニヤリとして言った。
「約束は破るためにある。俺のような悪魔を信用したあいつが悪い」
「悪魔なら体を持っているんでしょ?なのになんで体を奪ったの?」
「死んだからだ。でも、俺はそう簡単に霊界に逝きたくない」
「だからって星くんを利用するなんて許せない!天界武装!武者ついてくん見参!」
「ふん、見かけ倒しの武者ごときがどうした。お前にはこの体を傷つけることはできないだろう」
 確かに、ついてくんに星くんを傷つけることはできない。
「さあ、どうした。攻撃しないのならこっちから行くぞ!!ダークスターショット!」
 黒い星が武者ついてくん目掛けて飛んできた。何とか剣ではじいていくが、
「隙あり!ダークスターブラスター!!!」
「ぎゃあああああ!」
 星が連続して当たり武者ついてくんが吹き飛ぶ。
「とどめだ!アイススタ……」
「そうはさせません!」
 謎の声がまたも猫を操って現れた。
「猫必殺影の爪!!」
 悪魔操る星くんを切り裂いた。
「武者ついてくん!竜巻の舞です!」
「わかった!武者ついてくん流・竜巻の舞!!」
 悪魔操る星くんは吹き飛ばされた。
「吹き飛ばしただけでは何も……あっ!」
 吹き飛ばされる先には神秘の泉があった。
「やめろ!やめてくれ!」
 悪魔操る星くんが哀願する。しかし武者ついてくんは言った。
「人も動物も死んだら死の世界に行く。悪魔だけが二度目の人生を生きるなんて、そんなことぼくが許さない!」
 星くんの体が光りだした。光の中に一筋の黒い煙があがった。

「星くんが無事でよかった」
 ついてくんは変身を解除した。
「ごめんね。あの悪魔がどうしてもと言うから」
「いいよ」
「さ、家に帰ろ。今日は昨日のカップラーメンの分食費が浮いたから回転寿司にでも行こうか」
「やった!!」

 ちなみに、隕石によって壊れた屋根の修理費は300万だとか。



 第14話 容疑者ついてくん

 朝、星くんとついてくんがごはんを食べていると、玄関の戸が勢いよく開いた。
「警察の者だ!中に入らせてもらう!」
「何ですか?」
「お前に犯罪の容疑が入っている!ひったくり5件にスリ2件、それに万引き10件だ!」
「そんなことしてません!」
「そうです!」
 2人が怒るが、警察の方も負けていない。
「ではこの写真を見ろ!!」
 その写真には、野菜の入ったカゴを持ったおばけの後ろ姿、それにカゴの持ち主らしいおばちゃんがいる。
「誰が撮ったの?」
「その人は最近デジタルカメラを買ったので練習をしていたら、たまたまこんな写真が撮れたんだ。これはお前だろ!」
「そんなことはないよ!」
「だがな……ひったくりも万引きもすべて対象は食べ物だった。すられたお金も食事に使われてるんだ。お前は大食いだろ!」
「……」
 ついてくんが黙り込むのを見て、星くんが代わりにに答える。
「この写真だけではついてくんとは決め付けられないでしょう。顔が写っていませんし、他のおばけかもしれません。大食いのおばけだってついてくん1人とは思えません」
 確かに姿はついてくんにそっくりだが、後ろ姿では絶対についてくんだとも決め付けられない。
「確かにそうだな……よし、今日のところは見逃してやる。ただしお前から目を離さないからな」

 くりマロンとクリームパンにも知らせて、4人は今朝の事件について話し合っていた。
 この事件はニュースでもやっていて、みんな知っていた。
「おばけって……やっぱりついてくん?」
 くりマロンが言った。
「ぼくそんなことしないよ」
「でも万引きはするじゃん」
 くりマロンが言っているのは、街探検に行ったときのことである。
「あれ以来はしてないよ」
 話し合いは並行線をたどる。
「じゃあ、ぼくたちで犯人をつかまえようよ。そうすれば疑いも晴れる」
「このままだと、ずっと監視されるし」
「こんなときは……天界変装!探偵ついてくん始動!!」
 探偵ついてくんは、調査や推理、変装を得意とする、頭脳派ついてくんである。
 天界変装、とは言っているものの探偵ついてくんは天界超変化とはまったく関係ないコスプレだ。

「その人はどんな様子でしたか?」
 探偵ついてくんと星くんは万引きに遭ったお店に聞き込みに来ていた。
「さあ……監視カメラの死角で小さなアメを手に隠して、すごいスピードで出て行ってしまったので……」
「どんな格好でしたか?」
「そのときはちょうど混雑していて……」
「ありがとうございました」

 あれから1時間。ついてくんは変身を解除していた。天界七変化はただでさえ体力を消耗するのだ。まして子どものついてくんに長時間の変身は大きな負担となる。
 ちなみに警察の監視は振り切っていた。
「だめだ……犯人はぜんぜん手がかりを残していないね」
「このままだとついてくんが犯人にされちゃうよ」
「どうして?」
「警察は一刻も早く犯人を逮捕したいはず。少しぐらい証拠がなくても無理やり逮捕するかも……」
「じゃあ、もう一度天界七変化で……」
「だめだよ!ついてくんの体力が!」
「時間がないの!」
「じゃあ……せめてタコヤキを食べてから……」
「いいよ!」
 星くんは自分の言ったことを少なからず後悔していた。

「天界変装!探偵ついてくん始動!!」
「今度は推理でがんばってよ!」
「わかった!」
 とはいえ、推理するにも証拠が足りない。そこで……

「この事件について知ってる人はいませんかー」
「警察に協力をお願いします!」
 探偵ついてくんの得意技・変装で警官に変装した探偵ついてくんは、街中で聞き込みをしていた。
 しかし、成果はなく、ついてくんは再び変身を解除し、4人はそれぞれの家に帰った。

 2人は晩ごはんを食べていた。
「結局だめか〜」
「こんなときなんでも知っているような人がいれば……」
 その時、星くんがひらめいた。
「謎の声は?」
「でも、あの人5話連続で出たらまずいと思って今回は猫の体を借りて旅行に出かけるって言ってたよ」
「そっか……じゃ、今回は謎の声に頼れないのか〜」

「何かひらめいた?」
 翌日、4人は再び集まっていた。
「全然」
「このままだとついてくんの逮捕は時間の問題かな」
 クリームパンがそういったとき、
「そうだ!」
 ついてくんが言った。
「何?」
「おとり作戦!」

「天界変装!探偵ついてくん始動!!」
 探偵ついてくんは変装して、あのおばけと同じ姿になったのだ。
 ついてくんが考えた作戦は、あのおばけと同じ姿になってどろぼうをすることだった。それも、かなり乱暴な手口で。
 器物損害などを避けているらしいそのおばけにとって、これは困る。罪が増えてしまうからだ。
 さらに、そのおばけの犯罪が増えたら、警察も真剣に捜査をする。まさに一石二鳥なのだ。
「だいじょうぶ?」
 星くんは心配そうだ。
「大丈夫だよ。探偵ついてくんは頭脳が優れてるから」
 くりマロンがなだめる。
「じゃ、行って来るね〜」

 探偵ついてくんがレジの前においてあるクッキーを奪った。
「どろぼう!」
 店員が叫ぶ。探偵ついてくんはガラスを突き破って逃走した。
「待て!」
 警備員が追うが、神速でやすやすと逃げた。

「またも謎のおばけによる万引きの犯行がありました。警視庁では厳戒体制で捜査を続けています」
「作戦成功だね」
 ついてくんが言った。
 盗んだクッキーはついてくんが食べようとしたが、事件が収まったら返そうと言って星くんが隠してしまった。
「でも、どうする?厳戒体制になったらしばらくは犯行をしたりしないよ」
「後は警察の腕を信用しようよ」

 あれから1週間。あれ以来あの事件は一度も報道されていない。
「やっぱり警察はだめだね」
 ついてくんが言ったその時、ニュースキャスターが言った。
「たった今速報が入りました。謎のおばけが逮捕されたそうです」
「警察署に行ってみようよ」
 ついてくんは星くんを誘った。

「ああ、お前か。あの時はすまなかった」
 あの時の警官が謝った。
「そのおばけに会わせてください」
 ついてくんが聞いた。
「だめだ」
 星くんは別のことを聞いた。
「どうして逮捕できたんですか?」
「それがな、実は自首してきたんだ」
「自首?」
「それも理由がおかしいんだ。隠れ家にいたら、突然猫が飛び込んできて、顔を引っ掻いたというんだ。しかも猫が威厳のある声で『自首しなさい』と言ったって言うんだ。俺は嘘だと思うがな」
「それって……」
 2人は思わず顔を見合わせた。
「それから、ガラスを割ってないというんだ。あのどろぼうは俺じゃない、と。姿もそっくりだから、それも嘘だと思うが」
「実は……それは嘘じゃないんです」
 そういって星くんはあのクッキーを出し、本当のことを話した。
「……ガラス代は弁償しますし、クッキーは返します。だから許してください」
 警官は苦笑した。
「こっちも誤って容疑をかけてしまったからな。弁償はこっちでするよ。それにしてもおとり犯罪とは、考えたな」
 3人は声を揃えて笑った。


 第2巻へ星くんとついてくん トップへ


   
inserted by FC2 system