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「星くんとついてくん」

 星くんとついてくん 第4巻

 第43話 楽しい春祭り

 星くんが郵便受けに入っている一枚のチラシを見つけた。
『明日、町内の春祭りが行われます。くじ引き大会や屋台など、たくさんのイベントを開催しますので、ぜひ来てください。町内会』
「春祭りか。行ってみる?」
「ええ〜」
「行かないと話が進まないから行くの!」
「は〜い」
 ついてくんがしぶしぶ了解した。

 翌日、春祭りの会場に2人が行くと、そこにはすでに友達が来ていた。
 アスちゃんはコンセンくんと金魚すくいをしていた。
 くりマロンはクリームパンと射的をしている。
 たまじいは「1口試食コーナー」に行って商店街の人気商品を片っ端から試食していた。
 お店を出している中に、あのタコがいた。パンを売っている。
 しかし、実は人気があるのは隣のお店だった。
 スピラル・マヨネーくんとキューティア・ラード・フューチアがショーをやっていたのである。
 キューティアがその容姿と能力で人を集め、ラードが火を吹いて一気に観客を沸かせる。そこでスピラルが観客に、フューチアが予知能力のある猫であることを伝える。そして、それを見せるために誰かステージに上がる人を集める。
 どうやらフューチアは、「不幸を予知する」ではなく「不幸を呼び寄せる」猫らしいことが最近わかってきていた。
 というわけで、ステージに上がった人は不幸に見舞われ、すぐにステージを降りてしまった。
 そして、半信半疑でショーを見ていた人もフューチアの予知能力(というより、不幸誘致能力?)に驚いた。
 続いてスピラルが、こういう。
「今から『スーパーバクダンマン7』の対戦を行います。私が、誰か挑戦者とバトルします。もし私が負けたら賞金1万円を差し上げます。その代わり参加費として100円はもらいます。その100円は私のものになります」
 一種のカジノだが、お祭りなので大目に見てもらっていた。
 というか、スピラルが悪い事はしない、と確信しているらしかった。
 たくさんの人が名乗り出る。そしてスピラルにコテンパンにされ、お金を払っただけでそのステージを後にした。
 フューチアがその挑戦者の後ろについているため、その参加者の中にはトロッコにひかれたり、なぜかCPが30人に分身して一斉に迫ってきたり、バグで爆弾を置けなくなったりして負けたりした人も多かった。フューチアがプレイヤーに不幸を呼び寄せたのだ。
 スピラルはここでかなりのお金を得たらしく、喜んでいた。
「何か、私って運がいいですね」
「ていうか、相手に不運を押し付けてるんじゃないの」
「ま、そのことを相手が知らないからこそできるんですよ」
 スピラルはまた『バクダンマン対戦ブース』に戻っていった。
「何する?」
「何か食べたい!」
「じゃ、お昼ごはんにしよっか」
 星くんは焼きそば1パックを食べた。ついてくんは焼きそば45パックにタコヤキ230個、フランクフルト80本におにぎり30個を食べた。
 その後、金魚すくいで満腹のついてくんと涙目の星くんが対決した。
「よ〜い、スタート!!」
 星くんはすごい腕前で、一気に100匹もつかまえた。
 ついてくんは2匹しかつかまえられなかった。
「2対1で、勝者ついてくん!」
 ………ついてくんは星くんの金魚を99匹食べていた。

「あ、おばけ屋敷がある!」
 ついてくんが言った。
「行ってみる?」
「いいけど」
 もちろん、おばけになっているのは仮装した普通の生物だった。
 そして、中に入ったのは本物のおばけである。
「きゃああああああああ!」
 誰の悲鳴かはご想像ください。

「疲れた〜」
「何する?」
「おやつ!」
「まだ食べるの?」
 ついてくんはかき氷5個(お腹を壊しそうなので控えめにしました)にわたあめ20本、タイヤキ70個にタコヤキ150個を食べた。
 さらに出店している「メクドナルド」の店でもてりやきバーガー25個と『ビックメック』2個、チーズバーガー6個を食べた。
 星くんは見ているだけでお腹がいっぱいになり、何も食べていないのに吐いた。
 開催場所になっている公園の隅にあるシーソーで休んでいると、反対側にアスちゃんが来た。
 アスちゃんは町内会の役員に選出され、お祭りの企画をしていた。
「ねえ」
「何?」
「星くんはお店出さないの?」
「うん……」
「うどん作れば?」
「あ、あれ?」
 マンガ第11話『星くん店を出す』で、星くんはうどん屋さんを作った。
 ただし1日で閉店したが(というより、させられた)。
「おいしかったし。よし、そうしよう?」
「ちょ、勝手に決めないでよ」
「私テント張るから、うどん買ってきて」
「……わかったよ」
 星くんはついてくんをアスちゃんに預けて、スーパーに買い物に行った。

「うどん買って来たよ……って、何これ!?」
 テントには大きく『うどん星』と書かれている。きれいなキッチンにはお鍋が用意されていて、いつでも販売できそうだ。
「私チラシも作ってあるから」
「いつ作ったの!?」
「きのう徹夜した」
「……それって、最初からやらせるつもりだったの!?」
「うん。だって、儲けの2割は町内会に回るし、うどんはおいしかったし」
「………」
「ま、チラシ配ってくるから。30分後には開店できるようにしといてね」
「はい」

 30分後、販売が開始された。
 テント前はたくさんのお客でにぎわった。
 うどんはあっという間に売り切れた。
「やっと終わった〜」
「どのくらい儲かったの?」
 星くんが箱に入っている小銭を数えた。
「え〜と……6000円」
「ま、そんなもんかな。じゃ、1200円もらうね」
 アスちゃんがお金を取った。

 お祭りも終盤に近づいてきた。
 中には帰った人もいるが、だいたいの人は夜遅くまで残って年に2回しかないお祭りを楽しむ。
 ついてくんの食欲は衰えを知らない。タコヤキ270個にフランクフルト120本、わたあめ12本に焼きそば60パックにおにぎり50個を一気に食べた。
 星くんは焼きそば2パックにフランクフルト1本を食べた。
「福引でもやる?」
「やった!!プラズマテレビが当たった!!」
 くりマロンが喜んでいる。
「すご〜い」
「やった!!折りたたみ自転車が当たった!!」
「……クリームパン、それ乗れるの?」
「………」
「よし。ぼくもやろ〜」
 ついてくんが福引を回した。
「おめでとうございます!」
「何?」
「D●とP●Pとw●iとXbo●360のセットです!」
「そんな著作権に気を使う賞品を用意しないでください」
「………」
 星くんも福引に挑戦した。
「おめでとうございます!」
「何?」
「ティッシュ1箱です」
「……それって、はずれ?」
「はい」
 そのとき、星くんがあることに気づいた。
「あれ!?ついてくんがいない」
 タコヤキ屋の前についてくんがいた。
「タコヤキ300個ください」
「あ…ああ……」
 星くんが硬直して、そのまま気絶した。



 第44話 星くんの多忙な一日

「ひまだな〜」
 星くんが言った。ついてくんはスピラル(とフューチア&キューティア)と一緒に旅行に行ってしまった。
「なんか眠くなってきた……」
 星くんはベッドに向かおうとしたが、思い直した。
「あ、そうだ。だいぶ前も同じようなことがあったんだ。今ここで寝たらワンパターンになって作者が困る。ここは無難に散歩にでも行っとこう」
 星くんが家を出ると、突然神様がやってきた。
「あ、神様。何か用ですか?」
「大変なんじゃよ!」
「何がですか?」
「ホリアが愛想をつかしてサクシアを連れて出て行ったんじゃよ!」
「何でですか?」
「ただサクシアのおやつのプリンを食べただけなのに、サクシアが泣いて、ホリアが理由を聞いたらものすごく怒って出ていっちゃんたんじゃよ」
「……的確な判断ですね」
「それはどういう意味じゃ!」
「……で、ホリアさんはどこに行ったんですか?」
「たぶん、実家に」
「じゃあ、そこに行って謝ってくればいいんじゃないですか?」
「行ってみたんじゃよ。でも鍵がかかってて」
「窓かなんかから謝ればいいんじゃないですか?」
「窓を叩いたら窓が突然ガラッと開いて、ついでにバズーカで吹っ飛ばされたんじゃ」
「……それはお気の毒に」
「というわけで、星くんの助けを借りようと思って」
「なら、電話かメールを使えばどうですか?」
「おお!それはいいアイデアじゃ!ありがとう星くん!」
 神様が天界に帰っていった後、星くんは商店街に入った。
 すると突然話しかけられた。
「星くん!」
 それはマヨネーくんだった。
「大変なんだ!助けてくれ!!」
「何があったんですか?」
「ラードが逃げたんだよ!!」
「どこに行ったか見当つかないんですか?」
「いろいろ探したけどだめで」
「公園は?」
「探した」
「商店街は?」
「探した」
「コンセンくんの家は?」
「行った」
「じゃあ、『ニコニコベーカリー』は?」
「あ!まだだ!ありがとう!」
 マヨネーくんは猛スピードでかけだした。
 星くんは家に帰ろうとした。しかし、
「ぐはっ」
 でんげきぎり中のコンセンくんとぶつかった。
「いてて……あ、コンセンくん」
「大変なんだよ!」
「何が?」
「ぼくの大事な腕時計を無くしちゃって……」
「タンスの裏とか、ペンたての中とか」
「探したよ」
「テレビ台の下とか、電話機の横とか」
「そこも探した」
「じゃあ……どっかに置き忘れたんじゃないの?」
「えーと……無くしたことに気づいたのがさっきで……」
「いつまではあった?」
「きのう」
「今日どっか行った?」
「あ!朝、『フォーティーワン』に行った!!」
「じゃあ、おれも行くよ」
 星くんが言った。

「いらっしゃいませ〜……あ、コンセンくんと星くん」
「あのさ、ぼくの腕時計見なかった?無くしちゃったんだけど」
「え〜と……あ。コンセンくん、テーブルに置きっぱなしだったよね」
「やっぱり?」
「その後……ポチがくわえて行ったと思う」
「そうなの!?ありがとう!!」
 コンセンくんは猛スピードで店を出て行った。
「星くんも大変ね」
「まあね」
「何か食べる?」
「うん。ピーナッツクリーム」
 ピーナッツクリームは新商品で、星くんの最近のお気に入りである。
「わかったわ。ところでついてくんは?」
「スピラルさんと旅行に行ったよ」
「ふうん。あ、できたわよ」
「ありがと。おいしいね」
 アイスを食べ終わった星くんは、店を出た。
 と、すぐに固いものにぶつかった。
「いてて……あ、たまじい」
「あ、星くん!ちょうどよかった!!」
「何がですか?」
「ピアノを教えてくれんかね!?」
「別にいいですけど……何で突然?」
「実は、さっき老人会で他の人たちが特技を言っていくから、わしもなんかないかな〜と思ったんじゃが、試食ぐらいしかなくて、それを言うのもいやじゃったので特技はピアノだといったら、ぜひ明日聞かせてくれと頼まれたんじゃよ」
「自業自得じゃないですか」
「そういわんと助けてくれ。つい調子に乗って『できなかったら切腹する』って言っちゃったんじゃよ〜」
「そんなどっかのボクサーみたいなことを言ったんですか?」
「だって言ってみたかったんじゃも〜ん」
「……で、何を弾くんですか?」
「フランツ・リストのピアノソナタロ短調」
「………」
「ん?どうかしたのかね?」
「それって長くて客を飽きさせないようにしないといけないうえに曲の中に大小様々な変化が盛り込まれてる難しい曲ですよ?」
「そんなに難しいのかね!?」
「ええ!おれだって弾けませんよ!!」
 ………。
「え?」
「第一、おれはピアノを習っていたなんて言ったこと一度もありませんよ?」
「でも、前弾いてたじゃん!星くんの家で!」
「そりゃ、メジャーな曲なら少し弾けますよ。でも、そんなとてつもなく難しい有名な曲を弾こうなんて大それたこと言うわけないでしょう」
「で、どうすればいいんじゃね?」
「@土下座してみんなに謝る。Aがんばって練習する。B切腹する。さあどれにする?」
「……Aで」
「がんばってくださいね〜」
「待ってくれ!せめて少しでも弾ける人についていてほしいんじゃよ!」
「あ!そうだ!!」
「何じゃね!?」
「急用を思い出した」
「そんな典型的な嘘で逃げられると思うのかね?」
「はいはい。でも、そんな上手く弾けるようになるとは思いませんけど……あ!」
「何かね?」
「選択肢のCがあった!」
「何かね?」
「C適当に鍵盤を弾きながら裏でこっそりポータブルCDプレーヤーで音楽を流してごまかす」
「………」
「あ、やっぱりこんな卑怯なことはしませんよね?」
「……そんなことはない!ナイスアイデアじゃよ星くん!感謝するよ!いや、感謝しますよ!!」
「なぜいきなり敬語に?」
「本当にありがとう!ところで、ひとつ質問があるのじゃが」
「何ですか?」
「リストのCDはどこに売ってるのかね?あとポータブルCDプレーヤーも」
「そりゃ、音楽代理店とか、CDショップでしょう」
「ありがとう!」
 たまじいは猛スピードで去っていった。
「……なんか疲れたな」
 星くんは家に入った。

「なんかしようかな……」
 星くんは暇つぶしについてくんの当てたW●iを出してきた。
「さて、『ハイパーバクダンマン』でもやるかな」
 これはハド●ンと任●堂が協同開発したW●i専用のソフトである。爆弾を投げつけて攻撃ができるシステムになっている。
「えい!やぁ!」

 CP相手に280連勝したころ、ついてくんが帰ってきた。
「ただいま〜」
「あ、ついてくんお帰り」
「あのさ、お客さんが来てるけど」
「誰?」
「星くん!さっきはありがとう!!」
「あ、コンセンくん&マヨネーくん&たまじい&神様」
「ホリアと仲直りできたよ!メールしたらわかってくれた」
「腕時計も見つかったよ!ポチの小屋にあった」
「ラードも見つかった!ニコニコベーカリーの裏にいたよ」
「CDとプレーヤーも見つかった!!」
「それはよかったね」
「お礼に……」
 コンセンくん&マヨネーくん&たまじい&神様はそれぞれカステラとクッキーとチョコレートとシュークリームを持ってきた。
「ありがと」
 星くんが言った。
 こうして、星くんの一日は終わった。



 第45話 ついてくんと神様

 ついてくんは1人でお留守番していた。
 星くんがアルバイトに行ったからだ。
「あ〜ひまだな〜」
 そのとき、ついてくんは名案を思いついた。
「そうだ!神様の所にでも遊びに行こ〜」
「おいしい食べ物もあるし、面白いし、お小遣いくれるかもしれないし」
 セリフが重複してるのは、ついてくんがいろいろ独り言を言っているからです。
「よし。でも、どうやっていこう?」
 いつもは神様が迎えに来ていた。
「そうだ!電話しよう」
 ついてくんは星くんから携帯電話をもらっていた。
 アドレス帳にはいろいろな名前が登録されていた。
「もしもし〜」
「もしもしゴッドですけど……あ、ついてくん?」
「うん」
「何か用かね?」
「暇だから遊びに行きたいんだけど」
「星くんはどこへ行ったのかね?」
「アルバイト」
「ふうん」
「というわけで、迎えに来て」
「わかった」

 神様が迎えに来た。
「あ、神様」
「おはよう」
「天界に行こうよ」
「ま、そうあせらずにまずはこの近くの店を案内してほしいんじゃが」
「いいよ!」

「ここはフォーティーワンだよ」
「あ、だいぶ前に来たことがあるな」
「そうだね」
 2人は中に入った。
「いらっしゃいませ〜あれ、あなたは神様?」
「そうじゃよ」
「じゃ、ついてくんのパパですね。こんにちは」
「とりあえず、何か頼んでいい?」
「もちろんいいぞ。お金ならたくさんあるからの」
 世界を創り出したアテルディアは、各世界からお金を手に入れる特別なシステムを作っていた。それを3代目の神様だったゴーディンが各地域で通用するそれぞれの通貨を好きなだけ作り出せるシステムに進化させた。今でもそのシステムが採用されており、神様は好きなだけお金を使うことができた。
 ただし、天界のお金を作ることはできない。物価が狂うからだ。
「じゃあ……ココアを3つとバニラを6つ、クッキー&クリームを4つに宇治抹茶を2つ」
「わしは何かおすすめをくれ」
「では、ピザはどうでしょう」
「ピザ?何が入ってるのかね?」
「トマトの果汁(無農薬栽培)、ベーコン(最高級イベリコ豚)、バジル(有機栽培)、パルメザンチーズ(イタリア産GIO認定パルミジャーノ・レッジャーノ)。厳選した高級食材を使うようにしています」
「おいしいそうじゃな……じゃあ、わしはそれを1つ」
「ぼくもそれを6つ」
「かしこまりました〜」
 アスちゃんは猛スピードでアイスを盛り付けた。
「おいしい!」
「本当じゃな」
「星くんと来たときはこんなに食べられないし」
「ま、わしの財力に勝てる人間はこの世界に存在せんよ」
「そうだね」
「お会計は、250円のココア3つで750円、120円のバニラ6つで720円、180円のクッキー&クリーム4つで720円、140円の宇治抹茶2つで280円、400円のピザ7つで2800円。合計で5270円になります」
「はい」
 2人はフォーティーワンを出た。
「これからどうする?」
「そうじゃな……じゃあ、天界に行くか」
「うん」
「天界ワープ!」

「着いた〜」
「さて。しかし、歩くのも面倒じゃし、あれを使うか」
 神様が出したのは、靴だった。
「これ何?」
「ハイスピードムーブシューズといって、高速で移動できる未来型の靴じゃ」
「へえ」
「これを使えば10分ほどでアテリアに行けるぞ」
「あのさ、天界の首都ってどこなの?」
「もともとはアテリアだけが政治の拠点だった。ところが、3代目の神様ゴーディアがアテリアから離れたところにディアという都市を作った。そこは発展し、やがて6代目の神様ミレアルが新都市デミリアを作った。以後、この3つの場所にそれぞれ政治の拠点が分けておかれた。最大都市アテリアには神議会(神様や一部の選ばれた天使・妖精が会議をする場。ゴッドが議員に魔将軍を加えた)と神居(神様の住むところ)がおかれ政治の最終決定を下される場になった。ディアには天妖聖議会(天使、妖精、聖獣など天界の住人すべてが会議をする場)がおかれ、大まかな政治や内閣の組織がここで行われることになった。ミリアには天霊魔議会(地上界をのぞく各界の代表が会議をする場)がおかれ、いろいろな意見が飛び交い、様々な改革はここから始まるようになった。このように3つの都市でそれぞれ権利や役割が分担されている仕組みを三議分立制としているのじゃ」
「へえ」
「アテルディアはたくさんの子を作り、遺書にこれから神様の後継者になる権利は自分の血を受け継ぐ者すべてに与えろと書いた。ミレアルとゴーディアが都市を作ってからは、アテルディアの血を継ぐ者がそれぞれの都市に分かれたため、次の後継者がどの都市から出たかでその意見や信念が分かれることになった」
「ふうん。で、それぞれの都市にはどんな特徴があるの?」
「アテルディアはすべての基礎を築いた者じゃ。アテリアから出た神様は、アテルディアのやり方を習って古い時代を参考にした政治を行うことが多い。ゴーディアは改革によって新しい時代を築こうとする性格だったため、ディアから出た神様も改革を推し進める傾向がある」
「じゃあ、神様はディア出身?」
「いや、わしはミリアの出身じゃ。ミレアルは初の女性の神様で、優しさ、思いやりを何よりも優先しておった。ミリアの生まれの人は差別や戦いを嫌い、平和で安心できるな世の中を目指すものが多い。ただし、このようなやり方には反対派も増えるので、ミリアから神様が出ることはあまりない」
「神様ってどうやって決めるの?」
「まず。天妖聖議会が候補者をリストアップし、その人たちに神様になる意思があるかどうかを聞く。意思がある者の中からまず神議会で採決される。最終的には総選挙で神様を決めるが、そのときに神議会の採決結果は1人3票として選挙結果に加えられる。神議会で選ばれた者は選挙を有利に進められるわけじゃな」
「ふうん。ところで、ぼくはどこ出身になるの?」
「アテルディアの血を受け継ぐ者のタマゴは3大都市のどれかで孵されるのが決まりだったが、お前の場合は……」
「ま、いいや。あ、アテリアが見えてきたよ」
「本当じゃ。さて、ホリアに会いに行くか」
 ホリアは今までの負けず嫌いをなくしたらしく、ニコニコしていた。
「こんにちは」
「こんにちは〜」
「何か用ですか?」
「ううん。遊びに来ただけ」
「星くんには言ってあるのですか?」
「あ、忘れてた」
 ついてくんは星くんにCメールを送った。
『神様と天界に行ってきます。いつか帰ります。ついてくん』
「これでよし。で、何かしよう」
「といっても、何も無いぞ」
「そっか……」
「まあいい。何か食べ物を用意してもらうから。それより、ゴーストに挨拶してこよう」
「ゴーストって、いろいろあってマンガにも小説にも出ていないぼくのお母さんだよね?」
「そうじゃよ」
「病気を理由に『天界の継承者』にも出てこなかったのに?」
「病気は治っていないが、挨拶くらいならできるじゃろ」
「じゃあ、ついにゴーストが登場するわけ?」
「ああ。覚悟はいいか?」
 しかし、ホリアが口を挟んだ。
「ゴーストさんなら昨日霊界に帰りましたよ。療養のためですって」
「………」
「……何か食べようか」
「うん」

 ホリアとサクシアも加わって4人でおやつを食べていると、星くんが迎えに来た。
「お〜い、ついてく〜ん」
「星くん」
「あ、何食べてるの!」
「あと、フォーティーワンでアイス21個食べたよ」
「……神様!」
「何かね?」
「ついてくんを勝手に甘やかさないでください!ついてくんを立派に育てようと頑張ってるんですから!!」
「ま、息抜きも必要じゃよ。というわけで、ホリアとサクシアも連れてみんなで回転寿司にでも行こうじゃないか。友達も呼んでいいぞ」
「……どういうわけですか?」
「行きたい!」
「わかりましたよ。でも、ぼく友達全員呼びますよ?」
「いいぞ。お金ならいくらでもあるからの」

 くりマロン、クリームパン、コンセンくん、ポチ、アスちゃん、たまじい、スピラル、フューチア、キューティア、タコ、マヨネーくん、ラード、謎の声(猫)、ニード&ドーニくん、タイフーくん、サリくん(マンガ第9話に1コマだけ登場)、ガブくん(マンガ第9話に1コマだけ登場)、モッチー(マンガ第9話に1コマだけ登場)、あんこコウ(マンガ第9話に登場)。
「回転寿司に入りきるの?」
「たぶん」
「ま、いいぞ。300万円持ってきてるし」
「すごい!」
「じゃあ、みんなに好きなだけ食べていいといってくれ」

「お会計は、35620円になります」
「はい……あ!財布を天界に忘れた!」
「………」
 結局、お寿司代は星くんが全額負担したそうです。



 第46話 変わらぬ友情(1)

 月曜日の昼下がり、星くんは折り紙でバラを作っていた。
「ねえ星くん」
「何?」
「何やってるの?」
「内職」
「何で?」
「お金が足りないから」
「少し前に神様がくれたのに?」
「……ついてくんが全部タコヤキと換えてきたじゃん」
「そうだっけ?」
「うん」
「……じゃあ、ぼくも手伝うよ」
「大丈夫?」
「うん」
「でも、バラの折り方わかんないでしょ?」
「……うん」
「じゃあ、アイスココアでも入れてきてよ」
「わかった!」
 ついてくんがアイスココアを入れてきたとき、バラは100本ほど作られていた。
「あ、ありがとう」
 星くんが手を伸ばしたそのとき……。
「あ!」
 大方の読者の予想通り、ついてくんが転び、アイスココアがこぼれた。
 星くんはびしょ濡れ、バラもふやけてボロボロになった。
「……」
「あ……」
「今すぐこの家から出て行け!!」
 星くんはついてくんを追い出した。

「どうしよう……」
 ついてくんが困った。家からは何も持ってきてなかったし、寝るところも食べるものもない。最悪の状況である。
「今星くんの家に戻っても怒るだけだし、携帯も置いてきちゃったから神様も呼べないし……」
「あれ?ついてくん?」
「あ、アスちゃん」
「どうしたの?こんなところで」
「それが……」
 ついてくんが星くんの内職のバラをボロボロにしたこと、星くんが怒ったことなどを話した。
「ふうん。じゃ、行くところがないってわけね」
「うん……」
「……家に来る?」
「いいの!?」
「うん」
「その代わり、フォーティーワンの仕事手伝ってくれない?」
「いいよ」
 こうして、ついてくんの行き先は決まった。

「じゃあ、ここついてくんの部屋ね」
「あのさ、アスちゃん」
「何?」
「この建物、一体どうなってんの?」
「え〜と……」
 1階はフォーティーワン。アイスを売るお店になっていて、奥にはキッチンもある。
 ただし、普通の家のキッチンより少し大きい程度で、お店にあるような大型のキッチンではない。
 働いているのはアスちゃん1人なので、当然だ。
 2階はアスちゃんの家。LDKの他、トイレ、お風呂もある。寝室、趣味の部屋、物置部屋がある。標準的な3LDKだ。
 物置部屋といっても、半分くらいは空いている。そこをついてくんの部屋にした。
 布団を引くとスペースはほとんど残らないが、居候なので仕方ないだろう。
 地下1階まである。アスちゃんはお店が休みのとき(毎週月曜日)や夜の大部分をここですごす。
 仕事部屋にはネットワーク環境が整備されたパソコン、新しい味のアイスを研究するためのキッチン。冷蔵庫には牛乳、ココアパウダー、お菓子が入っている。疲れを癒すためだ。
 隣にはシャワー室もある。
「すごいね〜」
 ついてくんが言った。
「じゃあ、今日は休みだから、明日はがんばってね」
「ていうか、明日は何があるの?」
「え〜と……あ!」
 メモ帳を見ていたアスちゃんが言った。
「何?」
「午前中は近くの草野球大会があるから、そこにアイスを届ける注文が入ってる」
「それで?」
「午後は……特殊系のアイス屋さんが集まっていろいろ話す年1回の会議があって……」
「どこで?」
「ここ」
「じゃあ、お休み?」
「ついてくんできる?」
「う〜ん……」
「ま、午前中様子を見て考えよ〜っと」
「それがいいね」
「じゃ、何か食べる?」
「うん!」

 晩ご飯も終わり、ついてくんをお風呂に入れ、寝かせた。
 アスちゃんは明日の予定を立てたり、アイスの研究をしたりで忙しいので、ついてくんを先に寝かせた。売れてる店のシェフ兼店長はものすごく大変なのだ。
 そんな忙しいアスちゃんがよく4泊5日の旅行についていってくれましたね。

 その頃、星くんはものすごく悩んでいた。
「ついてくんどうしてるかな……。少し怒りすぎたかな……でも、ついてくんだってさすがに……」
 わざとではないのに?
「でも、あれで3000円くらいの儲けになったのに……」
 ついてくんはまだ0歳。君は18歳。
「……」
 春になったとはいえ夜はまだ冷える。
「………」
 毛布も無い。携帯も無い。お金も無い。行く当ても帰るところも、まさに何にも無い。
「…………」
 夜は危ない。誘拐されるかもしれない。いや、ひょっとするともう手遅れかも……。
「いや、さすがにそんなことは………」
 特殊系の街とはいえ車通りも多い。それに普通の人間だって入れないわけではない。
「人間は存在を知らないはず……」
 エビルベーカリー。
「あれは……」
 もしかしたら研究者に捕まってるかも。宇宙人に連れ去られたかも。殺し屋に狙われてるかも……。
「そんな夢みたいな話……」
 現にあったじゃないか。第1巻で。
「いや、そんな事件2度も……」
 あるかもよ。
「でも……」
 寒くてお腹をすかせる0歳のおばけ。もしかしたら化けて出るかも……。
「そんなことついてくんはしないよ」
 もしついてくんを凍え死なせるなんてことがあったら神様が何と言うか……。
「それは……」
 ただでさえ大食いなのに何も食べるものが無かったら……。
「ついてくんは強いから大丈夫だと……」
 強いと思われている人ほど些細なことで簡単に折れるもの。
「そんな……」
 0歳なのに自分が一番信頼していた星くんにあんなことを言われたついてくん。生きる気力を失ったついてくんは、降りてくるバーをくぐって踏み切りの真ん中へ……。
「いくらなんでもそんなことは……」
 小説のネタが切れかかってるんだ。もう何もかも嫌気がさした作者は主人公を殺すという手で終止符を……。
「原作者の意思に反してそんなことは……」
 原作者と意気投合。ついてくん瞬殺。
「そんなことはさすがに……」
 そうかな?
「………」
 どうした?ついに怖くなったか?
「……お前誰だ?」
 ……。
「さっきから不安になるようなことばっかり言ってるお前は誰だ?」
 ………。
「何だよ。さっさと白状しろよ」
 ……さよなら。
「あ!待て!!」
 もう変な声はしなくなったので、星くんは眠ろうとした。しかし、さっきの言葉がよみがえってなかなか眠れなかった。
『もう手遅れ……』



 第47話 変わらぬ友情(2)

 翌朝。悪夢にうなされた星くんとは対照的にぐっすり眠ったついてくんは、張り切っていた。
「何か手伝うことある?」
「山ほどあるわよ。アイスを作らないといけないから」
「何種類作ってるの?」
「1年間置いてあるのは15種類、期間限定のが5種類」
「あのさ、売れ残ったらどうするの?」
「……ホームレスやお金の無い人たちに、特別安い価格で売ってるわ。売れ残るよりはましだし」
「そうなんだ」
「それより、アイス作るの手伝って。誰でもできるように作り方のマニュアル作ってあるから」
「これ?」
「うん」
「どれ作ればいい?」
「え〜と……じゃあ、これとこれとこれ」
 アスちゃんが指定してきたのは、比較的簡単な『ストロベリー』、『ココア』『抹茶』だった。
「え〜と……『@つぶした苺(20個)の果汁、牛乳(3リットル)、砂糖(200g)、バニラエッセンス(10滴)をミキサーに入れて3分ほどかき混ぜる』か」
 ついてくんはまず苺をつぶし、冷蔵庫から牛乳(安全で牛乳本来の甘みを残せるパスチャライズド製法を利用して作ったパスチャライズド牛乳)と苺と砂糖を取り出して、全部入れた。
「次は……『A混ぜた物をボウルに移し、冷凍庫に入れる』か〜」
 冷凍庫といっても、急速冷凍が可能であるすごく冷たい冷凍庫だ。中に手を10秒入れるだけで手がまひする。
「さむ〜……あ、次は『ココア』か。『@ココアパウダー(大さじ15杯)、牛乳(3リットル)、砂糖(200g)をミキサーに入れて3分ほどかき混ぜる』ね」
 仕事に慣れたついてくんは、『抹茶』のアイスも作り、その後もたくさんのアイスを作ってアスちゃんを手伝った。

 朝10時。開店時間になった。店の前に並んでいた人たちが一斉に店に入りオーダーを始めた。
「いらっしゃいませ〜」
「え〜と、『ココア』1つ」
「『桜』2つ!」
「『抹茶』と『バニラ』1つずつ」
「『ピザ』を3つ」
「あの、試食はないのかね?」
 そう言ったのは、たまじいだった。
「試食はありません。でも、10円で1口サイズのアイスがありますよ」
「そうか……じゃ、ピザとココアの1口サイズを」
「かしこまりました〜」
「『チーズ』2つ!」
「『パイナップル』1つ!」
 オーダーは止まらない。
 やっと落ち着いたのは並んでいた客たちが(フォーティーワンの店内には買って食べる小さな部屋の奥に食べることのできる大きな部屋があり、たくさんの人が一斉に食べることができる)帰った後だった。
 その間にアスちゃんはついてくんに店を預け、草野球大会に行って来た。
「ふ〜。やっと落ち着いたね」
「毎日こんなに大変なの?」
「うん。私、この時間が一番好き。おやつと昼食の間になってるこの時間帯に来る人は少ないし、地下室に行くこともできないから、この時間にゆっくりできるの。寝ることはできないけど」
「ふうん。ところで、午後はどうする?」
「う〜ん。閉店しよっかな。ついてくんは2階で遊んでてよ」
「でも、何かあるの?」
「え〜と……」
「ま、いいよ。何かやること見つけるから」
「お願いね」
 そのとき、お客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませ〜って、星くん!?」
「何でそんなに驚いてるの……って、ついてくん!?ここにいたの!?」
 代わりにアスちゃんが答えた。
「ええ。ところでどうするの?」
「どういう意味?」
「だから、ついてくんを引き取るの?」
「………」
「私はどっちでもいいわよ。星くんがついてくんの世話に疲れて、もう面倒は見たくないって言うなら私が引き取るけど」
「………」
「その時は、神様にちゃんと言っといてね」
「………」
「星くんがついてくんのこと許すって言うならそれでもいいけど」
「……ついてくんが謝ってくれるなら……」
「……星くん、変わったね」
 アスちゃんが言った。
「きっと生徒会長やってた時だったらすぐに許したと思うけど」
「………」
「ま、いいけど。ついてくん、謝って」
「ごめんなさい」
「いいよ」
「じゃあ、午後は閉店するから。じゃあね」
「バイバ〜イ」

 夜。星くんは悩んでいた。いつもと違うアスちゃんの一言が心に刺さっていたのだ。
『星くん、変わったね』
 改めて考えると、自分でもそう思う。昔の、1年前の自分だったらきっとすぐに許したのだろう、と。
 それに、アスちゃんのあの一瞬の変化は何だったのだろう。いつも明るいアスちゃんが、なぜかクールで、冷たくて、何だか星くんのことを見捨てたような口調だった。
(おれもアスちゃんも、変わったんだな。でも、一体何がおれやアスちゃんを変えたんだろ?)
 星くん、アスちゃん、ついてくん。3人はどういう風に関わりあっているのだろうか。
 くりマロンやクリームパン、コンセンくんやたまじいも関係しているのだろうか。

 アスちゃんも自分の冷たい一言に悩んでいた。
 明るい性格だったはずの自分の心の中にあんな闇の部分が隠れていることに、アスちゃんは驚いていた。
 それに、星くんもだ。いつも優しくて何でも許してくれるはずの星くんが、あんなことを言ったことにも驚いていた。
(私と星くんは、ついてくんやくりマロンたちと出会ったことでどんな風に変化したのかな?)
 2人とも、なかなか眠れなかった。

 翌日もアスちゃんはフォーティーワンの仕事で忙しかった。
 やっと客が帰り、店が落ち着いたころ、星くんとついてくんがやってきた。
「こんにちは」
「あ、星くん。こんにちは」
 2人は昨日の会話を思い出して黙る。
「ピザとココアと抹茶を2つずつ」
 ついてくんが言った。
「星くんは何か頼む?」
「じゃあ、ココナッツミルクを1つ」
「かしこまりました〜」
 アスちゃんがアイスを7つ持ってきた。
「やっぱりおいし〜」
 ついてくんがすごい速さで食べ、星くんもアイスを食べた。
「あ、お金はいらないわよ」
「何で?」
「昨日ついてくんがお手伝いしてくれたから、お礼」
「でも、アスちゃんだってついてくんのことお世話してくれたから同じだよ」
「わかったわ」
 星くんがお金を払ったとき、アスちゃんが言った。
「私、昨日のこと謝りたくて……。何か星くんにひどいことを言っちゃった気がして、それに私の中にあんなことを言う部分があることがいやで、昨日も眠れなくて……」
 アスちゃんは泣き出しそうだった。
「おれもだよ。アスちゃんに言われて、ついてくんを許せなかった自分を責めて、眠れなかった」
「………」
「だから、同じなんだよ。アスちゃんだけが悪いわけじゃないし、おれだけが悪いだけでもない。ついてくんだけが悪いわけでもない。みんないろんなところで関わり合ってるから、心が変化していくのは当たり前なんだよ。親しい人の影響を受けるから。でも、変わらないものがある」
「……何?」
「みんなを結ぶ友情。それが変わらないからこそ、おれたちが変わっていくんだよ……」
 2人は笑い合った。久々の、心からの笑顔だった。
 その横でついてくんが訳のわからない、という顔でアスちゃんのいるカウンター側からアイスを勝手に盛り付けていた。



 第48話 バルーンパニック

「あ〜ひまだ〜」
 ついてくんがソファに寝転がったまま言った。
「そうだね〜」
「何か無い?」
「え〜と……そうだ!」
「何?」
「風船に手紙を括りつけて飛ばしてみようよ」
「それいいね!」
「じゃあ、これ」
 ついてくんが手紙を書いた。
「え〜と……『ぼくはついてくんです。暇なので手紙を飛ばしてみました。どうぞよろしく。』っと。これでいっか」
「よくない!」
「何で?」
「訳わかんないじゃん。全然知らない人が『ついてくんです』だけで想像がつくわけ無いじゃん!」
「そっか……『ぼくはついてくんです。空から降ってきたタマゴから生まれた神様とおばけのハーフです。どうぞよろしく』」
「だめだよ。そんな長い説明だと逆にわかりづらいって」
「そうかな……『ぼくはついてくんです。大食いのおばけです。どうぞよろしく』」
「ま、それでいいかな……あとは、電話番号を書いてっと」
 星くんが電話番号を書いているついてくんが戸棚の奥にある赤い風船を膨らました。
「じゃあ、飛ばすね!」
 ついてくんが手を離した。
「やったね!」
「うん!」
「何か失敗してないよね?」
「うん。風船はちゃんと飛ばしたし、ちゃんと手紙も持ってるし」
「そうだね」
 ………。
「え?手紙持ってるの?」
「うん、そうだけど?」
「手紙は風船に括り付けないと意味無いじゃん!!」
「そっか!じゃあ、もう一回飛ばさないと」
「風船なんてないよ?」
「だって1個あったじゃん」
「ああ、あれは8歳のときアスちゃんが初めて誕生日にくれた大切な風船だから、大事に大事にとっといたの」
 …………。
「それ、大切なの?」
「うん」
「飛ばしていいの?」
「そりゃ、だめに決まってるじゃん」
「でも、飛ばしたよ?」
「……しまった!!」
「大変だ!早く見つけないと!!」
「急げ!」
 星くんは家に入るとすぐにパソコンの電源を入れ、インターネットで気象衛星の映像を開いた。
「え〜と……関東方面……小さくて見えないな……東京都八王子市……あった!」
 赤い風船があった。
「結構高いな……」
「じゃあ……天界飛翔!!フェザーついてくん開花!!」
「急げ!」
 星くんを乗せたフェザーついてくんは、猛スピードで空高く舞い上がった。
「あ、あれだ!」
 風船が見つかった。しかし、風船は気圧に押されて空気が抜け、しゅるしゅると下のほうへ落ちていった。
「あ、あっちは東京駅の近く!」
「てことは車にひかれる!」
 フェザーついてくんが音速で地上を目指した。

 ここは、東京駅近くの高級住宅街。
「お母さん」
「なあに?」
「赤い風船が落ちてるよ?」
「まあ、きれいな風船」
「うちに持って帰っていい?」
「道路に落ちてるのは汚いからだめよ」
「え〜、風船ほしい」
「はいはい。近くのコンビニで買ってあげるからおとなしくして」
「わかった!」
 親子が去った後、野良犬が赤い風船をくわえていった。
 その直後、星くんとついてくんが地上に降りてきた。
「あれ?風船は?」
 変身を解除したついてくんが言った。
「どこいったんだろう……あ、あの野良犬がくわえてる!!」
「本当だ!急いで追いかけよう!」
 2人はすごい速さで野良犬を追いかけた。
「こういうときは……天界演奏!メロディーついてくん開演!!」
「どうするの?」
「子守り歌!」
 メロディーついてくんの静かな音楽に聞き入った野良犬はすやすやと眠った。
「風船も見つかったし、これで……あ、この風船違う!!」
「え!?」
「じゃあ、どこに行ったんだろ?」
 星くんとついてくんは一生懸命辺りを探した。
 しかし、風船は見つからなかった。
 30分ほど探してから、2人は家に帰った。
「やっぱりだめか〜。あれ?」
 ついてくんが何かを見つけたらしい。
「何?」
「見てよ、これ!」
「あ!」
 ついてくんが指差したのはパソコンの画面だった。気象衛星の映像を閉じていなかったので、そこには東京の上空が映し出されていた。
 その中に、赤い風船が1つある。
「もしかして、最初っから違う風船を追いかけてたの?」
「そうみたいだね。……それより、早くこの風船を追いかけないと!」
「そうだった!!」
 フェザーついてくんに再び変身し、2人は上空に舞い上がった。
「あった!」
 赤い風船があった。それを星くんが見事キャッチした。
「これでよかった……あれ!?これも違う!」
「ええ!?」

 がっくり肩を落とした2人は、家に戻った。
「気分転換にお菓子でも食べよ」
「……うん」
「あれ?こんなところに赤い風船がある!」
「え?」
 それは、まぎれもないアスちゃんからもらった風船だった。
「ついてくん、どこから風船出した?」
「そこの戸棚だけど?」
「あ!そういえば、昨日商店街でもらった風船を戸棚に入れといたんだ!それでこっちはここに移したんだ!!」
「ってことは、星くんの勘違いなの?」
「ごめん」
「………」
「また風船飛ばす?」
「もういいよ」
「……あ、そうだ。どっか食べに行く?」
「うん、行く!」
 ついてくんの機嫌を直すのは簡単だ。しかし、お金がかかる。



 第49話 凶悪生命体シャドー

「ただいま入りました情報によりますと、最近都内の人間や動物の影が変な方向に向いている、という事件が多発しています。影の方向がおかしな人は、最近性格が変わっている、という情報も入っています」
「何だろうね」
 星くんが気楽に話しかけたが、ついてくんは身震いしていた。
「もしかして……」
「知ってるの?」
「うん……前に神様から教えてもらった」
「何なの?」
「魔界が誕生したとき、デモリアは魔界の住人を呼ぶと同時に『シャドー』と呼ばれる生命体を作ったんだって」
「シャドーって何?」
「何でも、動物の影に住みついて、影の主の心を蝕んで、支配して行く凶悪な生命体なんだって」
「何でそんなのをデモリアは作ったの?」
「色んな生命体を支配して、魔界の権力を強めるため」
「それで?」
「そのときの神様はゴーディンだったんだけど、ゴーディンはシャドーのほとんどを封印し、消滅させた。ところが、1匹だけ生き延びたシャドーがいた。それも力をほとんど失ってたんだけど、力を少しずつ取り戻したんだって」
「で、何で今シャドーが出てくるの?」
「力を取り戻したからじゃないの?」
「ふうん。で、シャドーが出るとどんな影響があるの?」
「シャドーが影に取り憑いても、最初のうちは何も変わらない。ただ少し、影の向きがおかしくなるだけ。でも、少しずつその人の性格や好みなどを変えていき、その人の心を蝕んでいく。そして、1週間ほどでその人はすべてをシャドーに乗っ取られる」
「でも、シャドーは1匹しかいないんじゃないの?」
「シャドーが誰かの心を支配したとき、シャドーはその中で力をつけ、どんどん仲間を増やす。増えた仲間は誰かの心を支配して、どんどん仲間を増やす。1年もあればほとんどの生物はシャドーに支配される」
「またみんな封印して、消滅させられないの?」
「あんなに力の強い神様はアテルディア、ゴーディン、ミリアの3人だけ。それ以来世界中に力を放つような神様は現れていない」
「じゃあどうすればいいの?」
「アテルディアの血を受け継ぐ者なら、神の裁きでシャドーを倒せるけど、一匹ずつしかできない」
「でも、やるしかないよ。今できるのは誰?」
「ぼくと神様(ゴッド)とサクシア。それに、ぼくの母親のゴーストも遠い祖先を辿るとアテルディアにつながるらしいんだって」
「とにかく、天界に行こう」
 ついてくんは携帯で神様を呼んだ。

「どうすればいいんですか?」
「そういわれても、困るんですけど」
「え?」
「神様もサクシアも天界の各地でシャドーを倒してるし、ゴーストさんも霊界に行ってます。でも、焼け石に水。倒すスピードより増えるスピードの方が速い。しかもどんどん加速してます」
「じゃあ、どうすれば……」
「強い力を持った者がいれば……」
「それって、やっぱりアテルディアの子孫じゃないとだめ?」
「いいえ。アテルディアの子孫が力を貸せば、大丈夫です」
「でも、そんなに力の強い人なんて……。星くんじゃだめ?」
「だめですね」
「じゃあ、地上界に行って探して来るよ」
「私も行きます」

 3人はくりマロン、クリームパン、コンセンくん、ポチ、たまじいに当たってみた。しかし、結果はみんなだめだった。
「あ!あの影、方向が違う!!」
 その影は、もたれかかっている木と反対方向に伸びていた。
「本当だ!天界武装!武者ついてくん見参!!神の裁き!!」
 影から一筋の灰色の煙が上がり、影が普通の方向に回転して戻った。
「大丈夫?」
「……何のことですか?」
 ホリアが耳打ちした。
「シャドーに半分以上蝕まれると、たいていの人はそれからの記憶をなくすんですよ」
「そうなんだ……。ところで、力の強い人って具体的にどんな人なの?」
「そりゃ、不思議な能力を持った生物のことでしょう」
「ふしぎなのうりょくをもった生物?」
「それって、どっかのタイトルで聞いたことが……」
 マンガ第6話『ふしぎなのうりょくをもったこねこ』。
「フューチア!!」

 3人はニコニコベーカリーに行った。
「こんにちは〜」
「こんにちは」
「何か用?」
「うん。フューチアを貸してもらいたいんだけど……」
「何で?」
 ついてくんは、シャドーが世界を支配しようとしていること、それを追い払うためにフューチアの力が必要なことを手短に話した。
「それは……ちょっとだめだな〜」
「何で?」
 そのとき、星くんが言った。
「……あなた、シャドーでしょう」
「何のこと?」
「スピラルさんは常に敬語を使っていた」
「え?」
「フューチアを貸さないのも、自分たちの立場が危うくなるからだろう!」
「……よくわかったね〜。しかし、あたしを殺すことはできないよ」
「何で?神の裁き!!」
 影から一筋の煙が上がり、消えた。
「あれ、皆さんお揃いで何ですか?」
「フューチアの力を使ってこの世界を蝕むシャドーという凶悪な生命体を封印したいんです」
「わかりました。いいですよ」
「ありがとうございます!」
 3人はフューチアを連れて外に出た。
「天界ワープ!」

 アテリアに着いた3人は、ゴッド、サクシアを呼んだ。
「何じゃ?」
「この子猫の力を使えばシャドーを消滅させられるかもしれません」
「そうか。では、この子猫を結界の中央に」
 神様が結界を作り、中央にフューチアを置いた。
「どうやるの?」
「この子猫の潜在能力を最大まで引き出し、その力を吸い取って神様に注ぎ込む。すると、神様の力が最大まで上がり、神様はゴーディンと同じようにしゃどーを封印し、消滅させられるようになる」
「ふうん」
「ではいきますよ」
 結界が光り出し、フューチアの体が輝いた。
 そして、フューチアの周りの光が神様に当たり、神様の体も輝き出した。
 神様の周りに神々しい光の輪が現れた。すると、次の瞬間、その光の輪が急激に輝きを増し、激しい光とともにその輪は広がっていった。
 光の輪から放たれる輝きは、霊界や魔界や地上界にも広がっていって、たくさんの影を浄化した。
 世界のあちこちで、灰色の煙が上がった。

 ホリアが言った。
「しかし、この子猫はすごいですね。こんなすごい力を持っている生物は、天界にも稀にしかいません」
「本当にそのとおりじゃ。これだけの力を放出したら、ほとんどの生物はぐったりしてしまうはずじゃ。なのに、こんなに元気ということは、ありえないほどのエネルギーを秘めていたことになる」
「フューチアがそんなにすごい猫だなんて、思っていませんでした」
「ところでその子猫……フューチアのことじゃが、目を離さないほうがいいぞ」
「何でですか?」
「結界の中で、この子猫の潜在能力は完全に開放された。きっと今まで以上に強い能力を発揮するじゃろう」
「そうですか……わかりました」
「ま、何にせよ、そんな能力を持った子猫は稀じゃ。大切にすることじゃな」



 第50話 小説50話記念大長編 ブリザード・サバイバル

 ついてくんの家に、神様がやってきた。
「何のようですか?」
「実は、もうすぐ異世界の1つで大会があるんじゃが、出ないかね?」
「いや、抽象的すぎる気がするんですけど。まず、どこの異世界ですか?」
「天界、霊界、地上界、魔界ができた後、強い魔力を持った者によってたくさんの世界が生み出された。今度の大会があるのは一年中極寒で雪が降り積もる『トナ界』じゃ」
「トナ界って……」
「大会というのは、冬のサクサクバクダン大会じゃ。雪の上で鬼から逃げるゲームで、賞金も出る」
「へぇ。おもしろそうだね。みんなを誘って出よう」
「さんせ〜い」

 くりマロン、クリームパン、コンセンくん、たまじい、アスちゃん、モッチー、サリくん、ガブくん、ニード&ドーニくんが大会に出ることになった。
 そして、大会の日。みんなは神様と待ち合わせをして、トナ界へと向かった。
「さむ〜。本当に寒いね」
「あそこにあるのが『暖か城』。あそこだけは暖房も効いててすごく暖かいんだけど、そこに行ったら失格なんだって」
「へえ」
 実況の人が出てきた。
「では〜。ただいまより。サクサクバクダン大会を始めます!!」
 参加者からパラパラと拍手が起こった。
「では。ルールを。説明し……」
 その瞬間、突然実況の人が凍りついた。
「ただいまより、お前たちは私のコレクションだ」
「あなたは誰?」
「氷の女王・ブレイディアよ」
「それがどうした。さっさとこんな世界出て行ってやるよ」
 誰かが言った。
「そんなことはできない。この世界は私の力によって完全に孤立している。周りとのつながりがある場所は存在しない。私を倒す以外にこの世界を出る方法はない」
「何をするつもり?」
「私のコレクションとして氷の彫刻になってもらう」
 その瞬間、誰かが暖か城に向かって走り出した。それに続いてみんな散り散りになった。

 森に隠れる参加者もいたが、ほとんどは『暖か城』にこもって籠城作戦を展開していた。
「どうする?」
「そりゃ、あの氷の女王を倒してこの世界を出るしかないでしょ」
「でも、あいつ強そうだよ」
「そりゃ、女王っていうくらいなんだから、強いんでしょ」
「勝てるの?」
「こっちには神様がいるじゃん」
「ていうか、この世界はあいつの力で孤立したんでしょ?でも、神様ならその力を打ち破れるんじゃないの」
「そんなことはない。他の世界ならともかく、この世界ではあいつが絶対的な力を持っておる。わしでもかなわん」
「じゃあ、どうすれば……」
 そのとき、ブレイディアが城の外に現れた。
「そんなところにこもっていていいのか?今すぐ皆殺しにするぞ」
 すると、コンセンくんが言った。
「お前みたいなブサイク女なんか怖くない!」
 そういって城を飛び出した。
「そうか。そんなに死にたいなら望みをかなえてやろう!」
 ブレイディアがコンセンくん目掛けて氷柱を次々と落としていった。
 コンセンくんも上手くかわして、でんげきぎりでブレイディアに突っ込んだ。
「コンセンくん、がんばれ!!」
 ついてくんが応援する。
 ブレイディアに直撃し、ブレイディアがわずかによろめいた。さらにでんげきぎりをぶつけて行った。しかし、必死の抵抗も虚しく、ブレイディアの力で氷付けにされた。
「ふん。この程度で私に逆らうとは、愚かなやつだ」
「コンセンくん!」
「次は誰の番だ?それとも大人しく私に従うか?」
 その時、アスちゃんがとことこと出て行った。
「まあ、そんな闘志剥き出しにしないでこのアイスでも食べてください」
「いいだろう」
 ブレイディアが山盛りになったアイスを食べた。
「おいしいな」
 その隙に、暖か城のガードは何重にも固められ、アスちゃんも中に閉じこもっていた。
「くっ、作戦か!」
 さらに、くりマロンの指揮で作られた大砲が火を吹き、次々とブレイディアに命中していった。
 ブレイディアの周りの雪が溶けていく。
「ぐはぁぁぁ!こうなったら一時撤退だ!お前ら、絶対に皆殺しにしてやるからな!!」
 コンセンくんの彫刻を引きずって、ブレイディアは自分の城に戻っていった。
「やっぱり、あいつの弱点は炎らしいな」
「よし。今のうちにたくさん大砲を作っておこう」

 ブレイディアは帰る途中、森を抜けていこうとした。
「くそっ。あいつらめ。明日にもあの城を攻め落としてやる」
 しかし、森には女王が来ると予想して、ニード&ドーニくん率いる森林軍が待ち構えていた。
「ぐはっ!」
 森林軍はブレイディアに向かって爆弾を次々と投げつけた。
 暖か城でダメージを受けていたブレイディアは森で再びダメージを受け、かなりの痛手を負った。
 しかし、ブレイディアは女王。城ならともかく、無防備な森林なら相手を打ち負かすことが可能だった。
 森林軍は次々と氷付けにされ、悲惨な戦果となった。
 しかし、リーダーだったニード&ドーニくん、そして一部の者たちは逃げ延びた、暖か城に潜入した。
「誰だ!?あ、ニードくんとドーニくん!」
「何があった!?」
「森林であの女王に爆弾を当ててダメージを与えたんだ。でも、勝てなくて何とかここまで逃げ延びた」
「それなら、氷の女王はかなりダメージを受けているはずだ。ようし。どんどん大砲を作ろう」

 次の日。クリームパンを先頭に特攻隊が結成され、氷の女王を迎え撃つことになった。
「あ!来たぞ!!」
 氷の女王は雪だるまの兵隊を連れてきていた。しかし、大砲の炎には手も足も出ない。次々と雪だるまが溶かされていった。
 しかし、溶かされる度に下にある雪を使って復活した。
 さらに、ブレイディアも次々と氷柱を発射し、特攻隊を崩していった。
 クリームパンは溜めていたクリームビックバーンを放ち、ブレイディアに攻撃した。
 しかし、氷の壁を作られて阻まれた。
「この程度か」
 クリームパンは彫刻にされ、近くの雪だるまがそれを運んでいった。
 そこに、大砲が次々と撃ち込まれた。ブレイディアの周りで次々と爆発が起こる。
 しかし、ブレイディアはそれに備えていた。厚い氷の壁で周りを覆い始めたのだ。
 爆発も周りの雪を溶かすだけで消えていった。
 しかし、暖か城の方も予想していた。強力な鉄の玉がブレイディアに直撃した。
「ぎゃああ!」
 ブレイディアの周りにあった氷の壁が崩れ落ち、そこに爆弾が次々と命中。
 ブレイディアは逃げ帰っていった。
「また勝ったぞ!」
「でも、このままだと仲間が少しずつ減っていくだけ。あっちに攻め込んでいかないと」
「そうだね」
 話し合いの結果、星くん、ついてくん、くりマロン、ニード&ドーニくん、アスちゃん、たまじいが攻め込んでいくことになった。

 氷の女王のいる城は、森の先にそびえ立っていた。
 扉は重く、押しても引いても開かない。
「破壊する?」
 ついてくんが言ったが、たまじいが言った。
「こういうときは、年寄りの知恵を使うんじゃよ」
 扉が開いた。
「すごい!何で!?」
「簡単じゃよ。横に引いたんじゃ」
「……そんなんでいいんだ」
 たまじい、アスちゃん、星くん、ついてくん、くりマロン、ニード&ドーニくんの順番で行くことになった。
「あ!」
 突然、落とし穴が開き、たまじいが落ちていった。
 アスちゃんがなんとかヒゲをつかんでいるが、たまじいは重い。もうすぐ落ちそうだ。
「わしは……もういいから……あいつを………倒せ」
 そういって、
「タマゴビーム!」
 アスちゃんにビームを当て、アスちゃんが倒れこんだ隙に落ちていった。
「たまじーい!」
「ていうか、あんな技使えたんだ……」
 星くんが言った。
「とにかく、あいつを倒せば助け出せるよ。行こう」
「そうだね」
 しばらくして、雪だるまの大群が襲い掛かってきた。
「どうしよう!?」
「ここはおれたちに任せろ!!」
 ニード&ドーニくんが次々と雪だるまを倒していった。
「お前たちはあの女王を早く!」
「わかった!」
 その先には、上から無数の氷柱が落ちてくるトラップが仕掛けられていた。
 逃げ遅れたアスちゃんが氷柱に囲まれて動けなくなった。
「私のことはいいから……早く!」
 3人は全速力で走った。
 そして、ついに女王の部屋の前まで辿りついた。
 女王の部屋の扉を開けた。

 そこには、ブレイディアが王座に座っていた。
 クリームパン、コンセンくんの像もある。
「ここまで来るとは」
「お前を倒してやる!」
 そういったのはくりマロンだった。
「こい!デュラX!!」
 進化したデュラが部屋の屋根を突き破って現れた。
 デュラXの戦闘力∞。
 くりマロンの戦闘力4000。
 ブレイディアの戦闘力∞∞∞。
 ブレイディアの剣の戦闘力3億。
 くりマロン完全敗北。
「ぎゃあああああ!」
 くりマロンも氷の彫刻と化した。
「次はお前らの番だ……」
「そうはいかない!天界武装!」
 武者ついてくんがブレイディアに斬りかかった。
 ブレイディアも剣で応戦する。
「必殺!ブリザードブラッシュ!!」
 ブレイディアの手から無数の氷の刃が飛んできて、2人の体を切り裂いた。
「ぐはああああああああ!」
 2人が倒れこんだ。
「ふん。やはりザコだったな。これで終わりだ!アイスストーム!!」
 巨大な氷の塊が2人の上に降ってきた。
「スピリチュアルビックバーン!!」
 氷の塊が破壊され、ブレイディアに粉砕された氷の破片が降り注いだ。
「スターショット!」
 星くんが星を撃ちだした。
 しかし、氷の壁にすべて阻まれる。
「その程度か!アイスボール!!」
 氷の弾が2人に襲い掛かった。
「武者ついてくん流竜巻の舞!!」
 氷の弾は吹き飛ばされ、氷の壁に当たった。壁も弾も砕け散った。
「ブレイク流奥義・空裂波!!」
「スターブラスト!!」
 壁が無くなり、星も波もすべてブレイディアに命中した。
「スピリチュアルホール!!」
 ブレイディアの真下に穴が開き、霊界に引きずり込まれた。
「うわあああっ!」
「とどめだ!スピリチュアルビックバ………」
「ブリザードギガブラッシュ!」
 巨大な氷の刃が次々と2人の体を切り裂いた。
「まずはお前から消してやる!フリーザーブラスト!!」
 ついてくん目掛けて氷のビームが放たれた。
「危ない!」
 星くんがついてくんの前に立ち塞がった。
「あっ!」
 星くんが氷の彫刻になった。
「ふん。どうせどちらも死ぬ運命なのに、無駄なあがきをしたな」
「よくも星くんを……。」
「ふん。お前に何ができる」
「お前だけは絶対に許さない!!ついてくん超絶最終奥義!ファイナルゴッドスピリチュアルビックバーン!!」
「一体何を……!」
 ついてくんは、巨大なすべてを破壊し尽くす最終奥義を発動した。
 氷の女王の城は崩れ去った。
 彫刻にされた人々は復活した。

 氷の女王は消滅し、『トナ界』は再び他の世界とつながった。
「サクサクバクダン大会は来週またやるって」
「ふうん。そしたら、その時に行こっか」
「ところで、くりマロンのデュラってどこを通ってきたの?」
 ついてくんが聞いた。
「……え?」
「いや、デュラって地上界にあったんでしょ?どうしてつながりのないトナ界まで飛んできたの?」
「……さあ?」
 こうして、トナ界での戦いは終わった。

「まだ私は消滅してなどいない……。この借りは必ず返してやる……あの星と、おばけと、くりと、パン……」
 トナ界での戦いは、どうやらまだ終わっていないようだ……。



 第51話 トナ界のサクサクバクダン大会

「いよいよ明日だね」
 明日は、トナ界でサクサクバクダン大会がある。
「うん。前は変な女が現れて延期になったからね」
「でも、神様は仕事で行けないって」
「じゃあ、どうやって行くの?」
「代わりに、『どこにでもドア』っていう道具をくれたよ」
「……それって、著作権法に抵触しない?」
「何で?」
「ま、いいけど」

 ついてくん、星くん、くりマロン、クリームパン、コンセンくん、たまじい、ニード&ドーニくんが行くことになった。
 アスちゃんは仕事で行けなかった。
 実況が出てきた。
「ただいまより。サクサクバクダン大会を。始める。ルールは。簡単。鬼が。あなたたちを。追いかける。君たちは。賞金。10万円を持って。行ってもらう。鬼に。捕まったら。賞金は。没収。暖か城の。中に入っても。その時点で。賞金は。没収。あの時計が。12時に。なったら。スタート。5分。したら。鬼が。スタート。明日の。12時まで。賞金を。没収。されなければ。君たちの。勝ち。賞金は。持ってけ」
 実況が、みんなに賞金を配った。
「食事は。あの輪っかに。置いとく。19時から。19時30分。までは。鬼は。輪っかに。入れない。それに。6時から。6時30分も。同じ。眠っても。大丈夫と。思うなら。眠れ。没収されても。恨むな」
「ねえ。一緒に動くと見つかりやすいから、単独行動ね」
「うん、いいよ。でも、ぼくは星くんと一緒に行くよ」
「そうだね」
「あと。10秒。9。8。7。6。5。4。3。2。1。0。行け」
 みんなが一斉にスタートした。

「どこに隠れる?ていうか、寒いね」
「何か、12時までは暖かくなるような魔法をかけていたらしいよ」
「へえ」
 その時、笛が鳴った。鬼がスタートした合図だ。
「やばい!こうなったら、森にでも隠れよっか」
「そうだね」
 そんなことを話してるうちに、鬼がやって来た。
 よく見ると、それも普通の生物らしかった。
「何で鬼をやってるの?」
「没収したお金の半額は俺のものになるんだ!」
「そうなの!?」
 鬼がすごい形相で追いかけてきた。
「スターショット!」
 鬼が星に当たって吹き飛ばされる。
「今だ!逃げろ!」
 2人は森の中に入った。

「あれ?もしかして、森に鬼が隠れてるの?」
「そうみたいだね」
 森の少し広くなっている場所に出た途端、鬼に囲まれた。
「天界武装!武者切り!!」
 鬼の一体を切り裂き、ついてくんが星くんを連れて逃げようとした。しかし、他の鬼が遣ってきて、2人は中央に戻った。
「天界獣輝!空裂波!!」
 空間を切り裂く強力な波で鬼を退かせた。
「天界飛翔!!」
 フェザーついてくんで空いた場所に突撃した。
「スピリチュアルホール!!」
 追ってくる鬼を霊界からの手で封じ込め、2人は逃げ切った。

「あれ?ここどこ?」
 ついてくんが言った。2人は、逃げるのに夢中で、どこかわからないところに迷い込んでいた。
 どこから入ったかもわからないような場所だった。周りは厚い氷の壁に覆われていて、入ることも出ることもできない。外の様子もまったく見えなかった。
 すると、壁が無いかのようにそこを突き抜けて、くりマロンとクリームパンがやって来た。
「あれ?星くんとついてくん。何でここに?」
「っていうか、どこから入ったか不審に思わない?」
「………なんだここ!?」
 その時、声が響いた。
「まんまと騙されたな」
「あ、お前は!」
「そう。ブレイディアよ」
「でも、お前は消滅したはず……」
「そんなことはない。私はそう簡単に滅びるほど弱くない。私はお前たちに復讐するためこの日を待っていたのだ」
「そんな……」
「お前たちは、このすべてを氷に閉ざされた空間で、何もできずに餓死していくのだ!」
「そんなことはない!天界武装!!踏み込み武者クロス切り!!」
 しかし、氷の壁はビクともしない。剣がポキっと折れた。
「天界獣輝!ブレイク流奥義空裂波!!」
 氷の壁は割れない。
「天界飛翔!フェザーソニック!!」
「マロンせつだん!!」
「スターブラスト!!」
「クリームビックバーン!!」
「ダイヤモンドマロン!!」
「スターショット!!」
「天界武装!武者ついてくん流竜巻の舞!!」
 氷の壁は、やはりビクともしない。
「くっくっく。足掻くだけ足掻け。どうせ死ぬ運命だ」
「そんなことはない!ファイナルゴッド・スピリチュアルビックバーン!!」
 ついてくんが最終奥義を放とうとしたが、失敗した。
「ぎゃあ!何で?」
「その技はものすごいパワーが無いと使いこなせない最強の技だ。お前が前回成功させたのは、友達を思う気持ちが未熟さや半分天界の血であることをカバーしたからだ。今のお前がその技を成功させるためには自分自身を極限状態まで追い詰めないと使いこなせない」
「そんな……」
 氷の壁が少しずつ迫ってきた。
「もはや餓死させるのも煩わしい。押し潰してやる」
 4人がじわじわと押し潰されていく。
「ぐはあああああ!」
「これで私の復讐は完成する……!」
 その時、氷の壁が打ち破られた。
「何!?」
 それは、神様だった。
 ブレイディアが姿を現した。
「何でお前が!!」
「仕事が終わったから、来た」
「ここでは私に敵う者はいないはずだ!」
「それはお前が絶対的な力を持っていた時の話じゃ。今のお前は復活するのに精一杯。たとえお前に有利な銀世界だとしてもお前の力は前に比べると完全に落ちている。今のお前ではわしには勝てん」
「くそっ!クリスタルチョップアップ!!!」
 無数の結晶がついてくん目掛けて飛んできた。
「スピリチュアルウォール!!」
 見えない壁が、結晶を阻んだ。
「スピリチュアルビックバーン!!」
 ブレイディアに向かって強力なビームが放たれ、ブレイディアが消し飛んだ。
「ぐああああああああ!!」
「はい、封印」
 神様がポンとブレイディアの肩を叩いた。すると、ブレイディアがみるみる溶けていった。
「え?そんな簡単に倒せるの?だったら前回(第50話)もさっさとやってくれれば良かったのに」
「いや。あの時はこいつの力が強すぎたから、できなかった。今だって、ついてくんがダメージを与えていたからこそできたのじゃよ」
 神様が言ったとき、4人の背後に何かが現れた。
「はい、賞金は没収」
「あ!」
 こうして、サクサクバクダン大会は終わった。

「やった!生き延びた!!」
 コンセンくん、賞金10万円ゲット。
(ニード&ドーニくん、たまじいは瞬殺されました)



 第52話 フューチアとスピラル

 ある日、星くんとついてくんが家で「スーパーバクダンマンX」をやっていると、玄関のチャイムが鳴った。
「こんにちは〜。あれ?スピラルさん?」
 星くんが出ると、スピラルが来ていた。フューチアとキューティアも連れている。
「何か用ですか?」
「ちょっと、相談があって……」

 スピラルが話し出した。
「実は最近、フューチアの能力が進化してきている気がするんです。フューチアが鳴くことも増えてるし、その時に起きる不幸もグレードアップしてるんです。最近ではお客さんに迷惑をかけるようなこともあって、困ってるんです」
 星くんとついてくんは顔を見合わせた。
「それって……」
「何か心当たりがあるんですか?」
「実は……」
 第49話でフューチアを借りたとき、神様はフューチアを結界の中央に置き、フューチアの能力を極限まで引き出した。その時神様は、フューチアの能力が一度目覚めた以上もう一度眠ることは無く、これからフューチアの能力はどんどん進化していくだろう、と言った。
「そんなことがあったんですか。それじゃあ、フューチアは……」
「ええ。フューチアの能力は本当に高いそうですよ。全世界から邪気を消し去るほどのパワーを出し切った後でも元気だったんですから」
「では、どうすれば……」
「どうしましょうか」
「神様に相談してみれば?」
 ついてくんの提案で、3人と2匹は天界に向かうことになった。
 もちろん、神様からもらった「どこにでもドア」を使ってだ。

「こんにちは〜」
「やあ。ついてくんに星くん。それにフューチアと……」
「こちらはフューチアの飼い主のスピラルさん。で、こっちはフューチアの子どものキューティア」
「猫の子どもがどうしてこうなったのかね?」
「父親は犬神なんです」
「ふうん。ならこうなるかもな。あれだけの能力と、神の力が交われば何が起きても不思議ではない。ところで、今日は何のようじゃね?」
「実は、フューチアの能力が強くなりすぎて、困っているんです」
「そうか……。フューチアの能力はもともと、わしを超えるほどじゃ。前の状態がその力を使いこなせていなかった状態で、今の状態が正常なんじゃ。いや、今も完全に能力を使えるわけではないな。あの時能力をかなり使ったから、それを取り戻すのに時間がかかる」
「ということは、これからもどんどん強くなると」
「そうじゃな。能力をどんどん取り戻し、ついには能力を完全に開放するようになる。そうなると、不幸だけでなくすべての未来を予知するようになるはずじゃ」
「そんな……。封印する」
「能力を封じ込めることもできる。しかし、それは一時的な物。封じ込められた能力は使われないから、減ることが無く、封じ込められた中で強くなっていき、ついには封印の魔法を打ち破ることになる。そうすると、今までの倍以上の強さを誇り、もう二度と封印することはできない」
「では、どうすれば……」
「@何とか我慢し、能力がこれ以上上がらないことを祈る。Aフューチアの能力の強さを受け入れ、その能力を伸ばしていく。B誰か、フューチアの能力をコントロールできる人に預ける」
「………。Bを選んだとしたら、誰がいますか?」
「星くんなら、何とかできるかもしれないが、しばらくはついてくんの世話で精一杯だろう。または、わしに預けるというのでもいいが」
「神様が?」
「ああ。わしなら、フューチアの能力をコントロールする自信がある。それにフューチアに天界の魔法で話す能力などを与えれば、天妖聖議会に入れるかもしれん。いや、神議会にも行けるかもしれんな。もしくは、地上界代表として天魔霊議会に入れるとか……」
「そこまでフューチアの能力は強いんですか?」
「ああ。未来を予知する能力を持った者は、天界でも今までに1人しかいなかった」
「誰ですか?」
「6代目の神様ミレアル。ミレアルは未来を予知する能力を持っていた。ミレアルは死ぬ直前に、自分が死んでも自分の能力を受け継ぐ者はいずれ現れると言った。もしかしたらそれがフューチアなのではないのか?」
「………」
「そうだ!フューチアとスピラルさんってどういう風に会ったの?教えてよ」
 ついてくんがねだった。

 スピラルがニコニコベーカリーを始めてから10年ほどたち、スピラルは久々にパン作りの故郷フランスに旅行に出かけた。その帰り、駅からニコニコベーカリーに歩いているとき、スピラルはうっかり袋小路に迷い込んでしまった。
 そこで、大きなオスの黒猫が小さな白い猫を追い詰めているのを見つけた。
 黒猫は、白い猫に襲い掛かった。白い猫は必死に逃げるが、膝を引っ掻かれた。白猫が倒れ込み、そこに黒猫が飛びかかった。
 ところが、白い猫が突然鳴き出した。
「ニャ!」
 置いてあるバケツが突然倒れ、黒猫の方に転がっていった。
 黒猫はバケツが当たって一瞬倒れるが、すぐに起き上がって逃げていった。
「あなた、親はいないの?」
「ニャア」
「じゃあ、私のところに来ますか?」
「ニャア!」
 こうして、スピラルはこの白猫を飼うことになった。
 その3日後、白い猫が警告するように鳴き出した。
「ニャ!」
「まあ。何かあったの?」
 スピラルが白い猫の方に近づいた。しかし、何も起こらない。
「何かあるのかしら……あ!」
 パンが焦げていた。
「もしかして、この白い猫には予知能力があるのかしら?」
「ニャア!」
「なら、この子の名前は『フューチア』にしましょう」

「そんなことがあったんだ〜。で、フューチアはどうするの?」
「わしに預けてくれるなら、立派な猫にしてやる」
「……怪しい」
 星くんが言った。
「何じゃと!」
「まあまあ。私は決めました。この子は私が育てます。そして、能力を一段と伸ばせるよう努力します」
「わかった。ところで、この猫を少し貸してくれ」
「何をするんですか?」
「まあ、見ておれって」
 神様がフューチアを結界の中央に置いた。
「この猫がどれだけ力があるか見せてやるぞ」
 フューチアの体が光り出し、宙に浮いた。
 そして、全身が輝き、光が輪になって放たれた。
 その光の輪が当たった瞬間、全員が吹き飛ばされた。
「ぐはあああああ!」
 光の輪は影をも見えなくなるほどの強さの光を放った。
「……これがフューチアの能力を実体化させた光の輪じゃ」
「ここまでとは……」
 スピラルが言った。
「でも、私もこのエネルギーに負けないように頑張ります」
「頑張れ☆」



 第53話 天界の歴史(1)

 星くんとついてくんは天界に遊びに行った。
「こんにちは〜」
「やあ。ついてくんと星くんじゃないか」
「暇だったから来たよ」
「最近よく来るな」
「『どこにでもドア』をもらったから」
「ああ、そうか」
「ねえねえ、神様。何か話してよ」
「ふうむ、そうじゃな。では、天界の歴史のことでも話そうかの。ついてくんには知ってもらわねばいかん」
「そうですね」

 アテルディアが誕生するまでは、すべての生物はとても小さな異世界で細々と暮らしていた。
 アテルディアは生まれつき強いエネルギーを持っていた。
 成長するにつれその能力を覚醒させていったアテルディアは、生物がこのちっぽけな異世界でしか生きられないことがおかしいと思い始めた。
 そして、その能力を最大限に発揮し、ついに天界という大きな世界を創った。
 今まで小さな世界で生きてきた生物たちは、アテルディアによって大きな世界で暮らせるようになったことを喜び、アテルディアを神様として、天界のリーダーとすることを決定した。
 天界で生物たちがたくさんの子供を産み、たくさんの種族が誕生すると、世界は天界だけでは足りないだろうと思った。
 まず、生物が死んだときに逝く世界を創った。それが霊界だ。
 続いて、天界とは違う別世界を創ろうと決意した。地上界である。
 地上界に新たな生命、新たな種族を創り、天界の存在もアテルディアの存在も知らないで育った新種族として新たな世界を作った。
 アテルディアは、地上界をゆっくりと見守りながら、天界にたくさんの生物が一緒に暮らす1つの都市を作った。アテリアである。
 アテリアは最初の頃、他の街と変わらぬ街だった。しかし、アテルディアの死後、思い出を求めてどんどん移住していくうち、首都として栄えるようになった。
 アテルディアはたくさんの子どもも作った。そして、自分が死ぬときには自分の血を受け継ぐ者すべてが次の神様になってもいい、その神様が死んだら自分の子孫すべてが神様になれるようにしろ、そう遺書に書いた。
 次の神様はアテルディアの長男だったが、アテリアでぬくぬくと暮らし、やることもアテルディアの真似事ばかりという最低の神様だった。
 神様の任期は50年。しかし、アテルディアは100年もの間神様を務めた。
 2代目の神様は50年たってからももう50年神様を続けようと総選挙を開始した。
 しかし、神様の継続は圧倒的多数で否決された。
 その神様は神様で無くなった2年後に毒殺された。

「ええ!?その神様、死んじゃったの!?」
「ああ。だめな神様が任期の途中で殺されたこともある」
「怖くなってきた……」
「お前は幽霊だから大丈夫じゃよ」
「そっか」
「ところで、続きを話してください」

 3代目の神様はゴーディンという神様だった。ゴーディンは神様になるとすぐ、改革を始めた。
 まず、悪いことをした者に対する死刑を廃止した。
 アテリアに人口が集中していることに危機感を抱き、大都市ディアを作った。
 神様が1人で何でも決めるのは良くないと考え、神議会を作った。
 神様の住むところも神議会もアテリアにあった。アテルディアの子孫たちが集まって話し合いをする場で、次の権限を持っていた。
@新たな法律の草案を作り、直接神様に提出できる。普通の人は草案を出すことはできないが、神議会を通してならできる。
A神様を決める選挙の際神様の候補を1人、神議会代表として選出できる。
B神様の政治が良くない場合に、任期中でも神様を辞めさせる選挙ができる。ただし、選挙は天界の全国民の3分の2以上の票が必要となる。
 ゴーディンはアテルディアに続く最高の神様として、任期を全うしていた。

「あのさ、魔界は?出てこないけど」
「ああ、忘れてた」

 アテルディアの生きていた時代に戻る。アテルディアが2期目に入った頃、霊界では悪の魂が結集し、魔将軍デモリアが誕生した。
 デモリアは強い魔力で魔界を創り出した。
 悪魔など魔界の住人を創ると、魔王という存在が誕生した。
 そこでデモリアは、権限を魔王と魔将軍で分けることを決定した。
 魔王は、戦いに関することを決める。また、魔界の各地で悪のエネルギーを与える、魔界の神のような存在となった。
 対する魔将軍は、政治に関すること一切を取り仕切った。
 魔界の権力としては魔将軍の方が強いが、魔王も独自の親衛隊を持っていた。魔将軍は魔王とその親衛隊に命令することはできなかった。
 アテルディアはデモリアの強さを認めていたので、魔界との友好関係を築くよう努力した。
 ところが、2代目の神様は、贅沢を尽くすあまり、魔将軍や魔王を完全に無視した。
 それどころが、魔界に権力を伸ばそうとしていた。
 それに怒ったデモリアは、天界を侵略しようと邪悪な生命体を次々と創り出した。
 その頃、天界では2代目の神様が暗殺され、ゴーディンの改革時代になっていた。
 ゴーディンは力も強く、創ろうと思えば新たな世界も創れたと思われていた。
 ゴーディンは、デモリアの侵略に怒り、邪悪な生命体を消滅させた。
 それに懲りたデモリアは、再び天界と友好的になった。

 ゴーディンが死に、4代目、5代目と神様は移っていった。
 魔界でもデモリアが死に、魔王が支配するか、新たな魔将軍を決めるかで争いが起こった。
 結局今までどおり魔将軍が政治を動かすことになり、デモリアの子どもが魔将軍になった。
 その子どもは、魔界の問題を次々と解決していった。その際、天界についての歪められた噂をたくさん聞かされた。
 2代目の魔将軍は、天界・霊界へ魔界の住人が行くこと、天界・霊界の住人が魔界に来ることを禁止し、それを破ったものは殺せという命令を出した。
 日本で言う鎖国、いや『鎖界』は1000年も続き、その間に友好的な関係は崩れ、今あるような臨戦態勢になった。
 そして、天界では4代目、5代目の神様がどちらも神議会によって解任された。
 ところがここで問題が起きた。
 今までの神様はみんな男だった。しかし、アテルディアの血を受け継ぐ者で今一番年上で人望があるのは女で、名前をミレアルといった。
 神議会で争いが起こった。女はだめだ、という保守派と平等にすべきだ、という改革派による争いである。
 結局、選挙で決める事になり、その結果ミレアルが完全勝利を収め、6代目の神様になった。
 ミレアルは神様に選ばれたとき、次のスローガンを掲げた。
 @平和と平等の達成。
 A科学と自然の調和。
 ミレアルはこのスローガンを掲げて、こういった。
「私が目指すのは、1代目アテルディアの行った政治でも3代目ゴーディンの行った改革でもありません。私は改革はしません。正しいこと、それが当然であることが認められる世界に変えていくだけです」
 そして、ミレアルはスローガンに基づいて政治を始めた。
 今まで天界では神様とその血を引く一部の者だけが政治を決めていた。ゴーディンが神議会を通して意見が言えるようにしたが、ミレアルはそれがまやかしであることを見抜いていた。
 神議会に神様が提出した法案は、神議会で3分の2以上の賛成を得れば可決される。しかし、神議会の者は自分たちの決めていない法を神様に提出したくないので、それを否決してしまうのだ。
 そこで、ディアに『天妖聖議会』を創った。天使、妖精、聖獣など、天界に住むすべての者が傍聴できる。この議会にも神議会と同じ権限があった。

「ミレアルは他にも何かしたんでしょ?」
「ああ。でも、その続きは次回じゃな」
「わかったよ。じゃあ、お菓子ちょうだい」
「はいはい」



 第54話 天界の歴史(2)

 ついてくんがお菓子を食べ終わった頃、神様が言った。
「では、続きを話そうか」

 ミレアルは、大都市ミリアを作った。
 さらに、戦い、暴力を禁止した。暴力をした人は、まずミレアルの前に行くのだ。
 それは、ある意味事件をなくす最高の方法だった。
「なぜあなたはこのようなことをしたのですか?」
 ミレアルはそう聞く。
「知るか」
 そんなことを言ってもミレアルは絶対に諦めない。
「何か訳があるんでしょう?」
 丁寧に何度も聞かれるうち、ついに言ってしまう。
 そこに畳み掛けるようにミレアルが言う。
「あなたがもし刑を与えられて、牢屋に入ったら、悲しむ人がいるでしょう」
「……そうかな」
「ええ。あなたの家族、友人、親戚。みんなあなたが更生することを待ち望んでいます。そのためにあなたは、二度とこんなことをしないようにできますか?」
「………」
「そう。できないのならいいですよ。ただ、私は残念です。あなたならしっかりと更生してくれると思っていましたから。さあどうぞ。もう帰っていいです」
 そう言われると、すんなりと帰ることはできない。
「……わかりました」
 ついにその人が言った。
「そう言ってくれて嬉しいです。さあ、あなたの帰りを待っている人の元に帰ってください」
 ミレアルはこうして、何人もの人を改心させていった。
 神様の仕事だけでも大変なのに、カウンセラーまで引き受けていたのだ。
 しかもその頃、神様や神議会は、財政に苦しんでいた。
 神議会のメンバーはすでに苦しい生活をしたことのない新時代の者たちになっていたため、自分たちが贅沢に暮らすことを一番に考えていた。
 ミレアルは贅沢を戒めようとしたが、神議会はミレアルを解任する権利を盾にそれを無視した。
 しかしミレアルは、自分が神様になることにこだわるつもりはなかった。ミレアルは、総選挙で神議会のメンバーのほとんどを逆解任させ、もっと正しい者を神議会に選んだ。
 天妖聖議会でも贅沢を尽くしていたが、ミレアルは国民の力を借りて総辞職に追い込んだ。
 こうして、財政難を何とか回避したミレアルは、その後も平和で平等な社会を目指して次々と社会の仕組みを変えていった。
 ミレアルは未来を予知する能力を持っていた。しかし、ミレアルが未来を明確に予言したのは生涯で2回しか無かった。
 ミレアルはその理由をこう語った。
「もし、私が見た未来がつらい未来だったら、私は未来を見たことを後悔しますから」
 未来を明確に見たのは、ミレアルが未来に何かが起こることを感じ取った時と、死ぬ直前だった。
 何かが起こる、という予感がしたミレアルは、覚悟して未来を覗いた。
 1週間後に火事が起こることを知り、その対策を立てさせた。
 また、ミレアルは、死ぬ直前にこう言った。
「神様が永遠にこの世を支配し続けることは……絶対にできない」

「ミレアルは何でそんなことを言ったの?」
「それは……一時期神様が政治をできなくなる前触れだったのかもしれん」
「どういうこと!?」

 ミレアルが死んだ後、神様は次々と交代した。
 7代目、8代目、9代目。いずれも神議会と天妖聖議会によって解任させられた。
 そこで、ついにアテルディアの血を継がない者が政治をするべきだ、という意見が登場した。
 中心となったのはウィアという人物だった。
 ウィアはもともとフェニックス騎士団に所属していた。
 天界にはペガサス親衛隊とフェニックス騎士団という2つの戦士隊が存在していた。
 ペガサス親衛隊は神様の直属の親衛隊だった。
 対するフェニックス騎士団は神様がすべてを司ることに対してあまり賛成していなかった。
 そのため、2つの隊は対立していた。
 天使も妖精も聖獣も、神様を尊敬していたため、当初はペガサスが勢力を強めていた。
 しかし、ミレアルの死後、神様が次々と解任され、神様に対する信頼が損なわれると、フェニックスはここぞとばかりに勢力を強めた。
 そして、ついに「不死鳥革命」と呼ばれる革命が起き、神様の政府は一時的に倒れてしまうのだ。
 10代目の神様の政治もあまり良くなかった。民衆のことを考えず、ただ一部の有力者の意見ばかり聞いていた。
 それに我慢できなくなったフェニックス騎士団は、リーダーにまで出世したウィアを中心に、アテルディアが建てて神様の住む場所となったアテリア城の占領に動き出した。
 フェニックス騎士団は、緻密な計画を立てた。
 フェニックス団は特攻隊、守護隊の2つに分かれた。特攻隊はアテリア城を強行突破で占領し、守護隊はペガサス親衛隊からアテリア城を守る。そういう手はずだった。
 当日。ウィアは特攻隊としてアテリア城の衛兵たちを次々となぎ倒し、アテリア城の神様の部屋に入った。
 神様は何とか城を抜け出したが、神様のシンボルマークが立つアテリア城の頂上には、不死鳥の羽根のマークの入った旗が掲げられていた。
 神様は城を抜け出した1時間後には、ペガサス親衛隊を連れてアテリア城に戻ってきた。
 しかし、守護隊に阻まれ、親衛隊は退散せざるを得なくなった。
 アテリア城はフェニックス騎士団の物となった。不死鳥革命と呼ばれる革命によってここに新政府が誕生したのだ。

「それでどうなったの!?」
「まあ、慌てるな。フェニックス新政府も長くは持たない」

 神様の政治にうんざりしていた民衆は、フェニックス政府を歓迎した。
 しかし、ここで問題が起きた。フェニックス騎士団はあくまで戦士。政治ができるわけではない。
 そこで、神議会のメンバーの中で神様の解任を要求し続けていた1人の人物を政治の中心に置いた。
 それでも、いい政治ができるわけではなく、民衆は神様の政治の方がいいと思い直した。
 しかし、フェニックス騎士団を打ち破る強さを持つ軍隊は、次々と解散させられていた。残るは、解散を命令されつつも細々と生き延びていたペガサス親衛隊だけ。それも、勢力はかつての10分の1程度にまで落ちていた。
 ペガサス親衛隊は、不死鳥政府に見つからないようにしながらも支持者を増やし、不死鳥政府を倒す運動を陰でスタートさせていた。
 フェニックス新政府は神様を敬うという今までの社会の仕組みを破壊した。強さに勝るものはない、という新たなルールがはびこった。神様と違い、法律違反だった裏社会の追放などはせず、自分たちの立場を守ることに必死だった。
 もしフェニックス政府が早々と倒れたら、フェニックス騎士団は単なる反逆者としてすぐに処刑されてしまう。
 そのためフェニックス騎士団は、自分たちの政府を必死で守り通した。
 ペガサス親衛隊は、いよいよ本格的な「不死鳥追放運動」を始めた。
 まず、大都市であり、フェニックス政府に抵抗し続けていたミリアに拠点を移した。
 ミリアは、アテリア城侵略の知らせを受けるとすぐに、街の周辺に堅固な壁を築き、フェニックス政府には従わないことを宣言した。
 ミリアには「ユニコーン親衛隊」と呼ばれる、ペガサス親衛隊に似た戦士隊が存在した。
 フェニックス騎士団は、ミリアを攻め落とそうと必死だったが、ユニコーンと堅固なバリケードに負けて何度もアテリアに押し戻された。
 ペガサス親衛隊はミリアに入り、ユニコーン親衛隊と手を組み、フェニックス政府を倒すことを誓った。
 フェニックス政府に抵抗するユニコーンとペガサスがついに一致団結した。

「あのさ、何かすごい歴史物語になってない?」
「ま、いいんじゃね?」
 まだ次回に続く。



 第55話 天界の歴史(3)

 こちらは今回のストーリーに全く関係ないくりマロン。
「暇だな〜」
「僕たちの出番って、最近アスちゃんに取られすぎじゃない?」
 ドカーン。
「ん?何だ?今の音」
「さあ。ま、別にどうでもいいよ。ぼくたち脇役にとってはね」
「そうだな」

「それで、どうなったの?不死鳥と聖獣の戦いは」
 ついてくんが神様に聞いた。
「それはの……」

 フェニックス騎士団は、ミリアに大量の兵を送り込んでペガサスユニコーン親衛隊を潰そうと計画していた。
 しかし、その計画はスパイによってペガサス親衛隊にバレていた。
 そこでペガサス親衛隊は、隊員の8割ほどをアテリアに送り、アテリアに残った親衛隊のメンバーと合流して、ミリアに兵を送って手薄になったアテリア城を奪い返すという計画を立てた。
 そして、ついにフェニックス騎士団はミリアに今までに無いほどの兵を送り出した。
 ミリアに進入しようとする騎士団だったが、親衛隊に阻まれた。
 しかも、親衛隊の本隊はアテリアに着き、アテリアの活動拠点でアテリアに残った親衛隊と合流した。
 ところが、そこにフェニックス警察(不死鳥政府が普通の警察とは別に作った、反逆者を逮捕する専門の秘密警察)がなだれ込んできた。
 フェニックス警察は親衛隊の動きを監視していて、漏れていたのだ。
 しかし、ペガサス軍は圧倒的な力で警察を追い散らし、アテリア城に侵入した。
 アテリア城に残っていた騎士団はわずかだったが、何とか親衛隊と渡り合った。
 しかしその騎士団も敗れ、アテリア城はペガサス・ユニコーン親衛隊の物になった。
 アテリア城が解放された3日後、11代目の神様となった神様がアテリア城に入った。
 アテリア城はペガサス・ユニコーン親衛隊が厳重に守っていたが、フェニックス騎士団の生き残りは神様が入った3日後、決死の覚悟でアテリア城に突撃した。
 しかし、ペガサス軍に追い散らされ、フェニックス騎士団はわずかに10人ほどの弱い隊になった。
 11代目の神様は今までよりもいい政治をした。人々は再び神様を敬うようになった。

「良かったね。これでまた神様の時代に戻った」
「そうじゃな」
「じゃあ、もう神様には何の問題も無いね」
「それはどうかな?」

 11代目の神様は、まずフェニックス政府によって荒れ果ててしまった各地の復興を早急に行った。
 破壊された神議会と天妖聖議会は、元通りに直された。
 アテリア城のいたるところに刻まれたフェニックスの紋章はきれいに消された。
 フェニックスの旗も当然降ろされ、1ヶ月ほどで天界は元通り平和な世界になった。
 また、今回のことを活かして、10年に1度神様が続けるべきかどうかの選挙を行い、辞めるべきという票が4分の3以上集まったら神様は辞任する、という決まりができた。
 ところがその頃、フェニックス騎士団は再び勢力を盛り返し始めていた。
 そして、ついにアテリアの南部を占領してしまった。
 アテリア城は北部にあり、アテリアは南北で2つに分かれてしまったのだ。
 もちろん、ペガサス親衛隊(ユニコーン親衛隊はミリアに戻った)が南部に乗り込み、フェニックスを倒した。フェニックス騎士団はついに滅びた。
 ところが、ペガサス親衛隊はそこに神様を入れず、フェニックスと同じように南部を占領してしまった。
 ペガサス親衛隊は、自分たちの手柄でフェニックス政府を倒したにもかかわらず、神様が自分たちに何の褒美も与えず、それは当然というような顔をしているのに腹を立てたのだ。
 さらにペガサス親衛隊は、神様をアテリアから追い出そうと北部に侵入してきた。
 アテリア城には親衛隊以外の兵隊は少ししかいない。神様は絶体絶命のピンチに陥ってしまった。
 そこに、ユニコーン親衛隊が現れた。
 ユニコーン親衛隊は、平和な世界を目指していたため、ペガサスと対立してしまったのだ。
 ユニコーンはアテリア城の入り口付近でペガサスと戦い、勝利した。ペガサス親衛隊は南部に逃げ込んだが、ユニコーンが追いかけてきて、そこからも追い出された。わずかに残ったメンバーでミリアに逃げ込んだが、そこにもユニコーンが残っていた。ついに最終決戦となったが、戦力でユニコーンが圧倒していたため、ペガサス親衛隊も滅んだ。
 ユニコーン親衛隊は、平和な世界にするため、その後も神様に反対する勢力を何度も倒すなど活躍した。そして、反対勢力がほとんど無くなると、平和のため自ら隊を解散した。
 こうして、神様は再びその力を増した。

「ふうん。結局みんな倒れたんだ」
「ああ。では、続きを見るぞ」

 神様は12代目、13代目、14代目と交代していった。
 いずれも、いい政治をして、国民の支持を得た。
 もちろん、中には解任させられた神様もいたが。
 そして時は流れ、40代目の神様が選ばれた。
 ついに魔界が、『鎖界』を解いた。
 魔将軍もどんどん交代し(魔王は永遠に死なない)、それに伴って少しずつ力も上がった。
 そして、魔界は天界に攻めてきた。
 たくさんの兵器を使って怒涛の攻撃を仕掛ける魔界の戦士。天界では平和のため全体の97%にも上る騎士団や親衛隊が解散・弱体化させられていたため、争いを好む魔界の戦士たちを止める術は無かった。
 かつてのフェニックス・ペガサス・ユニコーンのメンバーだった者は、時が流れていたためすでに全滅。
 平和だった天界では軍事費は0.3%しか割り当てが無かったため武器も無い。
 魔界の快進撃は続き、ついにディアが占領されてしまった。
 しかし、今の天界には悪魔を追い払うだけの力は無かった。
 アテリア城を守るので精一杯だった。
 そこで、アテリアではロボットの戦士隊を作り、ディアに差し向けた。
 機械兵士は悪魔を破り、ディアを取り戻した。
 さらに、アテリアに侵入してきた悪魔を、聖騎士団が打ち破った。
 聖騎士団はアテリアにいる最強の戦士で、元は神様のボディーガードとして5人しかいなかったが、悪魔が攻めてくると増設されて、100人ほどの軍になった。
 聖騎士団は戻ってきた機械兵士とともに悪魔を追い払った。悪魔は一旦魔界と天界を結ぶ門に戻って態勢を立て直そうとしたが、そこにも聖騎士団が送られてきて、ついに全滅した。
 その後、悪魔は一旦攻めてこなくなったが、兵力が戻るたびに復讐といって天界に攻め込んできた。
 しかし、聖騎士団が残っている間は聖騎士が、聖騎士団が財政などを理由に解散するとアテリア軍、ディア軍の二軍(ミリアにはミレアルの平和方針を守って軍が作られなかった)などが悪魔を追い払い、その後しばらくは天界に平和が訪れるのであった。
 こうして、天界は後世に受け継がれ、今の神様の時代になったのである。

「天界の歴史は、今も続いているわけじゃよ」
「ふうん。ちなみに、神様って何代目なの?」
「わしかね?わしは、67代目じゃよ」
「アテルディアが死んでから何年たつの?」
「え〜と……6千年くらい?」
「じゃあ、このアテリア城も?」
「これは建て直しとかもあったからの……。3千年前くらいじゃな」
「ふうん」
「では、ぼくたちはそろそろ帰ります」
 星くんが言った。

「あのさ、第4巻って笑えるオチが全然無いよね」
 天界を出る途中、ついてくんが突然言い出した。
「何が?」
「第46〜47話、49話、50話、52話、53〜55話とオチが無いじゃん」
「確かに」
「というわけで、星くんの家、爆破したから」
「ふうん。………ってええ!?」
「何その古典的なリアクション。最初の方に効果音入ってたじゃん」
「あれは伏線だったのか……って違う! どうするの!?」
「大丈夫。神様が直してくれるって」
 神様は修理を快く引き受けてくれたらしい。



 第56話 フューチアの一日

「こんにちは」
 星くんの家にスピラルがやって来た。
「こんにちは〜」
「あの、フューチアを少し預かっててもらいたいんですけど」
「いいですけど」
「実は、ちょっと今日は色んなパン屋さんの研究発表会があって、私とタコさんで出かけるんです。キューティアは別の人に預けたので、フューチアをお願いします」
「わかりました」
 スピラルは家を出た。

「何か、拾ったばっかりのことを思い出すね」
「確かに。あの時は大変だったよね」
「あれから53話もたったんだね……」
「マンガ化もされたよね」
「ニャ!」
 フューチアが鳴いた。
 飾ってある食器が倒れてきて、星くんの頭に激突した。
「うぎゃあああ!」
「星くん!大丈夫!?」
「うん……」
 その時、電話が鳴った。
「もしもし、星ですけど………。え!?5人いた店員が有給休暇と事故と実家の母が病気と新婚旅行と出張で全員いないから速攻で来い?……でも、少し用事があって……。え!?絶対来いって!?来なきゃクビ!?来たら給料いつもの3倍?………わかりました……」
 こうして、星くんは出かけることになった。
「いつも以上にいやな予感がするけど、頑張ってね」

 ついてくんはしばらくフューチアと遊んでいたが、眠たくなったので昼寝を始めた。
 ここからはフューチア目線でお送りします。
 猫語も日本語に訳します。
「あれ何かな?」
 それは冷蔵庫だ。スピラル家にあるのは業務用の大きな冷蔵庫なので、冷蔵庫であることが分からないのだ。
「中に何か入ってる!」
 中をゴソゴソと探し回った。
「あ!シュークリーム!!」
 フューチアは甘いものが大好きなのだ。
「おいし〜い」
 続いて、テレビを見つけた。
 ところが、テレビの付け方が分からない。
「いつもはスピラルが付けてくれるから、ついてくんに頼もう」
 フューチアは名前をよく覚えている。
「起きて〜。起きて〜」
「ムニャムニャ……タコヤキいっぱい〜。幸せ〜……」
「自分で付けよう」
 テレビのスイッチの近くをいじっているが、なかなか押せない。
「テレビがイジワルしてる!」
 フューチアはテレビ台の後ろに回ってテレビを思いっきり後ろから押した。
 テレビが倒れて、大きな音がしたが、ついてくんは起きない。
 フューチアはたまたまドアが開いていた星くんの部屋に入った。
「何だあれ?」
 『ライオンのごとく』があった。
「あ!!」
 爪が当たってしまい、本が破れた。
「………。リビングに戻ろ」
 フューチアはついてくんの寝ている部屋に戻った。
 すると、スーパーバクダンマン7が落ちていた。
「これ、オモチャかな?」
 爪でいじくり回していると、ボロボロになった。
「弱いオモチャ」
 フューチアも昼寝を始めた。

 星くんが帰ってきた。
「ただいま〜。タコヤキ買って来たよ〜……あれ!?」
 テレビは倒れている。スーパーバクダンマン7はボロボロ。
 冷蔵庫は荒らされた跡がある。
「冷蔵庫……食べ物……ついてくん!!」
「タコヤキがしゃべった!!」
「おれは星くん!タコヤキじゃない!」
「でも、タコヤキのにおいがするよ」
「それよりも!冷蔵庫の中身食べたでしょ!!」
「そんなことしてないよ!ぼくはちゃんとフューチアと遊ぶのに飽きて昼寝してたもん!!」
「いばるな!!じゃあフューチアがやったとでも言うのか!」
「うん!」
「フューチア寝てるじゃん!!」
「ぼくが寝たときはフューチア起きてたもん!!」
「……わかったよ。テレビは故障してないし、スーパーバクダンマンはまた買うから。冷蔵庫の中身も、無くなったのはシュークリームだけだし」
 ついてくんがタコヤキを食べてる間に、星くんは自分の部屋に向かった。
「シュークリーム……。楽しみにしてたのに……。ライオンのごとくでも読もう」
 ライオンのごとくの最新巻はボロボロになって床に落ちていた。
「………。ついてく〜ん!!」
「ほえ?」
「これ何!」
「……ゴミ?」
「ライオンのごとく最新巻!楽しみにしてたのに!」
「ぼくじゃないよ!」
 その時、フューチアが目を覚まして、星くんの部屋に入ってきた。
「ニャ?」
 口にはたっぷりとクリームが付いている。
 スーパーバクダンマンも本も、爪で引っかかれた様な跡があった。
「もしかして………」
「まさか………」
「フューチア!!」
「ニャ!?」
「よくもシュークリーム食べたな!」
「ぼくのせいにされるところだったじゃんか!!」
「ニャア!(ごめんなさい!)」

 夜になって、スピラルがフューチアを迎えに来た。
「今日はありがとうございました………。どうかしたんですか?」
「どうかしました」
「………。わかりました。詳しい事は直接聞かせてもらいましょう。行きますよ、フューチア」
「……ニャア」

 翌日。
「こんにちは。あの、またフューチアを預かっていただきたいんですけど……」
「絶対嫌です!」

「キューティアを預かっていただいてありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。おかげでアイスが飛ぶように売れましたよ」
「そうですか」
「また何かあったらいつでも預かりますよ」
「わかりました」



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