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「フラワー・ストーリー」


 フラワー・ストーリー 第0部

 序章

「ねぇ、真衣ちゃんは、こんな噂、聞いたことある?」
 だいぶ前、親友の美羽にこう聞かれた時、私は全くピンと来なかった。
「何が?」
「6色の花びらが、この世界のどこかにおいてあって、それを集めると、願いが叶うんだって」
「へぇ、じゃあ、それを集めたら、恋でも夢でも、何でも叶うの?」
「その代わり、1度その花びらを集めた人間には、二度とその近くに入れなくなるんだって。それに、そのあたりには、すごい仕掛けがあって、一つでも集められた人は、今までいないらしいよ?」
「ふぅん。まあ、私はそんなのには興味ないけど……」
 まさか、8歳の時の私は、その話が自分の人生を大きく左右するとは、夢にも思っていなかったから……。


 第1章

 あれから6年の時が経っていた。
 6年のうちに、私の周囲はがらりと変わっていた。
 おそらく、私自身も大きく変わっただろう。
 そして、6年間で、この星も大きく変わっていた。

 アーチという名前のこの星には、遠い宇宙の彼方に、不思議なほど似ている星があった。
 その星の名前は、地球。
 言語も、文明も、自然環境も、すべてがそっくりだった。
 しかし、地球人とアーチの人の性格は、全く違っていた。
 地球人は、当然ながらもともと地球という星に住んでいた。
 ところが、地球人はその星を見事なまでに汚し尽くし、どんな生物も住めない汚染された星にしてしまったらしい。
 そして、地球人は宇宙船で地球を出て、他に住める星がないか探した。
 その結果、アーチが見つかってしまった。
 4年前の事だ。
 地球人は平和な星アーチと違って戦争科学が発達しており、科学兵器でアーチを占領した。
 いまや、アーチの持ち主は地球人であり、アーチ人は地球人の奴隷同然に扱われていた。

 戦争の混乱で、真衣は美羽と完全に別れてしまっていた。
 私は、生き残るため、そして奴隷として捕まらないため、必死に家族と逃げ回った。
 父の隼人はすでに兵士として戦って地球人に捕まったらしく、私は母と二人で、数少ないアーチ人の街で暮らしている。

 私はよく昔の友達の夢を見る。
 父と遊んでいる夢、学校でたわいのないおしゃべりをしている夢、そして美羽と一緒にいる夢。
 すべて夢だ。
 そんな事はわかっている。
 しかし、それでも諦められなかった。
 父が捕まった事はわかっていたが、美羽の事は忘れられなかった。
 しかし、この街で平和に暮らせるのも、あとどのくらいだろう……。
 必死に働いて、頑丈なバリケードを作って、この街を守っていたアーチ人だったが、地球人の科学の結集のような軍隊が攻めてくるのも、そう遠い未来ではないだろう。

 そして、その日は、意外なほどすぐにやってきた。
「軍隊が来たぞー!」
 私は家の中でその声を聞いて、意外にも落ち着いていた。
 ついに、という感じだった。
 逃げるか、それとも戦うか……。
 迷っていたら、母の渚が勇ましく家を出ていった。
 右手には包丁が握られている。
 それに、いざというときのため、ポケットにはショックガンも入っている。
 私も、母に続いて家を飛び出した。
 科学兵器はほとんどないアーチの戦士だったが、勇気と戦意だけはたくさん持っていたから、なかなか互角に戦っていた。
 それでも、やはり機械には勝てない。
 敵と味方を見分けて殺す地球人の兵器、殺人ロボットの乱入により、戦況は一気に地球側に向いた。
 すると、母が私の所へ駆け寄ってきた。
「ここは危ないから、逃げて」
「え!?でも……」
「いいから!あなたは逃げないとだめなの!だって、あなたには──」
 その続きは聞けなかった。
 母は私たちの方へ詰め寄ってくるロボットたちを惹きつける為、また戦いに飛び出したからだ。
 私は、母を助けたかったが、母の願いを無視できず、必死に街の外へと走った。
 ありがたいことに、ロボットも兵士も全く外に出る人のことは考えていなかった。
 今は、反乱軍を少しでも減らすのが狙いらしい。
 そう思ってから数秒たって、その〈減らされる反乱軍〉の中に母もいるということに気づき、私の目はようやく潤み始めた。

 やっと街の外に出た。
 そこには、一面の森が広がっている。
 森の中に入れば安全だろうと思い、私は森へと入っていった。
 葉が鬱蒼と茂り、木が薄暗がりの空間を作り出す。
 昔は手入れされた、心地よい木漏れ日の空間だったのだが、いまやアーチ人の関心はそんなところには無く、森はいつしか整備されない荒れ果てた場所になっていた。
「ふう……」
 私はほっとした。
 と同時に、疲れと眠気が襲ってきた。
 きっと森の中なら安全だろう。
 そんな思いも相まって、私は木にもたれかかって、心地よい夢の中へと入っていった。

**********************

 私は突然はっと目を覚ました。
 誰かの声がする。
「──おい、あいつはどこだ」
「街から逃げた女だな。急いで探すんだ」
 体の芯まで冷えていく気がした。
 私の事を、兵士たちが探している。
 そう思った私は、逃げようと急いで立ち上がった。
 ──それが間違いだった。
 実は兵士は、低い草むらを挟んですぐ近くにいたのだ。
 草むらに私の体が隠れていたため、奇跡的に見つからなかったに過ぎない。
 つまり、立ち上がった事によって、私の体は完全に丸見えになってしまった。
 当然、兵士も私の事に気づき……。
「こいつだ!」
 そういいながら、3人組だった兵士は私を取り囲んだ。
「これで全員だな?1人残らず処分しろ、という強い命令だからな……」
「ああ。こいつ以外は皆殺した。こいつだけだ」
 その言葉で、再び悲しみが襲ってきた。
 母は間違いなく殺された。
 その事実に打ちのめされた私は、抵抗する気力も無かった。
 もう早く両親の元へ行きたいとすら思っていた。
 兵士の1人が銃を構えた。
「さっさとするぞ、こいつは逃げる気も無いみたいだからな」
 いろんな思い出が走馬灯のように浮かんでは消え、浮かんでは消える。
 最後に浮かんだのは、美羽のあどけない顔だった。
 美羽の顔だけは、消えなかった。
 ──最後にもう一度、会いたかったな……。
 私は目を閉じた。
「さよならだな」
 兵士がにやりとして、引き金を引いた──。


 第2章

 あれ?
 私に疑問が浮かんだ。
 パン、という銃声がいつまで経っても聞こえない。
 何が起きたんだろう?
 私が目を開けると、そこには倒れている3人の兵士と、真衣に背を向けて立っている人がいた。
 どうやら、引き金を引く寸前にその人が助けてくれたらしい。
「……助けてあげたんだから、お礼くらいしてもいいんじゃない?」
 声を聞いて、びっくりした。
 女のようだ。
 それも、私と同い年くらいの声だ。
「あ……ありがとうございます」
 私がそういうと、その女性が突然声を上げた。
「え!?」
 私、何か変な事言った?
「あの……どうかしたんですか?」
「……あなた……もしかして……花崎真衣?」
 そう、確かに私の苗字は花崎だ。
 でも、何でそれを……?
 その時、私の中で、何かが繋がった。
 同い年くらいの女性。
 自分の知り合い。
 思い当たるのは……もしかして……私が会いたいと願った……。
「あの……もしかしてあなたは……」
「あたしの名前は、菊川美羽よ」
 ──やっぱりそうだ。
 私の無二の親友、美羽との再会は、思わぬ形でなされたのだった。

 思い出話をしたい所だったが、美羽がそれを遮った。
「まずは、あたしたちのアジトに来て。ここじゃ誰が聞いてるかわからないの」
「え?でも……」
「この星では、もう誰も信用できないの」
 切羽詰った声で囁く美羽に、反論はできなかった。

 しばらく進むと、一本の大きな木があった。
 私たちは根元の空洞を四つん這いになって進んだ。
 その先に、小さな扉があった。
 9文字のアルファベットを入れる、簡単な鍵つきの扉。
 そこに美羽は、こんな風に入力した。
〈ESFBNXJOH〉
 どういう意味なのか、さっぱりわからない。
 とにかく、扉を開けて、私たちは中へと入った。
 すると、そこには想像もつかない広大な空間があった。
「どう?ここが、あたしたち反乱軍ドリームウィングの本部よ」
 ドリームウィング。
 何度か聞いたことはあった。
 アーチ全体で、何度も地球人の侵略を阻止し、地球人の力を少しでも増やさないよう戦っている最大手の反乱軍。
 でも、まさか美羽がそのメンバーだなんて……。
「さ、あたしの部屋に来て。お腹すいてるでしょうけど、まだ夕食まで2時間くらいあるから」
 何か、昔と雰囲気が違う。
 何だか、かっこよくて、冷たくて、……無理しているみたいにも見える。
 そんな事を考えていたら、美羽が部屋に案内してくれた。
「ここがあたしの部屋よ」
 可愛いぬいぐるみと、ベッドとテーブル、それに本棚。それに、持ち物を入れる棚とパソコンが置いてあった。
「あそこに一つ、空いてる引き出しがあるから、荷物はそこに入れて」
 とはいっても、私が持っているのはハンカチやティッシュ、それに小さなナイフくらい。
 ほとんどのものは、家においてきたから……。
「ま、これから増えるよ」
 そういって、美羽は自分の事を話し始めた。
「あたしは、地球人が侵略してきた時に、この森に逃げ込んだの。
 そこで、風沢夢人っていう人に会って……」
 夢人は、同じ様に両親とはぐれて森に彷徨いこんだ青年だった。
 夢人と美羽は、会ってすぐに意気投合し、ドリームウィングを設立。
 夢人がリーダーで、美羽は副リーダーになった。
 そして、地球人を追い払うために、日々活動を続けているという。
「あれ?じゃあ、ドリームウィングっていう名前は……」
「そう。夢人の〈夢〉と、美羽の〈羽〉をあわせたの。いい名前でしょ?『夢の羽』って」
「あ、じゃああのパスワードは?」
「ああ、あれね。dreamwingって入れたのよ」
「え?全然違ったじゃない」
「いや、さすがにそのままだと簡単すぎるから、一字次のアルファベットを入れたの。意外とばれないのよ?」
 DがE、RがSという風にしたわけか。
 私は妙に納得した。
 そういえば、美羽は昔からそういう暗号を作るの、得意だったっけ。
 いっつもわかりにくい暗号作っては、私と2人で使って遊んでいた6年前が、遥か昔に思える。
「で、真衣は?」
 私は今までの話を説明した。
 美羽と別れてから、母親と二人でアーチの街に隠れて暮らしていて、地球人から逃れるためにここに来た事。
「じゃあ、あたしも真衣も夢人も、皆逃げるためにここに来たわけか。時間は違っても」
「不思議ね……」
 確かに、3人は同じ様な境遇で、同じ様にここへ来た。
 不思議なつながりだ。
「あ、そうだ!夢人に会ってみない?」
「ええ、いいわよ」
 私は美羽に連れられるまま、夢人の元へと行く事になった。


 第3章
 夢人は、どうやら会議の合間の休憩をしているみたいだった。
 私たちが入っていった時、疲れていた表情が一瞬だけ見えたけど、すぐに笑顔になった。
「あ、美羽。どうしたんだ?……それに、この人は誰だ?」
 何か爽やかな感じがする。
「私の名前は花崎真衣。美羽の幼なじみよ」
「僕は風沢夢人。美羽と一緒にドリームウィングを立ち上げた、ドリームウィングのリーダーだ」
 私は、夢人と握手をした。
 美羽がくすくす笑って、こう言った。
「せっかくだから、二人でなんか話でもしててよ。あたしは、支部長さんたちと、夢人の代わりに会議に出とくから」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
 美羽が部屋を出ると、夢人が言った。
「きっと、美羽は昔からずっとあんな感じだったんだろうね」
 私は、あえて訂正せず、頷いた。
「ところで、君は何でここに来たんだ?君は、美羽から僕の事は聞いているだろうけど、僕は君の事を知らないからね」
 確かに、言われてみればそうだ。
 私は、美羽にしたのと同じ様な話をした。
 夢人は、妙に納得したような顔をした。
 どうかしたの?と聞くと、夢人はこう答えた。
「美羽がいっつも、『いつか探し出したい友達がいる』と言っていたんだ。おそらく君の事だね」
 それを聞いて、私はまた嬉しくなった。
 美羽が私の事を気にかけていてくれた……。
「じゃあ、僕はドリームウィングの事を詳しく説明しようか。
 ドリームウィングは、世界5箇所に支部がある組織だ。
 その中でも、ここが本部。
 君が入るかどうかは自由だが、少なくとも美羽は君をここで保護するつもりだと思うよ」
 そういわれて、はっと気がついた。
 まるで昔に戻ったみたいだったけど、ここは地球人に占領されたアーチ。
 いずれ、美羽や夢人、それに私も戦わなくてはならない。
 しかし、今はまだその時期ではないだろう。
 今はまず、夢人の事を少しでもわかっておきたい。
 私は夢人と美羽の事や、ドリームウィングの事について、ずっとしゃべっていた。
 といっても、しゃべっていたのはほとんど夢人だったけど……。

 30分くらいして、美羽が戻ってきた。
「あーあ、やっぱ会議はあたし苦手だわ」
 つかれきったような顔をしている。
「だから僕がリーダーになったんだろ?たまには会議に出て、少し疲れたほうがいい」
「何で?」
「その方が、平和だ」
「うるさい!」
 美羽が頬を膨らませて、夢人の部屋に置いてあるティーポットから勝手に紅茶を入れて、飲み始めた。「いいの?あんな事しても」
「ああ。もう慣れたよ」
 確かに、よく考えてみれば、夢人は私よりも長く美羽といるのだ。
 おそらく、私よりも夢人の方が美羽の事を知っているんだろう。
 そういえば、夢人と一緒になってからは、昔の美羽に戻ったに明るい。
「あ、そうだ」
 美羽が何かを思い出したように言った。
「会議で、何か話題に上った気がする。何だっけなー……」
「そういうことは、覚えてないと会議に出てた意味が無いじゃないか」
「そんな事いったって、会議ってあんまり好きじゃないし……」
 しばらく空を見つめていた美羽は、やがてはっとしたように言った。
「思い出した!何か、願いが叶う花びらとか……」
 あ、それって……。
 私は6年前の事を思い出していた。
『6色の花びらが、この世界のどこかにおいてあって、それを集めると、願いが叶うんだって』
 もしかして、あの話?
「ああ、それなら聞いたことがある。〈願いの花びらの伝説〉。でも、ただの噂だろ?」
「それが、噂じゃないみたいなの。ほら、アーチの六魔境にその花びらがあるらしいのよ」
 アーチは、地球よりも一回り大きいらしく、その分手付かずの自然も結構残っている。
 その中でも『アーチの六魔境』は、あまりに危険なため、全く開発されていない6つの地域で、地球人ですら手が出せない状態だった。
「ああ、確かにあの周りはいっつも霧がかかっているっていうけど、その中に塔なんてあるのか?」
「あるらしいわよ。それで、その花びらを集めたら、地球人を追い払えるんじゃないかっていう話になったのよ」
「確かに、やってみる価値はあるかも……でも、誰が行くんだ?」
 私は、その言葉で覚悟を決めた。
「私がいくわ」
「え?でも、やっぱりドリームウィングで行った方が……」
「どうせ、美羽が助けてくれなかったら、あそこで死んでいたわ。どうせなら、最後にこの星のためになる事をしたいの」
 すると、美羽がこういった。
「わかった。その代わり、あたしが一緒についていくわ」
「え??」
 美羽が来てくれるなら、嬉しい。
 だけど……。
「でも、ドリームウィングはどうするの?副リーダーがいなくなったら、困らない?」
「それなら大丈夫よ。だって──」
「──こいつはほとんど何もしてないからな」
 夢人が笑いながら後の言葉を引き取った。
 どうやら、夢人も認めるつもりらしい。
「勝手にあたしのセリフを取らないで!」
 美羽がつかみかかるが、夢人はすぐにその手をつかんで、逆方向にひねった。
「痛い!」
 美羽が悲鳴をあげ、ぱっと夢人から離れた。
「こんなんで大丈夫か?」
「……とにかく!明日の夕方にでもあたしと真衣は出発するからね!」
 そういって宣言する美羽が、私は何だかとっても頼もしく思えた。


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