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「星くんとついてくん」

 星くんとついてくん 第3巻

 第29話 ついてくんの修学旅行(3)

「ふあ〜あ」
 ついてくんが目覚めた。ベッドを降りて歯を磨く。星くんから虫歯ということを教えてもらって以来、ついてくんは歯磨きを毎日3回欠かさずやっている。
「おはよ」
 ベランダで心地よい朝の風を吸い込んでいたアスちゃんがついてくんを見つけて部屋に入ってきた。
「おはよう」
「今日はすだち畑に行くからね」
「は〜い」
「じゃあ、シャワーを浴びてくるね」
 前回言うのを忘れていたが、アスちゃんは何があっても溶けない。

「おいしかったね」
 ホテルの朝食はバイキングである。ついてくんもおなかいっぱい食べられた。
「じゃあ、そろそろ用意をして」
「用意って?」
「ついてくんが持つのは水筒。お茶を入れてきて」
「え?アスちゃんがしてくれるんじゃないの?」
 だいぶ前に熱海へ旅行に行ったときも、用意はすべて星くんがしていた。
「今回はついてくんがちゃんとしてくれるように来た旅行なの。私が全部やったら意味がないでしょ?」
「そうだけど……」
「じゃ、早く水筒にお茶を入れてきて」
「は〜い」

「ついてくん、早く!」
 アスちゃんが急かす。
「あのさ、アスちゃん」
「何?おやつ食べていいか以外の質問なら聞くけど」
「何で歩くの?」
「私たちはバスには乗れないのよ?」
「だからって……」
「その代わり、ちゃんとすだちを収穫できたらおいしい讃岐うどんのお店に連れて行ってあげる」
 讃岐うどんとは香川県の名産で、普通のうどんよりこしのあるうどんである。
 香川県のものだが、店は四国全体にある。
「本当?やった!」
 ※アスちゃんの性格が『フォーティーワン』のときから大幅に変化しているように見えますが、これはお店では少し控えめにしているだけで、アスちゃんは本当は元気はつらつでしっかりしています。

「あんたらがすだちの収穫を手伝いに来た子たちやな」
 くどいようだがこの人が話しているのは徳島県の方言・阿波弁だ。阿波弁のほとんどはアクセントの変化のみなので、小説では本当にわかりづらい。
「よろしくお願いします」
「礼儀正しいな〜」
「で、どういうことをすればいいんですか?」
「ああ、あの樹になっているすだちをこのカゴに入れて」
「わかりました」
「樹と実を傷めんようにしてな」

「あの実と枝の間の部分を切ればいいんでしょ?」
「そうだけど……何をする気?」
「簡単だよ。天界武装!武者ついてくん見参!!武者ついてくん流・武者斬り鷹の舞!!」
 すだちの実と枝の間の部分を次々と斬っていった。
「ほら、早くとって!」
「なら……アイスキネシス!」
 畑の地面が凍りついた。すかさずカゴをすべらせて落ちてくるすだちを見事に入れる。
「おお!」
 畑の人も驚いている。
「やった!」
 想像以上の速さですだち収穫は終わった。

「このうどんおいし〜」
「こしがあっていいわね〜」
「そして収穫したてのすだちをかけるとまた……」
「お代わり!」
「はいよ!」
 ついてくんはえび天うどん3杯、かき玉うどん7杯を食べた。

「ふ〜」
 帰りにまたホテルから迎えの車を呼んだ2人は、車の中でピテチと『コアラのワルツ』を食べた。
「疲れた〜」
 アスちゃんがついてくんを見ると、ついてくんはすやすやと寝ていた。
 もちろん、おやつの袋が空っぽになった後だったが。

「もしもし?」
「あ、アスちゃん?」
「うん」
「ついてくんはどう?」
「すだち畑から帰る途中、ぐっすり寝ちゃったの」
「夕飯までには起きる?」
「どうかな……」
 そう言ったとき、ついてくんが起きかけた。
「あ、もうすぐついてくんが起きるわ」
「じゃあ、ついてくんをお願いね」
 ついてくんの修学旅行は、まだまだ続く。



 第30話 ついてくんの修学旅行(4)

 夕食を終え、お風呂に入った2人は心地よく眠った。
 次の日。アスちゃんは一足先に起きた。シャワーを浴び、今日行くところを確認した。
「えーと今日は……阿波踊り会館で阿波踊りの練習?」
 阿波踊りは、阿波城の殿様蜂須賀公が宴の時に家来に踊らせた踊りが現代に伝わったもので、8月中旬に「連」と呼ばれる踊りのグループが息の合った踊りとパフォーマンスで観客を楽しませる徳島県の一大イベントである。

「え?阿波踊りって何?」
「阿波踊りっていうのは、阿波城の殿様蜂須賀公が宴の時に家来に踊らせた踊りが現代に伝わったもので、8月中旬に「連」と呼ばれる踊りのグループが息の合った踊りとパフォーマンスで観客を楽しませる徳島県の一大イベントなんだよ」
「でも、今は4月だよ」
「阿波踊り会館っていうところでは1年中阿波踊りを見せてるんだよ」
「でも踊れないよ」
「今日練習して、明日踊るの」
「何連?」
「神霊連」
「そんなのあるの?」
「うん」
 ※もちろん、実際にはそんな連ありません。
「でも……」
「阿波踊りが成功したら阿波尾鶏のから揚げを食べに行こ」
 阿波尾鶏は徳島で生産される高級な鶏のブランドで、とてもおいしい。
「わかった!」

「もっと手を伸ばして!」
「腰は低くして!」
 2人は神霊連の指導教官から厳しい指導を受けていた。
 ちなみに教官のセリフは小説では伝わりにくいので共通語にしてある。
「背筋を伸ばして!」
 今やっているのは基本の踊りである。男踊りと女踊りがあって、どちらも手を高く上げるが男踊りは腰を低くし、女踊りは立ったままの状態で会館を1周する。
「疲れた〜」
「まだ本番の4分の1しかやってないよ」
「うそ!」
 体験した人にだけわかるのだが、阿波踊りは手を高く上げ続けていないといけないうえ、男性の場合は腰も低く落とさないといけないため、最後まで踊りきるのはとてつもなくハードなのだ。
「もうやめようよー」
「だめ!」
 ついてくんはアスちゃんに怒られた。ちなみにアスちゃんも前に来た時に少し教えてもらってはいたものの、ほとんど知らない。
「ほら、あなたもちゃんと練習して!」

「ここで回って!」
「周りに合わせて!」
 基本練習から2時間、途中3回の休憩を挟んで2人は本格的なパフォーマンスを練習し始めた。
 これが各連の特色を最も際立たせるポイントだ。ただしどの連もぴったり動きを合わせることによって「美」の要素を取り入れるので、2人が他の人と息を合わせないと一気に美しさが減る。
 なので教官もタイミングを合わせようと必死だ。
「がんばって!」
「疲れを見せたら全体に響くから!」
 2人の疲労はピークに達していたが、教官や神霊連のメンバーの応援で何とか持ちこたえていた。
 しかし、教官の指導は厳しい。
「ここで少し上に上がって!」
「ジャンプするように見せるだけでいいから!」
 飛び跳ねる動きはついてくんには難しいが、周りと同じ動きに見せるにはそれらしい動きをする必要があった。
「ここで掛け声!」
「セイヤ!」
 掛け声は重要である。2人も声が枯れるまで練習を続けた。

「じゃ、みんなと一緒に踊ろう」
 練習がついに5時間を突破したころ、教官が言った。
「じゃ、いくよ……せーの!」
「はっ!」
「やあ!」
 阿波踊りにもダイナミックな踊りや美しい踊りなどいろいろな種類がある。神霊連は男踊りがダイナミックな踊りを、女踊りが美しい踊りを踊ることで互いの長所をより目立たせていた。
 2人の踊りは最初に比べて上達していたが、それでも細かいミスが多い。ミスが見つかると評価が落ちるので、教官の指導はさらに厳しくなる。
「手を下げない!」
「あくびしない!」
「疲れを見せちゃだめ!」
 5時間半くらいたった時、ついてくんがドサッとその場に倒れた。

「おいしい!」
 ついてくんが喜んでいる。
 ついてくんが気絶したことで練習は打ち切られ、2人は徳島ラーメンの店でラーメンをすすっていた。
「明日はがんばろう!」
「うん……」
 ついてくんが声をかけるが、アスちゃんの返事は微妙だ。
 練習が中途半端で終わってしまったからだ。
 教官は、帰る前にこう言った。
「あとは2人の問題はコンディションだから、大丈夫。しっかり睡眠を取ってね」
 とはいえ、何か起きそうな予感がするのだった。

「もしもし?」
「あ、アスちゃん。どこにいるの?」
「徳島ラーメンの店のトイレ」
「何か用?」
「実は……」
 阿波踊りの練習がついてくんの気絶で打ち切られたこと、しっかり睡眠をとれといわれたこと、アスちゃんがいやな予感がしていることなどをアスちゃんは簡潔に話した。
「大丈夫だよ」
「でも……」
「ホテルの部屋に戻って寝るだけなら簡単だよ。アスちゃんならできるから」
「そうかな……」
 心配そうなアスちゃんを励まして、星くんは電話を切った。



 第31話 ついてくんの修学旅行(5)

「おやすみ〜」
「おやすみ」
 お風呂に入った後、2人は寝た。しかし、ついてくんはなぜか眠れなかった。
「ホテルの自動販売機でジュースでも買お」
 ついてくんは部屋を出た。
 そして、急いで部屋に戻って扉を閉めた。
 誰かが来たからだ。
 ついてくんは扉に耳をぴったりとくっつけた。
「この部屋があの……」
「そうさ。間違いない。ついてくんとかいうやつだ」
「どうする。今やるか?」
「だめだ。あいつらは明日も外出するだろう。ならまた使う」
 ついてくんはドアの外で繰り広げられる会話に混乱した。
「隣の部屋なら明日チェックアウトだ。今やっても問題ない」
「それがいいな」
 ついてくんは隣の部屋が開く音を微かに聞き取った。

「え?誰かが隣の部屋に侵入した??」
 ついてくんはアスちゃんを起こしていた。
「きっとどろぼうだよ」
「でも変ね……」
「何が?」
「どろぼうならここの存在を知らないはずだし、特殊系の人はそれだけ調べることはできないわ」
「そっか……」
 ついてくんは混乱したが、とりあえず隣の部屋に侵入したやつらがどろぼうなら捕まえなくてはいけない。2人は部屋を出た。

「じゃあ、行くよ」
 扉の先にどろぼうがいると考えると危険だ。
「1、2……」
 3、と言ってついてくんが扉を開こうとしたとき、扉が内側から開いた。
「ぎゃ!」
 扉の近くで待機していたアスちゃんが扉に激突した。
「あ!」
 1人の男が中から出てくる。
「逃げろ!」
 男たちがエレベーターを使おうとした。しかし、
「アイスキネシス!」
 エレベーターの扉が凍りつき、開かなくなった。
「階段だ!」
 男が階段を駆け降りる。2人も急いで追いかけた。

「あれ?」
 ロビーに出たついてくんが首をかしげた。2人の男はいなくなっていた。
「そんなに速くもなかったのに……」
 アスちゃんもわからないと言うふうに首を振る。
「お客様、何かご用ですか?」
 メガネをかけた受付の人がやって来た。
「特殊系の階にどろぼうが出たんです」
 アスちゃんが説明すると、係員が一瞬たじろいだ(ように見えた)。
「……お客様、それは見間違いではないでしょうか」
「そんなことはないわ」
「ですが、暗くてお客様が混乱していた、ということも考えられます。それに、夜10時以降は外出禁止、という決まりがあります」
「それは……」
「ですから、お客様達は部屋に戻って下さい。下手に詮索しないこと。この件はこちら側で何とかします」
「はい」

「どうする?」
 アスちゃんがついてくんに聞いた。
「どうするって?」
「このまま寝ちゃうの?」
「でも、ホテル側で何とかするって……」
「私たちの話を信じていなさそうだったのに、解決すると思う?」
「それは……」
 いつもと違い、ついてくんがブレーキ役になっている。何だかおかしな感じだ。
「じゃあ、どうするの?」
「私、ホテルの従業員が怪しいと思うのよね」
「え!?」
 ついてくんが驚いた。
「だってそうでしょ。ふつう、お客様の言うことは丁寧に聞いてあげるのが商売の基本でしょ?」
「……まあ、アスちゃんがそういうならそうだと思うけど」
 商売に関しては、やはりアイス屋を経営しているアスちゃんが詳しい。
「今までなら、丁寧に聞いてくれた。なのにどろぼうなんて大きな話を、完全に無視するような感じだった。おかしいと思うのよね」
「そっか……なら!」
「何?」
「天界変装!探偵ついてくん始動!!」
 探偵ついてくんは別に天界超変化ではなく、単なるコスプレである。
「それ、どうなるの?」
「別にどうもならないけど」
「そうなの……ま、行こ!」
「どこへ?」
「『会議室』に忍び込むの」

 会議室は閉まっていた。中から声がする。
「ここ?」
「しっ!」
 ついてくんとアスちゃんが扉に耳をピッタリとくっつけた。
「……それで、そいつらは追い払えたのか?」
「ええ。ちゃんと部屋に戻しました」
「そいつら、何か感づいていないだろうな」
 そいつら、とはたぶんついてくんとアスちゃんの事だろう。
「それは大丈夫です。気づいたら私に知らせたりはしないでしょうから」
「確かにそうだな。そいつらのチェックアウトはいつだ?」
「明日の午後、阿波踊り会館に行ってから荷物を取りに来たとき、と言っていました」
「それまで気をつけていろよ」
「わかっています」
「だが、お前のせいで1年前のことまですべてバレたらどうするんだ?」
「それは……」
「警察は必要とあらば30年前まででも事件をさかのぼれるんだぞ」
「わかっています」
 そのとき、扉が勢いよく開いた。
「誰だ!?」
 それはついてくんとアスちゃんだった。
「こいつらです!やっぱり私たちのことを感づいていたんです!」
「そうか……ちょうどいい。殺せ!」
 シャッターが降りてきて、2人は部屋から出られなくなった。
 銃を構えて従業員が2人を殺そうとしたその時、シャッターが壊された。
「お前ら!窃盗・銃刀法違反・殺人未遂の現行犯で逮捕する!!」

 会議室に入る直前、アスちゃんは警察に通報していた。
 どろぼうの黒幕はホテルの社長だった。ホテルぐるみで盗みを働いていたのだ。
 ここのホテルは先払いになっていた。明日チェックアウトする人の財布を盗み、お金を使わないような状況を用意してホテルから出るまで盗みに気づかないようにさせる。出て行ってから気づいた人も、ホテルの仕業とは気づかないから、ホテルが疑われることはないのだ。
「犯人が消えたんじゃなくて、受付の人が犯人だったんだね」
 ついてくんが言った。
「ほら、さっさと乗れ!」
 実行犯の従業員をパトカーに乗せてから、警官が近づいてきた。
「ありがとうございます。本当なら感謝状を贈るのですが、感謝状は特殊系の方には贈れない決まりで……」
「そうなんですか……」
「すみません。ですが、これをどうぞ」
 10万円の入った封筒を渡した警官は一礼をして、パトカーに乗り込んだ。

「ホテルは今日は営業して、明日朝一番にお客さんを帰してから閉鎖するんだって」
 部屋に戻ったアスちゃんはトイレで星くんに電話をかけた。
「ふうん。そしたら、阿波踊り会館には荷物持って行かなきゃね」
 星くんが言った。
「阿波踊り??………あっ!!」
「何?」
「今日は早く寝ろ、って言われてたんだ!!おやすみ!!」
「おやす……」
 み、と星くんが言う前にアスちゃんは電話を切った。
 明日はいよいよ阿波踊りの本番である。



 第32話 ついてくんの修学旅行(6)

「申し訳ございませんが、このホテルの従業員が窃盗、銃刀法違反および殺人未遂で逮捕されました。朝食を済ませた後は、午前9時までにすべての利用客の方々は退出してもらいます」
 ホテルに残っていた婦人警官が言った。
「ほら、急いで食べて!」
 アスちゃんが急かす。ついてくんが欲張って何杯もおかわりするので、アスちゃんがいらいらしている。
「わかってるって」
 ついてくんはのんびりとしている。
「わかってないでしょ!!」
「はいっ!」
 ついてくんが急いで残っている食事を片づけた。

「絶対に他の人に合わせてね」
「疲れを見せちゃだめだよ」
「はい」
 本番10分前。アスちゃんとついてくんは指導教官から最後の注意を受けていた。
「それから、これ」
 教官がクッキーを差し出した。手作りのようだ。
「これは??」
「今朝、荷物が届いたんだよ。あと手紙も」
 教官から手紙を受け取ったアスちゃんは、声を上げた。
「星くんからだ!」
 手紙にはこう書かれていた。
『ついてくんとアスちゃんへ。阿波踊りの本番、頑張って下さい。テレビを通じて応援しています。星くんより』
「ついてくん、がんばろうね!」
 やる気が出たらしい。アスちゃんが励ました。

「では、次の連です。神霊連のみなさん!!」
 配られていたスコープを全員が付けた。
「どうぞ!」
 ついてくんもアスちゃんも、精一杯踊った。かけ声、動き、すべてをみんなと合わせた踊りには、本番にはない一体感と躍動感があった。
 小説で伝わりにくいのが残念です。
 20分ほど踊って、ついてくんとアスちゃんはしっかりとポーズを決めた。
 会場からは拍手喝采が鳴りやまなかった。
 ちなみにその後、記憶操作によって全員は2人の記憶を消された。

「おいしい!」
 ついてくんとアスちゃんは神霊連のメンバーと阿波尾鶏の専門店に来ていた。
「ほんと!」
「それに、発表も成功したし!」
「やったね!」
 その時、アスちゃんの携帯からアラーム音が鳴り始めた。
「何??」
 それは、アスちゃんが出発前に登録したアラームだった。見出しはこうだ。
『飛行機出発まで1時間!!』
「やばい!!」
 2人は支払いを済ませると、猛スピードで店を出て、迎えの車を呼んだ。

「ついてくん、早く!」
「待ってよ〜」
 徳島空港に着いたとき、あと10分ほどしかなかった。
「時間がないの!早く!!」
 荷物検査を済ませた2人は、搭乗口へ行こうとした。しかし、田舎のためいつも空いているはずの空港が、なぜか混雑していて、なかなか進めない。
「急いで!」
 チケットを持っていたついてくんが神速で搭乗口を抜け、先に飛行機に乗った。しかし……。
「ああ!」
 アスちゃんが隣のおばさんに押されて倒れた。混み合っているのでなかなか起き上がれない。
「アスちゃん!」
 ついてくんは飛行機を降りてアスちゃんを助けに行こうとした。ところが、係員がそれを止める。
 そして、ついについてくんの乗る飛行機は大空へと飛び立った。
 やっと起きあがったアスちゃんがついてくんの通ったところを見ると、こう書かれていた。
『行き先 名古屋空港』
 アスちゃんは気を失いそうになった。

「え!?ついてくんが名古屋行きの飛行機に1人で乗ってる!?」
 アスちゃんは星くんに携帯で電話をかけた。
「ええ……」
「アスちゃんはどこにいるの!?」
「羽田行きの飛行機の中」
「何で!?」
「係員の人に無理やり乗せられて……」
「じゃあ、ついてくんは1人で名古屋に向かったの!?」
「そう」
「どうしよう!?」
「名古屋に知り合いがいれば……」
「そうだ!」
「何?」
「スピラルさんとフューチアが愛知県に旅行に行ってた!!」
「なら、電話をして……」
「でも、電話番号を知らない!」
「じゃあ、だめじゃない!」
 アスちゃんが大声を出したので、客室乗務員に注意された。
「どうしよう?」
「じゃあ、とりあえずおれは羽田空港へ行く。そこでアスちゃんと合流して、そこからすぐに名古屋へ向かう」
「わかったわ」

 ついてくんは、飛行機の中である人物と話していた。
(どうしよう……アスちゃんともはぐれちゃったし……)
[星くんが空港まで迎えに来てくれるんじゃないですか?]
(あ、そうだった!)
 その時、アナウンスが流れた。
「目的地の名古屋空港まで、あと10分ほどで到着します」
(名古屋空港?名古屋といったら……)
[中部地方南部に位置する愛知県の県庁所在地ですね。過去には万博(愛・地球博)も開かれました]
(そっか……ていうか、中部地方?羽田空港って東京じゃ……)
[この飛行機は名古屋空港行きですよ。行き先を間違えたんですね]
(じゃあ、見知らぬ街で1人ぼっち!?)
[そういうことになりますね]
(そんな!!)

 スピラルとフューチアは日頃の疲れを癒すための旅行に来ていた。新幹線で静岡に行き、箱根で温泉に入り、富士山を登ってから、名古屋でおいしいものを食べて名古屋空港から羽田に戻る予定だった。
 今は、名古屋空港にいた。
「温泉気持ちよかったわね。あれ?」
 見ると、見慣れたおばけがふわふわと浮いていた。
「ついてくん!?」
「あ、スピラルさんとフューチア!!」
「ここで何してるんですか?」
「迷子になっちゃって……」
「旅行に来てたんですか?」
「うん」
「じゃあ、星くんはどこにいるんですか?」
「え〜と……羽田空港?」
「旅行に来てなかったの……じゃあ、付き添いは?」
「アスちゃんがたぶん徳島空港にいると思う」
「ふうん……って羽田と徳島!?そんなに遠いところにいるんですか!?」
「うん」
「それは困りましたね……私は30分後の飛行機を予約していますが、お金が……」
「いらないよ。ぼく0歳だもん」
「そっか。なら、空席があるかどうか調べてみますね」
「お願いね〜」

 こちらは羽田空港。
 星くんはあの電話の後、急いで空港へ向かったのだ。
「やっと着いた……」
 しかし、アスちゃんの飛行機の到着までまだ20分ほどある。
「名古屋行きの飛行機でも予約しておくかな」
 星くんが考えていると、電話がかかってきた。
「もしもし?」
「スピラルですけど」
「スピラルさん!?」
「さっき名古屋空港でついてくんを見つけたので保護しています」
「本当ですか?」
「ええ。それで、アスちゃんはどこにいますか?」
「今は、羽田空港行きの飛行機の中」
「それは良かった。なら、私は飛行機でついてくんと羽田へ向かいますから、待ってて下さい」
「わかりました。では、ついてくんをよろしくお願いします」
 星くんが電話を切った時、遠くから星くんを呼ぶ声がした。

「じゃあ、羽田で合流することになったんだね?」
「ええ。それに、飛行機の席も取れました」
「よかった」
「飛行機の出発まで時間があるから、何か食べる物を買ってきます」
「じゃあ、お金はぼくが出すよ」
「ありがとうございます。じゃあ、ついてくんはここで待ってて下さい」
「は〜い」
 スピラルがフューチアと売店へ向かった。その時……
「ああっ!」
 スピラルが黒いスーツを着た男につかまれ、そのまま連れて行かれてしまった。
 フューチアが地面で男の足にかみつくが、払いのけられてしまった。
「あ!スピラルさん!!」
 ついてくんが追いかけるが、男も速い。車に乗って逃げられてしまった。
「スピラルさ〜ん!!!」

 次回、いよいよ修学旅行編クライマックス!



 第33話 ついてくんの修学旅行(7)

「え!?スピラルさんが誘拐された!?」
「そう!」
「誰に?」
「えーと……黒いスーツを着た男に」
「どこで!?」
「売店で」
「じゃあ……今から言うことをよく聞いてね」
「うん」
「まず、ついてくんは飛行機の乗客に迷惑がかからないように、ついてくんとスピラルさんの飛行機の予約をキャンセルしてね」
 星くんは丁寧にキャンセルの仕方を教えた。
「その間に、おれたちも飛行機で名古屋へ向かって、110番しておくから」
「わかった」
「じゃあ、ついてくんまでさらわれないようにしてね」

「あっ、星くん!」
 ついてくんが手を振る。星くんとアスちゃんが出てきた。
「警察にはもう連絡したよ。急いで捜すって」
「あのさ、犯人って何の目的があってやったの??」
 そういわれればそうだ。
「それは……犯人に聞かないとわからないよ」
 納得。
「それより、犯人を見つけてスピラルさんを助けようよ」
「じゃあ、とりあえず外に出ましょうよ」
 アスちゃんが言った。

「天界飛翔!フェザーついてくん開花!!」
 新たな天界超変化を使ったついてくんの体が光り出し、翼が開いた。
「おお!それなら見つけだせるかも!」
 星くんが驚く。
「さあ、つかまって!!」
「わかった!」
 星くんが翼をつかみ、星くんがアスちゃんをつかんだ。
 フューチアもしっかりとフェザーついてくんにつかまった。
「たしか犯人はあっちの方向に行った!急ごう!」
 ついてくんは猛スピードで飛んでいった。
 ところが、どこまで行っても見つからない。
 それは、当然のことだった。

「え!?スピラルと誘拐犯はすでに誘拐犯のアジトにいるって!?」
「はい。実は、誘拐犯のことを調べたら、3日前に出所した誘拐犯と服装や身長・手口が一致したんです」
「で、その誘拐犯のアジトはどこですか??」
「えーと………今ちょうどあなたたちがいるところの地下です」
「ここ!?」
 星くんたちがいるところは公園だった。
「公衆電話が入り口になっているようで……」
 その時、電話がかかってきた。
「もしもし?」
「『みろしのきん』100万円を用意しな」
「みろしのきん??」
「あっ間違えた……身代金100万円用意しな」
「どこに?」
「公衆電話だ」
「ニャ!!」
 犯人が言っていると、フューチアが電話に向かって短く、警告するように鳴いた。
「ん??ぎゃ!!」
 犯人の上に瀬戸物が落下したらしい。割れる音がする。
 携帯で電話していたらしい。隙をついてスピラルが携帯を奪い、星くんに話しかけた。
「電話ボックスに『222777444633』とダイヤルすると床が開いて……」
「何してやがる!とにかく100万円用意しないとこいつの命が……ぐぎゃ!!」
 スピラルが思いっきり犯人を蹴り飛ばしたらしい。その拍子に電話も切れたが犯人が悲惨なことになっていることだけは伝わった。
「早く行こう!」
 ついてくん(変身は解除した)が言った。

「ああ!」
 床が開いて3人と1匹は落ちていった。
 そこは、薄暗い倉庫だった。
「どうやって作ったんだろ?」
「さあ?」
「犯人に聞いてみようよ」
 そんなことを言っていると、突然悲鳴がした。
「行ってみよう!」
 3人と1匹は走り出した。

 悲鳴をあげたのは、スピラルではなく犯人だった。
「時限爆弾が!あと2分で爆発する!!」
「ええ!?」
「逃げましょう!!」
 スピラルが言った。みんなが走り出した。

 電話ボックスの床を見上げてついてくんが言った。
「どうやって登るの?」
「ごめん。考えてない」
「ええ!?」
「前回もここで追いつめられて逮捕されたんだ。それで今回はリベンジで時限爆弾を用意して誘拐したんだけど、まさか本当にスイッチが入るとは……」
「床ってこっち側から突撃したら開く?」
「無理。誰かがダイヤルしない限り開かない」
「なら……天界飛翔!フェザーついてくん開花!!フェザーソニック!!」
 翼から真空波が放たれ、床を切りつけた。しかし、むなしい金属音がするだけだった。
「天界武装!武者ついてくん見参!!武者ついてくん流・竜巻の舞!!」
 竜巻が床に当たるが、何も起こらない。
「天界獣輝!ブレイクついてくん登場!!ブレイク流奥義・空裂波!!」
 再び真空波が起こり、床に当たる。金属音が鳴り響く。
「スターブラスト!!」
 星くんも星を打ち出すが、跳ね返される。
「あと30秒で爆発します」
 スピラルが言った。
「スピリチュアルビックバーン!!」
 ついてくんがビームを放った。すかさずみんながパワーを送る。それでも足りない。
 そこで助けに来るのは??
[お困りのようですね。力を貸しましょう]
 謎の声だ。ビームがみるみる太く、強くなる。
 ついに床が壊れた。
「天界飛翔!フェザーついてくん開花!!」
 みんながフェザーついてくんにつかまった。フェザーついてくんが飛び上がった。
 後ろにいるスピラルが急いで電話ボックスを飛び出すのと、爆発の煙が上がるのが同時だった。

「ありがとうございます」
 誘拐犯がついてくんにお礼を言っている。
「本当にありがとうございます」
 警官もだ。
「2度もこんな活躍をしていただいたのに申し訳ございません」
 表彰状のあげられないことを悔やんでいるらしい。
「戻ったら決まりを改正してもらえるよう頼んでみます」
 警官が一礼して、誘拐犯とパトカーに乗った。

「楽しかったね」
 ついてくんが言った。
「それは良かった。で、何かわかったことはある??」
 星くんが聞いたのは、どういうことを学んだかである。
「えーと……お風呂は走っちゃだめ!」
 ついてくんが元気よく答えると、アスちゃんがくすくすと笑い出した。

「本当にありがとう」
 星くんがアスちゃんにお礼を言った。
 羽田を出た星くんは、スピラル、フューチア、アスちゃんに家に来てもらったのだ。
「別にいいのよ。いつもお世話になってるし」
「それにスピラルさんにも」
「いいんですよ」
「えーとそれから……」
[私を忘れないで下さい]
「ああ、謎の声。ありがとう」
 星くんがみんなにお礼を言った。
「ねえ!ケーキあるよね!?」
 突然ついてくんが大声を出した。
「何でわかったの??」
 星くんは、ついてくんが帰ってきたときのために大きなホールケーキを買ってきていた。
「勘!」
 ついてくんが冷蔵庫へと向かい、ケーキを取ってきた。
「ニャ!!」
 フューチアが星くんに向かって警告するように鳴いた。
「え!?」
 星くんが慌てる。しかし、慌てたところでフューチアの予知した未来を変えるのは不可能に近い。
「ああ!!」
 読者の皆さんの予想通り、ついてくんが転んで星くんが頭からケーキをかぶった。
「ケーキが!!」
 ついてくんが言った。
「……もう1回修学旅行に行け!そして帰ってくるな!!」
 星くんが激怒した。しかし、ケーキを頭からかぶっていたのでまったく迫力がなかった。
 星くんの家は笑いに包まれた。



 第34話 コンセンくんの一日

「○○の一日ってさあ、もうそろそろ飽きてない?」
 タイトルを見たついてくんが星くんに聞いた。
「いいよ。読者の意見とか無視してただコンセンくんの出番を増やすだけだから」

 コンセンくんはポチを買い物ついでに散歩に連れていくことにした。
「ほーらポチ、散歩に行こ」
「ワン!」
 タワシフラワーに留守番を頼み、1人と1匹は家を出た。

「いらっしゃいませ……あ、コンセンくん」
 コンセンくんは『フォーティーワン』に入った。
 フォーティーワンはどんな動物も来店OKである。
「どれにしようかな」
「季節のアイス『マロン』はどう?」
 相手が友達なら、アスちゃんの言葉づかいも軽い。
「何か友達を食べてるみたいで……」
「じゃあ、『クッキー&クリーム』は?」
「それもちょっと………」
「じゃあ、星くんがいつも食べてる『ココナッツミルク』はどう?」
「それにしようかな」
「ポチには『ココア』でいい?」
「いいよ」
 やっとオーダーが決まり、アスちゃんがアイスをコーンに入れた。
「おいしいね」
「ありがとう」
 アイスを食べ終わったコンセンくんは店を出た。
「さてポチ、次はどこ行こうか」
「ワンワワン!!」
「そっか、ボーリングしたいのか」
 コンセンくんはポチを何年も飼っているため、ポチの気持ちがある程度まではわかる。
「ワン!」

「ストライク!」
「あー、負けた」
 最終スコアはポチが210点、コンセンくんが193点だった。
「次はどこ行く?って、もう時間がないからスーパーに行こ」
「ワン!」
 ポチを電信柱につないでスーパーに入ったコンセンくんは、試食をしているたまじいを見つけた。
「あ、たまじい」
「やあ、コンセンくんじゃないか」
「ここで何をしてるんですか?」
「えーと、無銭飲食?」
「それ、犯罪ですよ?」
「冗談じゃよ。ただの試食じゃ」
「本当にただの試食ですか?」
「ただじゃない試食があるのかね?」
「そういう意味だったんですか?」
 はてなマークばかりつく会話である。
「ああ。それで、コンセンくんは何をしているんじゃ?」
「夕飯の買い物です」
「わしも一緒に食べていいかね?」
「いいですよ」
「ありがとう。お礼においしい試食の店を教えてあげるよ」
「それは遠慮しときます」

 たまじいが夕食を5杯もお代わりして帰っていった後、コンセンくんは布団を敷いた。
「おやすみ、ポチ。おやすみ、タワシフラワー」
「ワン!」
 ポチを犬小屋に入れて、タワシフラワーに水をかけてコンセンくんは布団に入った。
「でも、本当に最近出番無いよな。前回の登場は第22話だったし」
[大丈夫ですよ]
「あれ、謎の声って星くんとついてくんにしか聞こえないんじゃ?」
[特別です]
「ていうか、何が大丈夫なの?」
[私だって出番が大幅に減らされてますから]
「あ、そういえば……」
[女キャラは私だけだったのに、スピラルとアスちゃんに取られて……]
「そうだね……」
[最初は『作者の心理を反映して使いやすい』とか言われてたのに友達から『謎の声が出るとつまらなくなる』と言われて……(実話)]
「かわいそうに……」
[1巻では9話登場したのに2巻では『世界一の猫』を入れても2話しか登場してないし]
「そんなかわいそうな……」
[4巻では登場しなくなってこのまま存在を消されて最初からいなかったことに……]
「大丈夫だよ。唯一の小説オリジナルだし」
[あなたはいいですよね。マンガでかなり登場してるから消えないし]
「そうだけど……」
[私はマンガの作者に嫌われてるので絶対にマンガに出られないんですよ]
「それは……」
[ブログでファンでもできたらいいと心の底で思ってたんですけど全然だめで]
「……ごめんなさい。ぼくはマンガに出てるだけでもましですね。これからは小説で出番が減っても文句言いません」
[ならいいですよ]
 こうして謎の声は見事に作者に貢献した。
 しかし、例え天地がひっくり返っても謎の声がマンガに出ることだけはない。



 第35話 ポチとフューチア

「こんにちは」
 コンセンくんがポチを連れてニコニコベーカリーに来た。
「こんにちは。どのパンにしますか?」
「じゃあ……チョココロネとガーリックフランス」
「ありがとうございます」
 その時、フューチアが厨房から出てきた。フューチアはポチの姿を見つけて、近づいていった。
「ああ……久しぶりですね」
 ポチはフューチアと一度ゲームをしたことがある(小説第22話『スピラルの訪問』より)。
 しかし、今度はそれとは違い、お互いに積極的に話し合っている。
 コンセンくんもポチの気持ちがわからずに首を傾げている。
 すべての動物の言葉がわかるスピラルは話を聞いていたが、だんだんしかめっ面になった。
 10分ほどして、ついにコンセンくんが聞いた。
「スピラルさんは言葉がわかりますよね?」
「はい。でも、今は通訳するべきではないと思いますよ」
「どうしてですか?」
「それは……えーと……その……」
「何ですか?」
「それは……フューチアが……ポチに……その……」
 コンセンくんがもごもごと話していると、星くんとついてくんが来店した。
「あ、コンセンくん!」
 ついてくんが言った。
「何してんの?」
「ポチとフューチアが何か話しているんです」
 コンセンくんが答えた。
「なら、スピラルさん通訳してよ」
 3人に追いつめられ、ついにスピラルが口を開いた。
「それは……フューチアが……ポチに……」
「フューチアがポチに??」
「その……それで……」
「それで??」
「プロ……」
「プロ?」
「プロポ……」
「ええ!?」
 コンセンくんが驚きの声を上げた。
「それって……もしかして……」
「ああ!」
 スピラルに続いて、星くんもわかったらしい。
「本当に!?」
「うん……」
「何?何なの?」
 ついてくんがせっついた。

 コンセンくんが説明した。
「え!?フューチアがポチに告白した!?」
「静かに!他の人に言っちゃだめだよ」
「でも!猫と犬でしょ!」
「ポチは犬神だよ」
「それでも種族が違うよ!!」
「フューチアだって予知能力があるし」
「だけど!」
「しかも……」
「まだあるの?」
「ポチもいいって……」
「ええ!?」
「しかも一緒に住もうって」
「ええ!?」
「じゃあ、コンセンくんの家とニコニコベーカリーとどっちに住む?」
「コンセンくんの家でいいですか?」
「いいですよ」

 コンセンくんの家にフューチアが引っ越してきて3日ほどたった。2匹はコンセン家の空き部屋にいて、ほとんど一緒に過ごしていた。コンセンくんが入ってくるとフューチアが毛を逆立てて威嚇するのだった。
 スピラルは毎日仕事の合間を縫って様子を見に来た。
 ある日、星くんとついてくんが遊びに来た。
「ポチとフューチアはどう?」
「いつも通り、2人で何かしてる」
「見せてよ」
「だめ」
 コンセンくんが断った。
「何で?」
「フューチアが怒るから」
「無視しようよ」
「そしたらポチが神の能力を使って……」
「わかった」
 星くんとついてくんは帰っていった。

 それから1週間ほどたった。ポチの部屋には誰も入れないようにコンセンくんは気を配っていたし、コンセンくんですら食事を届ける時ぐらいしか部屋に入らなかった。
 なので、星くんもついてくんもコンセンくんの家には行かないようにしていたし、遊ぶのもくりマロンとクリームパンだけにしていた。
 そんな時、コンセンくんから星くんに電話が来た。
「今すぐ来て!」
「何で?」
「時間がないから!」
「わかった」
「なるべく急いでね!」
 コンセンくんはすごく急かしていた。
「何があるんだろう?」
 星くんはついてくんをフェザーついてくんに変身させ、瞬時にコンセンくんの家に向かった。

「おじゃましま〜す」
「早く!」
 玄関には、ニコニコベーカリーのタコがいた。
「何があったの?」
「フューチアが……妊娠して……」
「え!?」
 星くんとついてくんが驚いた。
「それって……ポチの子?」
「たぶん」
「っていうか、何が産まれるの?」
「それがわからないからスピラルさんもコンセンくんも部屋で見守ってるんだよ……あっ!」
「何?」
「2人が来たらすぐに部屋に呼べって言ってた……」
「早く言ってよ!」
 3人は階段をかけ登って部屋に入った。
 コンセンくんに静かにしろと怒られた。
 フューチアは苦しそうだ。
「助産師は呼ばなくていいの?」
「スピラルさんが1級の資格を持ってる」
 スピラルはフューチアをさすりながら、励ましている。
 ポチもそばでドキドキしながら見守っている。
 タコが言った。
「おれたちは出ようぜ」
「何で?」
「飼い主だけにしておくべきだ」
「そうだね」
 3人はそうっと部屋を出た。コンセンくんもスピラルも全く気づかなかった。



 第36話 飼い主探し

 2時間ほどニコニコベーカリーでパンを売ってから、3人はコンセンくんの家に戻った。
 玄関でコンセンくんが待っていた。
「産まれた?」
 星くんが小声で聞く。
「うん」
「フューチアは大丈夫?」
「2、3日すれば元気になるって」
 ついてくんが聞いた。
「どんな生物が生まれたの?」
「それが……説明しにくくて」
「じゃあ、見せてよ」
「わかった。来て」
 3人が部屋に入ると、そこには本当に説明しづらい生物がいた。
 それもオスとメスの双子だ。
 両方しっぽがある。オスは体が火の玉のようで、顔はポチに似ている。メスはしっぽが2つに割れていて、顔はフューチア似だ。
「あれ……何?」
「犬と猫のハーフ」
「ハーフって……おかしくない?」
「ついてくんが言うなよ」
「誰が飼うの?」
「1匹はニコニコベーカリーで飼います」
 スピラルさんが言った。
「もう1匹はどうする?」
「やっぱりコンセンくんが飼う?」
 星くんが言ったが、コンセンくんは断った。
「家では飼えないよ。食費も足りないし、スペースも足りない。第一、どのくらい食べるのかわからないし……」
「じゃあ、飼い主を探す?」
「たまじいはマンションにいるのでだめでしょ……」
「アスちゃんは忙しいのでだめですよね……」
「くりマロンの栗の樹でも飼えなさそうだし……」
「どうする?」
「じゃあ、ニコニコベーカリーのお客さんで飼ってもらえないか聞いてみます」
「お願いします」

 フューチアの出産から1週間がたった。だが、何しろ新種の生物なので、なかなか飼い主が決まらない。
 スピラルも悩んでいた。
 その時、またお客さんが来た。
「いらっしゃいませ」
 それは、マヨネーくんだった。マヨネーくんはいつものえびマヨフランスを飼って帰ろうとしたが、店頭に置いてあるフューチアの子どもに気づいた。
「これは何だ?」
「フューチアとポチの間に生まれた生物です」
「ふうん。何でここに置いてあるんだ?」
「飼い主が決まらなくて……」
「……じゃあ、俺が飼うよ」
「本当ですか?」
「ああ」
「では、大事に育てて下さい」
 スピラルとコンセンくんはポチとフューチアに、このオスの子どもはマヨネーくんに引き取られることを説明した。
 2匹も納得した。

 スピラルはついてくんに電話をかけた。
「飼い主が決まったの?」
「はい」
「誰?」
「マヨネーくんです」
「え!?」
「何か問題があるんですか?」
「ま、いいけど……大丈夫?」
「だと思いますよ」
「わかった。で、ポチとフューチアはどうするの?」
「どういうことですか?」
「だから、ポチとフューチアを一緒に住ませるのか」
「それはしません」
「何で?」
「子育てはフューチアに全面的に任せます。ポチとは散歩の時にコンセンくんがニコニコベーカリーに寄る、と言っていました」
「そうなんですか……」
「では、さようなら」
「さよなら〜」

「飼い主が決まったのか。良かったね」
「うん。でも、マヨネーくんか……」
「でも、捨てるつもりで飼うわけじゃないでしょ……」
「そっか」

 数日後、マヨネーくんがニコニコベーカリーにやって来た。
「こいつはラードと名付けた」
「……いい名前ですね」
「じゃあ、いつものを2つ」
「わかりました」

 ちなみに、ニコニコベーカリーで飼われることになった生物には、キューティアという名前が付いた。



 第37話 クリームパンを守れ BadEnd ver.

 ※この話は、星つい完全移行に伴うプチリニューアルの一環として、小説とは到底呼べなかった前37話「番外編@ 秘密」に代わって作られた、第1話の外伝作品です。
 第1話の最後から1つ前の段落から続きます。

 全員無事に降り立った。しかしエビル・ベーカリーの連中が取り囲んでいる。
「パンをよこせ!」
「いいよ!」
 突然快物みたいなノリでついてくんが認めた。
「え!?」
「だって、クリームパンなんて特にアイデンティティないじゃん」
 何気にひどい言葉である。
「ひどい!」
「うるさい!!」
 ついてくんがクリームパンを殴りつけて気絶させ、エビル・ベーカリーに引き渡した。
 ついてくんが手を振ってそいつらを見送った。
「ついてくん……」
 星くんがちょっと残念そうに呟いた。
 説教モードに入りたいらしい。
「あ、これエビルベーカリーからのお礼」
「……これ、100万円じゃん!!」
「やっぱりこのお金返してクリームパン取り戻して来ようか?」
「……いや、いい!!!」
「あ、ついでにくりマロンにも機械作りの最新技術だって」
「やった!これでくりマロン号EXが作れる!!」
 3人が意気揚々と帰るその時、逃走してきたクリームパンが目の前に立ちはだかった。
 星くんが特殊ガードを発動させる暇もなく、クリームパン奥義が発動した。
「クリームビッグバーン!」
 友達は大切にしましょう☆



 第38話 謎の声の日記

 謎の声の日記を紹介します。何話のことかは想像して下さい。

 9月××日 とある小説の作者に「謎の声として主役のキャラを助ける仕事をしないか」と誘われた。お金が欲しかったので承諾した。

 9月□□日 旅行ではぐれた主役のおばけ(ついてくんとかいう名前らしい)と星形の未確認生物を助けた。星(星くんとかいうらしい)の方は優しそうだが、何か私を嫌っているらしい。お化けの方はワガママで微妙だ。たぶん、想像以上に忙しい仕事になりそうだ。

 9月△△日 変な植物と犬の短編のオチをやらされた。私が雇われていることは内緒にしといた。

 9月○○日 おばけとくりとパンが月に来ていた。自然に道案内をやることになった。今日は週刊誌「子猫は友達」の発売日だったのに、月に行ってて買えなかった。あのおばけめ、憎んでやる。

 10月□□日 久々に仕事がなかったので知らないおっさんを操って遊園地に行った。

 10月××日 おばけと星としりとりをした。ボロ負けした。正直へこんだ。

 10月△△日 タイムスリップをした。くりが「謎の声に出番を取られた」などとたわごとをほざいていた。

 11月○○日 くりをコテンパンにしてやろうと作者に内緒で果たし状を送った。最初は勝ってたけどくりが新技を覚えて逆転された。くやしい。あと、あのおばけ何者?天界超変化とか使って剣の達人になってた。私も使いたい。

 11月□□日 星がタコに逆恨みで殺されかけた。ざまあみろ。

 11月△△日 星が今度は悪魔に体を乗っ取られた。さすがにかわいそうだったので体を取り戻す手助けをした。

 11月××日 有給休暇を取って旅行に行った。

 12月○○日 旅行から帰ってきたらあのおばけが犯罪者と間違えられてた。面倒なので真犯人を成敗してやった。

 1月□□日 出番が急激に減った。何故?

 1月××日 出番が減ったわけがわかった。マンガの作者が「謎の声が出るとマンガがつまらなくなる」と小説の作者に進言したらしい。マンガの作者め、せっかくの仕事を。

 1月○○日 変なアイスが小説に登場した。アイス屋の看板娘で星くんの幼なじみ。出番を取られそうだ。消すか。

 1月△△日 そこらへんをうろつくギャルを操ってメクドナルドでバイトして給料を手に入れた。1割ほどギャルの家に置いておいた。私ってえらいよね。

 2月□□日 久々の出番。久々の給料。久々の喜び。

 2月○○日 大長編。なぜか出番なし。

 3月16日 星の誕生日。またも出番なし。

 3月××日 スピラルとかいう小説発の女キャラが現れた。何でもできるし敬語で私とかぶってるし。ニコニコベーカリーとかいうパン屋の店員って、私より先輩じゃん。

 3月□□日 おばけが修学旅行に行った。

 3月○○日 星も出番が減っていた。気分爽快。

 3月△△日 何が悲しくて3巻初の出番なのに名古屋の説明をしてるんだろう。愛地球博なんてどうでもいいのに。

 4月××日 コンセンくんにマンガにも小説にも出られない悲しさを教えてやった。



 第39話 cherrytree bloom spring

「続いてのニュースです。気象庁は、遅くとも明日には東京都の桜は満開になると発表しました」
「へえ。もう花見の季節か……」
「星く〜ん。花見って何??」
「花見っていうのは、満開の桜を見ながらごちそうを食べたり歌ったりして友達同士で楽しむ行事だよ」
「ごちそう!?」
 ついてくんの目がキラキラと輝いた。
 ついてくんにはそこしか残らなかったらしい。
「ぼくも花見やりたい!」
「そっか……じゃあ、みんなを誘ってやろっか!」
「うん!」
「じゃあ、明日にしよう」
 そういって星くんはいろんな人に電話をかけまくった。

「スピラルさんとタコとフューチアとキューティアが来るって」
「やった!」
「コンセンくんはポチとタワシフラワーを連れて来るって」
「やった!!」
「くりマロンとクリームパンも来るって」
「やった!!!」
「たまじいとアスちゃんも来るって」
「やった!!!!」
「あと、マヨネーくんとラードも」
「やった?????」
「とにかく、みんなで花見パーティーだ!」

 翌日、みんなは桜の樹がたくさんあってこの街では花見の名所となっている「さくら公園」に来た。
 最初に着いていたのは星くんとついてくんで、場所取りを任されていた。
「ここにしよう」
 大きな桜が真上にあって、太陽がどの位置にあっても日陰になる場所が運良く空いていたので、そこに決めた。
「早く来ないかな〜」
 最初に来たのはスピラル・タコ・フューチア・キューティアだった。
 フューチアはキューティアがケガしないように気を配っていた。
「おはようございます。パンをたくさん作って持ってきました」
「やった!」
 ついてくんが食べようとしたが、
「みんなが来てから」
 星くんが止めた。
「ケチ」
 続いてコンセンくん一行が現れた。
「桜餅買ってきたよ〜」
「わーい」
「食べるのはみんなが来てからだよ」
「ケチ」
 くりマロンとクリームパンがやって来た。
「モンブラン作ったよ」
「食べていい?」
「みんなが来たらね」
「ケチ」
 アスちゃんとたまじいが来た。
「あ、スピラルさん。こんにちは」
 アスちゃんは、商店街の先輩で礼儀正しく思いやりがあるスピラルを尊敬していた。
「こんにちは」
「アイス持ってきたよ」
「やった!」
「でも食べるのはみんなが来てからね」
「ケチ。でも、あと誰が来てない?」
「マヨネーくんとラード」
「あ、来たよ」
 マヨネーくんがラードを連れてきた。
「こんにちは」
「こんにちは」
 フューチアとキューティアがポチとラードを誘ってジャングルジムの方に行った。
「そういえば、キューティアは何かあるの?」
 ついてくんが聞いた。
「どういう意味ですか?」
「だから、フューチアみたいな予知能力があるとか……」
「そういえば、キューティアが生まれてからパンを買いに来る人が増えたような……」
「じゃあ、キューティアには人(?)を呼び寄せる力があるんじゃないの?」
「やっぱり予知能力のある猫と犬神の間に生まれた子どもだね」
 みんなが話している。
「そういえば、ラードはどうなの?」
「はあ?」
「ラードも何かあるんじゃないの」
「確かに……」
 みんなは一斉にマヨネーくんの顔を見た。
「別に何もないけど」
「ふうん。じゃ、大器晩成型かな」
 クリームパンが言った。
「じゃあ、そろそろパーティーを始めよう!」
 星くんが言って、みんなが持ち寄ったごちそうのふたを次々と開け始めた。

「ほいひ〜」
 ついてくんが口いっぱいに料理を詰め込みながら音を出した。
「行儀悪いわよ」
 アスちゃんがたしなめる。
 今はフューチアたちも戻ってきて、料理を食べている。
「じゃあ、そろそろ歌でも歌う?」
 クリームパンが聞いた。
「誰から?」
「ここはやっぱり……」
 全員が星くんの顔を覗き込む。
「え!?おれ!?」
「だって、花見の主催者だし……」
「トップバッターは君しかいない!」
 そういって、くりマロンはカバンからどこで買った(作った?)のかカラオケボックスを取り出した。
「じゃあ、曲はSM●Pで『世界に一●だけの花』!」
 曲が流され、星くんにマイクが渡された。
 ※当然歌詞は流せませんが、星くんの歌、かなりうまいです。
「続いては……」
「私がやる!」
 アスちゃんが名乗り出た。カラオケのリモコンで予約を入れる。
「では、曲は大●愛の『さくら●ぼ』!」
 ※またも歌詞は使えませんが、アスちゃんも歌はうまいです。
「じゃあ、今度はぼくが演奏するね」
 ついてくんが言った。
「ついてくん、演奏できるの?」
「うん。天界演奏!メロディーついてくん開演!!」
 ついてくんの体が光り出し、メロディーついてくんになった。耳には音符の飾りが付いていて、ギターを持っている。
「じゃあ、メロディーついてくんの演奏で、スピラルさんの歌ね」
 くりマロンが勝手に決めた。
「ええ!?」
「曲は、松本●香の『めざせポケ●ンマスター』!!」
 ※残念ですがまたも歌詞が使えませんし、音楽も流せません。ですが、メロディーついてくんの演奏もスピラルの歌もとてもうまいです。
 歌が終わると、スピラルはくりマロンの持っていたマイクと予約を入れるリモコンを奪い取った。
「続いては、くりマロンが倖田●未の『キュー●ィーハニー』を熱唱して下さいます!!」
「ええ!?」
 曲と拍手が流れ、マイクがくりマロンに渡された。

「はあ……」
 カラオケ大会も終わり、疲れたみんなは星くん家にパーティーの場所を移していた。
「そうだ!」
 ついてくんが突然大声を出した。
「星くんとアスちゃんに出会った頃の話をしてもらおうよ」
「え!?」
「賛成、さんせーい」
 楽しみな星くんとアスちゃんの思い出話は第40話の長編で。



 第40話 小説40話記念大長編
 reminiscences spring

「そんなに興味あるの?」
「うん」
 みんなは口々に言った。
「2人って幼なじみだったんでしょ?じゃあ、何か思い出あるでしょ」
「仲良くなったきっかけとか」
「わかったよ。話せばいいんでしょ」
「うん」

 星くんとアスちゃんが出会ったのは、星くんがほし星に着いてほし族に生まれ変わってからだった。
 ほし族になった星くんは、この街にやってきた。
 この街の幼稚園(年長組から)に入った星くんは、初日からアスちゃんと出会った。
 星くんは3月生まれで本当は学年が違うが、特殊系は入学・入園の義務化がされておらず、従って何歳で小学校に入っても良いとされていたのだ。
 特殊系は年齢と成長が比例しないので、星くんも1年下の学年に入った。
「ねえ、この幼稚園案内したげるよ」
 この頃からすでに、アスちゃんは活発で誰とでも仲良くできる性格だった。
 星くんはアスちゃんに強引に手を引っ張られ、幼稚園にある遊具や、トイレの場所や、先生などを紹介された。
 運良く同じクラスになったので、ますます仲良くするようになった。
 担任の先生も優しかった。

「その時の担任は、私です」
 スピラルが言った。
「え!?」
 みんなが驚いたが、星くんとアスちゃんは互いに目を合わせた。
「言われてみれば……」
「名前も『せんせい』としか呼んでなかったし、担任だったのは1年間だったし、あの頃と雰囲気が違うから全然わからなかった……」
「ええ。私は幼稚園の先生を2年ほどやってから一度仕事を辞めて、世界の国々を回りました」
 その時、フランスでパンのおいしさを知って感動したスピラルは、この街にパン屋が無いことに気づき、パン屋を開くことを決め、この街に戻ってきた。
 一応、教員免許は今でも持っているらしい。
「じゃあ、スピラルさんも幼なじみなんだね」
「まあ、そういうことになるかな」
「さ、続きを聞かせてよ」
 ついてくんが言った。

 幼稚園を卒園した星くんとアスちゃんは、別々の小学校に通うことになった。
 学区が違ったからだ。
 2人は、卒園式の後にプレゼントを交換した。

「その時のプレゼント、まだ残ってる?」
「うん。お互いに相手を描いた絵だよ」
「じゃあ、星くんが第21話で泣いたのは……」
 アスちゃんからもらったプレゼントのことを思い出してだったのか。ついてくんは納得した。
「じゃあ、続き話すわね」
 アスちゃんが言った。

 小学校で勉強をした星くんは、学年でもトップの成績を維持していた。アスちゃんとは何度も遊んでいた。
 アスちゃんは勉強が苦手だったので、星くんから何度も勉強を教わっていた。
 やがて、2人が小学校5年生になった時、星くんは中高一貫の名門校に行く、ということをアスちゃんは人づてに聞いた。
 星くんが周りの子と遊ぶのをやめ、受験勉強を開始している、というのだ。
 その頃になると、アスちゃんもクラスの友達と仲良くなり、星くんと遊ぶ機会が減っていた。
 アスちゃんは、星くんとあまり遊べなかったことを悔やみ、星くんと同じ中学を目指して猛勉強を開始した。
 クラスではトップの成績だったが、模試では100人中95位だった。
 星くんはなんと3位。これではまた6年間離れてしまう。
 アスちゃんは毎日徹夜しながら勉強に励んだ。
 そして、適性検査当日。
 星くんはトップで適性検査に合格した。
 アスちゃんは惜しいところで落ちた。
 ところが、星くんはその名門校への入学を辞退し、アスちゃんが行くことになった公立中学に入学した。
 もともと、この中学の受験は腕試しのためだけに受けたもので、星くんは最初からアスちゃんと同じ公立の中学に入るつもりだったのだ。
 アスちゃんが合格したらそこに行こう、とは考えていたが。
 同じクラスになった2人はテニス部に入り、市内のトーナメントの男女混合ダブルスに出場した。
 そして、見事優勝。2人は黄金に輝くトロフィーを手に入れた。
 ところが、期末試験でのアスちゃんの成績はひどいものだった。
 星くんは名門校の適性検査に合格しただけあって学年でトップだったが、アスちゃんは赤点ギリギリだった。
 各教科の担任からは「夏休みにしっかり復習しないと2学期では授業についていけなくなります」と言われてしまった。

「あれ?アスちゃんって、名門校の試験で合格まであとちょっとだったんでしょ?なのに何で赤点ギリギリだったの?」
「テニスに打ち込みすぎてたからね」
「ええ。でも、夏休みに挽回したから」

 夏休み、アスちゃんは星くんの家に泊まり込んで一日中勉強を教わっていた。
 部活もあって忙しかったが、星くんは丁寧に勉強を教えた。
 勉強に打ち込んだかいあって、7月の間に1学期に習った内容は完璧になった。
 アスちゃんは2学期の予習も少しして、自分の家に戻った。
 合宿では真剣にテニスを練習し、さらに上達した。
 2学期の市内トーナメントでは、男子シングル・女子シングル・男女混合ダブルスの合計3種目で優勝した。
 体育祭ではアスちゃんはクラス代表のリレーの選手になり、大活躍をした。
 文化祭の合唱コンクールでは星くんは指揮者をして、見事成功させた。
 勉強もどんどん追いつき、2学期の期末試験でアスちゃんは第6位にまで躍り出た。
 星くんはもちろんトップだったが。

「すごいね。アスちゃんって努力家なんだ」
「っていうより、負けず嫌いなだけだよ」

 中学2年生に進級した2人は違うクラスになってしまったが、お互いに勉強を教えたり、遊んだりしていた。
 部活ではテニス部の代表に選ばれ、特殊系テニス全国大会(男女混合ダブルス)に出場した。なんと全国第4位という成績を収めた。
 期末試験で星くんは当然トップで、アスちゃんも順位を伸ばして第3位だった。
 ところが、1学期の終わりごろに、星くんは校長先生から呼び出された。
「君には、中学3年生に移ってもらうよ」
 校長先生が言った。
「何でですか!?」
 環境省が、特殊系も年齢に合った学年にしろ、と言った。普通は幼稚園くらいからでなければ簡単には学年を変えることはできないが、星くんなら中3の学習にも余裕でついていけるだろう。校長先生はそう言った。
「夏休みの間に中2の2学期〜中3の1学期までの勉強を基礎だけでも覚えてもらい、2学期からは中3に混じって……」
「いやです」
「何だと?」
「絶対にいやです。この学年で卒業します」
「環境省からの命令だぞ」
「それは幼稚園だけでしょう」
「出来る限り変えろと言うことだぞ」
「出来ないですね。諦めて下さい」
「生徒のくせに生意気なことを言うな!」
「中学校は勉強するためだけにあるんですか!?中学校生活も部活動も、すべてを1年減らせと言うんですか!?」
「それは……」
「こっちの身にもなって下さい!中学3年生に編入するなんてぼくは絶対にいやです!!」
 星くんの迫力に押されて、校長先生もそれ以後は一度も編入の話題を持ち出さなかった。
 夏休みになって、2人は部活に打ち込んだ。2人とも勉強に関してはもう満足な成績を取れるようになっていたが、2人は私立高校を目指していたので、受験勉強にも励んだ。
 でも、やはりテニスの上達を目的として、夏休みのほとんどはラケットを握っていた。

「この後どうなったの?」
「そりゃ、夏休みが終わったんだよ」
「じゃなくて、続き」
「わかったって」

 体育祭でアスちゃんは再びリレーの選手になり、さらに学年の応援リーダーを務めた。女子の応援団長はとても珍しかった。
 文化祭で、アスちゃんは初めてアイスを作り、たくさん売った。星くんは合唱コンクールのピアノ伴奏を担当し、今年も2人が2大行事でそれぞれのクラスをまとめた。
 10月の終わり頃、星くんとアスちゃんは生徒会役員選挙に出馬した。選挙の結果、星くんは生徒会長に、アスちゃんは書記になった。
 『明るく優しい生徒会』をスローガンに、生徒会は様々なことを行った。健やかな体づくりを目的としたマラソン大会を企画し、合唱コンクールの優勝クラスに地域の小学校2つで発表する機会を与えた。
 勉強でわからないことを先生に質問できる「学習BOX」、生徒会に対して意見や質問を入れられる「生徒会BOX」の2つを作って生徒の要望や悩みに答え、生徒からは「最高の生徒会」と評判になった。
 ところが、その「最高の生徒会」を嫌っているグループがいた。
 中学2〜3年生の不良グループで、どの部活にも入らずに近所の小学生をいじめて金や物を奪っていた。それも「先生か親にバラしたら殺す」と脅して先生の目の届かないところにとどめているのだ。リーダーが退学にならないよう授業には出席させたり宿題を提出させたりと気を配っているため、先生からの評判はまずまずだったが、生徒からの評判は最低で、そのグループは『ウルフ部』と呼ばれていた。

「そのウルフ部がどうかしたの?」
 ついてくんが聞いた。
「ウルフ部なら私も少し知っています。商店街で子どもが買った物を奪っていました。怒ってもニヤニヤと笑うだけでした。本当に最低の子どもたちでしたよ」
 スピラルが言った。

 『ウルフ部』は毎年生徒会を嫌っていたが、最高の生徒会となるとその怒り・憎しみはますます高まっていた。
 そのうえ生徒会長は毎年成績は学年トップ、部活では市内コンクール優勝、全国大会で第4位、さらには文化祭で2年連続大活躍。これだけでウルフ部から嫌われるのは当たり前、とも思われる。
 書記のアスちゃんも成績は高く、体育祭のスターとして来年は応援団長だ、と言われていた。
 そして、ウルフ部はついに、生徒会長と書記に「制裁」を加えることを決定した。
 部活が終わった放課後、学校を出た2人に襲いかかり、暴力をふるい、ついでに金を奪って逃走する。コテンパンにすれば先生にバレることもない。ウルフ部は綿密な計画を練っていた。
 そして、実行当日。星くんとアスちゃんは部活を終え、家へと向かった。
 その途中、人気のない神社に差し掛かったとき、ウルフ部が突然現れた。
「何だよ!?」
「お前らみたいなエリートを見てるとむかつくんだよ!」
「そうだそうだ!」
 そう言って、「ウルフ部」は襲いかかってきた。10人ほどいる。
 しかし、ほし族は代々強力なわざを使えるのだった。
「スターブラスト!!」
「ぎゃ!」
 「ウルフ部」はコテンパンにされ、「最高の生徒会」に2度といじめをしたりしないことを誓った。
 その後1ヶ月ほどしたある日、ウルフ部のメンバーは転校した。「最高の生徒会」は見事ウルフ部を解散させることに成功したのだ。

「すごいね、星くん。学校のヒーローじゃん」
 クリームパンが言ったが、アスちゃんは星くんと顔を見合わせながら言った。
「……それが、そうとも言えないのよね」
「え!?どういうこと!?」

 卒業式に中1も(自由)参加できるようになったのは新生徒会の提案だった。さらには地域との交流を目的として週1回「部活見学」、月2回「合唱発表」を企画した。
 先生からの評判も良かった。ところが、冬休みも終わって卒業式を控えた2月、大変なことが起こってしまった。
「え!?生徒会に対して解散要求が出てる!?」
 生徒会の監督の先生から聞かされて星くんは驚いた。ウルフ部を解散させたし、地域の方との交流の機会も作った。こんなことになるとは思ってもいなかった。
 解散要求は、生徒会のリーダーシップなどに不満を持った生徒が担任の先生に提出するもので、要するに「今の生徒会はだめだから、新しい生徒会に変えろ」という要望書である。選挙で1度決まっている生徒会なので解散要求は簡単には受け付けられない。60人以上の署名がないと提出しても無効になる。
 最も、60人の署名と言っても全生徒の5分の1なので、生徒の全員が不満を持っている、ということにはならない。
 しかし、60人もの署名を極秘に集めて提出したのは誰なのか、全くわからない。
 生徒会のメンバーは皆黙り込んだ。
「この後どうなるんですか?」
 アスちゃんが恐る恐る先生に聞いた。
「それは……解散要求を出した生徒に新しい生徒会のメンバー候補を出してもらう。もちろん本人の同意がないとだめで、1週間以内に提出できなければ要求は無効だ」
「で、もし提出されたら?」
「それは……今の生徒会……つまり君たちと、新生徒会の候補で選挙をする。票がたくさん集まった方が新しい生徒会に決まる」
「そんな……」
 もしかしたら生徒会が交代になる……。「最高の生徒会」とまで言われた生徒会役員にとって、この現実は途方もないものだった。
「重複擁立ってあるんですか?」
「どういう意味ですか?」
「つまり、この中の誰かが解散要求を出した子に選ばれたら、現生徒会と新生徒会候補の両方に入れるんですか?」
「それはだめだ。どちらかを選んでもらう。新生徒会を選んだ場合は現生徒会が新しいメンバーを入れるしかない」
「相手が解散要求を取り消すことはないんですか?」
「できることはできるが、解散要求自体この10年間で1度もなかった。そう簡単に取り消すとは思えないな」
 生徒会役員は黙り込んだ。やっと生徒会長の星くんが立ち上がった。
「考えようによっては、これはチャンスだよ。これでもし票が集まれば、それは選挙から半年たった今でも信頼があるということになる。もしだめだとしても、それを決めるのは生徒だから、それは受け入れるしかない。ぼくたちに出来ることは、ただ選挙活動を頑張ること。それだけだよ」
 皆は決然とした表情で頷いた。

「で、選挙はどうなったの?」
 くりマロンが聞いた。
「それは……」

 解散要求を出したのは2年D組の学級委員で太陽の形をした「サニー」だった。
 星くんはA組、アスちゃんはC組だった。体育祭ではアスちゃんとリレーで激突したが、わずかな差でアスちゃんが勝った。
 サニーは明るい性格で誰からも好かれていたため、署名も簡単に集まったらしい。
 実はサニーも生徒会長の座を狙っていたが、星くんの人気に押されて出馬を断念した。
 サニーは後になってそのことを後悔し、自分を生徒会長として自ら生徒会のメンバーを組んで、生徒会を交代しようと考えたのだ。
 たとえそれで負けても後悔しない、と決めていた。
 サニーは各クラスで自分と仲の良い人の中で人気と実力を兼ね備えた人に副会長、議長、書記などの役職を頼んだ。
 現生徒会と新生徒会候補は、互いに一歩も譲らず選挙活動をした。
 そして、選挙当日。
 各学級の学級委員(サニーのクラスは副委員)が集計して、その結果を「選挙管理委員会」がまとめて結果を出す。
 1年生はほとんどがその手腕から星くんたちを推し、2年生は人気からほとんどがサニーたちを推していたため、各役員はもうすぐ卒業する3年生を中心に選挙活動をしていた。
 そして、放課後。各役員は部活を休んで選挙の結果を聞きに行った。
「無効票13票、有効票297票」
 管理委員の代表が読み上げた。有効票は奇数。つまり同点はないということだ。
「現生徒会役員147票。生徒会候補150票」
 つまり……。
「有効票総数のみで考えると生徒会候補が新生徒会になります」
 管理委員の言葉が気になって、星くんは聞いた。
「有効票総数のみ、というのはどういうことですか?」
「無効票の13票のうち7票は『星くん』と書いてあったんです」
「それって……」
「ええ。つまり無効票を投じた人は、現生徒会長を支持していることになります。ですが、無効票は無効票です………」
 現生徒会は黙り込んだ。新生徒会は喜んでいるが、1人喜ばずにサニーが口を開いた。
「今になって遅いかもしれないけど、あたしは解散要求を取り消す」
「え?」
「あたしたちは友達の輪だけで票を集めてた。でも、現生徒会役員は純粋な信頼と選挙活動で票を集めてた。あたしにはこれから、生徒会長としてやっていけるとは思えない」
 先生がにっこりした。
「私も同じ意見よ。もしあなたが新生徒会になったとしても、人気だけで生徒をまとめあげることはできない。そのことに気づいたあなたはえらいわ」
 新生徒会候補が拍手をした。現生徒会も同じように拍手した。
 サニーが1歩前に出た。星くんも1歩前に出た。
 2人は互いの手を握り合った。生徒会長を目指して対立していた2人は和解したのだ。

「良かったですね。星くん」
 スピラルが言った。
「ええ。それに、サニーとはとても仲良くなったんだよ」

 3年生の卒業式も終わり、進級した2人は再び同じクラスになった。さらにサニーも同じクラスになっていた。
 サニーが2人と同じ高校を目指していることを知った星くんは、サニーに一緒に勉強しよう、と声をかけた。
 この時、友達の輪はほんの少し大きくなり、2人から3人になったのだ。
 サニーは星くんとアスちゃんととても仲良くなった。サニーは剣道部最強の腕前で、星くんとアスちゃんはテニス部最強のペア。3人とも勉強でもスポーツでも負けることがなく、他の生徒はこの3人を尊敬した。
 生徒会としての仕事もしっかりとしていた。10月に行われる生徒会の交代を前に、悔いのない仕事をしようと決めていた。
 5月には新しいクラスでの交流を目的としたクラス対抗のスポーツ大会を企画して、生徒の評判になった。
 一度は解散の危機に陥った生徒会も、再び「最高の生徒会」としての威厳と信頼を取り戻した。
 サニーは新クラスでも学級委員になり、代表委員会などで生徒会にいろいろな意見をぶつけた。
 6月、梅雨でじめじめしたムードが全校に流れる中、3年C組(星くんたちのクラス)である問題が起こった。生徒会長・生徒会役員・学級委員でありながらそれに気づかなかった星くん・アスちゃん・サニーは担任から激しく責められた。
「え!?レイニーがいじめられてた!?」
 レイニーはサニーと違っておとなしい子で、傘の形をした読書好きでまじめな生徒だった。つまり、いじめられやすい子でもある。
 いじめていたのはサニーの友達だった子たちらしく、サニーは星くんたちと仲良くするようになってからそのグループを離れた。本当はサニーはその子たちとも星くんたちとも仲良くするつもりだったが、サニーのグループの方から「あんなエリート集団に入りたくない」と言ってサニーと絶交した。そのグループのリーダーには「クラウディ」という雲の形をした生徒がなった。
 クラウディはレイニーが嫌いで、グループの子にいじめを提案したらしい。
 先生はそのことに気づいていなかったが、3人はそのことを噂で聞いていたのでショックを受けた。先生はサニーに「クラス内でのいじめにも気づかないようなら学級委員失格です」と告げ、星くんたちにも「学校のことを考えるのもいいですが、学校生活の基本はクラス単位です」と言った。
 そして、3人に1週間以内にいじめを止めさせるように言った。
 放課後、サニーは1人でクラウディたちのところへ向かった。
「あんたたち、あたしがいなくなってから何てことをしてたの?」
 クラウディがボソッと答えた。
「あんなつまんないやつはいじめられて当然」
 サニーが光の1つを使ってクラウディをぶった。
「いい加減にしなよ!あんたたちがしていることは犯罪なのよ!あんたたちのせいでレイニーは傷ついているし、私も星くんもアスちゃんも先生に怒られた。先生だって校長先生に怒られてるの!あんたたちはそれでいいと思ってるの!?」
 サニーの剣幕にクラウディたちが黙り込む。
「二度といじめなんてしないと誓って。でなければあたしはあんたたちを許さない」
 クラウディたちはいじめをしないと誓い、いじめはおさまった。
 星くんがそのことを聞いたのは翌朝のことだった。

「サニーってすごいんだね。で、この後はどうなるの?」
 くりマロンが聞いた。
「あとで話すよ。それより一度おやつにしない?」
 星くんが提案し、おせんべいを持ってきた。
 その時、フューチアが警告するように鳴いているのに星くんは気づいていなかった。
「うっ」
 星くんがせんべいのかけらを喉に詰まらせて苦しみだした。
「星くん!」
 星くんに不幸なことが起こったので、思い出の続きは次回。



 第41話 meetagein spring

「で、続きを聞かせてよ」
 クリームパンが言った。
「いいよ」
 何とかせんべいのかけらを飲み込んで気管を正常化した星くんが答えた。

 星くんとアスちゃんは再び全国のテニス大会にペアで出場した。また、それぞれシングルにも出場した。
 ペアダブルスで、2人は念願の初優勝を成し遂げた。シングルでは、星くんが第3位、アスちゃんは第4位というめざましい活躍をした。
 サニーは剣道部の代表として全国大会に臨んだ。地区予選を1位通過し、関東大会で準優勝。全国大会でも見事第3位という成績を収めた。
 そして、夏休み。3人は徳島県に旅行に出かけ、いろいろなことを経験した。

「ねえ。ぼくが修学旅行で徳島に行ったのも、その時の体験のせい?」
 ついてくんが聞いた。
「そうだよ」

 2学期になった。体育祭&文化祭も終わり、ついに「最高の生徒会」とまで噂された星くん率いる生徒会も交代の時を迎えた。
 現生徒会は、生徒会長決める選挙の時、1人で5票分の影響力を持っていた。そのため、選挙活動をするときは必ず現生徒会に対して挨拶に行くのがしきたりとなっていた。だが、今回の生徒会は、「挨拶に来た人には絶対に票を入れない」と公言していたので、誰も来なかった。挨拶なんかで生徒会が決まるのは、おかしいと考えていたからだ。
 新生徒会を決める選挙がついに行われた。その結果、新しい生徒会の顔ぶれが決まったのだが、選挙管理委員会の結果発表に一緒に行った旧役員は、苦笑せざるを得なかった。
「無効票137票、ウメちゃん2票、ネオン72票、サンディ81票。新生徒会長はサンディです」
 サンディはサニーの妹だった。しかし、無効票137票とは??
「実は………無効票のうち、125票は『星くん』または『今の生徒会長』と書かれていました」
 つまり、現生徒会長の星くんは今もなお圧倒的な人気を持っているということだった。それも、中学1・2年生のほとんどが常識を無視した投票をしている。これはこの学校始まって以来の出来事だった。
 そのうえ、各役職の投票にはすべて、役員が票で負けることもあったが現生徒会役員を支持する票があった。
 当然、新生徒会も少し気まずい。それに気づいた星くんが立ち上がった。
「皆さん、なんかぼくたちが票を集めてしまって生徒会としての自信を無くしてしまったかもしれませんが……心配することはありません。今の生徒会も解散要求が出たりして自信をなくしましたが、1年間任期を全うしてこのような結果になったのですから。皆さん、この1年間ぼくたちが生徒会としてやって来たことを守り通して、またそれに磨きをかけてさらにいい中学になるよう頑張って下さい」
 新旧生徒会から拍手が湧き起こった。

「星くん、すごいですね」
 スピラルが言った。
「後は、進学のために受験ですか?」

 選挙の3日後、交代式が行われた。
 現生徒会がスピーチを終えると、今までの交代式にはなかったような盛大な拍手が起こった。
 新生徒会が決意表明をし、旧生徒会長星くんと新生徒会長サンディがしっかりと握手した。それがこの中学校の決まりだった。
 しかし、この「最高の生徒会」を越える活躍と改革をした生徒会は過去にも未来にも出てこなかった。
 生徒会長星くんを中心とした写真は一番大きく生徒会室の壁に貼られた。
 ところが、星くんはアスちゃんから意外なことを言われた。
「私、星くんと違う高校を目指すから」
「何で!?」
「星くんも私も、お互いに助け合ってきた。だからこそ、1度違った道を歩むことが必要なのよ」
「でも……」
「ごめん。でも、私は今日の志望校調査で違う高校を受験すると書いたから」
「そんな……」
 何を言ってもアスちゃんの決意は固く、絶対に変わらなかった。

「ていうか、志望校を変えて大丈夫なの?」
「うん。勉強はよくできてたし、それにアスちゃんの高校にはサニーが行ってくれることになってたから」

 とうとう受験の日がやって来た。
 星くんもアスちゃんもサニーも、見事第1志望校に合格した。
 星くんとアスちゃんは、一緒に過ごせる残り少ない時間を大切にした。
 しかし、ついに卒業式。今までで最大の人数が卒業式に押し掛けた。地域の人もいる。それはもちろん、交流の場を作ってくれた「最高の生徒会」に対する感謝の気持ちからだった。
 星くんの名前が呼ばれたときには、おしゃべりをしていた生徒なども、急に静まった。
「ぼくは、生徒会長を1年間務めて、地域との交流を深めるため、学校生活を楽しくするために様々な案を出しました。でも、次の生徒会も精一杯頑張ってくれるから、絶対に前の方が良かったなどとは言わないで下さい。ぼくは、高校に行ってもこの3年間の思い出や経験は絶対に忘れず、それを活かせるように頑張ります」
 今までで一番盛大な拍手が湧き起こった。

「楽しい思い出話をありがとうございました」
 みんなが帰っていった後、ついてくんが言った。
「で、あの後はどうなったの?」
「アスちゃんとサニーは長野県にある特殊系の高校に通うことになって、引っ越していったよ」
「ふうん」
「ぼくは高校を飛び級したから1年前に高校を卒業したよ」
「アスちゃんは?」
「アスちゃんが卒業したのは最近。それで、その高校で覚えた空を飛ぶ方法でこの街に帰ってこようとしたんだけど、途中で失敗して墜落したらしくて……」
「ああ、あれ(マンガ第5話)?」
「その時は一瞬アスちゃんのことをど忘れしてて……」
「そうだったんだ」
「でも、あの後気づいて謝りに行ったよ」
「ふうん。ところで、サニーは?」
「アスちゃんから聞いたんだけど、オーストラリアに留学したんだって」
「え?」
「今はイースター休暇だけど、まさか日本に帰ってくるとは思えないな。自分で決めたことは絶対に貫き通す性格だったから」

 ところが、翌日。星くんの家に1人の訪問客がやって来た。
「サニー!!」
「こんにちは」
 サニーが挨拶した。オーストラリアで過ごした2年半は、サニーの性格に大きな影響を与えたらしい。今までの明るい性格ではなく、少し控えめな性格になっている。
「どうしたの?何か元気ないじゃん」
「そんなことはないわよ。オーストラリアとかイギリスとかは個人主義を大事にする国だから、その国の習慣が移っちゃったのかな」
「きっとそうだよ……あ、中に入る?」
「ええ。でも、この家とっても素敵ね」
「ありがとう」
 星くんはアスちゃんを電話で呼んだ。

「何で戻ってきたの!?」
 アスちゃんは興奮している。
「何だか急に懐かしくなって……」
「今は何やってるの?」
「そりゃ、勉強だけど……。ホームステイ先の人も優しいから、すごく楽しいわよ」
「へえ。じゃあ、英語もできるの?」
「そりゃ、ばっちり。ところで、2人は何やってるの?」
「私は自然の味にこだわったアイス屋さんをやってるわ。あ、1度来て食べてみない?」
「後でいくわ。で、星くんは?」
「このついてくんとアルバイトしながら暮らしてるよ」
「ついてくんって誰?」
「えーと……空から降ってきたタマゴから生まれたおばけと神様のハーフで大食いで特にタコヤキが大好きなおばけ」
「へえ。何か特技とかあるの?」
 旧友と会う事で昔の好奇心旺盛な性格が戻ってきたらしく、サニーはついてくんに興味津々になっていた。
「えーと……天界超変化?」
「何それ」
 星くんが説明した。
「へえ。武者ついてくんか……じゃあ、あたしと剣道で勝負しようよ」
「いいよ。天界武装!武者ついてくん見参!!」
 武者ついてくんが剣を置いて、代わりに竹刀を持った。
「よーい……はじめ!」
 サニーが竹刀を持って武者ついてくんに近づいてくる。武者ついてくんも素早い動きでかわした。しかし、
「甘い!胴!!」
 一瞬の隙を突いてサニーが武者ついてくんの胴に強力な一撃を加えた。
「さすが……ていうか、前より強くなってない?」
「まあ、オーストラリアで自己紹介のときに素振りをしたらクラスメートが剣道にはまっちゃって。練習したら意外と上手くなる子がいて、あたしも毎日練習してたの。その子と何度も試合をするうちにどんどん上達して」
「すごいね」
 サニーは泊まるところがないので、星くんの家で1泊することになった。
 サニーがこの街で過ごした時間については、次回。



 第42話 country comeback spring

「おいしいわね。文化祭の時よりも上手く作れてるわ」
「ありがとう」
 サニーは星くん・ついてくんと『フォーティーワン』でアイスを食べていた。
「他に友達っている?」
「えーと……スピラルさんは知ってるよね?」
「あの、パン屋さんの?覚えてるわよ」
「じゃあ、フューチアは?」
「知らない」
「じゃ、行こ」

 パン屋さんに来たサニーは、フューチアとキューティアをとても可愛がった。
「かわいい〜。本当にキューティアって名前がぴったりね」
「ありがとうございます」
「フューチアが予知能力があるって本当?」
「本当だよ」
「ねえ、やってみてよ」
「でも、できるかどうかわかんないし。できたとしてもあんまり嬉しくないと思うよ」
「ニャ!」
 サニーに向かってフューチアが短く警告するように鳴いた。
「え?」
 次の瞬間、パン屋さんにある人が入ってきて、サニーとぶつかった。
「いた!」
 入ってきたのはくりマロンとクリームパンだった。
「ごめんなさい……って、星くんとついてくんとアスちゃん?ここで何してんの?」
「オーストラリアから帰ってきた友達に街を案内してるんだよ」
「友達って誰?」
「サニー」
「あ、サニーって昨日の?」
「そうだよ。オーストラリアに留学してたんだけど休暇で帰ってきたから街を案内してるの」
「ふうん。じゃあさ、おれの料理食べない?」
 くりマロンが言った。
「食べてみた〜い。っていうか、何でくりとパンがしゃべってんの!?」
「どっちも命を持ってるから」
「いや、そんなサラッと言われても」
「オーストラリアに行ってちょっと頭が固くなったみたいだね」
 星くんが言った。

「おいしい!っていうか、あんた本当にくり!?」
「うん」
「クラスメートにも見せたげたいな」
「あのさ、オーストラリアにも特殊系の街ってあるの?」
「まあ、ないこともないけど、私が行ってるのは普通の街の普通の学校よ。オーストラリアの首都キャンベラではもう生活に特殊系が馴染んでいるから。科学環境を整備して街の中では特殊な電波を流してスコープをつけなくても特殊系が見えるようになってるの。今は首都キャンベラとその近くの街だけだけど、もうすぐオーストラリア全体で特殊な電波を流す機器が導入される予定になってるの。早ければ再来年の春頃かな」
「オーストラリアってすごい技術があるんだね」
「技術で日本が劣ってる、っていうわけじゃないの。ただ日本人は偏見と思い込みが強い傾向があるから、きっと特殊系の存在自体を認めない人がいるはずよ。そういう人たちを説得するのは難しいし、政治家はその人たちから人気が落ちることを恐れているから。そうすると政治をできなくなるしね。日本でその電波を流す、ということを実行するのはとても難しいわね」
「ふうん」
「でも、オーストラリアでは3年以上住んでいる特殊系には選挙権が与えられるし、普通の人と変わらずに教育も受けられるし仕事にも就ける。3年以上住んでいれば税金も払わないといけない。本当に平等な社会になっているのよ」
「アメリカとかイギリスでもそういう制度が導入されてるの?」
「いいえ。アメリカとかイギリスも日本と同じ理由で導入は見合わされているわ」
「へえ。じゃあ、他の国では?」
「ドイツでは導入が検討されてるけど、アジアでは導入するお金がないからまず無理ね」

 サニーはその後、たまじいやマヨネーくんに会った。サニーの明るい性格は元からすぐに打ち解けられたし、留学経験からさらに自分を主張し、また相手と交流する方法をたくさん学んでいたのでみんなと仲良くなった。
 結果、次の日空港からオーストラリアに戻るときには、みんなが電車の駅まで来た。星くん、ついてくん、アスちゃんは空港まで行った。
 搭乗ゲートをくぐったサニーの姿を見つけた星くんが言った。
「さようなら!」
 星くんとアスちゃんが同時に叫んだ。サニーは笑顔で手を振った。
 いつまでも、飛行機に乗るぎりぎりまで、手を振り続けた。



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