Our Story's Park(7)
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「ハヤテのごとく!」二次小説

 君と奏でるコンチェルト 第1部

 Scene.1
 広い屋敷の玄関に、2人の男女が立っていた。
 1人は女の子で、メイド服を着ている。まだ10代前半のようだが、どこか大人びた雰囲気があった。
 もう1人は18歳くらいの青年で、普通の服を着て、小さなリュックを背負っていた。
 女性が口を開いた。
「……本当に、行ってしまうのですね?」
「ええ」
 青年の言葉からは、強い決心が伺えた。
「……どうして……ですか?あなたは、ナギの事を今までに何度も守ってくれていたのに……」
「それでも、オレはお嬢様の期待にそえなかった。
 お嬢様がオレを必要としている時に、守れなかった……!」
 青年は歯噛みしながら、悔しそうに呟いた。
「……わかりました。ナギを呼んできましょうか?」
「オレに、お嬢様と会う資格なんてありませんよ」
 青年は、自分を嘲るように言った。
「……ナギは、黙っていなくなると、とっても怒ると思いますよ?」
「いいんです。
 オレの事なんかを想うより、嫌った方が、お嬢様は……、過去にとらわれずに、未来へ進めますから」
 そういい残して、青年は、扉に手をかけた。
 女性が呼び止めた。
「あの……どこへ行かれる予定なんですか?」
「なるべく、お嬢様やあなたとの思い出が無い所へ。
 ……ミコノス島なんか、いいかもしれませんね」
 女性はふっと笑った。
「なら、ナギを連れていつか遊びに行きますよ。待っててくださいね。……姫神君」
 それは、桜が咲き始める、3月の終わりの事だった。

 Scene.2
「三千院奥義……発動!!」
 周りにいるマフィアたちが次々となぎ倒された。
「ナギ……敵は、全て倒したぞ」
 姫神が呑気に言った。
「ああ。姫神、やはりお前は最強の執事だな」
「それほどでもねぇよ」
 そういって、姫神は一度ナギから背を向けた。
 それが、命取りとなった。
「くそっ……!」
 倒れていたマフィアの1人が、最後の力を振り絞って銃に手をかけ、そしてその引き金を引いた。
 あたりに銃声が響く。
「ナギ!!」
 姫神がナギを突き飛ばした。
 何とか銃弾の直撃は免れたが、それでもナギの脚には深い傷ができていた。
 雪が舞う寒空の下、3月の公園での、あっという間の出来事だった。

 Scene.3
「どうしてだ!なぜあいつはいなくなった!!」
 ナギが力の限りの大声を出した。
「それは、あなたを守れなかったから……」
「私はあいつの執事としての力には満足していた!
 勝手に辞めるなんて言語道断だ!
 おいマリア、あいつを連れ戻すんだ。場所は聞いてるんだろ?」
「………」
「まあいい、あいつの居場所なんて簡単に探し出せる。
 私の前から逃げた事を未来永劫後悔させて……!」
「ナギ!」
 マリアが大声を出した。
「あなたは、姫神君がどんな思いでここを去ったか……わからないんですか!?」
 ナギが口ごもった。
「……姫神君は、悲しむと思います。
 姫神君は、あなたが成長してほしい、過去にとらわれずに、未来へ進んでほしいと言い残していなくなったんです。
 あなたは、姫神君のその気持ちを、無駄にするんですか!?」
 それでもナギは俯いたままだった。
 マリアは、少し言い過ぎたと思い、ナギの小さな肩に手を乗せた。
「ゴールデンウィークになったら、姫神君の居場所を教えてあげます。
 私は、姫神君に会いに行くと、約束しました。
 ゴールデンウィークになるまで、あなたがおとなしくしていたら、会いに行きましょう」
「……わかった」
 ナギは俯いたまま、小さく頷いた。
 桜は、満開に咲き誇っていた。

 Scene.4

「マリア、本当にここにあのバ カがいるんだな!?」
「ええ。姫神君が気分を変えない限りは……」
「……あいつならやりかねん。だが……それでも捜す」
 ナギがそう言った時、突然大声を上げながら、ゴミ箱の中から誰かが飛び出してきた。
 その誰かは、ナギの命を狙っているらしく、すぐに銃を構えて、その引き金を引いた。
「きゃあっ!」
 驚いたマリアがナギを自分のところへ引っ張ったため、銃 弾はぎりぎりで当たらなかった。
「早く……逃げましょう!!」
 マリアはナギの手を引いて走り出したが、やはり敵が多すぎた。
 何人ものマフ ィアが次々と飛び出してくるため、油断もできず、正常に考える事もできなかった。
 そして気がつくと、マリアはナギとはぐれていた。
「ああ、どうしましょう!」
 ナギはまだ携帯は持っていないので、連絡も取れない。
「……姫神君……ナギを、助けてあげて……」
 マリアは、奇跡を信じて、祈った。

 Scene.5
 黒ずくめ、サングラスの男に、1人の少女が捕まっていた。
 男は、少女を誘 拐しようとしていた。
「く そっ……!放せ!」
「放すわけがないだろ、馬 鹿。
 お前なら身代金が1億でも用意できるんだろ?」
「そんなはした金なんかどうでもいい。
 さっさと放せ!!」
「こ……このブルジョワが!
 もう許せねぇ、俺はこんなに苦労しても人生に価値を見出せねえのに、こいつは楽して金が手に入るなんて、許さねぇ……!」
「黙れ消えうせろ貧乏ハ ゲ。
 逆恨みもほどほどにしないと、頭の過疎化が加速するぞ」
「黙 れ!!お前は、絶対にころしてやる!!」
 男がナイフを突きつけた。
 実物を見て、さすがに少女は黙り込んだ。
「へへっ……これで、この世界に復 讐できる……」
「いい加減にしろ!」
 男の背中に強烈な蹴りが入った。
 1人の少年が、男を蹴飛ばしたのだ。
「街中で騒がれると邪魔だ変 態。警察を呼ぶぞ」
「くそっ……覚えてやがれ!」
 男はありきたりな悪態をついて走り去っていった。
「大丈夫か?」
「ああ……ありがとう♡」
 少女が微笑んだ。
「ところで、何かお礼がしたいのだが?」
「……なら……オレを、匿ってくれないかな?」
「え?」
「具体的には……あいつらから……」
 いか つい男たちが、その少年の事を追いかけていた。
「さあ、今すぐ、7840万2000円……きっちり支払ってもらおうか!!」
 どうやら、少年は借 金 取りに追われているらしかった。
「くそっ……」
「払ってやるよ……」
 少女が進み出て、どこからかアタッシュケースを取り出すと、中から大量の札束をばら撒いた。
「うわっ……兄貴、これ全部本物ですよ!?」
「このくらいの小銭で騒 ぐな庶民。用が済んだならさっさと帰 れ」
 借 金 取りはすぐに帰っていった。
「ありがとう……」
「いいんだ、別に。
 この程度なら、返さなくても。
 他に何か望みはあるか?」
「なら……新しい仕事と家をくれたらいいな……」
 それが、少年と少女……姫神とナギの出会いだった。

 Scene.6

「くそっ……あいつら、何でこんな時に……」
 ナギが毒づいた。
「こんな時、あいつがいれば……」
 ナギは、もうだんだんと記憶が薄れていく、姫神の顔を思い浮かべた。
「全部、私が命を狙われているからだな……。
 くそっ……なんで、私だけがこんな目に……!」
 父親は物心ついた時にはすでにいなかった。
 母親とも生き別れ、信頼していた執事も自分の前から消えてしまった。
 そして今、マリアさえも自分の周りにはいない。
「……誰も、信用できないのか……!」
 ナギがそう呟きながら顔を上げると、目の前に、水色の髪をして、執事服を着た少年が立っていた。
 その服装が姫神にそっくりで、ナギは少し苛立った。
 しかし、次の一言が、さらにナギを苛立たせた。
「えっと……お嬢さま、縮みました?」

 Scene.7

「すみません……せっかくの帽子、穴を開けてしまって……」
「いいよ。お前が守ってくれた証だ♡
 お前が助けてくれなければ……私はここで死んでいたかもしれないし……」
 ナギが呟いた。
(こいつなら、あいつと同じように……信頼できるかもしれない……)
「じゃあ、約束通りここで、一緒に星空でも見ようか♡」
 そういってナギがにっこりと笑った時、不意に帽子が飛ばされた。
「あ!!帽子が……帽子が!!」
 次の瞬間、その少年も、帽子も、消えていた。
「……ない……」
 ナギはその時、思った。
(あいつも、母も、姫神も……みんな、私を守って、いなくなった。
 私があいつらに感謝するなら、私は、過去を、今を、未来をちゃんと見つめよう……)

 Scene.8

「おい、ハヤテ……!
 ヒナギクといちゃいちゃするなと、何度言ったらわかるんだ……!!」
「は……はい!すみません、お嬢様!!」
 ハヤテがナギの所へと駆け寄った。
 しかし、その行動に、恋愛感情は含まれていない……ナギには、そんな気がしていた。
「いや、そんな訳は無い!あの、クリスマスイブに、ハヤテは私に告白したんだからな……!!」
 だが、ナギは、それすら勘違いだったのではないかと思う事がたまにあった。
 その「たまに」が、いつの間にか「時々」になり、ついには「よく」になっていた。
 だが、ナギは、怖かった。
 恐れていたのだ、ハヤテが自分の所からいなくなってしまう事を。
 もし、ハヤテに聞いて、ハヤテがそれを肯定したとしたら?
 そうなった場合、ナギには、自分がそれを受け止め、平然としていられるとは思えなかった。
 恐怖のタネは、他にもあった。
 ナギが考える、最悪のシチュエーション……。
 自分の大切な人は、2人いる。
 ハヤテと、マリアだ。
 ハヤテは宇宙一かっこいいから、他の誰かがハヤテを好きになる事があってもおかしくないだろう。
 実際、歩に伊澄にヒナギク、それに虎鉄……は例外だとしても、ハヤテに好意を寄せる人はたくさんいる。
 その中に、マリアが含まれるようになったら?
 ナギは、マリアがハヤテを好きになってしまう事が、何よりも怖かった。
 大切な人を失った事は、今までに何度もある。
 でも、そんな中でも、唯一、どんな時でもずっと自分の側にいてくれた、大切な人……それが、マリアだ。
 世界一大切なマリアと、宇宙一大好きなハヤテが、一緒に、自分の前から去ってしまう。
 それが、現実味を帯びてくればくるほど、その恐怖は増す。
 それでも、ナギは、真実を知る最後の一歩を、踏み出せずにいた。
 真実がどれほど恐ろしいものか、そして別れがどれだけ辛いものか、一番よく知っているのは、他でもない、ナギだから……。

 Scene.9

「ナギ」
「何だ?姫神」
「お前には、夢とか、あるのか?」
 突然の質問に、ナギは一瞬戸惑った。
「そりゃあ……もちろん、私の漫画を千億部売る事だ」
 その夢が、その後、さらに大きくなるなんて、姫神も、ナギ本人も、全く思っていなかった。
「そうか……」
「そういうお前は、どうなんだ?」
「オレは……。
 その夢が叶うように、お前を助けるよ」
「……お前なんかで、大丈夫か?」
「なっ!バカにしてんのか!!」
「ふん、いつもいつも部屋を壊すようなやつに私が守れるわけが無い」
「うるさいな!」
「ほう……だったら、どんな時でも、私を守ってくれるか?」
「ああ!どんな時でも側にいて、オレがお前を守るよ!!」
 姫神が勢いよくそう宣言すると、ナギはふっと笑った。
「そうか……なら、信じてるぞ♡」

 Scene.10

『オレがお前を守るよ!!』
 かなり昔に言われた言葉。
 ナギが姫神の事を思い出す時、必ず最初に思い浮かべる言葉。
「嘘つきなやつだったな……あいつも、姫神も」
 次にナギが連想したのは、ミコノス島での、あの事件。
 あの時、自分はなんと思ったか?
「現実を、見れなくなったのか……」
 現実を見る事で、現在を失う事が怖かったから。
 そんなのは、言い訳にしかならない。
「そろそろ、見ないといけないよな……」
 ハヤテに、本当の気持ちを聞こう。
 ナギはそう決断した。

 Scene.11

 少年が消えた時、ナギの目に映ったのは、駆け寄ってくるマリアの姿だった。
 マリアはナギのところへ駆け寄ると、すぐにナギの事を抱きしめた。
「……ナギ……大丈夫でしたか?」
「ああ、心配ないぞ♡
 あいつが、守ってくれたからな……」
「あいつ?姫神君ですか!?」
「違う。……いや、同じようなものかもな……」
「???」
 マリアは、訳がわからないまま、話を変えた。
「ところで、姫神君の事、捜しますか?」
「いや、いいんだ、もう。
 それより、1つ頼みがある」
「何ですか?」
「ここで、暮らしたい」
「は?」
「ここに別荘を作って、ここで暮らすんだ」
「……まあ、できるでしょうけど、何でですか?」
「それはだな……」
 ナギは星空を見上げて、独り言のように言った。
「……約束を、守るためだ」

 Scene.12

「……ハヤテ……」
 ナギは、やや俯きながら、掃除をしているハヤテの名前を呼んだ。
「はい?どうしましたか、お嬢様?」
 ハヤテが笑顔で振り向く。
 ナギはその笑顔を見て、やはり胸がときめくのを感じた。
 それでも、真実を見つめなければならない。
 ナギは深く息を吸い込んで、話し出した。
「……なあ、ハヤテ。
 私たちが初めて出会った、あの日……。
 あのクリスマスイブの事、覚えてるか?」
「……え……ええ、もちろんですよ、お嬢様……」
 ハヤテの顔が若干引きつった。
 もちろん、ハヤテにしてみれば、ナギを誘拐しようとしたという罪悪感が起こったからなのだが、もちろんナギにはそんな事想像もつかないので、その表情から何が読み取れるかを、無言のままに推し量っていた。
(ひきつった……という事は、ハヤテにとってあの日は、何か嫌な思い出があるのか?
 ああ、嫌な思い出といえば、あのダメな親に売られた事か……?)
「あの時の出来事の中で、何が、一番お前の印象に残っている?」
「そうですね~……。
 あの日は、一日でいろいろありましたからね~……。
 親に売られたり、車に轢かれたり、自転車に轢かれたり、誘拐を企んだり……」
「……え?」
 聞き流していたナギは、一瞬フリーズした。
「誘拐って……何の事だ?」
 その疑問を聞いて、今度はハヤテが驚いた。
「ええ!?お嬢様、忘れたんですか!?」
 その時、突如マリアが現れた。
「……ナギ。あなたは、少し私の部屋へ来てください。
 ハヤテ君は、いつも通り仕事を続けてください。
 私は、この子に言わなきゃいけない事があるので……。
 終わったら、ハヤテ君にもちゃんと説明しますから」
「……はあ……」
 ハヤテは半信半疑というか、訳のわからないままとりあえず肯定した。
 マリアはナギを自分の部屋へ連れて行くと、ふぅっとため息をついた。
 そして、聞いた。
「ナギ……あなたは、真実を聞く覚悟ができてますか?」
「ああ、大丈夫だ。
 できていたからこそ、ハヤテに聞きに行ったんだからな……」

 Scene.13

「そうか……全部、私の勘違いだったのだな」
 真相を知ったナギは、自分を嘲るような苦笑いを浮かべた。
「私は、勘違いで、ハヤテを怒鳴ったり……ヒナギクを追い払ったり……ホント、バカみたいだな」
「私が悪かったんです。
 あなたがどういう行動に出るかわからなくて、それで、なかなか言い出せなくて……」
「いや、いいんだ。
 おそらく、ハヤテと出会ったばかりの私なら、怒って、ハヤテをクビにしていただろうからな……伊澄との時のように」
 一息ついて、ナギは続けた。
「ハヤテと、話がしたい。
 2人きりで」
「……わかってますよ。
 ハヤテ君を、ナギの部屋へ連れて行きます。
 事情は説明した方がいいですか?」
「…………ああ」
「わかりました。
 あなたの部屋で待っててください」
 マリアはそう言って部屋を出た。
 ナギも後を追うように部屋を出て、自分の部屋へと戻っていった。
(ああ……それで、ハヤテはあの時あんな顔を……。
 だが、ハヤテはいつも私の事を……)
 そこまで考えて、ナギは、ハヤテがはっきり「好き」だと言った事がない事に気づいた。
「世界で一番、“大切”な人、か……」

 Scene.14

 ナギの目の前には、去った当時から成長した、姫神の姿があった。
「姫神……お前、どうしてここへ!?」
「警告しにだ」
 姫神は真剣な面持ちで言い放った。
「オレが辞めてから、もう何年も経った……。
 お前は、新しい執事を雇ったらしいな」
「それがどうした?」
「その執事は、もうすぐ、殺される」
「はぁ!?何言ってるんだ」
「事実だ。
 お前の執事の命は、今、限りなく危ない。
 詳しい事は言えないが、三千院家の遺産を狙った計画が、今までで最も大きく進行している。
 お前の心の揺らぎは、特に仇となるだろう……」
 それは、ナギが、真相を知る3日前に見た、夢だった。

 Scene.15

 ナギが自分の部屋の扉を開けると、すでにハヤテが立っていた。
「お嬢様……」
「ハヤテ……。マリアから、説明されたな?」
「はい。
 まさか、あの時の事が、そんな誤解を招いていたなんて、全く思ってなくて……!
 すみません!
 お嬢様が望むなら、今すぐここを出て……」
「その必要は無い」
 ナギがハヤテの言葉を遮った。
「私は、お前の事が好きだ。
 それは、今でも変わらない。
 違うのは、両想いから、片想いに変わった事だけだ」
「本当にすみま……」
「謝らなくていい。
 もう、お前が私を好きかどうかなんて、関係ないんだ。
 私は、ただ、ハヤテと、一緒にいたい。
 ただし……」
 ナギはそこで一旦言葉を切った。
「……今までの暮らしが、ずっと勘違いの上に成り立っていただなんて、信じられない。
 考えを整理したい。
 今日だけは、出て行ってくれないか?」
「はい、お嬢様……」
 ハヤテがややしょんぼりとしながら出て行こうとしたので、ナギは慌てて説明した。
「勘違いするなよ。
 お前は、まだ私に対して1億以上の借金があるし、まだ私の執事のままだ。
 明日は、すぐに帰って来い。
 お互い一晩で考えを整理して、明日からは、また、元の関係に戻そう」
「……そうですね、お嬢様……!」
 ハヤテもようやく元気が出たらしい。
「勘違いはもうなくなったんですから、これでちゃんと仕事ができますね!!」
 そういって、ハヤテは張り切って仕事をしようとした。
 しかし……。
「いや、一晩はどこか外で泊まってくれよ」

 Scene.16

「ナギ……」
 目の前には、姫神がいた。
「オレがせっかく警告したのに、お前、無駄にする気か?」
「はあ?何の事だ?」
「お前の執事は、狙われてる。
 そう教えたはずだろう?」
「……な!あれは、嘘じゃなかったのか!?」
「何でわざわざ嘘をつくためだけにお前の夢の中に現れるんだよ。
 言ったはずだぞ?
 お前の心の揺らぎが仇になるって。
 それなのに、お前は、あいつを追い出した。
 あいつは、今、命の危険にさらされている……」
「それは本当か!?」
「さぁな。
 ただ、あの執事がとても危険な状況になる事だけは間違いない」
 姫神は、そう言い残して、消えた。


 Scene.17

「ねえ、父さん……。
 おにいちゃんは……、どこいったの?」
 小さな少年が、父親に問いかけた。
 父親は、にっこりと笑って、こう告げた。
「ああ、翼かい?
 翼はね、パパたちが幸せに生きていくために、犠牲になったんだよ」
 幼い少年に、「犠牲」なんて言葉が理解できるはずもない。
 なので、少年が聞き返すのは、当然の事だった。
「へ?」
「だから、ハヤテ君も、パパたちが幸せに生きていくために、がんばって働くんだよ♡」


 Scene.18

「はあ~……また、100万円もらった、はずなんだったんだけどな~……」
 ハヤテは負け犬公園のブランコに座ってため息をついた。
 三千院家を出た後、ハヤテはばったり会った雪路にたかられ、その後偶然会った歩とたまたま近くにあった超高級のフランス料理店に入り(歩はすごい食いしん坊です。念のため)、ワタルに新たに見つかった綾崎瞬のビデオの延滞金を支払ったりした結果、残ったのはまたもや12円だけになってしまったのだ。
「どうすればいいんだ……。
 またヒナギクさんの家に泊めてもらう、なんて図々しすぎるし……。
 かといってマリアさんにまた100万円もらうわけにもいかないしな~……」
 1人で悩む不幸少年ハヤテ。
 と、その時、突然……。
「うわっ!!」
 巨大なロボットの巨大な拳が降ってきた。
 間一髪で避けるハヤテ。
「あ……あなたは……」
 操縦している人物を見て、ハヤテがショックを受けたように呟いた。
「誰ですか?」
「忘れたのか!?
 まあ無理もないな、あれから3ヶ月以上会ってないんだから……。
 ……お前の親父、綾崎瞬だよ」
「え……えええ!?
 父さん、まだ生きてたの!?」
「当たり前だ。
 お前と同じで、頑丈だからな」
「それは知ってるけど……。
 でも、何でそんなロボットに乗って、しかも僕を殺そうとするの!?」
「そりゃあ、決まってるじゃないか。
 お前の雇い主の親戚と、取引をしたんだ。
 何でも、お前を殺したら、三千院家の遺産を継げるらしいじゃないか。
 だから、俺がお前を殺したら、遺産の半分を相続する権利をもらう、という約束をしたんだ」
 父親として最低な言葉を次々と、それもいとも簡単に出す瞬に、ハヤテは怒りを超えてあきれていた。
「父さん……」
「そういうわけだから、な。
 お前の性格なら、お前は肉親に対して本気を出せない。
 だから、お前を殺すのは、簡単だ」
 瞬がロボットを操って攻撃してきた。
(くそっ……!
 確かに、いくらあれでも父親だし、本気は出せない……。
 でも、このまま逃げ回ってても勝ち目が……!)

 Scene.19

 ここは、日本有数の大富豪の住む鷺ノ宮家。
 今、その家を、1人の青年が訪ねていた。
「……まあ、あなたは……」
 中から出てきた少女……鷺ノ宮伊澄は、目の前に立つ人物を見て驚いていた。
「これはまた、どうして……?」
「訳は後で話します。
 とりあえず、あなたの力が必要なんです。
 でないと、ナギと、ハヤテが、死 んでしまうかもしれない」
「え?どういう事でしょうか……?」
「とりあえず、あなたの力を貸してください。
 いろいろと厄介な問題が起きますから、直接会う事はできませんが、あなたの力を使って、忠告はできるんです。
 そのために、ここに来たんですから……」
「……わかりました。
 余計な詮索はしません。
 ではまず、私はどうすればいいのか、簡単に教えてください。
 ……姫神さま」

 Scene.20

「おい、マリア!!」
 ナギは、マリアのいる部屋のドアを勢いよく開けた。
 マリアは驚いたが、すぐに用件を聞いた。
「何ですか、ナギ?」
「今、ハヤテはどこにいる!?」
「何を慌てているんですか?
 ハヤテ君なら、ナギがさっき追い出したのでは……」
「それは失敗だったんだ……!
 姫神の忠告は、当たっている。
 そんな気がするんだ」
 その名前に、マリアが反応した。
「姫神君!?
 姫神君が、連絡をくれたんですか!?」
「ああ。
 というか、それに近い事をしたんだろう。
 あいつが言うには、ハヤテが危険なんだ。
 三千院家の遺産が、狙われている。
 ハヤテの命もだ……」
 マリアはもっと説明してほしかったが、どうやら時間が無いらしいので、先にハヤテの場所を調べ始めた。
「ハヤテ君は、負け犬公園にいます。
 近くには……巨大なロボットの反応があります……!!」
「本当か!?
 やはり、あいつの忠告は正しかったんだ……!!」
 ナギが悔しそうに唇を噛んだ。

 Scene.21

「くっ……!」
 休む暇すら与えずに、繰り出されるロボットの連続攻撃。
 ハヤテの体力も、だんだんと限界に近づいてきていた。
「どうした、ハヤテ?
 この程度で終わりか??」
「父さん……。
 まさか僕に、保険とか掛けてないよね?」
「そりゃあ、もちろんたくさん掛けてあるさ。
 遺産だけで十分なんだが、金は多くて困る事はないからな」
 瞬の笑みは、ぞっとするほど不快だった。
「くそっ……」
 ハヤテは毒づいたが、それでも、父親である瞬に攻撃はできなかった。
「これで終わりにしてやるよ」
 瞬がにやりと笑った。
「待て!!」
 その時、公園に小さな少女が現れた。
 それは、三千院ナギだった。
「お嬢様!!何でここに……」
「事情があるんだ」
 ナギはそういって、瞬の方へと向き直った。
「おい、お前がハヤテの父親か」
「ああ。
 お前は、ハヤテの雇い主だな?」
「そうだ、バ カ者め」
「ん!?バ カ者とは何だ!?」
「バ カをバ カといって何が悪いのだバ カ者。
 実の息子を殺 そうとするなんて、人間として最低のバ カ者の考える事だ」
「ふん。
 たとえ息子と言っても、結局は赤の他人だ。
 最後には、自分本位で行動するのが人間なんだよ……!!」

 Scene.22

「つーばさ君♪」
 瞬が上機嫌に翼に話しかけた。
「何だ?クソ親父」
 翼は、ダメ人間の両親を毛嫌いしていた。
 アルバイトはしていたが、全てはハヤテのためであり、瞬たちがその権利を握っているのが我慢ならなかった。
「知っての通り、父さんと母さんには、莫大な借金がある」
「自業自得だろ」
「違う。
 だが、このまま借金が増えて行くと、父さんも母さんも、そしてハヤテも、みんな死んでしまうだろう。
 そこで、提案がある」
「何だ?」
「それは、教えない。
 父さんは、お前に、選ばせるだけだ。
 全員が犠牲になる道と、お前だけが犠牲になる道と。
 お前は、どちらを選ぶ?」
 そういわれ、翼は迷った。
 だが、脳裏に浮かぶのは、無邪気に笑う、ハヤテの姿。
「……わかった。
 オレは、犠牲になってもいい」
 その言葉で、瞬がいつもの不快な笑みを浮かべたので、翼は急いで言葉をつなげた。
「だがな……!
 お前や、母さんみたいなクズのためじゃない。
 ハヤテのためだ。
 だから、約束してほしい。
 オレは犠牲になってもいいから、ハヤテのために……。
 ハヤテのために、これからはもっとまっとうな人生を歩んでくれ……」
「わかってるよ、翼♪」
 瞬はにっこりと微笑んだ。
 もちろんその言葉は、嘘であったが……。

 Scene.23

「何なの、この騒々しい音は!?」
 自分の部屋で今まさに眠りにつこうとしていた少女……桂ヒナギクは、不定期に鳴り響く爆発音や地響きにむかって怒鳴った。
 とはいえそれで何か変わるわけでもないので、とりあえずヒナギクは母親を呼んだ。
「お義母さーん!」
「どうしたの、ヒナちゃん?」
「この音、何なの?さっきからうるさくて……」
「さあ……工事をやるなんて聞いた覚えもないわねぇ……。
 でも、事件だったらニュースになるだろうし……。
 テレビ局を買収してるのかもしれないけど♪」
 ヒナギクは、その義母の言葉である事を閃いた。
(お金持ちで、しかも定期的に命を狙われるような子って……1人しかいないわよね……)
「お義母さん!ちょっと出かけてくるわ!!」
「え?ちょっと、ヒナちゃん!!」
 義母の制止も無視して、ヒナギクは着替えを済ませるとすぐに家を飛び出して行った。

 Scene.24

「ハヤテ。
 父さんたちのために、死ぬ気はないか?」
 ロボットの攻撃の手は休めずに、瞬がハヤテに聞いた。
「無いに決まってるだろ!」
「そうか……。
 なら、やむを得ないな」
 瞬はロボットの巨大なアームでナギをつかんだ。
「うわっ……何をする!」
「いつまでも戦いを続けていると面倒だからな。
 こいつの命と、ハヤテの命が、引き換えだ」
 瞬はまたあの不快な笑みを浮かべ、ハヤテに迫った。
「さあ、どうする?ハヤテ。
 お前が素直にやられれば、この小娘には手は出さない……」
 するとハヤテは、笑った。
「父さん。ありがとう」
「何だと!?」
「父さんは、お嬢様を危険な目にあわせた。
 たとえ肉親だとしても、僕はお嬢様を守ると誓った。
 だから、これで、躊躇い無く父さんを倒せますよ!」
 ハヤテはそういって、ロボットにいきなり必殺技をぶつけた。
「疾風のごとく!」
 ところが、ロボットはびくともしなかった。
「何で!?」
「このロボットは、お前が今まで相手にしてきたロボットとは格が違うんだ。
 今までのロボットの特徴と敗因を研究し、その結果生まれたのがこの『プロトタイプゼロ』だ。
 お前の必殺技はもちろん、首都警特機隊ご用達の武器対策もばっちりだからなぁ!!」
「ハヤテ……もういい、やめろ!」
 ナギの言葉すら無視して、ハヤテは何度もロボに体当たりした。

 Scene.25

「うおおおおおおおおおお!!疾風のごとく!!!」
 ハヤテがもう何度目かわからない体当たりをした。
 もちろん、ゼロの前には無意味である。
「ハヤテ……そろそろ諦めたらどうだ?
 でないと、この娘が危ないぞ」
「くそっ……。
 ハヤテ!こんなバ力の言う事は無視していいぞ!!
 私なら大丈夫だ!!だから……うっ!」
 瞬が、ロボのナギをつかむ力を強くした。ナギが痛みに呻く。
「お嬢様!……くっ……お嬢様を放せ!!」
「お前と引き換えだよ、ハヤテ。
 父さんは待つのは嫌いだから、あと10秒で決めないなら、この子を殺 すよ」
 ハヤテは、綾崎瞬という人物が、その気になれば何の躊躇いも無く人の命を奪う人物である事をよく知っていた。
 だから、ハヤテに、選択の余地は無かった。
「わかったよ……父さん。
 僕が、身代わりになる」
「ダメだ!ハヤ……」
 ナギの言葉を、瞬が遮った。
「それでこそ我が息子だよ。
 ハッピーエンドだね。
 さあ、早くこっちに来なよ」
 瞬がいつもの不快な笑みを浮かべた。
 ハヤテが一歩ずつ、ゆっくりとロボのところへ歩みだした時、突然一つの影が乱入してきた。
「そうはさせないわよ!!」
 それは、ヒナギクだった。


 Scene.26

「くそっ……オレは、やはり何もできないままか……」
 姫神が毒づいた。
 姫神は、伊澄の力を借りて夢を操って、ナギとハヤテを助けようとした。
 しかし、結果は失敗。
 ナギはハヤテを追い出し、ハヤテは瞬に負けている。
「いや……!
 まだ、諦めるのは早いか……。
 あの2人は、オレが守る……。
 待ってろ……“クソ親父”……!!」


 Scene.27
 ヒナギクは、正宗でロボを思い切り引っ叩いた。
「そんなものでロボが負けるわけが……なにっ!?」
 瞬が慌てた。
 ロボの足が簡単に折れたからだ。
 どうやら牧村さんは、ハヤテの技以外の対策を全くしていなかったらしい。
「ヒナギクさん……ありがとうございます!」
「お礼はいいのよ。
 それより、あの人は誰なの!?」
「あれは……僕の父親ですよ。
 三千院家の遺産を狙いに来たみたいです」
「わかったわ。
 ハヤテ君は逃げてていいわよ、どうせハヤテ君の攻撃は効かないみたいだから」
 ヒナギクはそう言うと、再びロボの所へと走って行き、正宗でロボを一気に攻撃した。
 ロボが倒れた。
 すると、ロボのコックピットから瞬が降りてきた。
 ナギをしっかりと捕まえている。
「まさかこんな所で邪魔が入るとは思わなかった。
 だが、俺はまだこの娘を預かっている。
 さっきの条件は変えない。
 お前と、こいつを引き換えにする」
「ハヤテ君!
 こんな人の言う事は聞かなくていいわよ!
 ハヤテ君が行っても、ナギは解放しないだろうから」
「僕も同感です。
 父さんなんかを信用して、ろくな事になった覚えはありませんから」
 瞬はいつもの笑みを浮かべて言った。
「おいおい、ハヤテ、ひどいじゃないか。
 俺はそんなに信用できないか?」
「当たり前だ!
 3ヶ月前に自分をとても親切な人たちに売った人を信用する人間がどこにいるんだ!!」
「まあ……それもそうだな。
 だが、お前には選択の余地は無いんだぞ?」
 瞬がそう告げると、ハヤテはたじろいだ。
 たとえ瞬が信用できないとしても、ナギを人質にとられている以上、抵抗はできない。
「放せ!
 ハヤテ、こんな奴には耳を貸すな!
 どうせこいつは……うっ!」
 瞬がナギの腹を躊躇なくなぐった。
「お嬢様!!
 くっ……父さん……なんて事を!」
「気絶してもらっただけだよ、うるさいからね。
 まあ、次は容赦しないけど。
 さあ、どうする?」
 瞬がそう迫った時、突然怒鳴り声がした。
「いい加減にしろ、クソ親父!!」

 Scene.28

「お……お前は……!」
「あ……あなたは……!」
 現れた人物を見て、ハヤテと瞬が同時に驚いて声を上げた。
「翼!」
「兄さん!」
 そう、その人物とは、ハヤテの兄の、綾崎翼だった。
「翼、何でここに?」
「そんな事はどうでもいい。
 ハヤテをころして遺産を継ごうなんて最 低な事、誰がさせるか」
「翼に許してもらわなくてもいい。
 どちらにしろ、この娘の命を握っている以上、ハヤテは何もできないし、翼が何かしたらハヤテが止めるだろう」
「何言ってんだ?親父。
 お前なんかに、オレは止められねえよ!」
 そう言うが早いか、翼は目にも止まらぬ速さで瞬の所へ移動すると、瞬の腹に思い切り肘 打ちを食らわせた。
「ぐはっ!」
 瞬が腹を押さえて倒れこんだ。
 遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
「私が、通報しといたわ」
 ヒナギクがそう言って、笑った。
「ヒナギクさん、本当にありがとうございました。
 ヒナギクさんが来てくれなければ、僕は、父さんにころされるところでしたから……」
 そこでハヤテは一旦言葉を切り、翼の方へと向き直った。
「兄さん……どうしてここに?」
「ああ、それは、いろいろとあったんだ……」
 その時、ナギが目をこすりながら起き上がってきた。
 ナギは翼の顔を見て、何度か瞬きすると、突然大声を上げた。
「お前は!!」
「お嬢様、兄さんの事を知ってるんですか!?」
「知ってるも何も……こいつは、姫神だぞ」
 そこで2人は黙り込んだ。
「……兄さん、だと……?」
「……姫神、ですか……?」
 2人はそれぞれの言葉の意味を考え、それから大声を上げた。
「おい!嘘だろ!?姫神はハヤテの兄なのか!?」
「ええ!?姫神さんって兄さんの事だったんですか!?」
 姫神は手を振って2人を静めた。
「心配しなくても、ちゃんと説明するから」

 Scene.29

 翼は、ハヤテがまだ幼い頃、やはりハヤテと同じように借金のかたに売られていた。
 とはいえ、半分自分の意志でもある所が、ハヤテとは違ったが。
 そして、ヤクザから逃げる途中にナギと出会い、翼は咄嗟に姫神という偽名を使ってナギの執事となった。
 しかし、ナギを守れなかったという理由で、翼は執事を辞めた。
 ナギの元を去った翼は、ミコノス島に渡った。
 ところが、そこで地元のマフ ィアと抗争になり、結局ミコノスからも追い出されていた。
 その後、世界各地を転々とした翼は、11年の時を経て、日本に戻ってきた。
 とはいえ、もう、ナギとは会わない方がいい。
 そう考えた翼は、自分の両親の様子を見に行った。
 すると、瞬たちがハヤテを売り、ハヤテは偶然にもナギの執事となっている事がわかった。
 さらに、瞬がハヤテを遺産目当てで殺 そうとしている事も知った。
 そこで翼は、ナギに直接会わず、伊澄の力を借りてナギの夢の中に現れ、警告した。
 ところがナギはそれをまともに聞かず、恐れていた通りの事態……ハヤテが1人きりというシチュエーションが生まれてしまった。
 翼はナギにもう一度忠告すると、自分もハヤテの元へと向かった。

 Scene.30

「そうか……そんな事があったのだな」
「ナギとマリアさんがミコノスに来る事は予想できていたが、ミコノスには残れなかった。
 だが、まさかハヤテがナギの執事になっているとは思わなかったよ」
「僕だって、まさか兄さんがお嬢様の執事をやっていたなんて思いませんでしたよ」
「私だって、まさか姫神とハヤテが兄弟だなんて思わなかったぞ」
「私なんて、どっちも知らないから、何がなんだかわからないわよ」
 ヒナギクがそう言うと、他の3人が苦笑いした。
 ナギは小さく息を吸うと、姫神の方を見た。
「姫神……いや、翼か」
「どっちでもいい。
 だが、お前に翼と呼ばれると変な感じがするから、姫神でいい」
「そうか……姫神」
「なんだ」
「もし、お前がそれでよければ、だが……。
 もう一度、私の執事をやらないか?」
 その言葉に、その場にいたナギ以外の全員が驚いた。
「お……お前、本気か?
 第一、執事ならハヤテがいるだろ」
「執事が2人いる家は珍しくない。
 咲夜も伊澄も、何人か持っている。
 それに、ハヤテだって、姫神と一緒に暮らしたいだろ?」
「そりゃあ、兄さんはいつか探したいと思っていましたから、できるなら一緒に暮らしたいですけど……。
 でも、お嬢様にも迷惑ですし……」
「誰が迷惑といった?
 私も、姫神とまた一緒に暮らしたいと思っていた。
 ハヤテもそう思っているんだろ?
 なら、どこに問題がある?」
「ですが……」
 ハヤテはなおも反論しようとしたが、ナギに遮られた。
「もういい!
 全ては、こいつの決断に任せよう。
 さあ姫神、私たちと一緒に暮らすか?」
 ナギにそう聞かれ、姫神は躊躇った。
 そして、こう言った。
「オレは、ナギを守れなかった。
 そんな頼りないオレでも、いいなら……」
「私は、お前を頼りないなどとは思っていない。
 それに……」
 ナギはここで一度言葉を切ると、続けた。
「ハヤテの幸せは、私の幸せだ」

 Scene.New Start

 あの事件から、1週間が経った。
 瞬が逮捕されると、続けてハヤテの母も逮捕された。
 2人の犯 した窃 盗・強 盗・詐 欺などの数は1000件を超えていた。
 ハヤテと翼も罪に問われそうになったが、その全てがあの両親の命令であり、またどちらも犯罪をした時は未成年であった事などが幸いして、何とか起 訴されずに済んだ。
 そして、翼はハヤテやマリアとともに三千院家の執事として働いていた。
 姫神はワタルや咲夜とは知り合いだった事もあり、すぐに新しい環境に慣れ始めていた。
 そして、新学期が訪れた。
 2人は進級し、千桜や愛歌と出会い、咲夜の誕生日を祝い、ドッペルゲンガーとも戦い、ハヤテとナギの世界も広がっていく。
 そんな新たな世界で、新たな物語は紡がれる。
 そう、必ず……。

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