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「デスティニー・ダークネス」


 デスティニー・ダークネス (4)
 
Overcome Destiny!

 T twenty

 序章 門

「ここが、ドラドルの入り口だな」
 赤いシャツに黒い半ズボンを着た1人の少年が、ドラドル王国の門を前に呟いた。
「うん。覚悟はいいよね?」
 もう1人の青年が、少年に問いかけた。
「ああ。こっちは1度経験しているからな……」
 何気ないやり取りだったが、その声からは、決意が感じ取れた。

 2人は、互いに顔を見合わせ、それから門をくぐった。

 第1章 ラドル

 異世界であるモルディスの各国は、周りを深い堀に囲まれていた。
 泳ぎではもちろん、ボートでも渡れなかった。
 ウィンガーと呼ばれる空飛ぶ乗り物も当然使えない。
 ラティス族が、堀に魔法の結界を創っていたからだ。
 何箇所か埋め立てられている場所があり、そこにだけは結界がない。
 二つの国を結ぶ、門があるのだ。
 普通の国であればそこには門番がいて、顔とパスポートなどを確認するのだが、ここでは門に取り付けられたセンサーが、パスポートに埋め込まれているICチップの電波を読み取って、国内に入る人を管理していた。
 もちろん、ICチップには犯罪歴などが詳しく保存されていて、指名手配犯などは即座に麻酔銃を撃たれて警察と政府に通報される。
 ある意味では、人間などより遥かに高性能な門番だった。

 話を戻そう。
 この少年の名は、メオ。
 クレイア王国をダークネスに乗っ取られ、ギガレズ王国に警告に行ったが、スパイたちに簡単に追い払われ、同志を集めて戦うも惨敗して、生き残ったテリスとともにドラドル王国へと逃げ延びてきていた。
 ダークネスはかつてモルディスを支配していて、一度は封印されたものの、何百年の封印から目覚めて再びモルディス侵略を始めた闇の魔王だった。
 ダークネスの次の目的は、おそらくモルディスで最大の国ドラドル王国の征服だろう。
 モルディスでダークネスに対抗できる可能性があるのは、ラティスとドラドルだけだ。
 二国が手を組む前に、ドラドルを支配する事が、ダークネスの作戦のようだ。
 2人は、ドラドル王国に警告してダークネスを今度こそ撃退するつもりだった。
 ダークネスに勝利すれば、クレイアとギガレズを取り戻す事ができる。
 それだけを励みにして、2人はギガレズの端っこの荒野を、小走りで進んできたのだ。
 そして、ようやくドラドルに辿り着いたのだった。

「やっぱりラドルは違うな〜」
 ドラドルの首都ラドルは、未来都市という言葉がしっくりくる都市だった。
 レイアやガレズも十分大きくて発展していると思っていたメオだったが、ドラドル王国の最大都市は、レイアやガレズなんかとは比べ物にならないくらい発展していた。
 道路のあちこちに機械やロボットがあり、道行く人は皆小さな直方体の機械の小さな画面を見ながら、何かに取り憑かれたかのようにボタンを押している。
 ちなみに、その後にそれが電話だと知った時の2人の驚きはかなりのものだった。

 ラドルの極められた機能性に一種の感動を受けながらも、2人は作戦を立てなければならなかった。
「ここでダークネスなんていっても、絶対に信用してもらえないよね……」
 テリスが言った。
 確かに、文明の極みみたいなこの都市で、ダークネスというまやかしみたいな話が信用されるとは到底思えない。
 ダークネスの存在自体が疑われているくらいなのだから。
 しかし、事態は思わぬ方向へと動いていく。

 第2章 策略

 2人は、ホテルに泊まって何となくテレビをつけた。 すると、思わぬニュースが流れていた。
〈続いてのニュースです。ギガレズ王国とクレイア王国による第二の連盟が、門を完全に封鎖して、ドラドルを初めとする他国とのつながりを完全に断ち切りました。政府は、これをモルディス連盟への宣戦布告であると考え、軍隊の整備を進め──〉
「おい、これって……」
 クレイアもギガレズも、すでにモルディス連盟から脱退しているというのだ。
 2人が逃げている3週間ほどの間に、事態はかなり動いていたらしい。
 ニュースを食い入るように見ていたが、どうやら満足な理由は見つかっていないらしい。
「これは、チャンスじゃないか??」
 これだけ穴の開いた理由しか出ていないのであれば、メオとテリスが何にも穴の無い説明──真実を広めれば、それは人々の間で広まるだろう。

 2人が目をつけたもの……それは、現実世界ではなかった。
 2人が広める場所に選んだのは、ドラドルの進んだ文明の一つで、情報の宝庫になっている……インターネット・ワールドだった。

 ネットワールドは、少数派意見でも心置きなく意見を出せるという利点があった。
 3時間ほどでだいたいの操作を覚えた2人は、検索エンジンで〈クレイア ギガレズ 脱退理由〉で検索した。
 すると、無数の掲示板やブログが表示された。
「まずはこの掲示板から……」
 2人の作戦は、それらのテーマを扱っているサイトにコメントやレスを送って、意見を広めるというものだった。
 「この事件はダークネスの仕組んだもの。クレイアもギガレズも操られている」という内容だった。
 こんな感じのコメント・レスを300個くらいの掲示板やブログに送りつけまくったのだから、反響は凄かった。
 というか、まず2人とも指が痛くなった。
 そして、掲示板やブログではたくさんの批判コメントが送られていた。
 だが、少数ながら「納得した」という意見もあり、2人の意見はネットワールド全体で大論争を引き起こしていた。

 次の日、2人がもっと意見を広める方法は無いかと考えていると、2人の借りているホテルの一室をノックする音がした。
「誰だろう?」
 そう思い、メオはドアを開けてみた。
 すると……突然変な臭いが漂ってきた。
 まずいと思った時にはすでに手遅れで、メオは眠くなり、そのまま意識を失ってしまった。

「……!」
 メオが目を覚ました。
 いつの間にか、メオは暗い牢屋に閉じ込められていた。
 地面から10センチくらいのところで、鎖で手足を壁に繋がれている。
 隣を見ると、同じ様な状況で、まだ寝ているテリスがいた。
「おい、起きろ」
 メオが懸命に足をばたつかせ、壁を蹴ったりしていると、やっとテリスも起きた。
 そこへ、2人組の警官が現れた。
「誰だ、お前らは?」
「我々は、この国を守る警官だ。お前らは、この国を混乱させようとした罪で逮捕された」
「どういう意味だ?」
「お前らは、ネットワールドで無責任な書き込みをし続けただろう。どこから、誰が書き込みしているかはわかるのだぞ」
「そんな事言ったって、自分たちの説を書き込むのは自由だろ。警官が何でそこまで規制するんだ?」
「……もういい。どうせお前たちは知っているんだろうからな……」
 そういうと、警官は突然二人に銃を突きつけた。
「我々はダークネス様に従う。警察はダークネス様の指示に従って動いている。それを知っているのは幹部だけだがな」
「……ってことは、あの説を規制したのは……!」
「そう。真実がばれるとまずいんだよ。
 これから、警察はあの書き込みをしたやつを逮捕し、あの書き込みは全くのガセネタだと伝える。嘘でもはっきりした証拠をあげれば、簡単に世論など調整できる。
 そして、あいつらが危険は無いと思い込んで油断した所で、ダークネス様はこの国を乗っ取る……お前たちに邪魔はして欲しくないからな。一石二鳥だ」
 そういって、警官たちは立ち去ろうとしたが、何かを思い出したように振り返って、こう言った。
「ああ、忘れていた。お前たちは、ダークネス様の邪魔をしようとしたのだ。その罪は、重い。ダークネス様の天下が訪れたら、その時は……覚悟しておけ」

 第3章 脱走

「どうする?このままじゃ……」
「逃げる手立てを考えないとな」
 そういって、メオはナイフを取り出そうとした。
 しかし──、ナイフは無かった。
「くそ、あいつら持ち物を検査したな」
「でも、これはたぶん……」
 そういって、テリスは手を柔らかく使って、袖裏に縫い付けられたポケットから、収納しやすいように折りたたみ式になったやすりを取り出した。
 ちなみに、なぜ技術が発達しているのに検査をしなかったのか、というと、どうやらダークネスがラドルの技術=抵抗力を弱めようとしたかららしい。
「何でそんな所に?」
「いや、軍に入ってた頃、こういう内ポケットに何かを隠しておくと安心だ、と指導されたんだ──……から」
 テリスが誰の名前を言えなかったのか、メオにはすぐにわかった。だから、あえてそれには触れずにこう言った。
「そのやすりで、この鎖も削れるか?」
「わからない……でも、やる価値はあるかも」
 そういって、テリスはそのやすりを使ってまずはメオの鎖を削っていった。
 じきに鎖はかなり弱くなったが、すでにやすりは使えなくなっていた。
「大丈夫。あとは、引っ張れば……」
 そういって、メオは勢いをつけて手を動かした。
 何とか手は動くようになったが、それはつまり、足だけが繋がれている状態。
 ほとんど意味は無かった。
「でも、手が自由になったんだったら、何とか……」
 そういうと、テリスが今度は袖裏から細い針金を出した。
「……そのポケットは4Dか?」
「違うけど。それより、これで何とか鎖の鍵も外せない?」
「まあ、やってみる価値はあるかもな」
 そういって、メオは鎖の鍵穴に針金を差し込んだ。
 意外なくらい簡単に、鎖が外れたので、メオはテリ
スの鎖も外した。
 そこへ突然警官が来たので、二人は急いで扉のすぐ脇の、ちょうど外からは見えないスペースに隠れた。
「夕食を持って来たぞ……あ!だれも……」
 そこで言葉は途切れた。
 テリスがぱっと飛び出して、警官を気絶させたからだ。
 二人は、すぐに牢屋を出た。
 テリスが少し高いところに窓を見つけて、うまくそこへよじ登った。
 メオはテリスが登りきるのを待っているつもりだった。
 しかしその時、声がした。
「おい!いたぞ!逃がすな!」
 警官に見つかったらしい。
 警官の一人はメオを見据えると、銃を構え、そして──発砲した!
 咄嗟にメオはしゃがんで避けたが、壁が崩れかけている。
 ──こうなったら、逃げるしかない。
 大きな広間で包囲されていたが、テリスはすでに登っていた。
 テリスは早く、という風に手招きしている。
 しかし、登っていたら、間違いなく撃たれてしまう。
 そこでメオは、ある作戦を思いついた。
「今すぐ行くからな!」
 大声で宣言して、メオは登り始めた。
 警官が大声を出した。
「撃て!」
 発砲したその瞬間、メオは勢いよく壁を蹴って、警官たちの集まりへと飛び込んでいった。
「テリス!お前は、逃げるんだ!」
 メオの大声で、テリスは一瞬迷い、それから決然とした表情で頷いて、すぐに窓から飛び出した。
 そして、パニックになっている警官の集まりへ勢い良く落ちていった。
 警官をジャンプ台にして、メオは扉へと一直線に向かった。
 扉を突き破ったメオは、痛みを抑えながら出口を探すことにした。

 出口を見つけたメオが外に出ようとすると、そこへ警官が立ち塞がった。
 銃を構えている。
「そんな簡単に人を殺していいのか?」
「すでに殺人許可は下りているんだ……それに、ダークネス様のためだからな……」
 こいつもダークネスの事を知ってるのか。
「そうか、つまりお前は殺人者になるんだな。──なら、おれも殺人者になる事を迷わない」
 そういって、相手の隙を突いてナイフを投げつけ、その警官の胸に命中させた。
 警官は最期の力を振り絞ってこう言った。
「所詮、モルディスはダークネス様には勝てない……あがくだけあがけ……」
「言われなくても、そうさせてもらう」
 メオは警官の銃を奪って、外へと出て行った。

 第4章 奇襲

 テリスに会えないまま、2日が過ぎた。
 すでにお金も無くなっており、しかも警官に追われている。
 テリスに会えなければ、そろそろ危険だ。
 しかも、ダークネスのスパイが入っている事もわかっているのだから、一刻も早く準備を始める必要がある……。
 そう思っていると、突然あちこちから悲鳴があがった。
「もう来たのか……」
 メオが呟いた。
 悲鳴のあがったところへ行ってみると、クレイアとギガレズの兵士たちが攻撃を始めていた。
 必死に抵抗する軍隊。状況は五分五分といったところだった。
 相手が超大国ドラドルという事もあって、今回ばかりはダークネスも兵士を使って隠れて攻撃していたらしく、ドラドル側の準備が整わなかったのだ。
 しかし相手が少ないので、まだまだ勝ち目はあった。
 すでに地獄と化すラドルで必死に抵抗する戦士の中にテリスを発見して、メオは駆け寄った。
 苦戦しているテリスは、後ろに別の戦士が隠れている事にも気づいていなかった。
「危ない!」
 戦士が剣を持ってテリスの後ろにいるのを見て、メオが銃の引き金を引いた。
 テリスの周りにいる戦士が、次々と倒れていく。
 連射タイプだったらしい。
「大丈夫だったか?」
「メオ!どこにいたの?」
「それは後だ。まずは、こいつらを何とかしないと」
 言ってるそばから敵が出てきたが、テリスが斬りつけた。
「早く、こいつらを追い払おう」
 そういって、メオは銃で、テリスは剣で次々と敵を倒していった。
 すると、なんと2時間ほどで敵たちを一人残らず倒す事ができた。

 その夜、ドラドル王国はお祭り騒ぎだった。
 ダークネスの兵士たちを見事に撃退したのだ。
 各地でパーティーが開かれていた。
 すでに警察の幹部は全逮捕、別の警察が組織されていた。
 メオたちもパーティーに混じっていた。
 テリスの顔が時々苦痛に歪んでいたが、メオはあえて何も聞かなかった。
「でも、あっけなかったな」
「奇襲だったら大丈夫だろうと思ったんだろ」
「とりあえず、明日からはまた忙しいな。このチャンスを活かしてギガレズに乗り込むべきだからな」
 そんな話をしていると、突然ものすごい爆音が響いた。
「なんだ!?」
 慌てて外に出てみると、なんと軍の施設が次々と爆破されていた。
 しかも、さっきの20倍ほどの人数のダークネスの子分らしき兵士たちが、次々と攻撃を開始している。
「罠だったんだな……」
 メオが呟くと、テリスも同意した。
「確かに呆気なさすぎたよ、さっきの攻撃は。あの奇襲自体が、更なる奇襲への布石だったんだ」
 すでに第二陣が加わって、その人数は5000人を越えているだろう。
 あっという間にラドルは血の海と化した。
「今すぐラティスへ向かうべきかな?」
 テリスが言ったその時、メオは後ろから肩を叩かれた。
 振り向くと、一人の男が立っていた。
「何だ!?」
 メオは銃を構えている。
「敵ではありません!」
 その男が慌てて弁解し、続けた。
「私はあなたと同じ側の者です。よろしければ、手を組みませんか?」
「どういうことだ?」
「私は、ダークネスに対抗する組織、ホープフェザーのメンバーです。あなた方の事はよく知っています。ぜひ、我々と一緒にダークネスを倒しませんか?」
 メオは迷ったが、少しの間をおいて、手を差し出した。
「よろしく」



 U resistance

 第5章 1ヶ月

 ルーラたちが戻ってきた時、すでにドラドルでは2ヶ月が経っていた。
 その間に、ドラドルはクレイアとギガレズに攻め込まれて、完全な地獄と化していた。
 ナナとルーラは反対勢力を探したが、ほとんどの勢力は殺人ロボットによって壊滅しており、すでに残る組織は一つしかなかった。
 ホープフェザーと名乗るその組織に接触した二人は、ある事を知った。
 ドラドルを侵略したのは、クレイアとギガレズではなく、ダークネスだというのだ。
 クレイアとギガレズを制圧し、裏で糸を引いているというのだ。
 ダークネスはまだモルディスには来ておらず、時間の流れすら違う別世界で力を蓄えているらしい。
 ホープフェザーでは、ダークネスがモルディスに来たらその時がモルディスの完全敗北を意味すると考えていたので、なるべく早く決着を付けたがっていた。
 しかし、それだけの戦力は無く、壊滅が近づいているのが現状であった。

 第6章 唯一の希望

 そんな中、ホープフェザーの唯一の「希望」の事を、2人は聞いた。
「ダークネスと2、3回戦った事がある、最強の2人組がいるんです。我々の支部は国内に5つあって、主にその方たちは本部を中心に作戦を立て、こちらとも定期的に連絡を取りながら、闇政府を倒す機会を狙っています」
 その2人は、ホープフェザー内でも最強の戦士で、また最高の司令官でもあるらしい。
 ルーラは、その2人に一度会ってみたいと思ったが、その人たちは忙しい上、下手に外へ出ると捕まる可能性もあるので、それは叶いそうも無かった。

 ルーラは占いができたし、ナナもかなりユニークな発想力で、思わぬ盲点を突いてくれるので、2人ともかなり役に立っていた。
 そして、ナナとルーラがホープフェザーの基地で暮らし始めて1週間が経った。
 そこで、驚くべき噂が流れるようになった。
 なんと、あの2人組が、ドラドルを捨てて、隣国ラティスへ向かうというのだ。
 その二人は、もともとドラドル出身ではないため、モルディス全体を救う、つまりダークネスを倒す事が最優先で、ドラドルを守るだけにそこまで時間をかけられないという事で、もともと1ヶ月程度で去るというのだ。
 確かに納得できない事も無いが、ドラドル出身のナナとルーラにしてみれば、自分たちが見捨てられた気分だった。
 そこで、2人は支部長に、本部へ行っていいか許可を取ろうとした。
 しかし、答えは芳しくなかった。
「だめに決まってます。あの2人がいなくなる今、あなたたちが最後の希望なのです。優秀な戦士が4人も同時にいなくなられたら、我々の敗北は確実になってしまいます」
 とはいえ、ルーラもそう簡単には引き下がれないので、こう言った。
「それはわかっています。でも、私にはわかるんです。あの2人に会わないといけないって……
 わがままなのはわかっています。
 でも、私たちがあの2人と会うことは、結果的にプラスに傾く……そんな気がするんです」
「そうか……しかし……」
 支部長は迷っていたが、ルーラの予知能力の高さはよく知っているので、渋々ながらそれを了承した。
「その代わり、期限は一週間です。一週間したら、たとえあの2人に会えても会えなくても帰ってきてください」

 こうして、その1時間後に2人は出発した。
 すぐにラフィマへ行ってしまう可能性もあるので、なるべく早くした方がいいと思ったからだ。
 2人は地図を頼りに、かなりの速さで進んでいった。
 途中、何度も殺人ロボットや警備隊から隠れていたため、時間はかかったが、何とか進んでいけた。
 そして、2人がようやく本部の前まで辿り着いた時だった。
 ルーラは、突然後ろから声をかけられた。
「おい、そこで何をしている?」
 それは、警官だった。
「えーと……」
「今は強制労働中のはずだ。なのにこんな所でうろついているなんて──おい、それは何だ?」
 警官が指差したのは、本部への道が書き込まれている地図だった。

「これは……ただの地図です……」
 ルーラは何とか声を絞り出した。
「それを、こっちによこせ」
 警官が言った。
 ルーラは黙っていた。
 状況が刻一刻と悪くなっているのを、全身で感じていた。
「こっちによこせ!」
 ルーラはどきどきしながら地図を渡した。
 それを舐めるように見回す警官の口が、だんだんと横に広がっていくのが見えた。
 そして……。
「お前たちを、逮捕する」
 警官の宣告は、ルーラたちを絶望へ突き落とす、最悪の結末だった。



 V encounter

 第7章 ニュース

 今日はいよいよ、メオとテリスがドラドルを離れてラフィマへ向かう日だ。
 ラティスへ行くためには、ラフィマを通っていくのが一番早いからだ。
 もともと1ヶ月以上いるつもりは無かったし、そろそろここを出ないと、ドラドルもラフィマも、それこそモルディス全体が破滅する危険性がある。
 この日のために、メオもテリスもリーダーにはしっかりと作戦を伝授し、2人がいなくなっても大丈夫なように出来る限りの事をしていた。
 そして、旅立ちの時だ。
 本部を拠点とするメンバー全員がホープフェザー本部の玄関ホールに集まっていた。
「今まで、ありがとうございました」
 ホープフェザーのリーダーが、代表してお礼を言った。
「こちらこそ、今までありがとうございました。これからも、お互い頑張りましょう」
 テリスがそう挨拶をした。
「捕まると危険なので、すみませんが、お送りできませんが……」
「いえ、大丈夫ですよ」
 そういって、2人は和やかに去ろうとした。
 そのときだった。
「大ニュースです!!!」
 突然下っ端らしき人が息せき切らして現れた。
「静かにしなさい!今、ちょうどメオさんとテリスさんがラフィマに向かわれるのですよ」
「でも……」
「後にしなさい」
 そうリーダーは言ったが、その人はそれを無視してこう叫んだ。
「ホープフェザー別支部の、エース的存在の2人の少女が、闇政府に逮捕されました!!」
「何!?」
 あまりの衝撃に、リーダーが聞き返した。
「別支部で、メオさんとテリスさんに一度会いたいと言って、ここに向かい、その途中で……」
 その言葉で、テリスは多少の罪悪感を感じた。
「その人たちは、大丈夫なのですか?」
 テリスはこう聞いた。
「おそらく、かなりひどい拷問にかけられているのでは、と思います。
 最悪、この基地の場所すら吐かされるかも……」
「それはまずいな……」
 そうリーダーが呟いたとき、メオがこういった。
「おれたちが、救出に向かいます」
「え?でも、メオさんたちはラフィマに行かれるのでは……」
「臨機応変だ」
 そういって、メオはテリスに向かって眉を吊り上げた。
「お前も、行きたいんだろ?」
「あ……まあ……」
「じゃあ、決まりだな。2人で行ってくる」
 そういって、メオはリーダーに全く口を挟ませないまま荷物を置き、大切なものをつめた小さなナップザックだけを背負って、すぐに出て行った。
「えーと……すいません!」
 そういって、テリスも後を追いかけた。

 第8章 救出へ

 メオとテリスが外へ出ると、強制労働時間のため、ほとんどの人が外に出ていた。
 これは、ダークネス側についていた一部の人間を除くすべての人を強制的に働かせ、服従心を植えつけるシステムだった。
 もちろん、働いていないと殺される。
「お前たちは、なぜ働いていない?」
 見張りの1人がメオたちを見て、こういった。
「……人殺しは、あんまり好きじゃないんだが」
「何を言ってるんだ?」
「こっちも、人の命が懸かってるんでね。悠長な事は言ってられないな」
 そういって、メオは長いサーベルでその見張りを斬りつけた。
「メオ!?」
 あまりに何の迷いも無く人を殺したメオを、テリスが咎めた。
「仕方ない。もう、ダークネスの腐った子分には改心の余地が無い。情けはいらない」
 そういって、2人は爆破された施設の上に作られた、牢獄へと向かった。

「ここが、ラバナスの牢獄……」
「ああ、ダークネスの作らせた牢獄の中でも最も残酷らしいな」
「ここに女が2人も、しかも最も危険な2人が……」
「一刻も早く助けないとな……」
 メオとテリスは、門の所まで行ってみた。
 さすがに警備も一流で、見張りは10人いる。
 突撃して振り切れるレベルではない。
 そう、10人全員がメオとテリスの方へ来たなら……。

 目にも止まらぬ勢いで1人の青年が門を駆け抜けた。
 侵入者警報が鳴るが、その青年は止まらない。
 見張りが8人ほど追いかけに行った。
 その間に、メオとテリスはやすやすと門を潜り抜けた。
「あ、待て!」
 残っていた2人に、メオとテリスは催眠スプレーを吹きかけた。
「さすがは、ダークネスの最高技術だな」
 当然ながら、さっきの青年はかなり似せてつくった人形で、中にはプログラムが狂った殺人ロボットが入っている。
 2人は、故障して捨てられていたロボットの回線をいくつか切ってから修理して、錯乱させて中に入れたのだ。
 あまりに広い牢獄のため、2人はトランシーバーを持って(携帯は位置情報や発着信履歴が完全に見張られている)二手に分かれることとなった。
「そろそろ、行きますか」
 メオとテリス、それぞれ侵入開始。

 とはいえ、2人がどこに囚われているかわからない。
 ラバナスはA〜Fの6ブロックに分かれていて、それぞれに100個以上の牢屋があるらしい。
 600以上の牢屋を作って、それでも足りなくて増築計画があるというのだから、よっぽど逮捕者が多いのだろう。
 悪いのは闇政府だが。
 ちなみに、闇政府とはダークネス=暗闇の政府、というのを略したもので、新政府の通称となっていた。
 とりあえず、2人はかなり危険度の高い逮捕者とされているだろう、と予測したテリスは、一番警備の厳しいAブロックへ侵入を開始した。

 まずは、扉にあるコンピューター制御の扉。
 しかし、ホープフェザーが開発した「パスワード・バスター」と呼ばれるものを付けると、ものの10秒で扉は開いた。
 このパスワード・バスターは、そのコンピューターの情報を赤外線で通信して自動で読み取り、パスワードを入力してくれる便利な道具だった。
 とにかく、その便利な道具のおかげで中に侵入したテリスだったが、思わぬ再会が待ち受けていた。
「あれ?あんたは……」

 第9章 憎しみの再会

 そこにいたのは、ラバーンだった。
「何でお前がここに!」
「あら、知らないの?私は、ここの最高責任者よ。牢獄の名前を聞けば、あんたならわかると思ってたけど」
 確かに、〈rabarn〉と8rabanas〉。かなり似ている。
「それにしても、まだ生きてるとは驚きね。リオンも死んでたから、とっくに死んでると思ってたけど」
 リオン──。その言葉を聞いて、テリスの心は憎しみで溢れた。
「お前を、殺してやる!」
 テリスはそういって、咄嗟に持っていたトランシーバーを投げつけた。
 しかし、トランシーバーはラバーンのすぐ目の前で弾かれた。
「なぜだ?」
「私は、ダークネス様の腹心よ?1度会った事があるくらいのね。
 ダークネス様は、私に魔力を下さった。今の私に、あんたは勝てないのよ」
 そういって、ラバーンは火の玉を放った。
 テリスはしゃがんで避けたが、なんと突然床が揺れ始めた。
 バランスを失って倒れたテリスに、ラバーンは容赦なく氷の塊を投げつけた。
「あんたは、勝てないのよ。
 ふふっ、安心しなさい。まだまだ殺さないから。
 何ヶ月も私たちに抵抗したんだから、それなりのご褒美をあげなくちゃね。
 これから何年もあんたを拷問にかけて、あんたが死にたいと思うくらい苦しめるから」
「そんな事、させない!」
 テリスは短い剣を投げつけた。
 やはりバリアに弾かれた。
「無駄な抵抗ね」
「それはどうかな?」
 テリスは氷の塊に必死に耐えながら次々と、持ち物を投げつけた。
「しぶといわね!」
 ラバーンがまるでボーリング玉のような巨大な氷の塊を作って、投げつけてきた。
 それをテリスは、傷ついた体をうまく転がして、見事に避けた。
 氷の弾は勢いよく扉に当たり、砕け散った。
 その鋭さに、ラバーンのバリアが弱められた。
 テリスは、その隙を見逃さなかった。
「くらえ!」
 そういって、リオンの形見である長くて鋭い、使い込まれた剣を力いっぱい投げつけた。
 その力にラバーンは勝てず、バリアが壊され、剣はラバーンに突き刺さった。
 ラバーンの腕から血が溢れ出す。
「やった!」
 しかし──勝利の喜びは、はかなかった。
 ラバーンはいとも簡単に剣を引き抜くと、血を逆流させ、傷口をふさいだ。
「魔法に、不可能はないわよ」
 そういって、今度はさっきの氷の弾の2倍くらいの直径の炎の弾を作ってきた。
 すでに、氷の弾の破片もまともに食らって傷を負っているテリスに、避けるだけの力は残っていなかった。
「これで、気絶させてやるわ!」
 殺すつもりは無いらしいが、何の気休めにもならなかった。
 まさにそのときだった。
 突然ラバーンに水が勢いよくかかった。
 炎の弾は、簡単に消えた。
「誰!?」
 それは、メオだった。
 2人の少女を連れている。
「間に合ったな」
 メオはそういって、銃をラバーンに向け、引き金を引いた。
 しかしすでにラバーンはテレポートして、いなくなっていた。
「危なかった……」
 テリスが呟いた。
 傷口からはまだ出血していたが、それでも生きている事、そしてラバーンに勝った事がひたすら嬉しかった。

 第10章 誓い

「私の名前はルーラです。助けていただいて、本当にありがとうございました」
 今、4人はラバナスを出て、近くの広場にいる。
「そんな畏まらなくていいよ。きっと、僕たちは仲間だから」
「あたしはナナ!」
「おれはメオ」
「ぼくはテリス」
 それぞれが自己紹介をした。
「さっそくだけど、これから、どうする?」
 テリスが聞いた。
「とりあえず、ホープフェザーの本部に戻ろう。まずはそこからだ」

 ホープフェザーの本部に入ろうとして、テリスはまず不信感を覚えた。
 いつも厳重に締まっている扉が、開け放たれていたからだ。
 そして中に入ってみて、テリスは、ショックを受けた。
 本部の広い部屋は、ぐちゃぐちゃになっている。
 人は誰もいない。
 物もほとんど没収され、辺りには血が飛び散っている。
「これって……」
「警察が来たんだな」
 メオが苦々しげにそういった。
「ごめんなさい。私が、ここへの道筋を書いた地図を持ってたから、それで……」
 ルーラが悲しそうに言った。
「大丈夫だ。ところで、おれたちはこれからラティスへ行くけど、お前らは?」
「私たちも行かせてください」
 ルーラが頼んだ。
「足手まといになるかもしれないけど、モルディスを守るため、役に立ちたいんです。お願いします!」
「あたしも、ルーラと一緒にいたいし、戦いたい!」
「わかった、一緒に行こう。その代わり……」
 メオはそこで言葉を切り、一呼吸置いて続けた。
「……その敬語をやめてくれないか?」

「検問はあるけど……何とかなるかな」
 ゲートは3つあり、2つは厳重な警備がある一般ゲートで、1つはパスワードを使って入る関係者用のゲートだ。
「どうする?たぶん、引っかかると思うよ」
「大丈夫だ。関係者用なら、引っかからない」
 そういって、メオはその関係者用ゲートの前に立つと、パスワード・バスターを使ってゲートを開いた。
「これで、ドラドル王国とはさよならだな」
「私、この王国から一度も出た事が無かった……」
「おれも、最初はそうだった。でも、今は何とも思わないな。
 どっちにしろ、ダークネスに乗っ取られたらこの世界は1つの『ダークネス王国』になるんだから、同じだよ」
 そういって、メオとテリスはドラドルを抜け、ラフィマへ足を踏み入れた。
 ナナがそれに続き、ルーラは最後にドラドルを振り返り、そして……そこを後にした。



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